音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

シンポジウム「デイジー教科書の現状、課題、そして将来に向けて」

講師のコメントおよびまとめ

河村 宏(特定非営利活動法人支援技術開発機構 副理事長)

今日はそれぞれちょっとタイプの違うディスレクシアのお子さんを抱えている方が2名いらっしゃいました。実現できたこともあるけど、課題もたくさんあるといったグループディスカッションができて、大変新しい知見も得られてよかったと思っています。

これと全体の状況とを結びつけて考えて、これはみんなで運動していかないとダメだと思いました。具体的には権利条約の批准やマラケシュ条約が去年6月にできて、デイジー図書の国際交換のための国際条約がわざわざ作られたという追い風の面もあります。ところがマラケシュ条約ができて著作権の方は少しよくなったと思ったら、今度は出版権の設定という、出版権を出版社に認めるという著作権審議会の報告が出ました。これで何がおこるかが、これからの大きな課題になります。著作権法がまた大きく変わるので、もう一回、著作権法の取り組みを、デイジーの普及、あるいは読み障害のある人も、ともに読める社会を作るという意味でも、著作権法に向けて改めて取り組まなければいけない時期が、また来たと思います。

一方、デイジーの規格は世界最大の出版社であるピアソン(Pearson PLC)という会社と、EPUBのIDPFと、それから大学等の教育マネジメントシステムの開発をしているIMSの3社が一体となって、「エデュパブ(EDUPUB)」、エデュケーションとパブを統合した専門書用のEPUB規格を、新たに開発するという動きが急速です。3回主要な会議があり、2回目がこの2月にアメリカで行われ、3回目が6月に東京で行われて終了です。そこからISOに持っていこうという動きになっています。これはアクセシビリティーに関しては多分、一定の前進があると思いますが、我々は日本語の世界で暮らしているので、日本語対応や、他にもアラビア語、左から右へ書く言語などへの対応がきちんと行われるかというとまだ定かではありません。従って、国際標準はできたけれども日本語に対応していないものができると、これまた困ってしまうのです。このような動きもこれからみんなで、かなり汗をかきながら対応していかなければならないだろうと思っています。その対応は、IDPFに日本で加入しているのは、JEPA(ジェパ)という団体と、私のやっている支援技術開発機構と、いくつか限られた団体です。デイジーの方もエデュパブの動きに対応していますが、全体としては、IDPFと世界最大の出版社のピアソンとIMSです。これから日本デイジーコンソーシアムとして、皆さんのお力を借りながら、エデュパブ対応を急いで、本当にこれを日本で使えるものにしていくのか、というのが重要な課題になってきたと思います。

そういう意味で、標準的な規格をきちんと作るということを、これからもまだまだやっていかなくてはいけないという課題が出ています。「規格を作る」というのはアプリケーションの開発と違って、すぐに売り物になるものではないので、メーカーさんはまったく関心を払いません。そこにエンドユーザーの立場をきちんと反映できるかどうかで、規格の善し悪しが決まります。

今日ここに集まっている皆さんの力というのは、今の規格をめぐる国際的な動きに対応する上で大変重要になってきます。何とか日本デイジーコンソーシアムの他の団体の皆さんと一緒に、とりあえず2月の会議に私が参加してそれを皆さんにご報告して、最後の決着が6月の東京ですので、東京で最後の決着をするとき、変な決着にならないように、皆さんにいろんなことをご報告しながら一緒に進めていきたいと思います。

そうこうするうちに聞こえてきたのが、内閣府が、500億円の研究開発費を投じて戦略的イノベーションプログラムというものをやるということです。中に、10個のテーマがあります。期待を持って見たのですが、日本の高齢化社会に対応するという意味で、当然、高齢者・障害者に対するインクルーシブな社会づくりのためのイノベーションという柱があるものだと思って見ていたのですが、まったくありません。産業界に国際競争力を強めるというものしかない。500億円で10課題、1課題50億です。もし日本の今度の人づくり戦略に、全国で50万人の小中学生の読みに困難をかかえている子どもたちの、読みの困難を解決するための総合的研究開発というものを戦略的イノベーションの中に位置づければ、50億あれば何でもできます。これは本当に保障できます、何でもできます。今、皆が抱えている問題は、きちんと解決できます。そういうことがなぜ入ってこないのか。

もう1つあるのは、内閣府のウェブサイトに、10本の開発項目がありますが、中には、企業が自分でやればいいのでは?と思うものが、いっぱいあります。そこに税金を使ってさらに追加をする。一番今、必要なものはボランティア頼りになっている、これは一体どうなっているのかと思う。本当にやるせない思いであります。それを解決するために一番重要なのは、ユーザー、そして潜在的なユーザーの声だと思います。これだけ潜在的なユーザーがいて、成功事例もぽつぽつではありますが、出ていて、そういうものが実は課題解決できるのだ、ということを知らないで、課題を抱えている子どもたち・親が山ほどいるのです。この状態を変えて、その声を力にするところからじゃないと、今の状況は変わらないのだろうと思います。特に、内閣府の500億円というのは3月末に政府予算が通って、今ある柱のまま執行されます。これは戦略課題ですから、何年間も続くものは変わりません。1回通ると、これが何年も続きます。実は昨日、障害者放送協議会でこの建物で急遽集まりまして、これに対して、モノを申そう、障害者団体が集まってモノを申そうと決めました。それの中には、デイジーを支えにしてこれから学習をして、次の人生を切り開いていく、子どもたちの運命もかかっているわけですので、先ほどのエデュパブの動きや、いろいろなツールの開発も必要ですし、規格の開発も必要ですし、普及も必要です。そういうことの全体を合わせてイノベーションというときに、このデイジーの普及は、イノベーションが必要です。そういった課題と結びつけながら、皆さんの声を繋げていく、そういうふうな活動をこれからできたらいいと思いました。