石川県リハビリテーションセンターの取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年6月号

石川県リハビリテーションセンター
寺田佳世(てらだかよ)

1. 当センターの概要

石川県リハビリテーションセンター(以下、センター)は平成6年に開設され、平成8年にはセンターと県工業試験場、県土木部建築住宅課の医工学連携組織である「バリアフリー推進工房」を設置し、障害のある人に対する福祉用具や環境の適合・改良等による自立支援、企業等への福祉用具・ユニバーサルデザイン製品の研究開発支援、公共施設等のバリアフリー化に関する技術支援を行っています。また、平成15年に県リハビリテーション支援事業、平成18年に難病相談・支援センター事業、平成19年に高次脳機能障害相談・支援センター事業を開始し、県の専門的な相談・支援機関として、障害のある人や難病の方の生活、就学、就労支援等を実施しています。

2. 福祉用具を用いた生活支援(AT支援:Assistive Technology)

身体能力及び生活環境に対応した福祉用具は障害のある人にとって欠かせないものですが、これらを有効に活用するには、対象者が望む生活を尊重し、安全で自立的な生活や社会参加につながる支援が必要です。支援では、本人や家族の能力、住環境、家族構成、経済状況等を把握しながら、本人が希望する生活を明確にイメージできるプランを提案し、今後の過ごし方を選択できるよう導くことが大切です。特にコミュニケーションに障害がありICTを必要とする障害のある人や難病の方は、具体的なコミュニケーション手段の方法を試用検討することで、できることを実感することができ、生活の質の向上に結びつくことが多いと思います。センターでは、このような支援を県内どの地域においても受けることができることを目指して、市町の自立支援協議会に働きかけ、障害のある人の相談支援専門員や介護支援専門員への啓発普及に取り組んでいます。また、各地域で的確にAT支援ができる、人材育成を目指して、リハビリテーション専門職(以下、リハ専門職)や、福祉用具専門相談員、補装具業者を対象にして人材育成研修も行っています。

センターはAT支援を実施する県の中核機関として、市町、相談支援機関、医療機関、教育機関等からの依頼があり支援を行っており、直近3年間の依頼元別の支援件数は表1のとおりです。また、センターへの相談支援は、市町では対応しづらい重度で医療依存度の高い障害のある人や、神経筋疾患等の進行性疾患の相談が増加傾向で、コミュニケーション障害をもつ対象者が多くICTの支援も表2のとおり増加傾向です。

表1 リハビリテーション地域活動支援事業の実績(直近3年間)

依頼元       (件) R2 R3 R4
医療機関 326 131 214
障害者総合支援法関連施設(障害者施設等) 227 102 127
教育機関(特別支援学校、特別支援学級等) 155 160 169
介護保険法関連施設 49 140 100
訪問リハビリテーション事業所 202 252 298
保健福祉センター 13 4 14
障害者の相談支援事業所 277 183 143
市町 56 11 3
県難病相談・支援センター 116 105 94
県高次脳機能障害相談・支援センター 146 196 198
職業関連施設 1 6 1
その他(当事者・家族・企業等) 153 85 123
1721 1375 1484

表2 直近3年間の補装具の支援件数

  R2 R3 R4
全体相談支援件数 1721 1375 1484
  福祉用具、補装具の支援件数 1078 870 913
  補装具の相談支援件数 906 682 739
  義肢装具 44 32 20
座位保持装置 145 85 84
車椅子 329 177 152
電動車椅子 294 252 251
重度意思伝達装置(ICT) 94 136 232

3. ICT支援に必要なプロセスと取り組み内容

このような背景から、令和3年度よりコミュニケーション支援を県内で拡充するため、センターでは最新の装置や各種入力装置、固定具等の機器の充実を図り、装用訓練の機器貸出リストを作成し、支援ができる病院やリハビリテーション施設の拡充に向けての取り組みも実施しています。コミュニケーションに障害のある人への支援の流れは、依頼元から相談が入り(気づき)、1.対象者の身体特性及び利用環境の評価、2.目的活動の明確化(ニーズの整理)、3.試用検討、4.装用訓練、5.補装具申請が必要な場合は更生相談所の判定、6.フォローアップ等が必要となります。まずは対象者の身近な支援者がコミュニケーションの可能性に気づくことで相談につながり、1~3までをセンターで行い、4~6を地域のリハ専門職や福祉用具相談員等につなげる場合と、対象者の身近にリハ専門職等の支援者がいる時は試用機器の貸出のみで行う場合があります。さらに、近年はICTの進歩によりさまざまな機能を持つ装置が出ており、支援者への情報発信や資質向上が必須となっています。加えて、この分野は本体及び入力装置、固定具等々の適合が難しく、苦手意識を持つ人が少なくないため、各地域に一人でも多くのリハ専門職や福祉用具相談員が支援に対応できるようネットワークづくりも行っています。

令和4年度センターではICTに関する支援を35人に226件実施しました。35人の内訳は筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)14人、脳血管障害6人、脳性麻痺5人の順に多く、多系統萎縮症3人、脊髄性筋萎縮症2人、その他5人です。また最終的に本人が利用に至ったICTは、補装具である「重度障害者用意思伝達装置」のオートスキャンや視線ポインティングの入力方式での利用7人、生体現象方式の利用2人です。また、その他のICTを用いてコミュニケーションを獲得した人は11人、現在も検討中が6人、試用検討は進めたがICTの使用は困難で、文字盤や呼びベル等を利用した代替え手段を利用した人が8人です。またALSで病気の進行が早く支援中に亡くなった人が1人いました。このような取り組みのなか課題としては、1.対象者が必要とするコミュニケーション手段のニーズ分析に時間を要すること2.目的と身体特性に応じたICTの選択に時間を要すること3.支援を必要とする方の身近な地域で協力機関が必要であること4.ICTの導入や継続活用していくには、装置の設定、調整、メンテナンス等に対応できる工学技術者や協力業者が必要であること5.ICT支援が必要な方に支援が届く周知が必要であること6.ICTの導入を図ったことで在宅では利用できてもレスパイト入院や短期入所先においても利用できるような対応が必要であること等を感じています。支援を行ったALSの方です(図1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

4. おわりに

対象者の生活におけるコミュニケーションの自立の観点でICTを提供するには、生活全体のマネージメントのもとで必要となるコミュニケーションを捉え、適用を図ることが重要であり、単に装置を導入することが目的ではなく、その人のコミュニケーション障害を支援するという視点にたって対応することが重要です。また、ICTを使う上でも使い方や動作指導、装置の調整がなされていない場合が少なくないため、対象者にとって負の経験として終わらせるのではなく、的確な自立支援に結びつけるための試用検討、装用訓練は欠かせないものであり、これらに対応するには地域における社会的リハビリテーションの充実が重要であると考えています。

今後ますます進む地域包括ケア推進のなか、地域で暮らす障害のある人にとって意思疎通の支援は欠かせないものであり、対象者の能力を活かした自立支援の提供及び身近な地域で支援を受けることができる地域づくりが必要であると考えています。

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