地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-由利本荘市における地域生活支援拠点整備の取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年5月号

由利本荘市健康福祉部福祉支援課
佐藤夏樹(さとうなつき)

1. 市の概要

由利本荘市は東北地方・秋田県の海沿い南部に位置する県内で最大の面積を有する市です。1市7町が平成17年3月に市町村合併し現在に至ります。本市の人口は72,278人(令和5年3月末現在)で高齢化率は38%強となっています。

市ではデジタル化を進めており、広範囲の地域をつなぐ遠隔相談システムの構築や車両を使った移動市役所の運行実験など、高齢化・人口減少化に対応すべく、行政サービスの低下を減らす取り組みを行っています。また、福祉分野では国が進める包括的継続的支援体制の取り組みである重層的支援体制整備事業を実施し、困難を抱える方への多職種連携を通した相談支援体制を整備中です。

2. 地域生活支援拠点整備の経緯

本市は、社会福祉法人秋田県社会福祉事業団(以下、事業団)が運営するコロニーをはじめいくつかの障がい福祉サービス提供事業所や特別支援学校などの社会資源があります。

また、障がい児・者のための相談支援の中心となる基幹相談支援センターが平成25年度から設置され、その運用を事業団に委託し、地域の障がいのある方々への相談支援体制づくりのスタートを切りました。

基幹相談支援センター立ち上げ当初から市では「協働」を重視し、官民一体となり、行政からの事業の丸投げではなく、それぞれの強みを生かし、さらに民間の強みを最大限に生かす取り組みを行ってきました。

このような「協働」による相談支援の充実を図る中、平成27年度からの第4期障がい福祉計画策定にあたり、初めて地域生活支援拠点整備目標を記載し、拠点整備がスタートしました。これには基幹相談支援センターの受託者である事業団が市内に新たに施設整備(由利本荘地域生活支援センター)の計画があり、その内容を協議していく中で地域のための施設という考えが事業団にもあったことが大きく影響しており、市としても拠点整備のための社会資源に恵まれ、整備の一歩が踏み出せたと感謝しています。

その後、面的な整備を一歩一歩、歩みを進めながら、(1)相談支援機能、(2)緊急時の受け入れ等の対応、(3)体験の機会・場の提供、(4)専門的人材の確保・養成、(5)地域体制づくりの充実を図ってきました。

それでは各機能について由利本荘市の現状をお伝えしたいと思います。

(1)相談支援機能

市及び基幹相談支援センター、委託相談支援事業、特定相談支援事業とともに地域定着支援を活用してコーディネーターを配置しています。

この連携を通じ、日頃から、基幹相談支援センターで行われる月1回の相談支援事業所連絡会等で、緊急時に他からの支援が見込めない世帯を事前に把握したり、相互の連携を確認しながら、利用者登録を行うことで平時の連絡体制を確保したり、障がいの特性に起因して生じる緊急の事態等に必要なサービスの事前のコーディネートや相談やその他必要な支援を行う機能を持たせ、いざ緊急時となった場合の相談支援が行える体制を整備しています。

先に述べたとおり、基幹相談支援センターの立ち上げ時から官民協働で相談支援の体制づくりを行ってきたことから、一定程度の機能を持つに至っているものと考えています。

(2)緊急時の受け入れ等の対応

緊急時の受け入れ対応については、先の相談支援機能を生かし、平時からの地域の状況把握を基本としながら、短期入所を活用し、常時の受け入れ体制等を確保した上で、介護者の急病時や障がい者本人の状態変化等による緊急時の受け入れ及び医療機関への連絡など必要な対応を行う体制としています。

その体制として、由利本荘地域生活支援センターのグループホーム男女各1室を借り上げ、緊急時の受け入れについて委託しています。

やはり、緊急時の受け入れ態勢の有無は地域に暮らす障がい者の皆様にとって、最も困難な状況に置かれるリスク軽減の有効な手段の一つといえます。

(3)体験の機会・場を提供する機能

地域移行支援や親元からの自立等にあたり、共同生活援助等の障害福祉サービスの利用や、一人暮らしの体験の機会・場を提供する機能ですが、先ほどの由利本荘地域生活支援センターのグループホームを、緊急時の利用がない場合は体験の場として活用したり、同センターには障害者就労・生活支援センターも設置されていることから、就職へ向けたつなぎとなる場や機会などを提供しながら、より良い自立生活に向けた支援を包括的に行っています。

(4)専門的人材の確保・養成

専門的人材の確保・養成の推進として、医療的ケアが必要な方や行動障がいがある方、高齢化に伴い重度化した障がい者に対して、専門的な対応を行うことができる体制の確保や、専門的な対応ができる人材の養成を行う機能として、由利本荘市障がい者支援協議会が地域内の事業所向けに各種研修会を実施し、人材育成、サービス水準の向上・標準化を図っています。

また、協議会の中の3部会(せいかつ部会、施設・事業者部会、相談支援部会)において年間合計で10回ほどの研修が組まれ、年度ごとに捉えるべきテーマについてグループ討議を含む人材育成を行っています。

一方、相談支援者向けとして、相談支援部会やその後に開催される相談支援事業所連絡会において、ケース検討やグループスーパービジョンを通した相談支援者の支援やピアサポートなどの取り組みも行っています。

(5)地域体制づくり

地域のさまざまなニーズに対応できるサービス提供体制の確保や、地域の社会資源の連携体制の構築等を行う機能として、基幹相談支援センターの相談支援専門員が地域のサービス提供体制の全体的なコーディネートを担っているほか、由利本荘市障がい者支援協議会において、地域課題や困難ケース等の確認、整理、取り組み方法の検討を行い、支援体制づくりを進めています。

また、重層的支援体制整備事業の担当を各部会や相談支援連絡会のメンバーに加え、障がいを抱える方が属する家庭がさまざまな問題を抱えている場合は、重層的支援体制整備事業担当者が協力し、速やかに多職種連携よる包括的支援ができる体制づくりを構築しています。

図 イメージ図
図 イメージ図拡大図・テキスト

3. 今後の課題

他の自治体でも問題点として挙げられていましたが、現在は基幹相談支援センターが入居している由利本荘地域生活支援センター(事業団)にその機能が集中しています。

由利本荘市は面積が広大なことから、事業者や人材が持てる力をより発揮しながら、障がいのある方が安心して地域生活ができるような拠点をどのように整備、発展させていくかが大きな課題となっています。それには、市が事業者に対して地域生活支援拠点事業への登録方法や人材育成の場での丁寧な説明などを通して、その重要性について理解を深めていく必要があると感じています。

また、医療的ケアが必要な方の受け入れ体制についても、現在受け入れ可能な事業所がないことから、障がい者支援協議会を通して社会資源創出の働きかけを行う必要があると考えています。

さらに、障がい分野の問題だけに留まらない場合も見られることから、多分野同士の連携、官民の連携などを他の制度、事業を活用しながらネットワークの強化を図り、広域な由利本荘市の支援を進める必要があると考えています。

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