雇用と福祉の連携施策で変化する重度障害者の就労環境

「新ノーマライゼーション」2023年5月号

NPO法人ちゅうぶ 自立生活センター・ナビ/東住吉区障がい者基幹相談支援センター
平沼遊(ひらぬまゆう)

団体紹介・これまでの流れ

NPO法人ちゅうぶは、重度の障害者が自ら活動する当事者団体である青い芝の会と自立生活運動の流れをくんで出来上がっている団体です。現在は障害福祉サービスの各種事業を運営し、大阪市から基幹相談支援センターを受託・運営しています。細かい経緯は省きますが、アメリカで自立生活運動が起こり、日本の障害者運動と合流し、大阪では委託相談支援事業を当事者団体が受託していく流れがありました。相談支援事業の内容にピアカウンセリングが入っているのはそういった当事者運動の流れの成果でもあります。

障害福祉サービスの一つで、ヘルパー派遣制度である重度訪問介護もそういった当事者運動の働きかけによってできた制度の一つです。食事や入浴など時間帯が決められた身体介護を行っている時間だけではなく、トイレや水分補給など断続的に必要な支援を当事者の隣で待機する「見守り」もサービスの内容に含まれている制度です。本を読む時のページめくりや電話対応でメモをとることなど、健常者が当たり前すぎて気が付かないようなことも重度訪問介護では細やかに支援が可能です。

重度障害者就労支援の大きな転換点

「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」(以下、就業支援制度)は、就労を希望するすべての障害者が、必要な配慮を得ながら働くことができる。働くことを自らの選択肢にできる。そのための大きな転換点になる制度であり、課題はたくさんありながらも、これまでの重度障害者の就労環境とは根本的に変わったと言えるのではないかと思います。

しかしながら、私たちは今の就業支援制度が完成形だとは全く考えていません。最終的に望んでいるのはパーソナルアシスタンス制度というべきでしょうか。必要な支援が必要な時に必要なだけ得られ、どんな場面でも利用できるようなシームレスな制度が理想であると考えています。仕事中であろうと、学校で学んでいようと、家で休んでいようと本人の生活であることに変わりはありません。支援をしてくれるヘルパーは本人の状態について慣れている人が良いですし、本人が行う活動と制度の区切りは本来的には関係がありません。具体的には重度訪問介護が、利用できる場所や利用者の行為によって制限されないことを求めています。

今回の就業支援制度の対象者は重度訪問介護の対象者(同行援護・行動援護も対象ですが)で、重度訪問介護にかけては大阪市は全国でトップの利用者数です。大阪では障害当事者運動の流れがあるため、地域で生活する重度の障害者が多く、働いている障害者もその分たくさんいらっしゃいます。今年3月に国の会議でこの制度がどれだけの地域で実施されているか報告がありましたが、全国の利用者70人のうち実に24人が大阪市の利用者。他市町村が一桁利用者の中、まさに桁違いでした。

私たちの団体でこの制度を利用してるスタッフは2人です。主な仕事内容は、障害者基幹相談支援センターのスタッフとして相談対応や電話対応にあたります。また、自らの障害を生かした講演会やその資料作りなども仕事の一つです。自立を目指す障害者へのプログラム立案や企画でのリーダー役も行っています。

就業支援制度現状と課題

これまで働く障害者が介助者を得るためには、企業が職場介助者を雇い、介助者の給与の一部を助成する「職場介助者助成」しかありませんでした。この制度では15年までと年限があり、介助者が固定されてしまい一人の介助者が入れ替わり立ち替わり支援することは許されず、雇用促進の観点から使用者側(経営者)の利用は認められていませんでした。企業側が助成金を請求する事務の負担もかなり大きいものでした。通勤は公的サービスを利用できないため、家族かボランティアもしくは危険を承知で自力で通勤しかありませんでした。

今回の就業支援制度では、年限は取り払われ、経営者も利用でき、ヘルパー派遣事業所に業務を委託できるようになったので、本人のヘルパー派遣制度として職場でヘルパーが利用できるようになりました。通勤も対象になりました。しかし雇用の制度と福祉の制度の抱き合わせのため利用のハードルは高く、雇用としては助成金として企業に給付、福祉としては本人に給付というちぐはぐさに加え、住んでいる市町村が就業支援制度を行っているかどうかが利用のための最大のハードルになりました。また、それまで必要のなかった費用の一部自己負担を求められるようになりました。

経営者にも範囲を広げ、行政サービスとしてのヘルパー派遣制度に利用者の費用負担が求められてしまうことは自然だと感じられるかもしれませんが、日々介護を受けている障害者は他の制度を利用する際の費用負担をしており、利用する制度の種類が多い人ほど費用負担が増えると生活が成り立たなくなってしまいます。

しかし行政としてもどこまで、誰を行政サービスとして支援するべきかという迷いがあるのかもしれません。合理的配慮を行わないことを差別とする考え方で、配慮を行うべきは障害者を雇っている企業側であり、障害者を支援しているのか企業を支援しているのかがわからなくなってしまうと言われれば、うなずいてしまいます。個人的にはインクルーシブな社会をつくるためには個人も企業も支援していただき、結果としてどんな人も多様に生きていける世の中をつくっていきたいと思っています。

制度を利用している障害者スタッフの声

鶴羽 筋ジストロフィーで電動車いすの男性。マウス操作は可能ですが、他は全介助が必要な重度肢体不自由の障害者です。大学時代の就職活動は、普通の人では味わえないぐらい厳しいものでした。障害者用の一般企業の就職活動は、実際には障害者の中でも比較的軽い障害(例えば、上肢が動けたり、トイレが介助者なしで自分できる人であったりなど)の人が面接までたどり着けます。大学時代の就職活動の際に、マイドームおおさかで障害者枠の就職面談会があり、企業が設けるブースで面談を行いましたが、その際に面談担当者からは、あからさまに重度障害者だからといって履歴書を受け取らない、介護の面で難しいと、履歴書を受け取ってくれてもその次の段階である面接にはたどり着けない状況でした。就職面談会に行っても遠回しに断わられ、せっかく無理して参加してもあまり意味がなかったと当時私は思っていましたが、もし今の就業支援制度が当時あったら、介護を気にせず働けて、もっと就職活動の幅が広がったのではないかと思います。

 先天性の骨系統疾患+脊髄損傷+難聴(右耳のみ)の女性。手足が短く、行動の可動域が狭い。また、脊髄損傷もあることからトイレはカテーテル使用ですが、失禁・失便などの対応は全介助の障害者です。難聴もあるため、聞こえなかった時の補助が必要な時もあります。月曜日から金曜日まで毎日出勤しています。事務所勤務の時は高いところの書類を取ってもらったり、落ちたものを拾ってもらったりと、必要な時に介助してもらっています。講演に行く時など、出張の際は同行してもらい、その都度必要な介助をしてもらっています。また残業もあります。就業支援制度でも契約している事業所なので、重度訪問介護として利用していたヘルパーであっても就業支援制度が利用できています。私の場合、それがとてもありがたいです。以前は職場の中であっても残業はできず、決められた時間でしか仕事ができませんでしたが、今は急な残業も在宅ワークもヘルパーの利用が可能になったので、仕事をする時間や内容の幅が広がりました。ただこの制度は市町村によって実施しているところとそうでないところがあるのが課題で、どの地域でもこの制度を利用できるようになってほしいなと思います。

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