レクリエーション新時代~みんなでからみんながへ~6-レクリエーションのための条件整備―環境と組織

「新ノーマライゼーション」2023年5月号

日本福祉文化学会名誉会員
薗田碩哉(そのだせきや)

1. レクリエーション活動を可能にする環境とは

レクリエーション活動の充実を図ろうという提案には誰も異存がないと思うが、ではどう進めるかというと、皆さんはまず「どんな活動をしたらいいか」という話になりがちだ。この欄でもスポーツ活動、音楽やアート、だれもが好きな旅…と、もっぱらアクティビティを取り上げてきた。今回は最後の回でもあるので、ちょっと視点を変えてレクリエーションを実施する前提となる諸条件の整備について考えてみよう。

すべての活動はそれを行う「場」が必要である。楽しいレクリエーションが実現するためには、それを可能にする空間や施設がなくてはならない。みんなでゲームをしたり、歌を歌ったりするにしても、その場所の状況や雰囲気が活動を楽しくもするし、逆に妨げたりもする。可能ならばレクリエーションのための専用空間を確保し、後に述べるような器具や装置を備えれば、多様なレクリエーション・プログラムを実施できる。室内の空間もさることながら、周辺に自由に使えるオープンスペースを確保できれば、レクリエーションの幅をさらに広げて楽しむことができる。

活動が場=環境を要求するという一面に加えて、環境が活動を生み出すということも考慮に値する。緑豊かな「自然」環境があれば、おのずとそれを生かしたレクリエーション行動が生まれてくる。森があれば散策したり木に登ったり、野原があれば走り回ったりボールを投げたりできる。ゴルフというゲームの発祥の地はスコットランドだが、寒冷で風が強く平坦な野原が続くかの地では、ボールを転がしながらピクニックをするのに似つかわしく、ゴルフが生まれた事情がよくわかる。それと反対に高温多湿で空き地を放っておけばたちまちやぶになってしまう日本では、ゴルフ場の芝生を維持するには多くの人手と大量の除草剤が必要になる。風土から見ればゴルフはこの国にふさわしいスポーツとはいえない。緑豊かで四季の変化が明確なこの国の環境にふさわしいスポーツや文化活動がもっと追及されていいはずである。

2. 基本的な用具・用品をそろえる

スポーツをするには道具が要る。球技にはボールが欠かせないが、そのうえ、野球にはバットとグローブ、テニスや卓球にはラケットがないと困る。同様に音楽活動には楽器が必要だ。斉唱や合唱をするにしても、歌うこと自体は道具不要だが、演奏を豊かにするには伴奏のピアノやギターがほしいところである。アートや工作を楽しむにも、画用紙やキャンバスや絵の具、素材となる木や紙や粘土、切ったり削ったり組み立てたりするための工具がほしい。また、遊ぶこと自体を目的とする道具=遊具も実にたくさんの種類がある。子どものおもちゃから始まって、トランプ、カルタ、サイコロ、将棋の駒や将棋盤、碁石に碁盤、麻雀のパイ、ダイヤモンドゲームのようなゲーム盤、そして現代人にはなくてはならなくなった電子ゲームの装置=パソコン、スマホ。こうした遊び道具をバラエティ豊かにそろえられるかどうかでレクリエーションの内容が大きく変わってくる。

施設や団体において、現在、どのようなレクリエーション用具をどのくらい所有しているか点検して整理してみることを勧めたい。それらを使ってどんなレクリエーションが可能になるのか、考え直してみよう。また、当然あっていいのにそろえられていない用具もたくさん思いつくことだろう。利用者それぞれがやってみたいことをあげて、不足している用具や装置を計画的にそろえていくことが望まれる。人が楽しく、健康的に生きていくためには、1.何らかのスポーツ用品、2.楽器、3.アートのための諸道具、4.ゲームなどの遊具、そして5.レクリエーションにつながる書籍(絵本、漫画、画集、旅行や料理などのガイドブック、気楽に読める読み物など)の5つのアイテムが不可欠である。これらは個人・家庭の生活を考えれば当然のことで、生活の場である入所施設でも忘れてはならない課題といえよう。

3. 重度障害者のレクリエーション環境―スヌーズレン

身体活動はおろかコミュニケーションを取ることも難しい重度の障害者のために、何らかのレクリエーションを提供できないかというのは、常に求められてきた要望である。人は生きている以上、日々の生活に楽しみや喜びが不可欠であり、重い障害があってもそのことは何ら変わりがないはずである。その事実を踏まえて1970年代にオランダで考案されて各国に広がった環境装置が「スヌーズレン」である。これは簡単にいえば感覚刺激のためのいくつかの仕掛けを組み合わせたもので、部屋の天井に取り付けた、きらきらと美しく光りながら回転するボールや癒し系のメロディーを流す音響装置、弾力に富んだふわふわのベッド、優しい香りを周りに振りまく香炉などが並んでいる。これらの装置によって視覚、聴覚、触覚、嗅覚を適度に刺激してくれる環境をつくり上げ、そこにやってくる人に心地よい時間を過ごしてもらうことをねらっている。身体を自由に動かすことが難しく、コミュニケーションに阻害要件があっても、基本の感覚を活性化して何らかの快感を味わうことは決して不可能ではない。まさに環境のレクリエーション化をめざした試みといえよう。

この発想を踏まえて日本的なスヌーズレンを追求してみると、緑に囲まれた静かな庭をしつらえ、風鈴をつるしてかすかな音を楽しみ、お茶を立て、香を焚き、琴の調べを流し、灯を入れた回り灯篭を楽しむ…、というようなプログラムが考えられる。伝統的な日本文化には、日常生活そのものの中に小さな工夫を凝らして美や快を見出すという志向がある。この発想を障害者レクリエーションの世界に取り込むことで新たな展開が生まれてくるのではないか。レクリエーションの根底にあるのは「生活の快」を見つけ出し、それを広げ深めることであり、そのための空間を生み出すことがレクリエーション支援の目標だからである。

4. レクリエーション推進のための組織づくり

レクリエーションのアクティビティ(活動)を多様化し、それを可能にする環境づくりを進めるために明確なレクリエーション計画の作成が必要になる。現状ではレクリエーションというのは行事予定の中に組み込まれているのがせいぜいで、それも毎年の慣例を踏襲しているだけのところが多いように見受けられる。しかし、これまでさまざまな角度から述べてきたように、レクリエーションは施設なり団体なりの活動の重要な柱の一つであり、その良し悪しよって利用者と援助者の日々の生活の質が変わってしまうほどの課題であることを指摘しておきたい。そしてその充実をもたらす土台となるのが計画性ということである。

計画づくりについて詳述する余裕はないが、いくつかのポイントを指摘しておきたい。計画の根本になくてはならないのが「理念」である。何のために、何を目標に、現状をどのように変えてゆくのかという指針を示すことが計画なるものの存在理由である。これについて関係者の十分な話し合いを積み重ねる必要があり、特に忘れてならないのが「当事者の参画」ということである。レクリエーションは与えるものではなく、当事者と支援者の協働によって生まれるべきものである。そうでなければ、誰もが心から楽しめるレクリエーションを実現することはできない。

そのうえで、プログラムの作成、予算の確保、人的配置、環境整備などが検討されてゆく。それらの活動の核になる人材として「レクリエーション担当者」を明確に位置付けることが望まれる。わが国ではまだレクリエーションの専門性が確立しておらず、それを主要な任務とした職員を置くことは難しい状況ではある。しかし、利用者へのレクリエーション支援を充実させるためには、関連する職員の中からレクリエーション支援活動の中核となる人物を定め、その役割と一定の権限を明確にしておくことが重要である。レクリエーション担当者には全国障害者総合福祉センター(戸山サンライズ)が毎年行っているレクリエーション支援者養成研修会の受講やホームページからの情報サービスの活用をお勧めしたい。

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