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シンポジウム「デイジー教科書の現状、課題、そして将来に向けて」

基調報告

井上 賞子(島根県安来市立赤江小学校 教諭)

スライド1(スライド1の内容)

こんにちは。島根県の安来から来ました井上です。今日はどうぞよろしくお願いします。とても緊張しています。あと、気をつけようと思いますが、ものすごく早口です。今、入力をしてくれている方とか、手話をして下さる方などに、手がだるくなりましたと言われるくらいです。私自身が、あまりバリアフリーではなくなってしまいますが、お伝えしたいことがとてもたくさんあるので、その辺りをくんでいただけたらなと思います。

今日は、うちの学校でデイジーを活用した図書館や支援学級での取り組みを聞いていただきたいと思います。赤江小学校は、安来市にある学校で、田んぼに囲まれた学校です。写真を見ていただいても、とてものびやかな感じがすると思います。普通の学校は柵がありますよね。何もないです。まわりは道路です。この学校の中で私は、情緒学級の担任をしています。あと、コーディネーターをしていて、校内の支援が必要な子ども達に関らせていただいております。

少しだけ自己紹介をさせていただくと、学校は島根県ですが住んでいるのは鳥取県です。鳥取の端っこに住んで、島根の端っこに通っておりますので、よく「井上さん、鳥取でしたっけ?島根でしたっけ?」と言われるのですが、「どっちも正解です。」と言っています。

スライド2(スライド2の内容)

私は特別支援に関わるようになってからは、まだ日が浅いです。通常学級の担任が長いです。特別な支援を必要としている子ども達と関わるようになってからいつも思うのですが、私達は困っている現象が見えます。しかし、なぜ困難が生じるのかという背景があるということを知って、初めて手だてが生まれてくるとつくづく感じています。教材・教具を作るのが好きなのでいろんなものを作ってきました。その中に、デイジーも手立てとして使わせていただいています。

スライド3(スライド3の内容)

もともと解決の手だてがあるかとか、やり終えられるかということを大事に子ども達の教材を考えてきていましたが、最近つくづくと子ども自身に解決の方法は見えているのか、やり終えられると感じているのかと言うことが大事だなと感じています。デイジー教科書を持った時の子ども達の喜んだ姿というのは、きっとここだと思います。「これならできる」とか、「これならわかる」「僕もできるぞ」というのが子ども達にとても見えやすい、向かいやすさがあるなと思います。

スライド4(スライド4の内容)

では何に困っているか、読書というのを読みで考えていくと、具体的にはこんなことが言えるのかなというものを挙げてみました。良く最近言われるのが、漫画も読まないと言うことです。昔は、「漫画は読む」という子がいました。しかし最近本当に読まない子たちは漫画も読みません。テレビのアニメは見ますが、文字から入れていくということに関して抵抗が高い子が多いです。読書が楽しめないという状況は、たくさんあります。でも、その子ども達は本当に本を読むのが好きではないのかというと、そうではありません。

スライド5(スライド5の内容)

では、なぜそういう状況が起きてくるのかということになると、視覚認知の問題、眼球運動の問題、聴覚の問題、いろんな問題がそこにはあると思います。1つの問題があって全員読めないわけではありません。いろんな子ども達がいろんな課題を抱えていて、結果として読みに困難を示しているのかなと思います。

スライド6(スライド6の内容)

では、どんな手だてが必要かというと、その子その子で補うものが違ってきます。補うものも違うし、手だても違います。基本的に、見えないなら見えやすく、音にかわりにくいなら音の情報を補うというように、私たちが見えにくさがあった時に眼鏡を使うのと同じように、その子にとって必要な物を補填することをイメージしながらやっています。

スライド7(スライド7の内容)

ここから事例に入ります。まずは、図書館の事例です。日常の読書に「リーディングトラッカー」を取り入れたり「マルチメディアデイジー」を活用したりしたところからお話しします。

スライド8(スライド8の内容)

うちの図書館には最強の司書さんがいらっしゃって、この司書さんが、子ども達が読書を楽しんでくれるようなことをたくさんしてくれます。私は子どもの時、読書が大好きだったので、読書の時間は楽しかったです。でも今、図書館での読書の時間に暴れる子がいます。つまらなくて飛び出してしまう子もいます。「こんなに楽しい時間はないはずなのに」と思うのですが、やはりその子ども達は読みにくいのです。その中で工夫してくれたことの1つが、「リーディングトラッカー」です。いわゆるスリットというものです。いろんな種類を用意してもらっていて、真ん中の写真のものは半透明ですので、前の行が見えます。次の行も見えます。でも、これだとまだ混乱する子がいるので、透明度のないものもあります。少し見えにくいのですが、全てのリーディングトラッカーには左上に数字が書いてあります。この数字が幅です。だから、文字が小さい本を読む時には小さい幅のもの、大きい時の時は大きい幅のもの、色もその子が読みやすい色のものを選べるように、こういったトラッカーをたくさん作って図書館には置いてあります。それから、黒定規の方がいい子もいます。片方だけに壁があった方が見やすいという子ども達もいるので、こういったものも合わせて置いてあります。

スライド9(スライド9の内容)

トラッカーの使い方を指導しているところの写真です。使っている様子です。結構なスピードで読んでいますが、トラッカーがないと、どこを読んでいるのかわからなくなって、わからなくなると面白くないから、読まないということになります。あれくらいのスピードで使う子もいるし、もっとゆっくり使う子もいます。

スライド10(スライド10の内容)

マルチメディアデイジーは、図書館に3台、廃棄になったパソコンをデイジー用に置いてあります。読みの困難な子ども達が、こうしたものを使って読書を楽しんでくれるような環境設定として入れています。

スライド11(スライド11の内容)

うちの学校の特徴は、デイジーの入っているパソコンの横に紙の本を置いてあるところです。「みんながデイジーで読んでいる紙の本はこれだよ」というのがあります。デイジーで読んでみて面白かったのでこちらの本で読んでみたいなという子ども達にも対応できるようにしてあります。

スライド12(スライド12の内容)

それから、「このシリーズには続きがあります」というのを貼ってあります。そうすると、デイジーで1回読んだ子ども達が続きを読みたいなと思って本を手にとったりします。

スライド13(スライド13の内容)

共通してみられるのは、「もっと読みたい」「違うお話はないのか」と尋ねる子ども達がたくさんいたことです。面白いのは、初めは物珍しくてみんなが「なになに?」とやるのですが、やはりこういった手だてが必要な子ども達が残っていきます。こういう手だてがあると読みやすい子ども達は続けて使っていくし、こういった手だてがなくても読める子ども達は、これも見るけど、こっちで大丈夫と書架に戻っていきます。その中の2人の事例をお話ししたいと思います。

スライド14(スライド14の内容)

このAさんというのは、図書館に来ても本を読むことをしませんでした。うろうろとしていました。リーディングトラッカーを勧めても、この児童はなかなか使おうとしませんでした。

スライド15(スライド15の内容)

ところがデイジーを投入した時から、すごく興味を示して、自分の順番が待ちきれなくて、人が読んでいるのを後ろから見ていたりしました。あれほど図書館に来なかった子が、昨年度2学期後半から頻繁に図書館に通って本を読み始めました。読めるということを喜んでいる状態がこの児童は見られました。

スライド16(スライド16の内容)

このお子さんは、教科書も読みにくくて、とても困っていた子でしたが、彼についていえばデイジーでの読書の体験が、「どう読んでいけばいいのか」を具体的に体験するきっかけになったと感じています。デイジーはかたまりでガイドが動いていくので、それを見ながら、自分がどんなふうに読んでいくと話が入っていくのかということを彼の中で体感するきっかけになった気がします。どこに注目してどうとらえてどう読んでいくのかを彼はデイジーを通じて教えてもらったと思います。その後、デイジーのないものについても指を追いながら読んでいく姿が見られました。この児童は、トラッカーは使いません。トラッカーを使うよりこの方がいいらしいです。こうやって読んだ方が読みやすいということでそうやって読んできましたけれど、デイジーをやるまでは、指で追う方法もとらなかったので、どんなふうに追っていけばいいのかということを体験できたと感じました。

スライド17(スライド17の内容)

もう一人の子です。この児童は、練習してくると読めますが、初見ではなかなか読めない、意味がとりにくい子でした。読書が好きではないと言っていた子でした。

スライド18(スライド18の内容)

この児童がデイジー図書を読んでいる時に繰り返して再生して読んでいる姿が見られました。どんなお話だったかを司書さんに話すのです。今まで見たこともない姿だと言っていました。「あのね、こんなお話でね、こんなことがあってね…」みたいな。

スライド19(スライド19の内容)

デイジーで読んだ本というのは、読み上げてもらうことで頭の中にイメージが彼の中にできたのです。要するに私たちは水戸黄門という番組をつけると、今日の内容を見なくても大体結論がわかりますよね。出てくる人のキャラクターがわかるし、安心してみることができますよね。助さん、格さんが印籠を出した後に、切られることはない。絶対あそこで「ははぁ」となるとわかって安心してみることができます。そういう状態なのかなと思いました。一巻目はデイジーで読んで、例えばこのAというキャラクターはこんなキャラクターでBとこんな関係でというのを頭の中でイメージをしていて、その後、続きの本を彼は読む姿が見られました。例えば、一番初めは優しい本でした。シップ船長の本を読んで、違うシップ船長の本を読みたい。そしてまさか「シノダ」は長いと思ったのですが、「シノダ」を全部デイジーで読み切ってから、厚い本を自分が読んでいるのは嬉しいのです。その「シノダ」の違うシリーズを借りて、これ結構面白いとか言いながら読んでいました。

スライド20(スライド20の内容)

この児童については、イメージが持てることで見やすさや楽しさというのが非常に広がりやすかったのだなと感じております。流暢な読みは、意味理解を支えます。読んでもらうことで、意味理解を支えられて、その関係性が見えてくる。さらに、自分のペースで繰り返せる、聞くことができる。この辺りが、わかって進める良さだと思います。

スライド21(スライド21の内容)

デイジーで読み方にふれたAさんも、デイジーという方法を持つことでイメージを広げたBさんも、デイジーとの出会いが本を読む楽しさに彼らがアクセスするきっかけになったなと感じています。今、紹介したのは伊藤忠記念財団で作っておられる「わいわい文庫」よりご提供いただいたものを使わせていただいております。うちの学校の方で、司書さんが読書アンケートをとってくれているのですが、それを見ると、とても残念ではありますが学年が上がるごとに「本を読むのが好きではない」という子ども達の割合が上がっていきます。

スライド22(スライド22の内容)

うちの学校の方で、司書さんが読書アンケートをとってくれているのですが、それを見ると、とても残念ではありますが学年が上がるごとに「本を読むのが好きではない」という子ども達の割合が上がっていきます。

スライド23(スライド23の内容)

「なぜ好きではないのですか」と聞いてみると、結構多かったのが本との出会いの問題、面白い本がないとか、興味が持てないとかいうよりも、読むのがめんどうくさいとか、そういうことにしんどさを感じていたりとか、映像の方が楽というようなことを感じている子ども達が多いのだなということがアンケートからわかってきました。

スライド24(スライド24の内容)

リーディングトラッカーを使った時には、ないよりあったほうが読みやすいと感じる子ども達が多いです。もちろん、必要ないという子ども達もたくさんいます。

スライド25(スライド25の内容)

デイジーを使ってみても、読みやすい、面白かったと感じる子ども達が多いです。

スライド26(スライド26の内容)

そういった問題を見ていると、読書を楽しめずにいる子ども達の中には、本の世界に楽しむ以前の「入力」のところで困ってしまって、読書の窓を開けられずにいる子ども達が結構な数いるのではないかなと予想されています。だから、こういった図書館でデイジーの本が読めるっていうのは、そういった子ども達が読みやすさを持っていろんなものにアクセスしていくことができるいい機会になっているなと思っておりますし、その姿を見ながら、「あれ?この児童って読みにくさが、こちらが把握しているより、あったのではないのか。」という気付きにつながっているケースもあります。

スライド27(スライド27の内容)

次に支援学級での取り組みを紹介します。デイジー教科書を活用している例をまず紹介します。

私は、「魔法のプロジェクト」に参加して、iPadの支援というもののモニターをさせてもらっています。Surfaceは、「Do it school」に参加して、実践をさせてもらっています。お手元の資料の最終ページに、2つのプロジェクトのホームページアドレスが載っています。そちらの方には今日お話しした事例についてもう少し詳しいものが載っています。SurfaceとiPad、両方ともデイジーが使えます。Surfaceはwindowsですので、amisを使わせてもらっています。iPadの方は、Voice of DAISYを使わせてもらっての実践をしています。

スライド28(スライド28の内容)

Surfaceで活用したEさんの事例です。

スライド29(スライド29の内容)

この児童は、iPadでもデイジーを使っていましたが、今は縦書きもフォローしていただいていますが、当時は横書きだけだったので、少し違和感があったみたいで、どうしても教科書と違うと抵抗感があってあんまり使いたがりませんでした。この児童については、私が読んで追い読みしていった時期もありましたが、範読を聞いた直後でも正しく読めませんでした。音読に必死になっていると内容がわからないというお子さんでした。さらに、この児童は黙読もなかなか厳しいです。URAWSSという読み書き検査があります。その中の「読み課題」の読み速度については、評価Bというものが出ます。要するに普通ですよと。ところが内容理解については、6問中3問正解でした。このURAWSSという読み書きの検査というのは、基本黙読の検査です。だから、もし彼が音読は駄目だけれど、黙読はいける子であれば、ここでいい結果が出るはずですが、彼は黙読でもやっぱり内容がとれないです。では、それは知的なところに問題があるのかというと、そうではないのです。

スライド30(スライド30の内容)

デイジーを使ってみたらどうだったかというと、背景ピンクを彼はとても好みます。背景ピンク。私はいろんな子にデイジーを使ったことありますが、背景ピンクは彼だけです。彼的には背景ピンクが一番いいらしいです。背景ピンク、ハイライト黄色がお好みです。文字は、あんまり大きくしません。+1位が一番見やすいと言っていました。初めの頃は画面を目で追っていましたが、そのうち読み上げられるのを聞きながら自分で教科書を追って、この写真のような形を彼はとるようになりました。先ほども言いましたが、彼は黙読でもうまくとれませんが、読みを聞きながら文字を追っていくと、文字の内容が入ってくる子です。これが一番自分でわかりやすいというように言っていました。どんなお話かなと考えて聞けるという言い方をしていました。集中しやすいそうです。自分なりの読み方を、彼はデイジーを使いながら発見しているのかなと思います。

スライド31(スライド31の内容)

「ごんぎつね」の単元をやった時ですが、デイジーで2、3ページ読んでみて、読み終わったところで私はいくつか質問をします。そうすると、彼は見事に正解を答えます。さらに、「どうして、ごんはこんなことをしたのかな」というような質問をした時に、今読んだ場面ではなくて、前の時間に読んだものを「だってね・・・」といいながら、「この辺でね・・・」と言うのです。彼は、挿絵を手掛かりに、その挿絵らへんにあの話があったということをしっかりと覚えています。つながりを理解して答えることのできる理解力のとても高い子です。しかし、黙読でもとれないし、自分で音読していくこともなかなか困難な子でした。繰り返し私と音読をしていた時よりも、デイジーを使って、聞いて黙読していくという方法が一番内容の入りがスムーズでした。さらに、デイジーポッドをこの春から使わせてもらうようになりましたけれども、このデイジーポッドがすごく便利で、Surfaceの中にデイジーポッドを入れておくだけで、この児童が「次の単元に進んだ」というとすぐにダウンロードさせて、すぐに使えることができました。本当にファイルの準備や管理が容易だったので日常的な活動につながりました。今までも、データをいただいてとても助かっていましたし有難かったのですが、そのデータを私が忘れずにその子の授業までに落とすのを、私はよく忘れていて、「ごめんね。次の時間までには用意しておくから」というようなことがよくありました。しかし、子ども達は、デイジーポッドがあると、先生が忘れても安心といっていましたので、非常にありがたかったです。

スライド32(スライド32の内容)

次は、iPadで活用したお子さんです。

スライド33(スライド33の内容)

この児童は、たどたどしい拾い読みになる子です。自分で読んだ後、内容を聞いても答えられないことがとても多い子です。しかし、読んでもらったことはこの児童も正確に答えられます。さっきの子もこの児童も、テストでは、正確に内容が把握できないので、結果として書かなかったりでたらめを書いたりしてしまうことが良くあります。

スライド34(スライド34の内容)

彼は、背景は濃紺を好みます。背景濃紺で白抜きか黄色い字を好み、かなり拡大したものを選択することが多いです。さっきのEさんのように、最初は目で追って、デイジーを聞きながら黙読をしていました。ところがこの児童は気が散りやすくて、今聞いていたのにどこを聞いていたかパッとわからなくなることが多かったです。だから、この児童については、音読みをデイジーを使ってやってきました。これもやっぱり自分の読みやすさの発見かなと思います。デイジーを使っての音読みがこの児童にとってどんな効果があったかということですが、実はこれについては、デイジーでやった動画を私は残していなかったので、こっちの方で聞いてもらおうと思います。

スライド35(スライド35の内容)

これをやった時は、まだVoice of DAISYが縦書きに対応してなかったです。どうしても他の子たちと一緒に勉強する時に何ページの何行目とか出てきた時に共有しにくくなってしまったので、紙の教科書をDaisyのようにしました。これは、「読み上げペン サトシくん」という音声を録音したシールを作れるセットです。これは、養護学校などで障害の重いお子さんたちが、例えばここにシールを貼っておいて、「机」と入れておくとペンで触れた時に「つくえ」と言ってくれるとか、日常品の身の回りのものが、「これ、なんだろう?」思った時に、声が返ってくるということができるものですが、これを使ってこんなものを作りました。

スライド36(スライド36の内容)

こんなふうに行ごとにシールを貼って音を入れていきました。

スライド37(スライド37の内容)

これで、縦書きのデイジーのような状態を作りました。これは一回目です。まだ全然何もしていない時にこんな感じです。完全に拾い読みですよね。ものすごく必死に音に変えていますので、これをやった後に、「今なんて書いてあった?」と聞いても、全く答えられません。彼は、これが日常的な読み方です。これは民話ですよね。民話は特に駄目です。独特の言い回しがありますよね。読みの苦手な子にとって、民話は鬼門です。「日常的な音読の練習を家でしてきましょう」というのを例えば1週間2週間やっても、おそらく彼は、2週間もこんな感じです。とてもしんどいし、わかりにくいというのもあって、練習も量ができない。さらに、やってもやっても今やったことが何だったのかイメージがつながりません。

それが、このサトシ君というものを使い始めて、音の支援を入れたところ、これは、音の支援をいれた一回目です。「ほんにのう」というのは、短いので覚えて言っています。他は、今聞いた音を耳に残して、彼はやっぱりちゃんと読んでいます。でも、いったん音で聞いていることで、さっきと読みやすさが違いますよね。ずいぶんスムーズですよね。読み間違いにも自分で気づいて直していました。この状態で、冬休み、一日1ページずつ練習してきて、冬休み明けがこんな感じです。私が読んでいる時は、あさっての方向を向いていますが、自分が読んでいる時は、目をちゃんと落としていますよね。音の支援を受けて音を手掛かりにして彼は読んでいるのです。この音読みをすることで、今、自分がどこを読んでいるかということの難しさがこの児童は軽減しました。流暢に読めると、もともと理解力の高い子ですから、内容の理解がとても進んでいきました。それで、ここまで読めたら、もうなくても大丈夫ということで、音抜きに読んでもらったのがこれです。こんな感じです。ここまで流暢に読めたら、内容はすらすら入っています。比較する為に同じ場面をスタートのところからやっていますが、最後までこの状態です。冬休み中、特訓したわけでもなんでもないです。1ページずつ読んでおいてと言っただけですが、音の支援を入れることで、この児童は本当に読みというのがスムーズに楽になっていくなと感じています。

スライド38(スライド38の内容)

このような追い読みをVoice of DAISYはできます。間というボタンがあり、間をあけられます。だから、間を思いっきり空けておくとデイジーの読み上げを聞いて、自分で読んでいくという追い読み状態を自分一人でできます。最近、この児童は、前は全部追い読みだったのですが、このごろは耳に少し入れながら、それを手掛かりにして、同時進行で読んだりします。その様子をこのシンポジウム直前に撮りました。かぶせるように読んでいます。これは途中でiPhoneの電源が切れてしまったので短かくなってしまいました。今のも、たくさん練習したものではありません。あんな風にデイジーで読み上げてもらうものを彼は耳に残して、自分で、目で読んでいくということがだいぶ楽になってきています。ただ、全く音のない状態でこれができるかというと、まだ少し厳しいです。

スライド39(スライド39の内容)

デイジー教科書がこういった子ども達の読みを支えたりとか理解を支えたりといった姿から、この児童たちに音の情報を補うといったことが本当に大事で、それは、学習全体の場面で必要だなと感じています。実は漢字の習得にもそういったものを入れていったりとか、作文でもやっていったりとかいろいろしています。

今日はその中でもテストに使ったものを紹介します。これは、初めの方の子です。ピンクの方の子です。

この児童は、テストについて、わかっているものであっても取り組むことができません。先ほど合理的配慮という言葉が出てきましたが、本当にそれが必要な子です。学校で、テストというのは、この項目ができたら理解の点数が何点となります。彼は、理解の点数だけだったら100点です。ところが、読むというところでアクセスができないので、0点です。本当は理解できているのに、彼の理解の評価は0になってしまいます。わかっていても答える事ができない状態のある子でした。

スライド40(スライド40の内容)

Surfaceを使っていますので、PowerPointを使って取り組んでいます。Surface自体にカメラがついていますから、テストをパシャと撮って、それをPowerPointに貼りつけ、そして音声ファイルも貼りつけるだけです。PowerPointは画像の入力と音声の入力ができます。一つの場面の中に複数の音声が入れられます。理科みたいな問題だと、5分、10分かからないうちにできます。国語のように長いものであればもう少し時間がかかりますが、それでも、教材を作るという意味ではそんなに手間のかかるものではありません。

スライド41(スライド41の内容)

スライド42(スライド42の内容)

それをスライドショーの画面で実行すると拡大出来ませんが、作成画面のままですと拡大できます。だから、その子がちょうどいい大きさにしたもので、読み上げ音声がつけられます。これは、製作したテストです。例えばアイコンを全部つけておきます。三番を押すとこんな感じです。

(読み上げ「午後一時と午後九時に夏の大三角形の位置を観察して動きを調べます。」)といった感じでクリックすると出てきます。

スライド43(スライド43の内容)

今日は読みの事しか報告しませんが、彼は書きのフォローもしています。書きについてもテキストボックスを入れることで入力フィールドを作れますので、例えば音声入力であるとか、いろんな子にとってやりやすい入力フィールドの方法で書きのフォローも可能です。

彼がテストをやっているところを実際に見てもらうと、こんな感じですね。(ビデオ「月の動きで正しいものを次の中から選びましょう。月は東から南を通って西へ動く。月は西から南を通って東へ動く。半月は満月と反対の向きに動く。月は太陽と同じ向きに動く。」)スムーズですよね。この児童、理解できています。でも、音なしでやったら、この児童、0点です。音が入ったこの状態でやると、この児童100点を取れます。この児童にとっての正しい評価と言うのは、やっぱりそれがとても大切だなということを感じています。

理科のテストに関しては、苦手意識がとても強いですが、大体3分いかないところで終わります。

スライド44(スライド44の内容)

現段階では、読み上げを活用したらみんなと同じ時間設定の中でテストを終えることもできます。

今後、情報量が増えてきたら、時間延長が必要なのか、案外慣れてくると、読み上げ自体、速度を上げていくことができる可能性がありますので、そうすると時間の中でできるのか、見極めが必要だなと思っております。

スライド45(スライド45の内容)

この児童は理解できています。これは90点でしたが、同じようなもので100点のものがたくさんあります。

この間、彼は、「先生、これやりたい」といってシワクチャのテストを持ってきました。ロッカーに入ったままの筋肉のテストでした。「手はどこで曲がりますか?」という写真があって、(ア)、(イ)、(ウ)とありました。彼の答えは(ア)だったのです。そこしか書いてなくて、あとは白紙。それでグチャグチャになっています。「これどうしたの?」と言ったら、「ロッカーにあった」と言うのです。たぶんできなくて、ロッカーに突っ込んだのでしょうね。

それを持ってきて、「僕、これがやりたい。」っていうのです。だから、「わかった」と言って、音をつけて、「はい」と渡してやったら、「そういうことね」と言いながら、ちゃんと曲がるところは(イ)と回答していて、終わったテストは100点になっていました。「すごいね」と言ったら、「うん。これがあればできるから」と言いました。

「これがあればできる。確かにそう。でもね、これがあってできるのは、君がわかっているということなのだよ。」と言うことをこの児童には返していってやらなければいけないなと思います。

スライド46(スライド46の内容)

この児童については、みんなと一緒に紙のテストに取り組むこともあります。あと、先生が読み上げてくれることもあります。それから、さっきみたいに、音声テストを作ることもあります。テスト会社が出している到達度の目標の数字と彼がとった点数では、あまり差がありません。でも実は、普通に受けると彼の点数はもっと下になります。初めの2回は、担任の先生が読むと、もう少しいい点がとれます。3回目からは私がテストを今のように作ってやっています。この児童にとっても評価はどこでしていけばいいんだろうと思った時に、この結果なんかは非常にショッキングでした。本当に必要なのだなとつくづく思います。

スライド47(スライド47の内容)

スライド48(スライド48の内容)

そして、担任が読んでくれる時と、デイジーのように繰り返し自分でできる時もやはり差があります。この児童は、難しいところは何回も再生します。私たちも難しい内容のところは何回も読み直しますよね。こういった音を補っていくことで、やっとみんなと同じような学習の方法というものを、彼はできているのだなという感じがとてもします。

スライド49(スライド49の内容)

私の夫は、成人ディスレクシアの成人当事者です。彼もやっぱり「読んでもらえたら、自分には全部わかったのに」と言います。でも、それがしてもらえなかったから、うちの夫は、テストは全部0点。何一つできないという評価をされながら学生時代を送ってきました。そういう思いを今の子ども達にさせてはいけないなとつくづく思っております。

スライド50(スライド50の内容)

最後です。「お手本を拡大する」とか「用紙を工夫する」といった視覚に関わる支援は学校でもかなり導入が進んでいると思っています。しかし、こういった音を補なったりする支援というのはまだまだ始まったところかなと思っていますが、そこにやっぱりデイジーの教科書というとてもいいものがあります。

これを使った時に、これが有効であったり、この方法で学習が学びやすい子ども達は、この方法の中にある要素をいろんな学習場面に展開させていく必要があるのだなというのをつくづくと感じています。

スライド51(スライド51の内容)

「読めない子=読書がキライな子」ではないなということをこれらの実践から私は感じています。読書の前提条件、本を読むという前提条件がその子達にちゃんと整えられているのかということを考えていくことが支援する側にはあるなと思っています。

スライド52(スライド52の内容)

スライド53(スライド53の内容)

ご清聴ありがとうございました。