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CBRガイドライン・導入

CBRガイドラインについて

ガイドラインの背景

世界の人口の少なくとも10パーセントは障害を抱えており(1)、その大多数が開発途上国で貧しい生活を送っていると推定されている。障害のある人々は、世界でもっとも弱い立場にあり、権利を制約されている。そして、健康管理、教育および生計の機会へのアクセスを制限され、スティグマや差別を経験することがあまりに多い。

地域に根ざしたリハビリテーション(CBR:Community-based Rehabilitation)は1978年のプライマリーヘルスケア国際会議と、その結果発表されたアルマ・アタ宣言(2)を受け、世界保健機関(WHO:World Health Organization)によって開始された。CBRは、開発途上国における、障害のある人々のリハビリテーションサービスへのアクセスを改善する戦略とみなされていたが、過去30年以上の間に、その規模はかなり拡大された。

2003年には、ヘルシンキで開催された「地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)再考のための国際会議」(International consultation to review community-based rehabilitation)で多数の重要な勧告がなされた(3)。その結果、国際労働機関(ILO:International Labour Organization)、国連教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)、WHOによるジョイントポジションペーパーの中で、CBRは、障害のある人々のリハビリテーション、機会均等化、貧困削減および社会的インクルージョンのための総合的な地域社会開発戦略として位置づけ直された(4)。そして2005年には世界保健総会において、「地域に根ざしたリハビリテーションプログラムを促進し、強化する」よう、加盟国に対して強く求める、障害原因の予防とリハビリテーションに関する決議(58.23)(5)が採択された。

CBRは現在90カ国以上で実施されている。本ガイドラインは、前述の開発活動に沿ってCBRプログラムを進めていく方法についての指針を求める世界各地のCBR関係者からの多くの要望に応えるものである。さらにガイドラインは、30年間の実践を踏まえ、現在世界中でCBRについて知られているすべてをまとめ、新たな行動の枠組みを提供し、実施に関する実践的な提案を行うことによってCBRに対する共通の理解とアプローチを提示する。ガイドラインは、ガイドライン開発中に採択された国連障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約。CRPD:Convention on the Rights of Persons with Disabilities)と選択議定書(6)の影響を強く受けている。

ガイドラインの全般的な目的

  • CBRジョイントポジションペーパーおよび障害者権利条約に則したCBRプログラムの開発・強化方法に関する指針の提供。
  • 特に貧困削減を目的とした開発イニシアティブに障害を主流に組み込む助けとなる、地域に根ざしたインクルーシブな開発戦略としてのCBRの促進。
  • 保健、教育、生計および社会の各部門へのアクセスを促進することによって障害のある人々とその家族の基本的なニーズを満たし、生活の質の向上を図るための、関係者に対する支援。
  • 開発と意思決定プロセスへのインクルージョンと参加を推進することにより、障害のある人々とその家族のエンパワメントを促進するよう、関係者を促す。

ガイドラインの対象読者

CBRガイドラインの第1の対象読者:

  • CBRマネージャー

CBRガイドラインの第2の対象読者:

  • CBR人材
  • プライマリーヘルスワーカー、学校教師、ソーシャルワーカー、その他の地域社会開発ワーカー
  • 障害のある人々とその家族
  • 障害当事者団体および自助グループ
  • 障害プログラムに関与している政府官僚、特に地方自治体職員と地域のリーダー
  • 開発機関、非政府機関および非営利団体の職員
  • 研究者および学術関係者

ガイドラインの対象領域

ガイドラインの主な焦点は、重要な概念の基本的概観を示し、CBRプログラムが目指すべき目標と成果を明らかにし、これらの目標を達成するための望ましい活動を提案することである。(ガイドラインを規範とすることを目的とはしていない。すなわち、特定の機能障害にかかわる具体的な問題への回答、医学的・技術的介入に関する勧告、またはプログラムの開発と実施のための段階的な指針を提供するものではない。)

ガイドラインは7冊の小冊子から構成されている。

ブックレット1-導入:障害、障害者権利条約、CBRの開発およびCBRマトリックスの概説

運営の章:CBRプログラムの開発と強化にかかわる運営サイクルの概説

ブックレット2-6-各ブックレットでCBRマトリックスの5つの領域(保健、教育、生計、社会およびエンパワメント)をそれぞれ検討

ブックレット7-補足:これまでCBRプログラムで見過ごされてきた4つの具体的な課題(精神保健、HIV/エイズ、ハンセン病および人道上の危機)を網羅

ガイドライン開発のプロセス

2004年11月、ILO、UNESCOおよびWHOは、障害、開発およびCBRの専門家65名を招き、ガイドラインの開発に着手した。CBRの先駆者や実践者、障害にかかわる個人的な経験のある人々、そして国連機関、加盟国、主要な国際非政府団体、障害当事者団体、専門家団体などの代表が参加し、会議を開いた結果、CBRマトリックスの原案が作成され、これをもとにガイドラインの領域と構造が決定された。

ガイドラインのさらなる開発は、諮問委員会とコアグループの主導により進められた。現在の優れた実践を反映し、世界各地の数百件ものCBRプログラムに適用されてきた30年分のナレッジベースを生かしたガイドラインとなるよう、コアグループは、インクルーシブで広範かつ高度な参加型の作成プロセスを選択し、その結果、低所得国や女性、障害のある人々の代表の参加が確保された。各セクションで最低2名の著者が選出され、世界各地の人々と共同で草案の作成にあたり、最終的には計150名以上の人々がガイドラインの作成に貢献した。

ガイドラインは、広範囲にわたる低所得国の状況に応じて直接適用可能な、かつ、低所得国のCBR関係者によって容易に利用可能な、国際開発および地域社会開発におけるベストプラクティスに関する記述のある出版・非出版資料、から作成された。また要点を解説すべくCBRプログラムを実施している関係者から寄せられた事例研究が含められ、さらに、CBRの根拠の重要な部分は独自の生きた障害体験にあるとの認識から、CBRのアプローチの妥当性と有用性を支持する多くの個人的な体験談も盛り込まれた。

草案は、WHOの世界の地域すべてを代表する29カ国において、広く現場検証された。全体で、CBRの実施にかかわる300名以上の関係者が、草案に対してフィードバックもしてくれた。これにもとづき、草案はコアグループによって改訂され、その後CBR専門家、障害のある人々、国連機関および学術関係者によるピアレビューのために送付され、続いてコアグループによるさらなる改訂が行われた。

ガイドラインは2010年5月19日付で出版されることが承認された。ガイドラインの内容は、2020年にジュネーブのWHO本部にて暴力・傷害防止・障害部による見直しが開始されるまで、有効とされる。


<参考文献>

1. Disability prevention and rehabilitation: report of the WHO expert committee on disability prevention and rehabilitation. Geneva, World Health Organization, 1981 (http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_668.pdf, accessed 10 August 2010).

2. Declaration of Alma-Ata: International conference on primary health care, Alma-Ata, USSR, 6–12 September 1978, Geneva, World Health Organization, 1978 (www.who.int/hpr/NPH/docs/declaration_almaata.pdf, accessed 10 August 2010).

3. International consultation to review community-based rehabilitation (CBR). Geneva, World Health Organization, 2003 (http://whqlibdoc.who.int/hq/2003/who_dar_03.2.pdf, accessed 10 August 2010).

4. International Labour Organization, United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization, World Health Organization. CBR: A strategy for rehabilitation, equalization of opportunities, poverty reduction and social inclusion of people with disabilities. Joint Position Paper 2004. Geneva, World Health Organization, 2004 (www.who.int/disabilities/publications/cbr/en/index.html, accessed 10 August 2010).

5. Resolution WHA58.23. Disability, including prevention, management and rehabilitation. Fifty-eighth World Health Assembly, Geneva, 25 May 2005 (www.who.int/disabilities/publications/other/wha5823/en/index.html, accessed 10 August 2010).

6. Convention on the Rights of Persons with Disabilities. New York, United Nations, 2006 (www.un.org/disabilities/default.asp?navid=12&pid=150, accessed 10 August 2010).