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日本における障害者乗馬

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年12月号掲載

ヨーロッパにおける障害者乗馬の歴史は長く、16世紀には医学論文で療法としての乗馬の論文が発表されるなど、リハビリテーションの一環として広く行われている。障害者乗馬は、身体的機能回復のためのヒポセラピー(乗馬療法)、乗馬技術の習得のみではなく馬の世話などを行い、身体的、教育的、精神的改善をもたらすセラピーライディング(治療的乗馬)、楽しみや喜びのためのリクリエーションライディングと大きく3つの分野に分かれているが、この3つは相互に作用しあっている。

では、日本での障害者乗馬はどのように実践されているだろうか。
その歴史はまだ浅く、1982年、栃木県上三河町で障害者乗馬の会がはじめて発足した。しかし、1999には全日本障害者乗馬協会が発足し、現在では全国で障害者乗馬を行なっている団体は50ケ所に上る。

浦河わらしべ園の取り組み

馬に乗る人とそのまわりを歩く人たちの写真
競走馬の産地である北海道浦河町にある浦河わらしべ園は、施設と乗馬療育インストラクター養成学校を併設する身体障害者療護施設である。わらしべ園での乗馬療育は、週に1回程度、障害の程度や体力などに応じて30分~1時間行なわれる。馬の前と両側に養成学校の訓練生が付き、馬を誘導したり声をかけたりしながら進められる。馬の世話はわらしべ園入所者の仕事であり、乗馬や世話を通して、身体機能の向上、社会性や協調性の向上を目指している。今までは屋外馬場しかなく雪が降ると乗馬ができなかったが、昨年には屋内馬場が完成し、一年を通して馬に乗りたいという利用者の声に応えることができた。土日は地域の障害児や遠隔地からの利用者の受け入れも行うなど、積極的に馬場を開放している。

5年間、週1回のペースでこの乗馬活動に参加しているTさんは、脳出血の後遺症で半身の自由がきかず、乗馬療育を始める前は殆ど歩くことができなかった。しかし乗馬を始めてからというもの、杖が無くても少しずつ歩けるようになった。馬に会えると思うだけで気分が高揚し、以前は精神状態が不安定で毎日イライラしていたが、馬に乗るようになってから精神的に安定し、体調も随分良くなったという。今では騎乗から手綱を調節して自分で馬を誘導することができるようになり、冷たい器具で黙々とリハビリをしていた頃と違って、生活に張りが出てきた。

障害者乗馬の普及を目指して

北海道日高市では、1998年から障害者乗馬の普及を目的とし、フォーラム、ボランティア育成会議や実技を行なっている。一人でも多くの障害者の方々に乗馬の素晴らしさを伝えようと5年連続して行なわれた企画である。

馬に乗る人とそのまわりを歩く人たちの写真
2002年のフォーラムで実技のインストラクターを務めた太田恵美子さんは日本での障害者乗馬について明るい見通しを語ってくれた。最近、3つの4年生大学で障害者乗馬に関する科目が始まったという。科学的な効果が研究され、障害者乗馬が認知され始めたといえる。一方では障害者乗馬のインストラクターとしての資質を充分備えた人材の育成も急務である。いろいろな障害を持った方々の予期せぬ症状や行動に対応でき、かつ馬をよく知りコントロールできる人材が欠かせない。“Horse Riding is a Hiimg Risk Sport”(乗馬は危険が伴うスポーツである)ことを常に念頭かなくてはならない。また、太田さんは、障害者乗馬の普及には、日本における障害者福祉のあり方と馬という動物の認知を改善していく必要があると感じている。すなわち、障害がある人が社会参加しやすい国にしていかなければ、様々な楽しみ、生活の質を高めることができないと語る。太田さんはそのような土壌があってはじめて障害を持った方々のアクティビティの選択肢の一つである乗馬も益々広がると考えている。

太田さんの所属するRDA Japanは、2000年に東京都より特定非営利活動法人(NPO)の認定を受けた。太田さんの活動現場であるNPO RDA横浜は昨年825人の参加者があり、1725人のボランティア(延べ人数)が関わった。
知的障害児や肢体不自由児は馬に乗ることを楽しみに、今日もここにやってくる。