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「草取りをしながら本を聞くので、いちいちカセットを取り出して次を聞く手間がいらないデイジーはとても便利です。」
「テープだと30分で終わるのですが、デイジーだとついつい熱中して朝方まで読んでしまうことがあります。
タイマーが欲しいくらいで・・・(笑)」
「夫婦で毎週10タイトル借りに行きます。」
「86歳になりますが、パソコンは70歳になってから使い始めました。
パソコンでデイジーを再生するソフトができたらぜひ使ってみたい。」
まだ肌寒い早春の北海道で、
旭川点字図書館のデイジー録音図書利用者の皆さん、
遠藤館長さん、デイジー担当の草野さんと懇談させていただく機会を得ました。
ここに断片的に挙げた皆さんの声を裏書するように同図書館の個人貸出統計によると、
平成12年度の録音図書の利用は12年7月を境にテープ図書の利用をデイジー図書が上回り、
前年度比ではテープ図書が若干減少し、デイジー図書は前年比5倍以上という急増を示しています。
このように、急速にファンを増やしつつある「デイジー」についての取り組みと現状についてご紹介します。
デイジーとは視覚に障害のある人の国際標準規格の録音図書システムとして開発された 「Digital Audio-based Information System (デジタル音声情報システム)」の頭文字を取った呼称であり、 日本障害者リハビリテーション協会では 国際的な開発・研究共同体であるデイジーコンソーシアムの正会員として、 国内外への本システムの開発および普及を進めています。
平成10〜12年度にかけて厚生省(現厚生労働省)補正予算事業の委託を受けた本協会で
全国約90ヶ所の視覚障害者情報提供施設へのデイジー製作用システムの導入および再生用機器の整備と
2580タイトルのデイジー録音図書・601タイトルのデジタル法令図書の配布を進めてきたところ、
平成12年度末には全国で延べ13万タイトルのデイジー図書の貸出があり、
新たに5500タイトルの図書が製作されていることがアンケート調査により判明しました。
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現在、デイジー録音図書を製作するためのソフトウェアとして
「Sigtuna DAR(シグツナ ディーエイアール)」を本協会より国内外の非営利団体へ提供しています。
現在音声だけの製作用として「2.017」バージョンを提供していますが、
今秋にはデイジー規格2.0に準拠した
テキストと音声、画像を同期できるHTML・SMIL対応の録音・編集ソフトである「Sigtuna DAR3.0」を提供する予定です。
また、今まで提供を受けられなかった企業や営利団体に対しては
「Sigtuna 3.0」の商業版として「LpStudio Plus(エルピースタジオプラス)」を株式会社エルザより 販売します。
これらを含む従来のソフトウェアでは
視覚に障害を持つ方にとってはスクリーンリーディングソフトを使用しての操作が難しいという問題がありましたが、
これからはスクリーンリーディングソフトがなくても操作ができる
「MyStudio PC(マイスタジオピーシー)」(現在開発中)で簡単にデイジーが製作できるようになります。
再生用機器として「プレクストーク」と「ビクタリーダー」があることは広く知られていますが、
Windows環境のパソコンで再生が可能となる「LpPlayer(エルピー プレイヤー)」の日本語化も本協会で進めています。
このソフトウェアは、
スクリーンリーディングソフトがなくてもソフト単体で読み上げが可能であること、
また漢字・かなの詳細読み上げができテキストだけではなく音声での検索も可能になること、
自分で簡単なメモ録音ができること、
マルチメディア対応となっているため
テキストで綴りや画像を確認されたい弱視や高齢者の方、
点字ディスプレイを使用される盲ろう者の方、
さらには知的・認知障害などを含む読みに障害のある方が
パソコン上で音声とテキストを確認して使用できることが特徴としてあげられます。
DOS上で使用される場合は「ALTAIR(アルティア)」、
webブラウザである「Sigtuna ブラウザ」がデイジーの再生をサポートしています。
また、将来的にはパソコンを使わなくても
電話を利用してデイジーの図書や情報へのアクセスが可能となる「テレホンブラウザ」についても開発を進めています。
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これまでは視覚障害を持つ方の録音図書の整備ということで進められてきたデイジーシステムの活用は、
マルチメディア対応となることによって様々な障害を持つ方、
高齢者の方にとっての情報アクセスのツールとして重要な役割を果たすものになりつつあります。
パソコンやインターネットなどの情報技術の進歩、
さらにこれからのデジタルテレビの普及がデイジーシステム技術の向上と密接なかかわりを持ち、
また、デイジーシステムが一番の特徴として持つ「国際標準であること」が
情報技術によってもたらされた様々なツールを通じてあらゆる人々への情報アクセスをより可能としていくこととなっていきます。
一つの例として、広報紙をマルチメディア対応のデイジーシステムによって製作する場合を挙げます。
視覚障害、特に全盲の方は音声で利用することによって、
また弱視や高齢者の方はパソコン上のポイントを大きくする工夫をすることによって、
点字ディスプレイを使用される視覚障害の方、盲ろうの方も同じ情報を共有することができ、
また聴覚障害の方はパソコン上のテキストや画像を利用することができます。
さらに、難解な用語を平易な言葉に置き換えをする、
イラストを増やすなど様々な工夫をこらすことによって
認知や知的の障害を持つ方にも同じ情報を提供できる可能性も広がっていきます。
電子出版物の規格にデイジー規格の導入を決めた米国や、
視覚障害者だけではなく読みに障害のある人々への録音図書の貸出サービスを行っている米国、
スウェーデンをはじめヨーロッパの国々の事例には及ばない部分も多く残していることは否めませんが、
国内でのますますの発展、
発展途上国における障害を持つ人々への録音図書の普及や情報技術の提供をサポートすることがこれからの課題です。
デイジーに関するウェブページ http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
(なかむらりか 日本障害者リハビリテーション協会情報センター研究情報課)