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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

5. わかりやすい資料の作成について

図書館のサービスとしてわかりやすい情報と資料の作成にあたっては、それらの対象となる読者を決定し、その読者が何を学べ、記憶し、または何がわかってほしいかを考える。次に作成の目的を明確にして、最も重要な目標を設定する。その上で障害の特性を考慮しながら、どのような形式で、たとえば印刷版だけでよいのか、音声を付けた方がよいのかなどを考えて最終的な提供方法を考えることは重要である。また、可能ならば対象となる読者の一人を含めて、理解されるか確認をしながら作成をしていくことが求められる。

なお、印刷版であれ、後に詳細に解説するマルチメディアであれ、ベースとなる「わかりやすさ」は同じである。

以下情報と資料をわかりやすくする方法を具体的に解説していく。

5.1 わかりやすくする方法

情報や資料をより読みやすく、わかりやすくするためには、文章、デザインやレイアウトなどについて次のようなことに留意する。

●文章(テキスト)

① 具体的に書く。

  • 難しいことばの使用は避ける。
  • 漢字やひらがなの長い語彙は避ける。
  • 具体的な情報を入れる。
  • 必要の度合いが少ない情報は削除する。

② シンプルな構文にする。

  • 起承転結をはっきりさせる。
  • 時系列にそった展開にする。
  • 一文は一つの内容にする。
  • 手順のある内容は、番号をつけて箇条書きにする。
  • 主語は省かない。
  • 接続詞はできるだけ使わない。

③ 複雑な表現を避ける。

  • 抽象的な言葉(隠喩)や比喩的な表現、擬人法は避ける。
  • 専門語、方言、略語、なじみのない外来語は避ける。それらを使用する場合は、ことばの意味の説明を加える。
  • 二重否定は使わない。

④ 表記する時の注意点

  • 常とう語は、そのまま使う。(常とう語はある場面にいつもきまって使われることばです。)
  • 小学校2~3年生程度の漢字を使い、ルビをふる。(ルビが見にくい人には配慮する。)
  • 同じ意味の情報は分散しない。
  • 同じ意味のことばは、同じ言い方にする。
  • 他のところを参照するという表記はしない。
  • 単語や文のまとまりで改行する。

⑤ 対象者の年齢を尊重し、年齢に相応しいことばを使う。

⑥ 実際の利用対象者の意見を取り入れる。

●難易度

わかりやすい情報や資料は、さまざまな難易度に応じて作られるべきである。同じ読むことに問題をもったグループの中にあってさえ、その能力はさまざまである。知的障害者においても軽度のレベルから重度の知的障害にまで及ぶことがある。対象となる利用者の読む力を把握して使用する言語のレベルと内容を決定することは重要である。スウェーデンでは、難易度を次の3つのレベルに分類して作成をしている。

レベル1(最も簡単)

  • 絵や写真で物語のストーリーを表す。
  • 文章は短く、行も少ない。文字を使わず、絵や写真だけの本もある。
  • 日常的な環境のなじみのある内容で、登場人物の少ない、簡単な読み物である。
  • 簡単な単語が使われる。

レベル2(より簡単)

  • 内容はシンプルで、論理的に構成されている。
  • レベル1よりも、文字が増えるが、よく知られている単語と表現が使われ、文章は短い。
  • 挿絵や写真は、物語や文章の理解を助けるために使われる。
  • なお、携帯用に小さくした文庫版には挿絵がつかない。

レベル3(簡単)

  • 純文学の図書は、厚めの本となり、文章も長く、非日常的な単語が使われる。
  • 文章が長くなり、複文や重文も使用される。
  • 扱っている内容は、時と場所とが移ることもあり、登場人物がたくさん出てくることもある。
  • ノンフィクションでは、事前の知識が必要なテーマを扱っていることがある。
  • 文章を補助する挿絵がついている。

●デザイン、レイアウトと用紙のサイズ

① 文は左側にそろえ、行の長さをそろえない。
② 行間は通常より広くする。
③ 余計な枠、色や線を過度に使うなど、すべての不要な細部を除く。
④ 用紙のサイズは、読み進めやすく、コピーが簡単なものにする。
⑤ 情報や資料のサイズが100ページ以下にする。
⑥ 背景に写真や模様をつけない。
⑦ つやのある紙は光を反射するので、ことばや写真が見にくくなる。

●活字書体とサイズ

① 基本の書体のサイズは、通常より大きくする(11ポイントから14ポイントとする)。
② 活字書体は、欧文では、Arial やTahoma が読みやすい。また和文は、メイリオやヒラギノ角ゴを推奨。またUDフォント6)も読みやすい。
③ 重要な部分について太字を使うことで注意を向ける。

<例>
活字書体とサイズ 例(図の内容)

●写真やイラスト

① 写真やイラストは、文章と一致している(矛盾していない)。
② 写真やイラストは、文章の助けとなっているか確認する。
③ 簡潔な写真やイラストほどわかりやすく、余計な細部は混乱させる。
④ 写真やイラストの上に文字は書かない。
⑤ 同じことを説明する写真やイラストは情報または資料を通して同じものを使用する。
⑥ 並んだ絵や写真同士の関係にも配慮する。

5.2 リライト

リライトにおいては、一般的なニーズに合わせて行う場合と個々の特別なニーズに対応して行う場合がある。しかし、いずれにおいてもリライトの対象グループまたは対象者とその関係者との連携が必要である。たとえば著作者に、リライトの許可を得るために、あるいは、できるだけ原本における著作者の思いを妨げないようするために可能な限り連絡をすることが必要である。なお、限定された対象者のみの利用であれば、著作権法第37条第3項で、著作者あるいは出版社の許可なくリライトが可能である。

文章をリライトする場合、わかりやすくする方法と重複することがあるが、特に以下に配慮してリライトを行ってほしい。

  • 主語が、明確であること。
  • 難しい単語を、簡単なことばに変える。
  • 年齢相応の日常使っていることばに置き換える。
  • 一つの文章には一つの事柄に限る。
  • 必要に応じて、要点がわかるように、シンボル(絵記号)やサインを付ける。
  • 絵だけではわからない場合、簡単な文章を補う。
  • 必要に応じて、あらかじめ、あらすじ、登場人物、日常的でないことば等を解説しておく。

上記に配慮した具体的な事例を資料に掲載するので参照してほしい。

5.3 シンボルの活用

シンボル7)は、対象物や事象の概念を、簡潔な絵で表現した絵による記号である。絵記号、ピクトグラムなどとも呼ばれている。名詞や動詞や形容詞などの品詞に対応したシンボルがあり、文字や話しことばの代わりにシンボルを並べてメッセージを構成することができる。文字が理解できない人の単語や文の意味の理解を助け、話しことばが使えない人のコミュニケーション手段として使用する。

●文字による表記を代替補助するためのシンボルの使用方法として、次の二つがある。

① 文を構成する単語一つずつにシンボルを対応させてつける。ただし、一文が長い場合にシンボルを多く使いすぎると、わかりにくくなる時もある。
② 文や段落の要旨を、キーワード的にシンボルで表現する。

(例)

① 男の人がコーヒーを飲む。

シンボル:男の人・コーヒー・飲む
男の人 コーヒー 飲む

② 夜に雪が降りはじめました。朝になると、道路は雪で覆われていました。
  私は、寒さで、眼を覚ましました。

シンボル:朝・雪・寒い
寒い

●コミュニケーション手段として使用する場合は、必要なシンボルを集めたコミュニケーションボードに作り、伝えたいことばを表すシンボルを指さして伝える。

例として、災害時のコミュニケーションボード8)を表示する。災害時に、図書館を含む公共施設や学校等の避難場所で使用するために、災害時に伝えたい、話したいことばが集められている。現在、いくつかの図書館では、話しことばによるコミュニケーションが難しい障害者や外国人等に対応するための窓口で使用するコミュニケーションボードが試作され始めている。合理的配慮の一つとして、有効に活用されていくことが望まれる。

災害時のコミュニケーションボードの画像1(図の内容)

災害時のコミュニケーションボードの画像2(図の内容)


6) UDォントとは、「ユニバーサルデザイン」のコンセプトに基づいたフォントで、読みやすさの向上と誤読を防ぐための工夫を施したデザインとなっている。
http://font.designers-garage.jp/ud/

7) 日本では、2005年4月に、コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則のJIS規格が制定され、話しことばや文字に代わって使用できるコミュニケーション手段の規格としてシンボル(絵記号)が導入されている。約300のシンボルが、公益財団法人共用品推進機構のWebサイトから無償でダウンロードできる。
(使用したシンボル: 日本版PICシンボル、JIS絵記号)

8) 日本コミュニケーション障害学会の助成を得て、知的障害・自閉症児者のための読書活動を進める会と日本PIC研究会が制作した。大阪市のWebページからダウンロードできる。
URL http://www.city.osaka.lg.jp/kikikanrishitsu/page/0000330324.html