新潟市障がい者ICTサポートセンターの活動

「新ノーマライゼーション」2023年6月号

新潟市障がい者ICTサポートセンター・新潟大学
山口俊光(やまぐちとしみつ)

センター概要

(1)活動概要

新潟市障がい者ICTサポートセンターは2008年に開設されたICTサポートセンターで、新潟大学五十嵐キャンパスに活動拠点があります。このセンターは新潟市から新潟大学への委託事業として運営されており、障害種を問わず、支援技術に関する情報提供やフィッティング、試用のための貸し出し、研修などを行っています。常勤1名、非常勤2名のスタッフで障害者の自立や社会参加を推進するため支援技術のリソースセンターとして活動しています。

(2)最近の利用状況

当センターの2022年度の利用状況を図1に示します。相談方法別では、訪問が最も多く204件で、これは利用者宅や病院、学校に出向いての支援を示しています。続いて、メールと電話による対応が101件と104件で、当センターの研修や調査活動はそれぞれ77件、31件となっています。また、センターへの来訪相談も30件ありました。

図1 2022年度 新潟市障がい者ITサポートセンター利用状況(上:相談方法別集計,下:障害種別割合)
図1 2022年度 新潟市障がい者ITサポートセンター利用状況拡大図・テキスト

障害種別による利用割合を見てみると、視覚障害が22.1%、肢体不自由が33.5%、知的障害が15.8%、発達障害が7.0%、聴覚障害が0.6%、精神障害が0.4%、そして障害なしが20.6%となっています。特に肢体不自由と視覚障害に関する相談が半数以上を占めていることが分かります。

特色のある活動

当センターは大学の一室を拠点としているため、多くの見学者が自由に出入りできるショールームをつくるには不向きです。そこで障害のある人のところに出向くアウトリーチ活動を中心に据えています。他職種と連携しながら障害のある方への支援を行い、専門職への技術移転に力を入れています。ここでは特色のある活動をご紹介します。

(1)病院と連携した支援活動

市内いくつかの医療機関と連携した活動を行っていますが、ここでは新潟大学医歯学総合病院眼科との連携を紹介します(図2参照)。ここでは、ロービジョンケアを専門に行うビジョンサポート外来が毎週金曜日に設けられています。最終金曜日には当センターから筆者が出張し、眼科医、視能訓練士とともに支援技術情報を視覚障害のある患者さんに提供しています。1日におおよそ6人、1人当たり1時間を目安に対応しており、見え方に合わせたスマートフォン、タブレット、PCの設定調整やアプリ、ソフトウェアなどを紹介しています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

また、学齢期の患者さんには学校で活用可能な音声教材や学習を助けるICT機器の情報を紹介しています。担当の先生にも診察に同席してもらい、その場で授業や試験の方法を一緒に検討することもあります。

余裕を持って時間を確保しているため、機器の設定から簡単な操作練習まで、診察室で一貫して行うことが可能で、患者さんたちは普段の通院のついでに支援技術と出会うチャンスになっています。

大都市と比較して交通機関が不便な地方都市では、このような支援モデルは非常に有用です。当センターが大学に設置されていることの強みがよく現れた支援活動だと考えています。

(2)特別支援教育と連携した支援活動

支援技術は障害のある子どもたちがフェアな条件で学習に参加し、評価され、進路を決めるといった当たり前のことを実現するため不可欠なものです。

特別支援学校への定期的な訪問は個々の学校や生徒のニーズに合わせてさまざまな形で実施しています。授業観察から教師へのフィードバック提供、児童・生徒への支援技術のフィッティングまで幅広く対応しています。

通常学級に在籍している児童・生徒への支援にも通級指導教室などを通して関わっています。特に発達障害のケースではGIGAスクールの推進で一気に普及したiPadやChromebookといった個人端末を支援技術として活用するノウハウを提供しています。学校に配置されているいわゆるICT支援員とは異なる立場からGIGAスクール端末の活用を支える役割を当センターが担っています。

(3)研修事業

研修はより多くの市民に支援技術の情報を届ける事業です。主に障害のある人たちの周辺で働く医療従事者や教師を対象としています。対象を絞っての研修は我々の知識や情報を各プロフェッショナルへ移転することで、受講者たちが得た知識をすぐに仕事に活用してくれることを期待したものです。限られた予算内でできるだけ多くの市民に支援技術の情報を届けるため、当センターではこの研修活動を特に重視しています。2022年度には、依頼を受けて77回の対面研修を実施し、延べ1,369名の方々が受講しました(図3参照)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

研修のテーマは、教師を対象として重度・重複障害のある児童生徒のスイッチ・トイ、読み書き障害のある児童・生徒向けのGIGAスクール端末の活用など、医療従事者対象として「重度障害者用意思伝達装置」の導入、視覚障害者向けのPC・スマホ・タブレットの活用など、多岐にわたります。

新型コロナウイルスの影響で対面研修が難しくなった2020年度から、YouTubeでの動画配信も始めました(https://youtube.com/@ATtvjp)。2023年5月までに公開した動画は100本を超え、総視聴回数は5万回を超えています。これらの動画は、新たな支援技術の情報源のひとつとして今後も充実させていく予定です。

まとめ-「仲介者」としてのICTサポートセンター

結局のところ、支援技術は必要とする人々の手元に届くことが最も重要です。

優れた支援技術が開発されても、必要としている人々にその製品が届かなければその価値は十分に活かされません。障害者自身が自力で自分にとって最適な支援技術を見つけ出すのは困難なことも多く、必要としている人に適切な支援技術を届ける「仲介者」が必要だと考えています。

我が国には福祉制度が存在し購入の助成はあるものの、どの製品が自分に合っているかは、情報収集をしたり製品を実際に試すなどして確認する必要があります。IT機器が生活必需品となり、それに関連した支援技術の重要性も高まっているいま、この「仲介者」の存在はより一層重要になっているといえます。

今後、ICTサポートセンターのような独立した機関が存続するか、あるいは医療や教育の現場に組み込まれていくのかは分かりません。いずれにしろ「仲介者」の機能は必要不可欠であり、何らかの形で続いていくべきだと考えています。

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