かがわ総合リハビリテーション福祉センターの取り組み~福祉センターA型による支援~

「新ノーマライゼーション」2023年6月号

社会福祉法人かがわ総合リハビリテーション事業団 科長補佐
篠原智代(しのはらともよ)

かがわ総合リハビリテーション福祉センターA型の概要

香川県は四国の東北部にあり、面積は全国で最も小さく人口は約93万人です。障害のある方々の生活に密接な関わりを持つ保健・医療・福祉のサービスの連携や、広域的なサービス提供体制の整備を図るため、3圏域(東部・小豆・西部障害保健福祉圏域)が設定されています。社会福祉法人かがわ総合リハビリテーション事業団は、東部障害保健福祉圏域の高松市に1986年開設され、医学的・社会的・職業的・地域リハビリテーションサービスを総合的にご提供しています。その中で障害のある方々のICT支援は、地域リハビリテーションの事業に取り組む福祉センターA型(以下、当センター)が実施しています。

当センターは、県内全域を対象に、障害者福祉の増進を総合的に図るとともに、障害の種別や有無にかかわらず相互に人格と個性を尊重し、活力を持って生きていける地域社会の実現に寄与することを目的としています。役割としては、障害のある方々の活動づくり支援、関係機関等への研修や相談等の地域支援のバックアップ、一般県民の方々等を対象とした啓発や人材育成等の広域的な支援、社会参加を促進するためのネットワークづくり等があります。職員は社会福祉士2名、公認パラスポーツ指導員4名、(以下、2010年より順次配置)作業療法士2名、理学療法士1名、公認心理師1名の9名が専門性を活かし合いながら事業に取り組んでいます。

くらしの中へ~ICT支援のはじまり~

当センターでは、2002年香川県より「肢体不自由者IT支援事業(以下、本事業)」を受託しました。本事業は、障害のある方の情報通信技術の利用機会や活用能力の格差是正を図り、ITを活用しての社会参加を一層促進することを目的とし、パソコンボランティア養成事業、パソコンボランティア派遣事業、パソコン教室事業を開始しました。

特にパソコンボランティア派遣事業により、くらしの場であるご自宅や病院等に出向いての支援が実施されるようになり、移動や活動に制限のある重度障害やALS等難病のある方々等へと支援が広がっていきました。

本事業開始当時は、社会福祉士1名がご相談に応じていました。「パソコンで年賀状を作りたい」という脳性まひの方は、よくお聞きすると「本当は家族のものも作れるようになって、家族の役に立ちたい」という想いを話してくれました。「県外に住んでいる娘とメールがしたい」というALSの方は、「結婚を控えた娘が困っていることがあったら助けてあげたい」と、母親としての役割を果たしたい想いがありました。くらしの中でいつ、どこで、誰と、どのような活動やコミュニケーションを通して、どうくらしたいか。その人らしい社会参加のかたちはさまざまです。その実現を支えるICTという手段と障害のある方をつなぐ支援を通し、ネットワークも徐々に広がっていきました。しかし、ALS等の方への関わりが初めてという支援者も多く、その中で見えてきた課題があります。

パソコンボランティアによる操作サポートの前に、まずその人の機能や能力・作業環境を評価し、機器等の適合支援を行い、使用環境を整えることが必要となりますが、ICT支援に関する情報収集や学びの機会が少ないという「機器等の適合に関する課題」がそのひとつです。また障害者福祉から介護保険へ、病院から在宅へなど、身体状況や生活状況、ライフステージ等の変化に応じ継続した支援が求められますが、支援者の方が変わると残念ながら途切れてしまうことがある「情報の共有に関する課題」です。そしてこれらの支援は、多職種多分野の連携・協力が不可欠となりますが、支援チーム形成や役割分担等を行う支援者が不明確となることで支援が滞ってしまうことがある「コーディネートに関する課題」です。

くらしの中で~地域のICT支援体制づくり~

このような地域課題に対して、身近な地域で支えニーズを潜在化させないための取り組みを香川県と協議しました。そして2010年度より本事業にICT支援体制整備を目的とした事業を新たに加え、開始することとなりました。まず本事業名を、肢体不自由者IT活用支援事業から「肢体不自由者等IT活用支援事業(現在は、障害者等IT活用支援事業)」とし、対象者に「支援者」の方を、事業内容にICT支援体制整備を行う「その他の支援事業」を加えました(図1)。

図1 肢体不自由者等IT活用支援事業内容
図1 肢体不自由者等IT活用支援事業内容拡大図・テキスト

事業内容は、相談支援専門員、ケアマネジャー、保健師、医療ソーシャルワーカー、訪問リハビリテーションスタッフ等の方々からのご相談に応じ、支援者の方々に1.ニーズの整理・把握、ICT支援のチーム形成や役割分担等のコーディネートを行う「相談支援」、2.用具や機器、制度等の情報提供、導入に向けた「適合支援」、3.サービス等担当者会議への出席、モニタリング等「定着支援」を行い、必要に応じ4.さまざまな変化に応じた継続支援につなげていくという一連のICT支援への後方支援を行います。担当職員には作業療法士や理学療法士(すべて兼務)も配置し私たちもチームで関わっています。実施方法は、当事者の方のご自宅等に訪問し、実際の支援場面で行います。勉強会や研修形式の場合もあります。また更生相談所が行う意思伝達装置の支給・適合判定への協力も行っています。

相談件数を、現在の統計処理を始めた2015年度と2022年度2月末の延べ件数で比較すると、2015年度174件、2022度年243件と増えてきています。相談者は多職種多分野にわたり、教員や就労支援関係の方からの相談も増えつつあります(図2)。障害種別では難病の方の割合が2015年度56%、2022年度73%(うちALSが80%)と多く、次いで身体障害(肢体不自由)、発達障害等となっています。支援内容は、意思伝達装置導入等コミュニケーションの環境づくりが多く、最近の傾向としては在宅での就労・学校での学習・eスポーツ等余暇活動の環境づくりと広がりをみせています。

図2 相談者の職種
図2 相談者の職種拡大図・テキスト

これからについて

本事業はパソコンボランティア派遣から始まり、試行錯誤しながら関係者の方々と意見を交わし合い、地域のICT支援体制づくりに取り組んできました。しかし、先日開催いたしました支援者の方対象のICT研修会では、「またYouTubeを楽しめるようになりたいという方がいて…」「何か伝えてくれようとしているが、どうやったらコミュニケーションがとれるか、どんなツールがあるか」等支援の困りがあるが相談できるところが分からなかったといった声がまだまだありました。

障害のある方のICT支援相談窓口として本事業を知っていただき、まず支援者の方とつながることができるよう、一つ一つの相談事例の蓄積と発信、福祉センターA型事業のさまざまな機会も活用した研修や啓発により、ネットワークを広げる取り組みを続けていきたいと思います。

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