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報告「マルチメディアDAISYによる読みやすい図書の推進の活動」

(財)日本障害者リハビリテーション協会
 野村美佐子

今日は雨の中、また、お忙しいところいらしていただき、ありがとうございます。日本障害者リハビリテーション協会、情報センター次長の野村美佐子と申します。
先程のブロールさんのプレゼンは、様々な読みやすい図書についての情報が得られ、皆さんはいろんな情報で頭一杯になっているのではと思っております。 私のところでは、DAISYという切り口で、読みやすい概念への取り組みをお話をさせていただきたいと思います。基本的には、プレゼンを通して、できるだけいろいろな情報をお伝えできればいいなと思っています。

DAISYを今日初めて知るという方、お手を挙げていただけますでしょうか。そうですね、7~8人いらっしゃいますね。
DAISYというのは、Digital Accessible Information System、日本語ではアクセシブルな情報システムと訳しまして、デジタル録音図書の国際標準規格として1996年に設立したDAISYコンソーシアムによって開発とメンテナンスが行われております。たぶん点字図書館などに関係する方はお分かりかと思いますが、当初は、視覚障害者のための開発から始まり、だんだん開発が進むうちに、印刷物を読めない障害、あるいは字を読めない障害、たとえば知的障害者、精神障害者、聴覚障害者、あらゆる障害者が入ってきまして、それらをひとまとめにしまして「プリント・ディスアビリティ」という言葉があるのですが、そういった方たちを対象にして、有効なツールとして開発、普及が行われております。

2007年度は、「ねずみのよめいり」というマルチメディアDAISY図書の一つの事例として製作しております。オリジナルはこの本になります。こちらの本は、世界文化社から発行されておりまして、世界文化社からのご厚意によりテキストと絵をいただいて作りました。少しだけ見ていただきます。

音声「名主どんは、村のみんなを呼んで、ご馳走やお酒をたんとふるまったんだと」

DAISY版「ねずみのよめいり」の写真

マルチメディアDAISY図書は、パソコンで音声、テキスト、画像が同時に表示されます。読者はハイライトされたテキストを見ながら音声を聞き、どこを読んでいるのか確認することができます。読みたいページにも移動ができます。目次が隠れていますけれども、また目次のあるほうに戻っていただきますと、左側が英語で言うとナビゲーションと呼ぶ見出しがでてきます。そして、自分の好きなところへ飛ぶことができます。読みたいページに移動ができ、また、再生プレイヤーで文字の大きさや音声のスピードの変更ができ、自分のペースに合った読み方ができます。更に、キーボードが苦手な利用者は、タッチパネルというのがあるのですが、それを使うとキーボードを使わなくてもすみますし、ゲームコントローラーなどを使うことで楽しみながらできる、という方法もあります。

これがマルチメディアDAISY図書の特徴です。「ねずみのよめいり」は、教育博士で、今日いらしている藤澤和子さんに監修をしていただきました。試験的に朗読者にいろいろな読み方をしてもらいました。長さを変えてみる、分かち書きにする、普通のスピードで読んでみるとか、そういった実験を行いながら、知的障害者に特化した取り組みをいたしました。この試みは、どちらかといいますと、既存にあるものをさらに読みやすくする、そして、行間を大きくしたり文字を大きくすることで、分かりやすくする、といったことがDAISYでできると考えたからです。

それに対しまして、ブロールさんがおっしゃっていたみたいに、最初から読みやすい文章、読みやすい内容、あるいは分かりやすい表現であれば、DAISYを使って、より一人一人のニーズに合った読み方ができると考えて、読みやすい本にDAISYのCD-ROMをつけるという試みをいたしました。 「赤いハイヒール」という本がブロールさんの読みやすい図書基金で発行されましたが、それを私どもがスウェーデン語から日本語に翻訳をしましました。さらに何人かの専門家の方々に集まっていただいて、どういった文章であれば、知的障害者が読みやすいかというディスカッションをしまして、本を作っていったという経緯があります。できあがりました「赤いハイヒール」について、山田洋次監督に本の帯を書いていただきました。DAISY版について「まだまだだね」とは言われましたけれども、「赤いハイヒール ~ある愛のものがたり~」をこうして出版することができました。読みやすい書籍版を作り、一番後ろのページには、このDAISYのCD-ROMを付けました。このようにしますと、書籍版でも楽しめ、書籍版の読めない人たち、つまり、視覚障害者を含めて読みに障害を持っている人たちが同じように楽しむことができるというコンセプトが生かされるわけです。少しだけ音を出してみます。

「ママは知っているの? ママってそういうものだよね。ママは……玄関のベルが鳴った。ありがとうママ、コーヒー、いただくわ。アンネリーはそう言って」

DAISY版「赤いハイヒール」の写真

こちらのほうも同じように、たとえばフォントを大きくしたり、自分の好きな色、好きなハイライトで読むこともできる、そういった意味では私らしい方法で読む、分かるということが可能なわけです。これらの機能は、コンテンツ製作ではなくて、再生プレイヤーのほうで機能するところなのですが、それぞれの方のニーズに合わせた使い方ができるといったところが特徴です。

では学校の教科書をDAISYにした場合はどうなるかということについてお話をしたいと思います。最近少しずつ普及が進んでおりまして、今年は特殊教育学会でお話をしてくださいということで9月に米子に行くのですが、その中で教科書にDAISYが使えるのかというプレゼンをすることになっております。実際にDAISYの教科書をお見せしたいのですが、著作権の関係でお見せすることができないので、代わりに、本日は、小学校の1年生か2年生あたりで学ぶ「ごんきつね」をお見せします。こちらのほうはイラストレーターに絵をつけてもらってDAISY図書を作成いたしました。このDAISY版「ごんぎつね」ですと、日本の国語の教科書のように、縦書きで読むことができるので、生徒さんが教科書と同じように読めるので、なかなか読むことが困難な方々が少しずつ練習をすることができる、あるいは読書をするという練習ができるのではないかと思っております。実際、あるディスレクシアの関係団体で、当事者のお子さんが6人位いて、その前でDAISYのプレゼンをさせていただきました。その中にはADHDと呼ばれる方がいて、常に動き回っていた子もいました。その子にDAISY図書に合わせて一緒に読んでもらったのですが、やはりきちんと読めていないのですね。そういった子達に、DAISYを使って読みの練習ができるのではとその時思いました。

DAISY版「ごんぎつね」の写真

AMISのソフトの中にはリファレンス設定があり、そこで表示の色の設定とか、言語の変更ができます。今回の場合には、日本語ということで日本語を選択していますけれども、世界中のいろいろな言語でこのソフトを使うことができます。つまり、ここが国際標準規格であることのいいところかなと思います。

DAISYについて、日本障害者リハビリテーション協会情報センターでは、障害者の情報のアクセスを保障するために、情報バリアフリーの事業の中で積極的に行っておりますが、意見交換会のモデレーターである河村宏さんにはかつて私の上司としてイニシアチブをとっていただきました。
また読みやすい、分かりやすいコンセプトに関しては、国際図書館連盟、簡単に言いますとIFLAと呼んでいますが、その中にLSDPというセクションがあり、日本語で訳すと利用において不利な立場にある人々への図書館サ-ビスに関する分科会(Library Serving Disadvantaged Persons:LSDP)」で知りました。私もその分科会の常任委員であったことから、ブロールさんからこういいった概念があることをお聞きし、また教えていただきました。ブロールさんが出しました「読みやすい図書IFLAガイドライン」を見直しまして、新しいガイドラインをこれから作り上げていくわけなのですが、私もご一緒させていただいております。先程、ブロールさんからいろいろな情報をうかがうことができましたけれどもそれらを含めて、来年までに新しいガイドラインを作ることができればと思っております。さらにその中にDAISYについて、DAISYの特徴、DAISYによる読みやすい、分かりやすい図書についての記述が入ればと思っております。

最後に、「初めての科学ーかぜふうふう」というDAISY図書をおみせします。今日朝、11時くらいにやっと出来上がりました。これについては、キューリー夫人の理科教室というのを聞いたことがあるかもしれませんけれども、キューリー夫人が自分のお子さんを対象に、科学とは何かというのを教えたそうなのですけれども、そのノートが残っており、それをもとに山内瑞枝さんが子どもたちに科学を教えるためにオリジナルの本を書きました。そして私どもがそれをより分かりやすくするためにDAISYにいたしました。

音声「ちいさいふうせん。かぜ? おおきいふうしゃ。かぜ? ふうふう。ふうせん? ふうふう」

DAISY版「かぜ、ふうふう」の写真

山内瑞枝さんに実際に読んでいただいているのですけれども、たとえばこういったものも使って知的障害者の方に、楽しく科学を覚えるといったとこができたらと思います。読みやすい、分かりやすいという観点から見ますと私たちの取り組みは、まだまだ不十分なところがありますが、これからも頑張って取り組んでいきたいと思います。また国連の権利条約が今年5月に発効されましたが、その発効式典で条約の文書を手話、点字、読みやすい、分かりやすい表現の3つで揃えたいと言った国があるそうです。ブロールさんがスウェーデンでは読みやすいバージョンの権利条約ができたということをおっしゃっていましたけれども、日本でもそういった動きがあります。読みやすいバージョンの権利条約をDAISY化することで、読みやすい、分かりやすくすることにより、すべての人の情報保障がされることを推進していきたいと思っております。
どうもありがとうございました。