ひと~マイライフ-一人ひとりが認められる社会へ

「新ノーマライゼーション」2023年9月号

堀合研二郎(ほりあいけんじろう)

横浜市にある特定非営利活動法人さざなみ会の職員、横浜市の障害者就労支援推進会議委員、日本医療政策機構のアドバイザリーボード等を歴任。障害者支援の現場と支援会議での経験から「困っている人たちがより良い生活を送るためには制度を変えることが必要」と考えるようになり、政治の世界へ。神奈川県大和市議会議員、精神障害当事者会ポルケ理事。

私は大学時代に統合失調症と診断された、精神障害の当事者です。精神科病院には4回入院していますが、今は回復して不自由しない生活を送れています。回復してからは就労継続支援B型の利用者を経て、同じ施設の職員や当事者会の運営、講演会・執筆活動、国会や自治体に対してのロビー活動・議員活動などに取り組んでいます。自分自身も含めた障害当事者が、少なくとも健常者と同じ程度にはわがままを通せる社会を実現することを目標に掲げています。そのためには、支援の現場を変えること、制度を変えること、そして社会そのものを変えることが必要だと考えます。

精神医療は入院と薬物の偏重と非自発性という三つの明らかな問題をはらんでいます。障害福祉も施設症と支援の誤作動と主体性の阻害という類似の問題をはらんでいます。本人が社会に参加する上での障害を可能な範囲で取り払い、後は本人の意思に任せるというのが本来あるべき姿だと思います。

私が経験した4回の入院はいずれも非自発的入院です。入院には過量な服薬が密接に関連していましたが、それは医師と家族から強制されて行っていたものでした。私の場合は運と強引さにより最終的には難を逃れることができました。しかし、自らの意に沿わない形で医療と関わり続けざるを得なかったり、自らの希望する地域生活を実現できない人たちがいます。

私は今まで福祉の現場にて当事者職員として、制限を課さないことと高い工賃や施設に通う際や勉強会などの参加にかかる交通費、おいしい食事の提供などの現物支給での支援を訴え実践してきました。より当事者主体の医療と福祉が実現できるよう数々の提言を国と自治体に対し行い、精神保健福祉法に虐待防止条項を盛り込むという成果もあげました。また、社会の偏見を除去するために、これらすべての取り組みを自分自身の顔と名前を公開して行っています。障害を「かわいそう」「怖い」「なんだかよくわからない」と思われることのないように、当事者の等身大の姿を知っていただきたいのです。

支援の現場で行われていることには制度による裏付けがありますが、政治とマイノリティに対する無関心により、多数決原理の民主主義制度そのものが上手く機能していないと私は考えます。

本誌読者にとっては自明のことと思いますが、多数決という少数派にとって明らかに不利な原理と無関心さを追い風にしてかつて設計された制度は、社会モデルや人権モデル等の人類智を結集した最新のパラダイムにもよって大幅な改変をしつつあります。

その人が住みたいところに住み、体内に取り入れるものを自由に取捨選択するという現代ではごく当たり前のことを、どのような境遇の人にも保障していけるように。制度を変えるために社会に働きかけ、支援の現場そのものもより良いものとしていくこと。現在の状況と理想とする姿にはまだまだ大きなギャップがありますが、地道な活動を続けることで少しずつそのギャップを埋めていきたいのです。

人々の「幸せ」とは何かについて考えざるを得ないことがあります。お金持ちになることなのか? 仕事で成功することなのか? 現時点の私の答えは否です。人間の社会的欲求を否定する気は毛頭ありませんが、私に言わせれば「幸せ」とは「自己決定が阻害されずに生きている」というごくごく簡単な当たり前のことでしかありません。すべての人たちにそんな当たり前の「幸せ」を実現できるように、私は活動しています。

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