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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

本ガイドラインが対象とする範囲:個々の障害について

国際的な障害に関する分類が揺れ動いており、その詳細については、世界保健機構の(WHO)のICD-1110)と米国精神医学会(APA)のDMS-511)に留意する必要がある。

●発達障害

発達障害とは、社会性の発達やコミュニケーション能力に障害があり、強いこだわりを示す自閉症、アスペルガー症候群等の自閉症スペクトラム症候群、読み書きや計算などの特定の学習の習得に著しい困難を示す学習障害、年齢相応の不注意・他動性・衝動性が見られるADHD(注意欠陥多動性障害)を指し、脳機能の障害と言われている。

自閉症スペクトラム症候群には、知的障害がある人やない人がいる。知的障害がないアスペルガー症候群の人は、読む能力に問題はないが、人の感情の読み取りに困難をもつ人もいる。学習障害で読み書きに障害のある人は、知的障害がないにもかかわらず、流暢に読んで内容を理解することが難しい。ADHDによって集中することが難しい人は、読み書きに遅れをもったり、ある程度の長さがある読み物を集中して読んで内容を理解することが苦手な人がいる。

知的障害がある自閉症の人には、絵や写真やシンボルを使うと理解しやすい人が多い。読み書き障害の人には、文字だけに頼らないLLブックや、音声で聞くことができるマルチメディアDAISYがわかりやすい。ADHDの人には、長い文章や複雑な文法表現は避け、絵や写真を併用する等、できるだけ集中力が続く配慮が必要となる。

●ディスレクシア

「読み障害」「読み書き困難」「難読症」などとされるが、まだ正式な日本語訳や明確な定義はない。一般的な捉え方としては、「学習障害」の中でも特異的に「文字の読み書き」の習得や使用に困難をもつものを指すとされる。全般的な知的発達に遅れはなく、また「読み書き」が全くできないというのではないため、気づかれにくく発見が遅れたり周囲からの誤解を受けたりすることがある。早期発見と適切な支援により、ディスレクシアの人がその症状に対処する方略を身につけることができる。しかし、生涯にわたって影響を及ぼす障害である。

世界においては、人口の5~10%がディスレクシアの症状があるといわれる。またその中で、50%の人が、ADHDなど、ディスレクシアであること以外の障害をもっている人がいるという統計もある。

ディスレクシアの人は、何とかそれなりに読むことができるが、音声付きのわかりやすい資料を必要としている。

●高次脳機能障害

高次脳機能障害は、病気や怪我などで脳に損傷を受け、言語・思考・記憶・行為・学習・注意に障害が起こってしまった状態をいう。後遺症として読書障害がある場合が多く、わかりやすい資料の提供は、有効と思われる。

●聴覚障害

聴覚障害者の聞こえ方には程度があり、軽度や中度の難聴は、補聴器で音声を聞き取ることができるが、重度の人は、大きな音でも聞こえないケースが多く、補聴器を使っても正しく聞き取ることは難しい。そのため、音声ではなく、手話をコミュニケーション手段に使う人が多い。

文字を読んだり、読んだ内容を理解する能力は、話しことばを理解する能力をベースとして発達する。聴覚障害者は、他者の話しことばの聞き取りが悪いため、単語や文章を正しく聞いて理解することが難しい。そのため、言語的な知識やことばで考える能力が弱くなり、文字が読めても、書いてある内容を読み取り理解することに難しさをもつ人が多い。手話を使う場合でも、日本語の文法には対応していないところがあるため、読んで理解する能力の弱い人が多い。

聴覚障害者の読解力には、個人差が大きい。弱い人には、抽象的な単語や、比喩、暗喩、慣用句は避け、はじめての単語には意味の説明を加える。複文や重文の長い文章や、二重否定等の複雑な文法表現はできるだけ使わない。絵や写真を併用したり、手話のイラストを入れると、理解しやすい人が多い。

●精神障害

精神障害とは、統合失調症、気分障害(うつ病)などさまざまな精神疾患により、日常生活や社会生活のしづらさを抱える障害である。統合失調症には、幻覚や妄想の症状のある人もいる。しかし、適切な治療・服薬と周囲の配慮があれば症状をコントロールできるので、大半は社会で生活している。上記のような症状ゆえに、状況が判断できず、混乱して、うろうろし、パニックの状態になるときがあるので、図を用いたり、平易なことばを用いた情報や説明資料は、有効である。

また読書の際には、読むことに集中できずに理解が難しい場合があるので、わかりやすく書かれた図書や音声をつけた図書を必要としている人がいる。

●盲ろう

目も耳も障害がある人のことを「盲ろう者」と呼んでいる。日本には、約2万人の盲ろう者がいると言われている。一口に「盲ろう」といっても、その見え方や聞こえ方の程度によって、大きく分けると、(1)全盲ろう、(2)弱視ろう、(3)盲難聴、(4)弱視難聴の四つのタイプがある。盲ろう者の中には、知的障害やディスレクシアなどの障害も抱えている者もいる。

また、盲ろうといっても、障害の発生時順により、(1)先天性の盲ろう者、(2)「盲ベース」の盲ろう者、(3)「ろうベース」の盲ろう者、(4)上記のいずれでもない盲ろう者などに類別される。盲ろう者のコミュニケーション方法は、視覚および聴覚の障害の程度や生育歴、他の障害との重複のしかた等によって、実にさまざまである。先天性の盲ろう者は、触覚を使ってコミュニケーションをとり、書きことば、話しことばを使うことが限られているので、点訳されたわかりやすい資料を必要としている場合がある。また、聴覚障害があり、中年以降で視覚に障害を抱えることになった人は、第1言語として手話を使用し、印刷された文章の比喩や抽象的な概念の理解などに限界が見られるので、わかりやすい文章が役に立つ。

●色覚障害

色覚障害は、色の識別がしづらい状態のことである。色を感じ取る視細胞の機能の具合によって大きく三つのタイプがある。比較的頻度の高い二色覚のタイプでは、赤と緑、青と紫、緑と黒・灰などが識別しづらいとされている。日本には300万人以上の色覚障害者がいるとされる。男性の方が多く発症し、女性では0.2%(500人に1人)に対して、男性では5%(20人に1人)である。色覚障害には、先天性のものと後天性のものがある。前者は、遺伝的な原因による。後者は、網膜症や緑内障などのために視力の低下や視野の欠損などの視覚障害とともに生じることが多く、高齢化の進展にともなって増加傾向にあるといわれている。

わかりやすい情報・資料の作成と提供にあたっては、色づかいへの配慮が欠かせない。色づかいといっても、配色だけでなく、色調(色のトーン)、背景色や用紙の色にも配慮する必要がある。色覚障害者の色のわかりづらさは、前述の三つのタイプによって、また同じタイプであっても人によって、さまざまである。したがって、単に「白黒で印刷すればよい」とか「○○色は使ってはいけない」ということではなく、どんな人にも(色覚障害者にもそうでない人にも)わかりやすい色づかいをしていくことが大切である。このことを「カラーユニバーサルデザイン」12)という。

●高齢者

内閣府が5年おきに実施している「高齢者の日常生活に関する意識調査13)」では、毎回「日常生活情報について不満な点」を聞いている。2004年の調査(この年から調査対象が60歳以上となった)では、「字が小さくて読めない」が最も多く14.1%の人が挙げている。次いで「どの情報が信頼できるかわからない」(11.5%)、「情報が多すぎる」(8.8%)、「情報の内容がわかりにくい」(8.7%)となっている。2004年時点の60歳以上の人口はおよそ3300万人なので、字が小さいと感じている人は465万人、情報がわかりにくいと感じている人は290万人も存在することになる。

2014年の最新の調査では設問の方式が変わり、日常生活情報について「やや不満である」(11.4%)人と「不満である」(2.0%)人を対象として「日常生活において不満な点」を聞いている。その結果「どの情報が信頼できるかわからない」(50.5%)、「必要な情報が乏しい」(40.5%)、「情報の内容がわかりにくい」(38.8%)、「どこから情報を得たらよいかわからない」(33.8%)、「字が小さくて読めない」(32.1%)、「情報量が多すぎる」(17.0%)、「情報が遅い」(10.9%)の順になっており、「情報の内容がわかりにくい」が「字が小さくて読めない」を上回っている。

このような結果からも、高齢者にとってたとえば外来語についてはできるだけ日本語も同時表記したり、新造語についてはことばの意味を説明するなども含めて、わかりやすくかつ文字の大きい読みやすい情報提供が求められている。

●認知症

認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態をいう。主な診断名として、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が挙げられる。このうち約60%はアルツハイマー型認知症が原因で、約20%は脳血管型認知症によるものとされている。65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっている。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計される。

認知症により、脳が正常だった頃の過去の記憶は残るが、症状の進行とともに、それらも失われていく。筋道を立てた思考ができなくなる判断力の低下や、時間や場所など、自分が置かれている状況を正しく認識できなくなる障害をもつようになる。そのため、軽度認知症や中度の認知症のある人には、わかりやすい情報や資料は、理解しやすく、伝わりやすい。また読み聞かせも効果的で、一時的に記憶がよみがえることもある。

●失語症

失語症は、30~40代から発症し、脳の血管障害により起こる。損傷部位により、大脳の言語受容(聞く・読む)あるいは言語表出(発語)にかかわる中枢の障害で起こる言語障害である。また脳腫瘍あるいは事故による脳の損傷が原因で生じる場合もある。

失語症の人々は、言語の使用に問題があるが、知的に問題はない。また、半身麻痺や記憶障害が生じることもある。失語症は、症状の違いによりいくつかのタイプに分けられる。

失語症では文字言語の障害が必発であるが、その障害の程度は音声言語の障害と必ずしも並行しない。また、文字言語の障害のみが孤立して現れる場合もある。「純粋失読(難読症や読字障害ということもある)」は、文字による情報・資料は得にくい。

日本語の失語症では、漢字と仮名が同じくらい読みにくくなるが、どちらかというと「ひらがな・カタカナ」が読みづらい読字障害の方が多い。漢字は、音読できなくても意味の理解が可能な場合がある。仮名も、高頻度の単語なら、意味がわかる場合もある。

失語症の人の読字能力は、外見からはわかりづらいので、当事者の失語症タイプや援助方法など詳しい担当言語聴覚士に相談しながら、相談言語中枢の損傷部位によって異なる読みやすい情報・資料提供を行うことが有効である。


10) ICD:International Classification of Diseases and Related Problems(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)

11) DMS:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害の統計・診断マニュアル)

12) カラーユニバーサルデザインのポイントについては、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構のウェブサイト(http://www2.cudo.jp/wp/)などに詳しく紹介されている。

13) 内閣府.平成26年度高齢者の日常生活に関する意識調査結果(全体版).
http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/,(参照 2016-11-01)