「働きたい」想いを、官民協同でカタチに~株式会社Act.の新たな挑戦~

「新ノーマライゼーション」2023年5月号

株式会社Act.企画管理部企画グループ
事業構想大学院大学11期生
川西努(かわにしつとむ)

自己紹介~確信~

私は先天性の身体障がい者です。長年、特別支援学校の教員をしていました。その中でどのような障がいがあっても、また程度に関係なく「人の役に立ちたい」「働きたい」という想いは、皆持っているということを確信しています。

1. 弊社の概要~経営ビジョン:1億人に“ワクワク”を届けられる集団に~

株式会社Act.(本社:東京都中央区、代表取締役社長:竹田宏 以下「Act.」)は、2021年4月に日鉄ソリューションズ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:玉置和彦)の特例子会社として設立しました。

社名には「社員も会社もActiveでありたい」「一人ひとりがActor(主役)であってほしい」等の想いが込められています。現在、グループ会社の事務業務の効率化を支援するオフィスサービス事業や快適に仕事ができる空間を提供するオフィス運営事業、マッサージ等を提供する福利厚生事業、地方活性化を図る地域サービス事業を行っています。経営ビジョンのもと、障がいのある方もそうでない方も一緒になって新しい価値あるものを創り出し、当社に関わってくださるすべての方々とともにさまざまな社会的な課題に挑戦し、そのつながりの輪を日本中に広げていく。こうした活動を通じて共創社会の実現に寄与する会社を目指しています。

【HP:https://www.nssol.nipponsteel.com/act/

2. 重度身体障がいのある在宅勤務社員の「働くカタチ」~社員の“ワクワク”~

現在、重度の身体障がいがあり在宅勤務で活躍する社員が全国に13名います。その中で社員2人の“ワクワク”を紹介します。

Y氏:上下肢に重度身体障がいがあります。母親との二人暮らしで、学校卒業後、どこの支援機関にもつながっていませんでした。母親は精神疾患を患っており、生活面においてヘルパーを利用する一方、絵やデザインを描き応募する活動を10年以上していました。その後、東京コロニー職能開発室のIT講習を受講し、ITスキルを磨いていきました。私が東京コロニー職能開発室H所長(以下、H所長)と出会い、ご紹介いただいたのがY氏でした。Y氏は「働いて一人暮らしをしたい」という希望があり、面接等を経て入社しました。現在、安定したパフォーマンスを発揮し、当社に貢献しています。最近では「ヘッドスパ」にはまっているとのことで、余暇も広がり、今後ますますスキルを高めて“ワクワク”を社内外に届けてくれるでしょう。

F氏:ALS疾患がある電動車いすユーザーです。発症前は、サッカーやDJとActiveに活動していました。症状の進行とともに業務が困難となり、自暴自棄ともいえる生活を4年ほど送っていました。そのような中「仕事を通じて社会とつながっていたい」という想いがあり面接等を経て入社しました。F氏は「社会、人とリアルにつながっていたい」「可能な限り出社したい」という強い希望がありました。その生き様は、世に届ける価値があると考え自叙伝を執筆中です(写真)。また、社内コミュニケーションツールとし社内Radioを企画しています。DJの経験を活かし社内外に“ワクワク”を届けてくれるはずです。現在F氏は週2日出社、3日は在宅勤務で活躍しています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

3. K氏の「働きたい」想いをカタチに~特別事業で“ワクワク”を~

業務拡大とともに、HPの更新業務等の人材を手厚くする必要がありました。H所長に相談し、ご紹介いただいたのがK氏でした。K氏は重度身体障がいがありながら、ヘルパー利用により一人暮らしをしています。自分の体調等を考慮し「週20時間勤務」の希望があり、その条件を考慮し、面接等を経て2023年2月に入社予定でした。

私は勤務時のヘルパー利用について、多少の知識はあったものの理解が不十分でした。K氏は24時間365日ヘルパー利用されていること、働きたい想いのもと「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」(以下、特別事業)について、居住する都内某区(以下、某区)と交渉をしていることを知りました。まずは社内で情報を共有し、特別事業に詳しいH所長から仕組みやK氏と某区との状況についてご説明をいただき、理解を深めました。また勤務いただくうえでは、当社の行動方針「自らの健康と安全・安心を第一に行動しよう」に、特別事業は欠かせないという判断に至りました。K氏と某区との交渉の結果「すぐに特別事業を利用し勤務することは難しいが、8月までに実施できるように進めていきたい」との連絡がありました。この連絡のもと、社内では再度役員や管理職と検討を行い「安全・安心に勤務いただく」ためには特別事業が必要であり、某区との話し合いを進めていくことになりました。

その後、某区の担当課長が来社され、区の状況及び今後の方向性について、丁寧なご説明をいただきました。その中では「特別事業を利用するにあたり他部署も含めたタスクフォースをつくる」「区内にはK氏のみならず、特別事業によって働ける可能性のある重度障がい者はおり、御社とともにつくり上げたい」等の話がありました。当社からは「少しでも早く入社いただき、戦力としてK氏に勤務いただきたい」「某区の状況等を理解したうえで8月入社を最低ラインとしていただきたい」「K氏が安全・安心に勤務いただくことが最重要であり、一緒に勉強しつつ、取り組ませていただきたい」等の話を伝えました。

4. 官民協同~共創で“ワクワク”を~

官民協同、産官学連携等、組織体の連動性が必要とされています。障がい者雇用においても、厚生労働省で雇用と福祉の連携について推進しています。それぞれが専門性を発揮しつつ有機的につながり、共同・共創していくことで新たな景色が眺められるのではないかと思っています。経営ビジョンのもと、K氏が当社内外に“ワクワク”を、某区にも“ワクワク”を届けてくれる日を、私は“ワクワク”しながら待ちたいと思います。

<K氏からのコメント>

就労中の介助保障が働くことへの後押しに!

2020年10月、私にも初めて「働く」という選択肢が見えました。「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」が厚生労働省によってつくられるまでは、常に介助を必要とする障害者にとって、雇用されて働くことは非常にハードルが高いものでした。なぜなら、従来の福祉制度では就労中の公的な介助が認められていなかったからです。私自身の生活と介助は切っても切り離せないと痛感していたので、働きたいという気持ちを持っていても、実際に就職活動はできませんでした。しかし、この事業が自治体によって実施されることで、介助を受けながら働くことができるという可能性を知ったことで、やっと就労を視野に入れることができたのです。それから2年間の在宅就労支援を受けて株式会社Act.様とのご縁があり、行政に特別事業の施行を働きかけ、8月から私の住む自治体でも実施される見通しとなっています。企業様にもご理解いただき、それに合わせて私も入社予定です。重度障害者が働くうえで体調と環境を整えることはとても大切なことだと思っています。私自身が働きやすい環境と介助体制を整えたうえでスタートラインに立てたことをうれしく思います。

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