学び合う そして 創り合う~地域とともに広がる障害のある人の生涯学習活動~

「新ノーマライゼーション」2023年8月号

ゆめ・やりたいこと実現センター コーディネーター
尾方千春(おがたちはる)

社会福祉法人一麦会(麦の郷)ゆめ・やりたいこと実現センター(以下、センター)は、文部科学省「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」を受託し、和歌山県紀の川市粉河の古民家山﨑家住宅を拠点に、「学び合う そして 創り合う」というテーマのもと、2018年より活動をスタートしました。障害のある人が学校を卒業してからも、好きなことや得意なことを新しく見つけながら「ゆめ」や「やりたいこと」をサポートできるよう、1.夕刻のたまり場(居場所)、2.やりたいこと講座、3.つぶやきサポート(相談)、4.逸材発掘・人材バンクの4つを大きな柱として取り組んでいます。そして、2021年度からは、「地域連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進」と事業名が変更したことで、紀の川市生涯学習課が、障害のある人のための公民館講座の事業化・開設へと尽力されました。このことからも、障害のある人を中心にしたセンターの活動が起点になり、地域に着実に広がっていることを実感しています。

そこで、これまでセンターに参加した障害のある人たちが、地域のみなさんとともに学び合いそして創り合ってきたことで、一人ひとりの「生きる」と「活きる」がより豊かになったという2つのエピソードをご紹介させていただきます。

エピソード1 夢があふれ広がる公民館講座へ

「同じ障害がある人と悩みや気持ちを共有したい」と、4年半前からセンターに参加している三木将矢さんは、20代の頃そんな思いを抱いていました。そんな時、約3年前にセンターで開催した「ウクレレ講座」に三木さんが受講してからというもの、片時も離さず練習に励むほど、ウクレレを好きになりました。その熱心な姿を目にしたウクレレ講師の福島和成さんが、「助手をしてくれませんか?」と、声を掛けて以来、三木さんが講座で助手を務めています。そして先日、2年目となる紀の川市公民館講座「ウクレレ講座」が始まりました。助手歴2年目の三木さんから参加者目線のアドバイスをしてくれたおかげで、終始リラックスした雰囲気で講座が進行しました。終了後には、「緊張せずに演奏できた」と、初参加の人がほっとした表情で答えてくれました。講師の福島さんからは、「三木さんが盛り上げてくれて助かった」と、感謝を述べられました。最後に三木さんから、「自分もみんなの役に立てたのが嬉しい」と、清々しい笑顔で話してくれました。「みんなと違う自分は、存在価値はあるのだろうか」と、悩んだこともあるという三木さん。しかし、センターで自分の気持ちや経験を表現する場が増えたことで、自己肯定感も高まったと言います。「みんなでウクレレ演奏を発表したい」と、三木さんから新しい仲間との夢が溢れてきました。過去のつらく悩んだ出来事が種となり、いつかは三木さんらしい花を咲かせることを願い、これからも夢を応援していきたいです。

エピソード2 勇気や自信を育む夕刻のたまり場・やりたいこと講座

「ダンスを観るのも踊るのも大好きです」そう話してくれたのは、4年前から夕刻のたまり場に参加している宮本あかねさんです。しかし当初は、人前に出て話す機会になると、恥ずかしさのあまり隠れてしまうこともありました。けれども、先日あかねさんの心の成長を感じる経験をしました。ダンスが得意なあかねさんに、「ダンスを教えてくれないかな?」と、センター職員が「やりたいこと講座」の講師を提案しました。「講師は無理かもしれないけど、先生と一緒なら助手できるよ!」と、嬉しそうな表情で答えてくれました。それ以来、講師の三浦さち子さんはあかねさんが20年通うダンスレッスンで、「あかねさんなら大丈夫!」と、毎週欠かさず励まし続けてくれました。そして、半年が過ぎた頃、「ダンスを楽しもう講座」を開催しました。あかねさんが三浦さんの助手をしてくれて、その役割を一生懸命に取り組んでくれました。しかも最後には、あかねさんが三浦先生とともに練習を重ねたダンスを堂々と披露してくれました。その姿を見た11名の参加者から大きな歓声と拍手が起こりました。あかねさんは、「ダンスを見てもらえて、とても嬉しかった。また助手をしたい」と、誇らしい表情で話してくれました。そして、「あかねさんから勇気や自信を持つ大切さをあらためて学ばせてもらいました」と話す三浦さんの目には、感激の涙が浮かんでいました。「みんなが応援してくれる」というあかねさんの純粋な気持ちと、三浦さんの「いい講座にしたい」という熱い想いが重なって、心を動かす素晴らしい講座になったと思います。

障害のある人の人生が豊かになる場所をめざして

順調に活動をしていた2020年の初春、突如新型コロナウイルス感染症が国内にも広がり、夕刻のたまり場を閉所、また、やりたいこと講座を延期や中止にするという大変つらい時期もありました。そんな時は、「困ったことがあるけど、どう思う?」どんな時も、参加者一人ひとりに問いかけ、解決策を見つけてきました。このような経験があったからか、「みんなで見守って活動しよう」「悩みをみんなに聞いてもらいたい」など、最近はこのような声が続々聞こえるようになりました。「ほっとするみんなのたまり場」があったからこそ、たとえコロナ禍であっても、安心してともに学び合う場に成長してきたと感じています。

大変嬉しいことに、2022年度もセンターの活動は、文部科学省から高い評価をいただきました。これは、「知りたい」「興味がある」「得意なことを表現したい」という参加者のひたむきな思いと、「みんなと一緒に学び合いたい」という情熱を持った講師・サポーター・行政関係者をつないで学びの場を創り、実践してきた結果だと思います。その証拠に参加者からは、「学んだことを自分の職場で活かせた」「たまり場は、仲間やサポーターの人に会えてほっとできる居場所。仕事も頑張れる」、また公民館職員からは、「公民館の雰囲気がとても明るくなった」、そして講師からは、「参加者からたくさん学ばせてもらった」などの声が聞こえます。そんな中、近隣の市町でも障害のある人の講座新設に向けて検討され、また、講座や居場所活動をサポートする人を養成する「サポータ―養成講座」をセンターが8月に2回企画しています。これからもこの取り組みの大切さを和歌山県内外に伝えることをセンターの大切な使命として、地域のみなさんの力をお借りしながら、障害のある人の人生が豊かになる生涯学習活動をいきいきと楽しく創り広げていきたいです。

<2022年度実績>

1.夕刻のたまり場:48回開催。参加者のべ676名(平均14.1名)・サポーターのべ146名(平均3名)、2.やりたいこと講座:23講座・連続講座2講座。参加者のべ276名、3.つぶやきサポート:1~2件/夕刻のたまり場開催時、4.逸材発掘・人材バンク:234講座・164名登録、5.公民館講座:10回講座開催。参加者のべ71名

menu