地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-千曲・坂城地域での地域生活支援拠点整備の取組について

「新ノーマライゼーション」2023年9月号

千曲市健康福祉部福祉課

地域の概要

千曲・坂城地域は、長野県北部に位置し、隣接する千曲市と埴科郡坂城町で構成されており、人口は千曲市が58,091人、坂城町が14,231人(R5.4.1現在)の地域です。

障害者手帳の取得状況は、千曲市3,845人、坂城町872人(R5.3.31現在)となっており、取得者数はほぼ横ばいで推移しているものの、療育手帳及び精神障害者保健福祉手帳の取得者数は年々増加しています。

また、自立支援給付や障害児通所給付等の支給決定状況は、ほとんどのサービスで増加傾向にある一方、受け入れ先(事業所数)については、特に障害児通所サービスを中心にその確保が課題となっています。

地域生活支援拠点の整備への取組

地域自立支援協議会において、たびたび取り上げられる課題は、緊急時の対応や退院後の安定した生活環境の確保など、「障がいのあるなしにかかわらず、地域で安心して生活を送るための仕組みづくり」に帰結するものがほとんどです。その目的を果たすための仕組みを体系づけ、見える化したものが、地域生活支援拠点の整備であると考えています。

本地域では、国の指針も踏まえ、平成29年度から先進地の事例をお伺いしたり地域内の関係機関への制度説明やアンケート調査を行い、地域生活支援拠点整備のための検討を進め、平成30年度を初年度とする第5期障害福祉計画において令和2年度までの整備目標を定めました。

その後、対象者名簿の作成や緊急時等の対応の手順等について地域自立支援協議会で研究を重ね、令和元年7月に「面的な整備体制の構築」の運びとなりました。

今回の体制構築のための取組において、一番重要だったことは、地域全体で地域生活支援拠点の重要性についての認識を共有できたことだと思います。

幸い、地域自立支援協議会には市内の障害福祉サービス等提供事業所のほとんどが参加しています。地域自立支援協議会の専門部会やその上位の地域連絡会において、地域生活支援拠点の体制構築の必要性や制度の説明、届出を行うことにより算定が可能となる報酬関係の説明などを行うとともに、届出書類の作成方法の助言なども行った結果、拠点の登録事業所も徐々に増えてきている状況です。

ただし、地域生活支援拠点の登録は一つの指標であり、登録があっても緊急時に枠が空いていなかったり、登録の必要がないものや、まだ登録を行っていないサービス等についても、関係する事業所等で連携して対応することにより解決に至るケースもあります。

やはり一番大切なのは、地域の方を地域全体で支援するという意識の共有です。

千曲・坂城地域における事例

Aさん(40代女性)

障害区分:精神

障害福祉サービス:利用なし

世帯状況:弟(知的障がい)と2人暮らし(借家)

収入:障害基礎年金2級

〇経過:同居していた弟とのトラブルがきっかけとなりAさんは家を出て居所がなくなる。同日市役所へ相談。

〇対応:

【相談支援の充実、緊急時の受け入れ・対応】

  • Aさんより連絡を受け、市役所で面接。
  • サービス利用に係る申請を受理。入院の要否の判断のため、医療機関への受診を促す(入院の必要はなかった)。
  • 計画相談支援員の確保及び市福祉課と基幹相談支援センターで短期入所受け入れ先の打診・調整。
  • 障害支援区分認定調査を実施。一次判定において「区分2」。
  • 最終的な区分は出ていないが、「短期入所」の利用が可能と判断。また、本人からの聞き取りにより、「一人暮らしはしたことがない」とのことで、短期入所の受け入れ先の確保と同時進行で宿泊型自立訓練施設(区分の必要なし)の受け入れ先についても打診を開始。
  • 支給決定前のサービス利用分は「特例介護給付費」であり「法定代理受領」の対象とならないため、サービス利用に係る費用が償還払いとなることについて、Aさん及び短期入所受け入れ先に説明を行う(費用については施設入所中のAさんの父親が捻出)。

【緊急時の受け入れ・対応】

  • 短期入所は1か所で連続することができず、数か所を渡り歩くような形となる。また、一時的に安価なシティホテルも活用することとなった。

【体験の機会・場の提供】

  • 宿泊型自立訓練施設の体験的な利用(短期入所)を通じ、宿泊型自立訓練の利用開始。
  • グループホームやアパート等での単身生活を目標に、就労継続支援B型の利用も開始し、訓練を実施。

【地域の体制づくり】

  • 本事例を地域自立支援協議会で発表。評価、検証等を実施。

〇課題:

  • 緊急時の受け入れについては、連続した短期入所の受け入れはできなかった。対応できる仕組みづくりについては引き続き検討を要する。
  • 今回のように「法定代理受領」の対象とならないケースにおいては、費用の捻出の面で課題がある。

まとめ

拠点整備においては、いつでもどんなケースにも対応できる「仕組みづくり」はなかなか難しいと思いますが、個別の事例を通して、支援者の知識と経験の積み重ねや課題の抽出・情報共有を行い、官民一体となって協力していく「意識づくり」を推進していくことは、可能であると思います。

千曲・坂城地域においても、地域自立支援協議会を中心に「意識づくり」に注力しながら、引き続き柔軟性をもって地域生活支援拠点の整備を推進していきたいと考えています。

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