全国障がい者生涯学習支援研究会の活動

「新ノーマライゼーション」2023年8月号

全国障がい者生涯学習支援研究会会長/愛知県立大学名誉教授
田中良三(たなかりょうぞう)

1. 研究会設立の経緯

2016年4月17日、本研究会の設立準備委員会が開催されました。「設立趣旨」は、次のとおりです。

“障がい児は、今日、希望すれば誰もが特別支援学校の高等部まで行けるようになりましたが、学校卒業後は、一般就労しても職場で友だちもなく、地域でも一人ぼっちで過ごしていることが少なくありません。このような姿を見かね、かつての担任教師などが、障がい者青年学級などを開き、当事者を励ますとともに、その生涯にわたる学びの大切さを訴えてきました。

しかし、それは必ずしも、関係者の大きな声や要求とまではなってきませんでした。ここにあらためて、「障がい者権利条約」に学び、これまで全国のあちこちで長年にわたって多様に取り組まれてきた貴重な実践的努力を障がい者の権利としての生涯学習として捉え直し、今後さらに広げていきたいという願いのもとに、『障がい者が学び続けるということ~生涯学習を権利として~』(田中良三・藤井克徳・藤本文朗編著、新日本出版社、2016年3月)を出版しました。

執筆者からは、これを機会に、ぜひ研究会をつくろうという声が沸き、4月17日名古屋で「出版記念の集い」を持ちました。21名の参加者はそれぞれが熱い思いを語り合い、絆を強め、これから広くみなさんに呼びかけて取り組んでいこうと「全国障がい者生涯学習支援研究会」(仮称)準備会を発足させました。多くのみなさんに、ぜひ会員となっていただき、お互いに励まし合って取り組んでいきましょう。”

設立準備委員会から8か月後の2016年12月23日、「全国障がい者生涯学習支援研究会」の設立総会及び第1回研究集会が開かれました。

2. 研究会が目指していること

会長に選出された私は、設立総会の基調講演で、本研究会のあり方として、障害者権利条約と障害者差別解消法に基づく「障がい者生涯学習支援研究の方法と課題」について提起しました。

(1)歴史的展開を踏まえる

1.実践諸分野

青年学級、障がい者施設、公民館、スポーツ・文化、大学等のオープンカレッジ、障がい児の地域支援、高等部卒業後の専攻科・大学づくり

2.実践上の5原則

1)文化・芸術、科学、教養、スポーツを、地域(大学を含む)の人たちとともに学びあう関係づくりを大切に取り組む。

2)社会参加や自立に必要な常識、日常生活に必要な技能、人との付き合い方、余暇の上手な使い方など楽しく分かりやすく教えてくれる人がいる。

3)一人ひとりの願いに添った相談や、悩み事の相談にのってくれる人がいる。

4)ありのままの自分が出せ、ありのままの自分を受けとめ、待ってくれ、ふざけあえる友だちや、やさしく教えてくれる先輩がいる。

5)一緒に、学びあい、共感しあい、ともに育ちあう仲間がいる。

(2)実践的理論的課題

障がい者の生涯学習を、学校卒業後の取り組みとしてだけでなく、乳幼児期―学童期―青年期―成人期へと生涯を通して連続する学びと人間的成長の権利として捉え、ノーマライゼーション、インクルージョンに位置づけて理論化を図る。

(3)学校改革と生涯学習支援

わが国では、障がいの軽い重いにかかわらず、希望者には18歳までの高校(高等部)教育までは保障されているが、その後の大学等の高等教育は閉ざされている。このような状況に対して、高等部3年間では短い、もっとゆっくり学ばせたいと願い高等部卒業後の専攻科設置を求める「全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会」(全専研)による研究運動が取り組まれている。その中で、2013年10月、名古屋で、フリースクール大学版というべき、学校教育法第1条項に該当しない法定外のNPO法人見晴台学園大学が開校した。

3. 主な活動

本研究会の主な活動は、1.研究集会の開催(年1回)。昨年度は、第6回開催(2022年12月4日。コロナ禍で2020年度は中止)、2.研究誌の発行(年1号)。現在、7号まで発行(2023年3月)、3.関係学会の発表。本年度は、日本特殊教育学会第61回大会(2023年8月25~27日、横浜国立大学)自主シンポジウムでの発表です。

一般に、学会等では、会員は年会費1万円近くを払い、その財政基盤をもとに研究誌が発行され、会員に配布されています。しかし、本会は、会員が70名ぐらいの規模の小さい研究会です。年会費はなく、入会費1,000円、研究誌は研究集会で発表された方の論文を編集し、希望される会員等に購入していただきます。また、年1回の研究集会の経費は、参加された会員等の参加費収入で賄っています。このように、研究集会の開催や研究誌の発行もそれぞれ独立採算方式をとっています。

本研究会が発足する10日前に、文部科学省は、これまでの特別支援教育=学校教育政策から、障害児・者の生涯学習政策へ大きく転換することを表明しました。このことを、私たちがインターネットを通じて知ったのは12月20日であり、設立総会直前の3日前でした。

本研究会は、ほぼ同時期に始まった文部科学省の障害者生涯学習支援政策とその趣旨や方向性が共通しており、今日まで、密接に連携協働して取り組んできています。毎年開催する本研究会の研究集会をはじめ関係学会では文部科学省の障害者学習支援推進室長や室員の皆さんに、講師等として積極的な参加をいただいています。昨年度の第6回研究集会(2022年12月4日)では課題研究「障害者生涯学習政策5年間の検証」として、鈴木規子氏(文部科学省障害者学習支援推進室長)に発表していただきました。

4. 今年度の予定

今年度の第7回研究集会は、2023年11月18日(土)~19日(日)、愛知県立大学サテライトキャンパス (ウインクあいち15F。名古屋駅から徒歩5分)で開催します。以下は、プログラムの概要です。

<1日目>

10:10~11:50 課題1 学校から社会への移行期の実践研究-----報告1・2
11:50~12:30 昼食・休憩
12:30~13:00 <総会>
13:00~14:30 課題2 ライフステージの実践研究-----報告1・2
14:40~16:10 課題3 生涯学習センター(公民館)の実践研究-----報告1・2
16:10~16:50 [自由研究] 発表1
17:30~19:30 【懇親会】

<2日目>

9:30~10:10 [自由研究] 発表2
10:20~11:50 <講演>LGBTQをどう理解するか
講師:松尾かずな氏(名古屋大学医学部附属病院泌尿器科医師)
11:50~13:00 昼食・休憩
13:00~14:30 課題4 大学の実践研究-----報告1・2
14:30~16:00 課題5 民間と行政との連携協働の実践研究-----報告1・2

本研究会や第7回研究集会について、ホームページ(https://sss-kenkyu.jimdofree.com/)をご覧ください。

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