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地域に根ざした共生社会の実現 CBID事例集

社会福祉法人JHC板橋会(クラブハウス サン・マリーナ)

(東京都板橋区)

キーワード 自助、指針(クラブハウス国際基準)、情報共有、パートナーシップ

板橋の地に根ざして30年余り。「ひとりぼっちにならない、させない」をスローガンに、クラブハウスの国際基準を持つ「サン・マリーナ」を運営するのが社会福祉法人JHC板橋会である。JHCは、誰もが住民として、調和(Cosmos)を持ち交流(Joint)する拠点(House)として、大都市東京の下町に堂々と存在する。

◆背景

JHC板橋会は、精神障がい者の社会参加をはじめ、先駆者的創造的な福祉活動を進め、広く板橋区民の心と健康と福祉に寄与することを目的に1983年に設立された民間の支援団体である。活動の焦点は精神障がい者と共に歩む共生のまちづくりで、その中心は、日本初のクラブハウスとして1992年に立ち上げた「サン・マリーナ」だ。クラブハウスは、明確な国際基準を持ち、全人間的復権のクラブハウスモデルを定義している。

◆事業概要

精神保健分野において、就労技術の習得のために援助付き雇用・過渡的雇用を行い、また社会生活技術の向上のために、精神保健の専門家と地域社会の人びとの精神保健の増進の可能性への啓発を各種試みている。さらに、充実した生活スタイルの構築のために、相互支援や当事者の権利擁護活動を幅広く行っている。自助雇用実現のため、市民への在宅福祉サービスの活動も積極的だ。

写真 事業の一つ:すまいるカフェ
事業の一つ:すまいるカフェ

地域の基礎データ

●カバーする地域:東京都板橋区(中核都市)

●人口:約54万人(東京都内では比較的高齢化が進む地域〈2014年12月現在22%〉)

●地域の課題:地域社会に選択できる仕事が用意されていないこと。精神障がい者に対する差別、偏見、ネガティブな文化

■設立年

1983年、民間の支援団体としてJHC板橋会を設立。1992年、サン・マリーナを設立。

■事業内容

●事業の目的:「やさしいまちづくり」・「心の健康と福祉のための市民との協働活動」

●事業の目標と対象者:精神障がい者と共に歩む共生のまちづくりが主な目標であるため、精神障がいのある人、それを取り巻く広く地域住民を対象としている。

●関係当事者:クラブハウスメンバー、各事業所利用者、地域住民、自治体(板橋区)、雇用受入企業、諮問委員、各事業所運営スタッフ、商店街組合役員、講座受講者。

●事業の主な財源:各事業売上、制度による事業報酬である。特筆すべきはクラブハウス「サン・マリーナ」の運営費で、板橋区の独自事業として行政が位置付け、深い協力関係のもとに財源確保がなされている。

●実施したこと:JHC板橋会の事業を概観すると、その道程から3期に分けることができる。第1期は、創生期である1983年からの10年間で、この時期は「相互交流・地域貢献」として自助雇用の実現を図るための、援助付き雇用やピアカウンセリング、作業所活動である。第2期は、1992年からの5年間で、「相互支援システム」として、ぴあサポートの確立、協働体制として過渡的雇用、友愛訪問等に取り組んだ。自助グループリーダーの育成にも着手している。第3期は、1997年から現在に至る。「参加・協働ネットワーク」として、多分野多機能ネットワークの拡大、包括的地域支援システムとして法制度も積極的に活用した事業展開である。具体的に事業を列挙すると、

  1. 就労継続支援B型事業(清掃サービス、家事援助、駄菓子屋運営など)
  2. 就労移行支援事業所(就労前訓練、施設外就労、ジョブサポートなど)
  3. 指定相談支援事業所・地域活動支援センターⅠ型
  4. ピアサポートネットワークセンター
  5. クラブハウス
  6. グループホーム
  7. 障害者就労生活支援センター
  8. 地域交流センター、ぴあCafé運営など

である。

事例5 図1(図の内容)

■特徴

■底した情報共有

クラブハウス「サン・マリーナ」では、日に3回のミーティングが開かれる。一日が始まる朝の時間、お昼をすませた昼の時間、一日の活動を終える夕方の時間帯である。そこでは一日の活動内容を参加者全員の話し合いで決めている。

外からの依頼についても、受けていいのかお断りするのか、また誰がそれに対応するのかなど、普通なら資格を持った専門職が決めていることを、一日3回のミーティングの中でみんなで話し合って決めている。「私たちのことを私たち抜きに決めないで!」という障害者権利条約のスローガンを日々そのまま実行している。

「相談しなさい」「すぐに相談しなさい」「悩んだらみんなに相談する」-この方法が一日に3回のミーティングによって実現している。

■クラブハウス国際基準

JHC板橋会は、全36条から成るクラブハウス国際基準の遵守に努めている。日々のミーティングの中でその条文の読み合わせを行っている。事業においても、この基準に示されている内容を実行している。

例えば、過渡的雇用の概念はクラブハウス国際基準第22条にある。「本人の働きたいという希望が、仕事を斡旋する機会を提供するかどうかを決める、ただ一つの、一番大切な条件である」などの基本的基準になっている。クラブハウスモデルの実現については、板橋区が1992年から区単独事業として認め、計画・決定、運営、担い手と行政との対等な関係性のもと、パートナーシップが実現している。

事例5 図2(図の内容)

■諮問委員とユーザー会議

JHC板橋会には、7名の諮問委員という方々が存在する。よくある法人の理事会のような性質ではない。地域事業展開の協力者である。また年1回、その成果を支援者、住民、行政職員と共有する目的で、ユーザー会議が開かれる。ユーザー会議は、相互支援(ピアサポート)の場と位置付けられている。この二つのあり方は、理解していただく場として、また知って参加する機会として、チャンスを提供しているものである。誰もが地域の支え人となるように願って、積極的に機会の提供を行っている。写真に紹介している「すまいるカフェ」は、諮問委員のお一人が場を提供し、運営をJHC板橋会で行っている。諮問委員として応援というより、地域連携モデル事業として商店街の活性化を考えた場合、自然な成り行きとしての動きだと位置付けている。諮問委員の存在とユーザー会議の毎年の開催が、地域全体の参加につながっている。

■友愛訪問

相互支援活動としての友愛訪問が、活動の一つにある。病気中の人を見舞ったり、入院中の面会、また手紙を書いて励ましたりの活動である。JHC板橋会に関わっている者として、地域や病院内で孤立しないようにするもので、アウトリーチで行われている。「地域社会に生きている人」との認識が確立している。

■クラブハウスの運営

クラブハウス「サン・マリーナ」は、自助グループ活動を基本とし、クラブハウスの運営、余暇、教育、雇用、住居に関する相互支援活動を実践している。またクラブハウス世界会議を通じ、海外のクラブハウスメンバーとの交流が盛んに行われている。

対象者は、板橋区内に住む精神障がいのある者で、クラブハウスでは「メンバー」という。過渡的雇用では、メンバーが一般企業で就労実習を行い、就労への自信を得ることを目的としている。前職業訓練として、コンピューターを使った仕事や調理など、ハウスの運営管理をメンバー自身が担っている。交流の場を設置し、孤立しがちなメンバーのさまざまなストレスを解消することが目的である。友愛訪問活動では、買い物の補助や病院への面会を行い、クラブハウス外での交流を盛んにしている。教育・研修活動では、外部講師によるピアワーカー養成講座、精神科の医師による精神保健講座、ワープロ・コンピューター講座を開催している。相談事業では、メンバーが抱える悩みに対して、職員や専門家の相談に加え、メンバーによるピアカウンセリングを実施している。

サン・マリーナの事業は、世界クラブハウス規約標準モデルに即したものである。

1)教育支援(権利擁護のための講座等)
2)就労支援(過渡的雇用で9カ月から1年間、就労実習を行う。また職員がジョブコーチとなって同行する。これまで参加者52名中27名が一般就労を実現した)
3)社交(観劇、交流会の開催)
4)施設運営(受付や電話対応、会計、活動記録など事務作業をメンバーが行う)

など

◆変化したこと

●本人への働きかけ

JHC板橋会理事長の寺谷隆子氏は、開設当初より30年余り、「クライアントの自己決定を重視する考えを貫くには、地域で生活する視点をもつこと」を強調してきた経緯がある。この内発的理念が、行政とのパートナーシップを結ぶことにつながってきた。当然、クラブハウスメンバーや各事業所利用者、地域住民等の関係当事者にも確実に理解され、居心地の良さから長く利用する関係当事者が多いことで実証できる。

また、国内初のクラブハウス「サン・マリーナ」を設立し、その国際基準を遵守することで、その指針が関わる者全てに影響を及ぼすようになる。雇用活動が活発になり、日々の活動も主体的になる。

メンバーとスタッフ間の情報共有は、信頼構築のあり方として徹底されており、そのあり方を目の当たりにした人が、また信頼を積み重ねている。このことが相互の効果として、活動の主体化、事業協力、人の関与に活かされている。

●地域への働きかけ

事業展開してきたこの地域は、もともと東海道の品川、中山道の板橋と宿場町の地であり、外の人をうまく受け入れる文化が元来根付いている地域である。東京の下町らしく駅前からの商店街があり、買い物で賑わう人の行き来がある。その地域性を意図した工夫がみられる。結果として、中尾工業株式会社のカフェ、上板南口銀座商店街のまもりん坊ハウスへとつながり、地域の中に過渡的雇用の場所(機会)が広がってきている。地域住民の意識の変化の観点では、バザー開催の協力度、商店街の関心度からうかがえる。理解が確実に広がってきているのである。板橋区長の発言であるが、地域行政の取り組みも、住民との協働を積極的に掲げるなど、JHC板橋会との長年の関係が基礎となり、新たな官民のあり方に効果的に影響している。

■課題と展望

1.行政とのパートナーシップの基盤はあるものの、財源的に板橋区の独自事業として毎年予算を計上してもらわなければならないリスクがある(クラブハウスの運営)。

2.地域支援への広がりの観点から、福祉教育を含めて、理解者の広がりとしての小学生、中学生への啓発を広げたい。

■CBRマトリックス使用による分析

◆大山作業所開所当時(1984年)

JHC板橋会最初の事業所開設時、相互交流・地域貢献を念頭に、社会とエンパワメントの項目が中心であった。当初よりコミュニティを動かすことへのアプローチは、特筆すべきことである。

事例5 図3(図の内容)

◆サン・マリーナ設立以降(1992年)

相互支援システム、参加・協働ネットワークの構築を念頭に、その活動の領域は拡大している。生計と保健の項目へと広がり、社会とエンパワメントの項目が充実してきた。全体的な活動の状況が特徴であろう。CBRマトリックスでもわかるように、教育の項目が薄い。展望と課題につながるところである。

事例5 図4(図の内容)