高次脳機能障害友の会ナナ~家族会の活動の現状と課題

「新ノーマライゼーション」2023年9月号

NPO法人高次脳機能障害友の会ナナ 理事長
外﨑信子(そのさきのぶこ)

1997年に神奈川県総合リハビリテーションセンター(以下、神奈川リハセンター)の脳外傷による後遺障害のある患者・家族が同病院の医師・職員の支援を受けながら、家族会「脳外傷友の会ナナ」を立ち上げてから、今年、26年目を迎えました。昨年には法人名称を「高次脳機能障害友の会ナナ(以下、ナナの会)」に変更しました。設立当時は会員の多くが交通事故等の頭部外傷が原因の後遺障害を持つ当事者・家族でしたが、現在では、脳血管障害や脳炎等の病気が原因の当事者・家族の方も増えてきています。

設立以来ナナの会の活動の中心は、神奈川リハセンター内に設けられた「協働事業室」での、ピアサポート事業でした。2008年から5年間にわたって、ナナの会では県との協働事業として講演・シンポジウムを県内30か所以上で行い、この障害への理解と支援を訴えてきました。現在では、横浜市、川崎市、相模原市に高次脳機能障害支援拠点機関が整備され、各地域で講演会やセミナーが開催されています。また県域では、神奈川リハセンターの高次脳機能障害支援コーディネーターとナナの会も参画しながらの相談会が定期的に各地で開催されており、相談事業は地域ごとの展開へと変化してきています。

また、当初退院後の行き場がないことが高次脳機能障害者の社会的課題であったため、ナナの会では横浜と厚木に高次脳機能障害に特化した2つの通所施設を立ち上げました。現在、県内にはいくつもの高次脳機能障害がある方のための日中活動の事業所があり、困難事例の検討や情報共有のためのネットワーク連絡会が神奈川リハセンター主催で定期的に開かれ、ナナの会もオブザーバーとして参加をしています。このような横のつながりが神奈川の「強み」であると感じています。

社会全体に目を向けましても、この四半世紀の間に高次脳機能障害への社会的認知と支援の拡充は目を見張るものがあります。その原動力は、やはり医療・福祉行政等の関係機関と全国の家族会活動との連携であり、それが今につながっています。

一方、近年ナナの会で顕著となってきているのが、新規会員の減少と会員の高齢化です。新規会員の減少は、いろいろな側面があります。その最たるものは、インターネットの普及で情報を得ることが簡単になったことと、SNSの発達により、自分の体験や経験を投稿したり、遠距離の相手と意見交換できる場が充実してきたという時代の流れで、致し方ない部分です。会員の高齢化については、ナナの会設立当初の会員の多くが後期高齢者となり、「親なき後」の問題が現実的な課題になってきました。この問題に会としてどのように向き合うべきかを考える中で、神奈川リハセンターの高次脳機能障害支援コーディネーターの瀧澤学(たきざわがく)氏からのアドバイスもあり、会員の現況調査(無記名)を実施することとしました。その中から、将来展望に関する部分をご紹介します。

会員現況調査 集計結果

調査期間:令和2年12月から令和3年1月末

調査方法:郵送調査法 配布数:213通

回収数:100通 回収率:46.9%

将来の事柄をお教えください(ご家族からの視点でお答えください)。

●主介護者・キーパーソンが入院等で不在になった時に、本人の支援をする方はどなたですか? 不要・いない・未定の場合は「不要」「いない」「未定」とご記入ください。

回答:親16名、兄弟姉妹8名、子5名、支援者1名、いない・未定23名(有効回答59/100)

●主介護者・キーパーソンが入院等で不在になった時に、ご本人は日常生活ができますか?(図1)

図1 キーパーソン不在の生活
図1 キーパーソン不在の生活拡大図・テキスト

回答:できる13名、何とかできる21名、少し難しい28名、難しい27名(有効回答89/100)

●「少し難しい」「難しい」とお答えになった場合、どのような支援やサービスが必要と思いますか?(複数回答有)

回答:生活への支援やヘルパー39件、金銭管理10件、社会的手続き9件、GHや施設入所等7件、食事6件、相談相手5件、入浴4件、服薬管理3件、移動支援や外出支援3件、生活への訓練2件、分からない2件、その他14件(有効回56/100)

●主介護者・キーパーソンが不在になった時のために備えていることはありますか?

回答:今はない・今後考える12件、支援内容等を親族に伝える10件、ショートステイの利用や体験8件、支援者等に相談している(する予定)7件、遺産や資産6件、自分でできることを増やす5件、GHや施設入所4件、本人には支援が必要2件、その他5件(有効回答56/100)

●将来の本人の生活拠点はどこになりますか?(複数回答有)(図2)

図2 将来の生活拠点
図2 将来の生活拠点拡大図・テキスト

回答:自宅59名(戸建て賃貸0件、マンション賃貸3件、アパート賃貸3件、戸建て持家33件、マンション持家16件、詳細未記入4名)、障害者福祉施設9件、介護保険施設4件、障害者福祉GH16件、介護保険GH3件、未定2件(有効回答91/100)

この調査によって、数値化・視覚化された点がいくつかあります。特に、「将来のキーパーソンが定まっていない会員が4分の1いること、キーパーソン不在時に支援が必要だが現時点で生活支援サービスを利用していない(できない)方が3分の1いることは大きな課題である」と、瀧澤氏は指摘されていました。もう1点は「将来の生活拠点」について、家族は将来的にはGHや施設利用を検討しているが、当事者はGH利用を希望せず、住み慣れた自宅やアパート等での単身生活を望んでいるケースが多いということです。当事者のニーズを家族がどのように受け止め、協力できるかも課題といえます。

高次脳機能障害の障害状態は個別性が高いという特性があるので、一概には言い切れませんが、多くの当事者・家族は漠然とした不安を抱きつつも、利用できるサービスを積極的に活用していない一面もあるようです。このような当事者・家族の現状を知ることにより、今後家族会としては、将来的に地域で孤立しないよう、一人ひとりの状況に応じた情報提供等の必要性を感じています。

家族会の原点は、同じつらさや痛みを経験してきた者同士だからこそ共有できる安心感であり、ともに寄り添い支えあう場であります。今後も会員の減少や高齢化によって、会の活動がどのように変遷するかは予断を許さない状態ですが、家族会の原点を見失うことのないよう、地道な活動を継続していきたいと思っています。

同時に、高次脳機能障害を持つ当事者と家族の会は全国各地で地域の特色を生かした活動を展開しています。当事者と家族が、将来の生活に不安を抱えることがないように、全国の家族会が一致団結して国や行政に対し高次脳機能障害に関わる制度の充実を今後も一層訴え続けていかなければならないと思っています。

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