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流通経済大学龍ヶ崎キャンパス図書館企画展「おはなしでみるスウェーデンのバリアフリー展」

太田順子(日本障害者リハビリテーション協会)

流通経済大学龍ヶ崎キャンパス図書館で、2015年9月19日から11月30日まで開催している企画展「おはなしでみるスウェーデンのバリアフリー展」に行ってきたので、紹介したい。

企画展上部のぬいぐるみ

今年は、スウェーデンの児童文学作家・アストリッド・リンドグレーン作の「長くつ下のピッピ生誕70周年」ということで、スウェーデン大使館主催で、10月に企画講演会1)が行われた。

このバリアフリー展は、このスウェーデン大使館の児童文学イベントの関連企画として、同図書館の司書で、スウェーデン語講師・翻訳者の喜多代恵理子氏が企画したものである。

企画展入口のパネル

企画展の入口に飾られているのは、スウェーデン大使館の児童文学イベントでも飾られていた「長くつ下のピッピ生誕70周年」のパネルである。

企画展は、3つのテーマで構成されている。

テーマ1は、「バリアフリーな国スウェーデン」ということで、スウェーデンの図書館の、障害のある人、移民、読み書き困難の人のための図書をそろえた「Äppelhyllan(りんごの棚)」のコーナーを紹介している。

テーマ1のパネル

りんごの棚のロゴ

「Äppelhyllan(りんごの棚)」は、2010年8月のIFLA(国際図書館連盟)年次大会2010でも取り上げられた、スウェーデンの取り組みである2)

「子供は皆、本を必要としており、読書の喜びを体験する権利がある」が、「通常の印刷された本が、どの子供にも適しているわけではない」。そこで、「特別なニーズのある子供たちを対象とした、アクセシブルなフォーマットによるフィクションやノンフィクションの本」を集め、「大人向けには、さまざまな障害に関する文献や、親や教師に支援や創造的なアイディアを提供できるマニュアル本」を提供しているコーナーである。

「りんごの棚」と呼ばれるのは、1990年代にロンドンの障害児図書館に研修に行ったメンバーが、そこで見た「言語障害のある子供たちを支援するために作られたおもちゃのりんご」から着想を得たためである。

スウェーデンの図書館「りんごの棚」に関する情報は、Äppelhyllanのサイト3)で見ることができる。

日本でも、このIFLAの記事を読んだ図書館から、障害者サービスコーナーという名称ではなく、「りんごの棚」という名称を使いたいということで問い合わせをいただいたことがある。

「障害者サービスコーナー」とするよりも、「りんごの棚」のような名称を活用してみる方が、子ども、多文化、移民等の障害の周辺のテーマから興味を持ってくれた人が入ってきやすいのかもしれない。

テーマ1の棚の様子

企画展では、日本のバリアフリー資料は現物を、スウェーデンのバリアフリー資料は、パネルで紹介している。写真からスウェーデンの図書館の書架の様子が伝わってくる。

テーマ1の棚の様子

lättläst(やさしく読める本)、手話やピクトグラムが入っている本、さわる絵本、DAISY図書等が展示されている。

スウェーデンの福祉をテーマとした図書は、もとから流通経済大学図書館で所蔵されていた図書だが、やさしく読める本、さわる絵本等は、今回新しく購入して蔵書としたとのことだった。

テーマ1の棚の様子

テーマ2は、「おはなしの中のバリアフリー」として、社会的弱者といわれる「子ども」「障害者」「移民」に焦点を当て、児童文学の中でどのように描かれているのかを紹介している4)

テーマ2のパネル

テーマ2の棚

スウェーデンの児童文学は、スウェーデン大使館企画の関連資料5)でも紹介されているが、「難しいテーマもためらわず取り上げる」傾向があり、「書店や図書館の棚には、暴力や同性愛、薬物乱用、離婚、死、いじめなどをテーマにした児童文学作品が並ぶ」そうである。そういった中で、「障害者」や「移民」をテーマにした図書も個性のある作品がある。

写真の青い表紙の本、『Ramiz resa(ラミッツの旅)』は、移民の少年、ラミッツがスウェーデンに来るまでのことを語った実話を物語にしたもので、日本でも2016年2月に喜多代氏の翻訳で出版される予定とのことである。

テーマ3では、差別や貧困、難民問題、いじめなど、世界のさまざまな問題についての本を集めている。

テーマ3のパネル

テーマ3のテーブル

今回の企画展は、11月で終了するが、今後は、近隣の公共図書館への企画の紹介や大学での障害学生支援等、これをきっかけにした新たな展開があることを期待したい。


参考ウェブサイト

1)長くつ下のピッピ生誕70周年記念企画児童文学講演会「子どもの居場所-アストリッド・リンドグレーンが残したもの」(2015年10月15日 国際子ども図書館)
http://www.swedenabroad.com/ja-JP/Embassies/Tokyo/4/-sys4/

2)ジェニー・ニルソン(Jenny Nilsson).「りんごの棚」物語:特別なニーズのある子供たちを公共図書館サービスの対象とするための一手段.2010年8月13日IFLA(国際図書館連盟)年次大会2010(イェーテボリ、スウェーデン)共同会議“The right to read” - How to include excluded citizens in the knowledge society?(特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会/印刷物を読めない障害がある人々のための図書館サービス分科会)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/jenny_nilsson/appelhyllan.html

3)http://www.appelhyllan.se

4)なお、喜多代氏は、ご自身のブログでスウェーデンの児童文学作品を紹介しており、その中でも、最近は、移民をテーマにした作品を紹介している。
Sagoresan genom Sverige スウェーデンおはなし旅
http://barnbok.blog.fc2.com/

5)スウェーデン情報|児童文学:難しいテーマもためらわず取り上げるスウェーデンの児童書
http://www.swedenabroad.com/ImageVaultFiles/id_33191/cf_347/image.PDF