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1−1 トーキングブックの種類
1−2 テキストから始めるか、音声から始めるか
1−2−1 読み手の熟練度が軽減される
1−2−2 正確な音声化が可能
1−2−3 1ステップ省略でき、編集者の負担も軽減
1−3 イメージ画像から制作する
1−4 必要なシナリオ
Sigtuna DAR 3 JP(以下、Sigtuna3と表記)は音声、テキスト、イメージ画像を同時にシンクロナイズ(同期)させるマルチメディアオーサリングツールです。それぞれのデータの種類ごとに、同時進行で制作準備が可能ですから、音声だけの録音図書作りのように、決まった手順があるわけではありません。画一的にその手順を示すことができません。
このトレーニングマニュアルでは、サンプルデータをパソコンのハードディスクにコピーして、事例に示されたとおりに操作、実行していただくことで、Sigtuna3が持つ各種機能の操作をマスターしていただくよう工夫してみました。
実際のマルチメディア版DAISY図書制作にあたっては、事務所やスタッフの事情に合わせて制作手順を決定してください。
トーキングブック(録音図書、Talking Book)は、いろいろなメディアを使って作られてきました。レコード盤、オープンリールテープ、カセットテープとその形が変わってきています。CDもその形態の一つですが、現在のCDを使うDAISYになって、決定的に違うことはデジタルデータであることです。デジタルであることは、誰もが自分のパソコンを使って、自分の活用しやすい形や再生方法に編集できることにあります。もちろん障害の程度や種類に合わせた編集も可能になるということを意味しています。
DAISYは、障害者用という開発意図から出発して、デイジーコンソーシアム(世界共同開発機構)の誕生と、後にインターネット技術の採用という今日の段階になって、この仕様がユニバーサルデザインへと発展することが期待されています。
現在では、トーキングブックには次のような種類があると考えられています。
従来の録音図書作りのように、音声の録音からスタートすることもよいかも知れません。
もう一つの方法、テキストをXHTMLファイルに加工して、その文章をディスプレイ画面で見ながら録音することには、大変なメリットがあります。しかし、テキストが簡単に入手できない場合には、音声の録音からスタートするのもやむをえないことでしょう。
ここでは、テキストから始めることのメリットを紹介するにとどめます。
紙のページ一杯に広がった文字の列の中から、必要な個所を視覚で読み取ることに、音訳者はかなりの時間をかけて練習をしています。この行為の熟練に何年もかかっています。
この原稿を手にして読むというスタイルは、短期に養成したスタッフが読み手になる場合に、相当の無理があります。
テキストを事前に用意して、画面に反転表示された文章を音声にする場合は、ページ一杯に広がった文章の列に比べ、反転部分が非常に短く視野面積が狭くてすみます。文章が短いため見誤りが少なくなります。これで格段と「とちり」が減ることになるのです。短い範囲ですから、読み誤った場合でも、訂正がすばやく完了します。
図1−1 画面を見ながら録音
事前に準備されたXHTMLファイルを使ってプロジェクトを新規に作り、読み手とオペレーター(モニター)が対になって録音する場合は、かなり正確な音声化が可能です。
視覚障害者情報提供施設などでは、「校正」という段階が図書作りに採用されていて、録音図書と点字図書との正確度が比較されていました。点字図書での正確度はかなり高いのですが、録音図書の場合は「校正漏れ」が多いとも指摘されています。
これは文字列と文字列との比較に対して、音声と文字列との比較による校正作業の差と考えられてきました。しかし、視野とその視点の変動範囲については分析が及んでいませんでした。短い文字列を表示し、読み手もモニター(校正者)も狭い範囲の文字列確認で済むことから、仮にモニターが録音レベルやオペレーションに一部気をそらしても、十分な確認が可能となったことによるのでしょう。
現にテキストシンクロ編集の最中に、小さな問題ですが、校正の済んだはずのテープからかなりの「ケアレスミス」が見つかっています。
直接パソコンに録音してしまうため、テープ転送、音声のインポートといったデータを取り込む手間が、1段減ることになります。
また、誤読や読みトチリをしてしまった場合、その場ですぐに訂正をして編集をあげてしまうため、編集者の編集時間が軽減されます。前述のように、テープの録音や他のメディアに録音した場合は、編集者が校正者を兼ねることとなり、テキストと音声を照合して一字一句「校正」することになってしまいます。仮に校正の済んだ音声を取り込んでも、テキストシンクロ編集の過程で多くの誤読を発見していますので、編集者がもう一度、編集画面で確認を強いられるのが現状です。
このような編集者の負担を、録音段階で断つことができます。
テキストから始める方法、音声から始める方法とは独立して、事前にイメージ画像の加工から入ることもできます。
イメージ画像の加工ツールは、Sigtuna3には付属していませんから、独立した画像処理ソフトを使用することになります。使い慣れたソフトで加工するとよいでしょう。
また、このイメージ画像の処理は、DAISY編集者でなくとも、別のスタッフが担当することも可能です。LpStudio pro(デイジーコンソーシアムで開発中)のネットワーク仕様は、このような分業に対して提案されたものです。ある個所ではXHTMLファイルの加工、ある個所で録音・編集、ある個所でイメージ画像の加工をする。これをネットワーク上で統合できるようにするという開発仕様です。
事務所のパソコンが、ローカルエリアネットワーク(LAN)で結ばれていれば、上記の分業も可能なことでしょう。先の「補正予算事業」で視覚障害者情報提供施設などに提供されたパソコンには、この環境が付加されています。
音訳者、モニター、HTML技術者、イメージ画像担当者が、ネットワークを使用してデータをやり取りして、一つのプロジェクトにまとめ上げるという形態でなくとも、この分業を可能にする、スタッフが共通認識するための簡単なシナリオが必要です。
今まで、音声だけの編集ではあまり必要性を感じませんでした。しかし、どのXHTMLファイルの、どこにJPEGファイルを貼り付けるのか、ファイル名は何か、このToC(見出し)はレベルいくつにするのか、このイメージ画像の容量は大きいままでよいのか、画像ファイルのブラウズ画面での表示サイズはどれくらいの大きさがよいのか。メモ用紙程度ではスタッフ間で混乱してしまいます。このような問題を解決するために、プロジェクト全体の指針がまとめられたシナリオがあると便利です。
タイトル、ページ構成、各見出しのレベル、XHTMLファイル名、画像ファイル名とその容量、音声にシンクロさせるJPEGファイルとその容量、その他、各項目をまとめたペーパーがあり、そのシートにメモをとっておきます。チームでプロジェクトを完成させるときは、こういったシナリオを共有します。
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