音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

小特集/著作権法改正と障害者サービス
2009年著作権法改正によって図書館にできるようになったこと:障害者サービスに関して

南 亮一

はじめに

 2009年6月に成立した著作権法の一部改正は,図書館の障害者サービスの進展にとって,とても大きな足がかりになるものです。このため,この内容を理解することは,みなさんの図書館の障害者サービスを改善するために必要不可欠なことと思います。

 そこで,この解説記事では,この法改正と障害者サービスとの関係につき,できるだけわかりやすく説明するようにしました。この記事が図書館の障害者サービスの改善に役立てばうれしいです。

 なお,この法改正の意義などについては,本誌2010年3月号掲載の山本順一先生の論文でも扱われていますので,あわせてご一読いただければ幸いです。

1.法改正全体の内容について

 この法改正は,大きく四つの柱から構成されています。①インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置,②違法な著作物の流通抑止のための措置,③障害者の情報利用の機会の確保のための措置,④その他,の四つです。このうち図書館の業務に直接関係しそうなものは①と③で,この解説記事では,③を取り上げることにします。

 ③の内容は,さらに(i)視覚障害者等のための複製等と,(ii)聴覚障害者等のための複製等に分かれ,従来の規定よりもその内容の拡充が図られています。

 そして,この法改正と同時に,著作権法の下に位置する政令(著作権法施行令)と省令(著作権法施行規則)も関係する箇所が改正され,告示も新たに制定されました。また,法改正の内容の解釈の仕方について,改正後の運用を円滑に行うため,日本図書館協会などの図書館関係団体は,著作権者等の団体と話し合いを行い,2010年2月に「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(以下「37条ガイドライン」といいます)として策定しました。実際の運用にあたっては,これらの下位法令やガイドラインの内容も非常に重要となります。したがって,以下の説明でも必要に応じて言及します。

2.障害者の情報利用の機会の確保のための措置に関係する部分の概要

(1) 視覚障害者等のための複製等について

 (a)適用対象となる施設等の範囲を公共図書館や大学図書館,国立国会図書館,学校図書館などまで広げること,(b)録音以外の方法,例えば,テキストデータ化,拡大図書の作成などもできるようになったこと,(c)作成した物の利用範囲が貸出以外の方法,例えば,そのまま渡してしまうこともできるようになったこと,(d)作成した物の提供先が,視覚障害者だけでなく,読字障害の方や知的障害の方など,文字や活字の形では情報を受け取るのが難しい方々まで広がったことといった,我々作る側にとってはありがたいよう な中身が含まれています。その反面,(e)録音などを行うことができる素材が,これまではどんな著作物でもよかったのが,文字や活字,絵画や写真といった,「視覚によりその表現が認識される方式により公衆への提供等がされている著作物」に限定されたこと,(f)同じ形式で作成されているものが市場に流通している場合には自由に作成できなくなることといった,我々作る側には少々不便と感じるような中身も含んでいます。

(2) 聴覚障害者等のための複製等について

 これまで一部の聴覚障害者情報提供施設に対してリアルタイムで放送番組の字幕を作成して聴覚障害者に送信することを認めていただけだったのを,(a)音声だと情報が受け取りにくい場合に情報を受け取れるような方式に変換したり,(b)映画やテレビ放送番組などに字幕や手話などを付けた物を,音声だと情報が受け取りづらい人に貸し出すために作成したりすることを認める内容です。ただ,(a)は視聴覚障害者情報施設にまで拡大しただけで,図書館は対象から外されていますし,(b)は貸し出す際には補償金を著作権者に支払わなければならないこととしているので,一般の映画の図書館での貸出しと同じように,補償金の額がうまく定められず,結局この仕組みが動かなくなるのではないかと思います。このため,せっかく改正されはしましたが,(ii)については図書館ではまったく利用されないままになるのではないかと考えます。したがって,紙幅の関係もありますので,この解説記事では,これ以上触れないこととします。

3.「視覚障害者等のための複製等」(著作権法第37条第3項)の具体的な内容

(1) 適用対象施設の範囲の拡大

 本誌の読者の方々がお勤めの図書館の場合,そのほとんどが視覚障害者の方々のための資料,例えば録音図書,拡大図書,テキストデータなどを作成する際には著作権者からの許諾が必要となっていました。このため,許諾事務にかかる時間分,視覚障害者の方々への情報提供までの期間が必然的に掛かってしまうことになり,一般の人との情報格差が それだけ広がってしまうことになっていました。また,著作権者の所在がわからない場合には,これらの資料を作成することが実質的にできなくなってしまいますので,視覚障害者の方々が情報に触れることができなくなることになってしまいます。

 今回の法改正では,これまで著作権者からの許諾無しに録音図書を作成することができる施設の範囲を広げ,公共図書館,大学図書館,学校図書館,国立国会図書館などが新たに加わることになりました。このため,読者の皆様がお勤めの施設のほとんどで,著作権者の許諾無しにこれらの資料を作成することができるようになったのです。

 このため,例えば,公共図書館などにおいて障害者に録音図書を持って帰ってもらおうとすると,障害者自身が録音機器や録音媒体を持参して,対面朗読での朗読を録音してもらうというような工夫が必要でしたが,これからは堂々と録音図書を持ち帰ってもらえます。

 なお,ボランティアによって行う場合ですが,公共図書館などの活動に協力するような形態の場合や,障害者の自宅において作成する場合,障害者自身と個人的関係のある者が作成するような場合には,著作権者の許諾無しでの作成が可能とされています。

(2) 作成方法の範囲の拡大

 それでは,著作権者の許諾なしで作成できる資料はと言いますと,これまでは録音図書だけだったのですが,「その他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により」作成することができることになっています。37条ガイドラインでは,その例示として「録音,拡大文字,テキストデータ,マルチメディアデイジー,布の絵本,触図・触地図,ピクトグラム,リライト(録音に伴うもの,拡大に伴うもの),各種コード化(SPコードなど),映像資料のサウンドを映像の音声解説とともに録音すること等」を挙げています。

 また,翻訳もできることになっていますので,外国語の文献を日本語に翻訳して録音などをすることもできます。

(3) 作成資料の用途の拡大

 (2)によって作成した資料は,これまでは視覚障害者に貸し出すためか,視覚障害者に向けて配信するためにしか使うことができませんでした。このため,いわゆる「プライベートサービス」という形で録音物を視覚障害者に譲渡することができませんでした。この改正により,そのようなサービスも可能となります。

 また,もちろん公共図書館などでも,インターネットを通じて音声データやデジタルデータなどを視覚障害者等に向けて配信することもできます

(4) 作成資料の利用対象者の範囲の拡大

 今度の改正では,用途が広がっただけではなく,その利用対象者も拡大しました。従来は視覚障害者のみを対象としていましたが,今度からは,視覚障害者以外の「視覚による表現の認識に障害のある者」にまで広がりました。37条ガイドラインでは,「視覚障害,聴覚障害,肢体障害,精神障害,知的障害,内部障害,発達障害,学習障害,いわゆる「寝たきり」の状態」,一過性の障害,入院患者,その他図書館が認めた障害」であっ て,「視覚著作物をそのままの方式では利用することが困難な者をいう」と定めています。

 そうは言っても,どのような方式で対象者かどうかを識別するのかという問題があります。そこで37条ガイドラインでは,その識別方法として,「障害者手帳の所持」,「精神保健福祉手帳の所持」,「職場から障害の状態を示す文書がある」,「学校における特別支援を受けているか受けていた」,「活字をそのままの大きさでは読めない」,「身体の病臥状態やまひ等により,資料を持ったりページをめくったりできない」などといった項目を掲げ,そのいずれかに該当する場合につき,図書館の障害者サービスを受けられる登録を行うことができると定めています。

(5) 作成対象資料の範囲の縮小

 ただ,今度の法改正では以上のような範囲の拡大だけが行われたわけではありません。まず,作成対象資料の範囲が縮小されました。従来は,例えば,朗読のBGMとして音楽を入れることや,放送番組を録音することも可能だったのですが,今回の法改正ではその見直しが行われ,文字,絵画,写真のような,「視覚によりその表現が認識される方式により公衆に提供され,又は提示されているもの」に限定されました。このため,公共図書館などで録音図書などを作成する場合には,この点に気を付ける必要があります。

(6) 市場で既に流通している形式の除外

 また,今回の法改正では,(2)で述べたさまざまな形式での作成が可能となったわけですが,これらの形式で作成された物がすでに市場で流通していて,入手することができる状態にある場合には,著作権者の許諾無しにその形式で作成してはいけないことになりました。これは,いわゆる「バリアフリー出版」の芽を潰さないために設けられた要件なのですが,ある形式で作成しようとしていて,その形式のものが現在市場に流通しているのかをどのように確認すればよいのかが問題となります。

 このため,37条ガイドラインでは,別表3として「著作権法第37条第3項ただし書該当資料確認リスト」というものを用意し,録音資料,大活字資料およびテキストデータでの出版を行っている会社の最新版や近刊版を確認できる連絡先やホームページのURLを掲載するとともに,販売予定日や資料種別・配慮方法を明示されている場合にのみ有効とすること,販売予定の場合においては販売予告日から販売予定日まで1か月以内のもののみが対象となること,1か月過ぎても販売されないものは録音などを行ってもよいこととすること,複製等の開始後に販売情報が掲載されたものは引き続き録音などを行ってもよいこととすること(配信は中止すること)を定め,判断の目安を示しています。また,一部分のみのもの,俳優等が演劇的に読んでいるもの,インターネットのみの販売等で視覚障害者等が入手しにくい形態でのみ流通しているものなどは録音などを行ってもよいこととすることを定めています。

 なお,公共図書館や国立国会図書館などでも従来から著作権者の許諾を得て視覚障害者向けの貸出用に録音図書が作成されています。条文上はこれらの録音図書に同じタイトルがある場合にも,複製等を著作権者の許諾無しに行ってはいけないかのように読める余地はありますが,ごく少部数しか販売されていないなど実質的に障害者が入手困難な場合まで含むものではないと解釈されていますので,このような場合には録音などを行うことができることになります。

 また,外国語の文献がすでに外国語で視覚障害者などに適した形によって録音されている場合にも,日本語に翻訳して録音することは可能です。

4.その他

 法改正とは直接関係ありませんが,改正法の適用にあたって触れておいた方がよい事項について説明します。

(1) 録音等の対象資料は自館所蔵資料である必要はない

 録音図書等の作成の場合,複写サービスの場合とは違い,対象資料が自館で所蔵している必要がありません。障害者自身の持ち込み資料でも,他の図書館などから借りた資料でも構いません。

(2) 他館から借り受けた録音図書等のダビング等も可能

 条文の文言からは,あたかもオリジナルの資料を音声等に置き換える作業が必要なのではないかという読み方ができます。このため,録音図書や拡大図書などからのダビングやコピーは含まないのではないかと考えがちですが,最初の録音図書や拡大図書などの作成がこの条文の規定により適法に行える限りはダビングやコピーも可能と解釈されています。

(3) すでに許諾を得て作成された録音図書等の取り扱い

 それでは,すでに許諾を得て作成された録音図書等は,その多くは視覚障害者向けの貸出用となっていると思いますが,これをその他の用途に使用することは可能でしょうか。

 (2)で説明したとおり,これらの録音図書等からダビングやコピーをしたものは,その他の用途に使用することは可能と考えられます。

 このため,これらの録音図書等もその他の用途に使用することが可能なのではないかと考えそうですが,著作権法では,許諾に際して付けられた条件の範囲内でしか著作物を利用できないこととされていますので,これとの関係が問題となります。

 今回の法改正では,これらの録音図書等の取り扱いに関する経過措置の規定が設けられませんでした(なお,旧37条3項に基づき作成された録音図書の取り扱いについての規定は設けられています)ので,許諾の条件を超えて使用することができると解釈することは難しいと思いますが,今回の法改正の趣旨からすると,このような解釈は釈然としないものを感じます。個人的には,法改正の趣旨から,他の用途にも使用することが可能と考えるべきと考えます。

おわりに

 以上のとおり,障害者サービスを実施するための一つの大きなハードルは取り払われたと思いますが,実際取り掛かろうとすれば,予算や人員など,著作権以外のハードルはまだまだ高くそびえ立っていると思います。

 そんな中,障害者サービスをより充実させよう,というすばらしいご決断をなされた際,本稿をその方策を立てられる際の材料にしていただければ,これ以上の望みはありません。本稿が日本の図書館の障害者サービスの一層の充実に資することを願っております。

(みなみ りょういち:国立国会図書館関西館)

[NDC9:021.2 BSH:1.著作権 2.障害者サービス]


この記事は、南亮一.小特集,著作権法改正と障害者サービス:2009年著作権法改正によって図書館にできるようになったこと:障害者サービスに関して.図書館雑誌.Vol.104,No.7,2010.7,p.430-433.より転載させていただきました。