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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その7

通級の素敵な先生

通級の先生に絶大の信頼をおくようになったのは、小学校3年生の時の、通級での宿泊学習のあとだ。

もともと普通学級でも、5、6年生になると宿泊学習がある。

通級では、その前に練習をしようと、3、4年生のときに5、6年生で行く宿と同じ所に行くのだ。

ユニコが家以外の場所で、家族と離れて過ごすのは、それが初めてだった。

正直なところ、この2泊3日が家族にとってはレスパイトケアとなった。

宿泊学習から帰ってきたユニコを迎えに行くと、

担当の先生が一言。

「ユニちゃんは相当頑固だから、お母さん、毎日大変でしょう。」

初めて、ユニコを育てる苦しみを理解してくれる人がいた、と思った。

この先生のことは、誰よりも信頼しており、その後、担当が替わっても、折に触れて相談にのっていただいた。

医師やカウンセラーは、本人のことを十分に理解しているわけではない。

一緒に生活したことがないのだから。

そう思うと、アドバイスをもらっても、ピントがずれているように感じることもあり、すべてをそのまま受け入れることはできなかった。

やはり、ユニコと密にかかわり、生活を共にしたことがある人でなければ、ユニコ特有の問題やつまずきの深刻さ、そしてその対処方法はわからない。

医者やカウンセラーは、検査をし、ごく一般的な(誰にでもあてはまる)アドバイスをくれる人

薬が必要になったときに処方してくれる人

診断書などの書類を書いてくれる人

そう割り切って利用している。

通級と言えば、忘れられない出来事がある。

ユニコが普通学級で、授業中、退屈しのぎに自分の服をはさみで切って遊ぶという事件があった。

それ以降、先生にはさみを預けることになったのだが、

通級の先生に相談したところ、

「わかりました。ちょっとこちらでも指導しますね。」と言われた。

家でもよく言い聞かせたし、たぶんもう大丈夫なのではないかと思ったけれど、ユニコがどこまで理解しているのか不安だったので、ぜひ、とお願いした。

そして次の通級の日。

ユニコがみんなと授業を受けているときに、一緒に生徒用の椅子に座って授業に参加していたF先生が、いきなり、

「あー、つまんない、つまんない。」

と叫んだかと思うと、持っていたはさみで、着ていたトレーナーをジョキジョキ切り刻み始めた。

ユニコもほかの子も、びっくり!

「だめ、だめ、そんなことしちゃ!」

「先生、いったい何してるの?!」

ユニコは半べそをかきながら、F先生を止めようとした。

「でもね、ユニちゃんだって、同じことしたでしょう?」

F先生にそう言われて、ユニコはハッとした様子だったという。

F先生は、ニコニコしながらそう報告してくれた。

「もう捨てようと思っていたトレーナー、持ってきたのよ。」

F先生、迫真の演技、ありがとうございました。

それ以来、ユニコが服を切り刻むことはなかった。

通級の先生方には、保護者面談のたびに、

「お母さん、頑張ってるよね」と

温かい言葉をかけていただいた。

そんなことを言ってくれた人は、後にも先にも、ほかにいない。

面談で救われたのは、通級で救われたのは、母。

それだけは間違いない。

だから、ユニコと同じような子どもと、日々奮闘している人に、どうしても言っておきたい。

「頑張ってね」じゃなくて、「いつも、本当に頑張ってるよね」と。

今日もどこかで、通級の素敵な先生方が、

ユニコのような子どもとその親を、支えてくれているのだ。