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CBRガイドライン・保健コンポーネント

健康増進

はじめに

健康増進に関するオタワ憲章(1986年)は、健康増進について、人々が自分の健康管理を強化し、改善することを可能とする過程だと述べている(16)

健康増進は、潜在的に修正可能な健康の決定要因に対処することを焦点に置いている。それら要因には、個人的な健康に関する姿勢やライフスタイル、収入や社会的地位、教育、雇用そして職場環境、適切な保健サービスの利用や物理的環境がある(17)。健康増進は高価な薬や複雑な技術を必要としない。かわりに、社会的介入を利用する。それは、もっとも基本的なレベルでは、健康増進キャンペーンのような時間やエネルギーの個人的な投資が必要である(18)

障害のある人の健康の可能性はしばしば見逃され、結果として彼らは健康増進活動から除外される。本項目は、障害のある人のための健康増進に関する重要性について述べる。ここではCBRプログラムが障害のある人にどのようにして健康増進活動への参加を促進するか、必要な基本的活動をどのように実施するかについて提案する。健康増進は、健康に関する幅広い決定要因を変えることに焦点を当てているので、保健部門だけではなく、多くの部門が関与しているということを覚えておくことが重要である。

BOX4 ケニア

スティグマや偏見に打ち勝って

アフリカの文化の中には、白皮症は妊娠中に母親が悪霊と「性的関係」をもった結果であると信じられているところがある。白皮症の子どもをもつことはふしだらとみなされ、家族もその子どもも彼らの地域の中でスティグマと偏見の対象となる。白皮症の子どもたちは隠され続け、彼らの基本的人権は健康に関する権利も含めて奪われる。

ケニアのクワレ地眼科センター(KDEC:Kwale District Eye Center)は、自宅内や学校、地域で白皮症の子どもたちに向けられたスティグマや偏見を解決することに重点的に取り組んでいるCBRプログラムをもっている。これらの子どもたちが彼らの到達しうる最高水準の健康を獲得することを保証するために、CBRプログラムは多様な健康増進に関する活動や介入を行っている。それは、

  • 白皮病の人への理解や振る舞い、扱いを変化させるため、地域住民や地域のリーダー、村の保健委員会、そして教員や女性グループの意識を高める。
  • 両親を教育し、彼らの子どもたちの健康を推進し、守ることができるようにする。例えば、白皮病の人は日光によるダメージのリスクをもっているため、KDECは日よけ止めや長袖やズボンのような保護的衣類の使用の重要性について教育する。
  • 地域ホテルと協力し、必要な人たちに与えられるよう、宿泊者が出発する際に日よけ止めや不要な衣類を寄付してもらうように働きかける。
  • 白皮症の人たちによくある視覚障害を発見するために、視力検査を実施し、必要ならば眼鏡や弱視用機器を提供する。

このCBRプログラムの成功は、KDECが保健と教育の両部門と築いた強力な協力関係の結果である。現在、白皮病の子どもたちは一般の学校に統合されている。

目標

障害のある人や家族の健康に関する可能性が認識され、現在の健康レベルを向上または維持するためにエンパワーされる。

CBRの役割

CBRの役割は、地域や地方そして国家レベルで行われる健康増進活動を特定し、関係当事者(例えば保健省や地方当局)とともに、障害のある人や彼らの家族のアクセスやインクルージョンを保証することである。他にも、障害のある人や家族が確実に健康を維持することの重要性を知り、積極的に健康増進活動に参加するよう働きかける役割も担っている。

望ましい成果

  • 障害のある人や家族に、一般の地域住民と同じ健康増進に関するメッセージが届く。
  • 健康増進に関する資料やプログラムは、障害のある人や家族の特別なニーズを満たすように設計され適応されている。
  • 障害のある人や家族は、彼らが良好な健康状態を獲得することを後押しする知識や技能、支援をもっている。
  • 保健ケアスタッフは、障害のある人の一般的な、あるいは特別な健康に関するニーズについての改善された認識をもち、適切な健康増進活動を通じて対応する。
  • 地域は、障害のある人が自らの健康を促進する活動に参加するための支援的環境を提供する。
  • CBRプログラムは健康を尊重し、スタッフために職場で健康増進活動に取り組んでいる。

主要概念

障害のある人の健康増進

健康増進は、しばしば健康悪化を予防するための戦略と見られている。障害は、健康増進を利用しなかったことの結果とみなされているため、健康増進を、障害のある人たちと結びつけて考えることはほとんどない(19)。例えば脊髄損傷の結果として対麻痺になった人は、彼の障害はすでに外傷による影響を受けているので、健康増進の良き候補者とは考えられない可能性がある。

障害のある多くの人は、少なくとも、一般の人たちがもっているのと同じような健康増進に関するニーズをもっている(3)。障害のある人たちにも一般の人たちと同じ健康問題の危険性がある。しかし、彼らは彼らの障害と関係あろうとかなろうと健康悪化の影響をより受けやすいので、さらなる健康問題をもっている可能性がある(20)。しばしば、障害のある人や家族は、健康を達成したり維持したりする方法にほとんど気がついていない。

健康増進に対する障壁

障害のある人たちは、一般の人々よりも、より不健康な状態をしばしば経験する。なぜならば彼らが健康を向上しようとすると多くの障壁に直面するからである。(序文:障害のある人の保健ケアサービスへの障壁参照)これらの障壁に対処すれば、障害のある人が健康増進活動に参加することがより容易になるだろう。

家族の健康増進

障害のある多くの人は、他の人、特に家族からの支援を必要としている。家族は、障害のある人のケアに関して問題を経験する場合もある。例えば、ストレスに関連した身体的、感情的疾患、他の子どもたちの世話ができないこと、働く時間やそのエネルギーがないこと、社会的交流がないことやスティグマなどである(21)。家族の健康を維持することは大切である。(社会:パーソナルアシスタンス参照)

健康増進活動

健康増進に関するオタワ憲章は、健康増進戦略の策定や実施を助けるために活用できる5つの領域の活動について概説している。

1.健全な公共政策の構築

より安全で健全な商品やサービス、健全な公共サービスや清潔なより喜ばしい環境を保証することによって、地域の健康を守るすべての部門を横断した法や規則の整備。

2.健康のための支援的環境の創設

生活や働く環境が安すべで刺激的で満足され喜びうるものであることを保証するために物理的、社会的環境を変える。

3.地域社会の強化

環境的、社会経済的そして政治的要素をもっている健康問題を取り扱うために地域アプローチを導入する。より良い健康を獲得するため、優先順位を設定し、意思の決定、戦略の計画、実行ができるよう地域社会の力をつける。

4.個人的技能の育成

人々が自らの健康や環境をより管理でき、健康状態を改善するためのより良い選択が可能となるように、情報や健康教育を提供することによって人々の技能を育成させる。

5.保健サービスの再構築

保健部門は、その臨床的、治療的サービス提供の責任を超えて、健康増進に向かってますます進んでいかなくてはならない。

健康増進戦略は、以下の異なる対象に適用することができる。

  • 集団、例えば子ども、青年、高齢者
  • 危険因子、例えば喫煙、不活動、貧しい食生活、安全でない性行為
  • 健康や病気の優先順位、例えば糖尿病、HIV/エイズ、心疾患、口腔内の健康
  • 環境、例えば地域センター、クリニック、病院、学校、職場

個々人は、自ら自身の健康に関する結果に影響を与える大きな可能性をもっている。そして、健康増進に関する参加型アプローチは、健康に影響を与える要因をより良く制御できるようになるため重要である。それは人々がすることと同様に重要である。健康に関する問題は、彼らのために何かすることよりも、むしろ他の人との活動を通じて対処する必要がある。

推奨される活動

健康増進活動は、地域の問題や優先順位に大変依存している。そのため、ここで概説された活動は、一般的な提案のみである。CBRプログラムは、健康に影響を与える要因を管理する活動をすでに行っている地域のメンバーやグループと連絡を取り合うことによって、地域の理解を深めることが必要である。

健康増進キャンペーンの支援

健康増進キャンペーンは情報を提供し働きかけ、行動の変化を起こさせるなど、個人や地域、全国民の健康に良い影響を与えることができる。CBRプログラムは、以下の方法で障害のある人のより良い健康を推進することができる。

  • 地域や地方、全国レベルで行われている既存の健康増進キャンペーンを把握し、障害のある人が積極的に対象とされ、参加できることを保証する。
  • 積極的に健康増進キャンペーンや関連のイベントに参加し、障害の特徴や認識を高める。
  • 障害のある人の肯定的な印象を見せるよう健康増進キャンペーンに働きかける。例えば、メッセージがすべての国民に届くことを目的としているポスターや掲示板に障害のある人を描写する。
  • 既存の健康増進キャンペーンを、障害のある人のための適切な形式で活用する。例えばそれは、公共サービスのお知らせを、文字によるキャプションや手話を用いることで聴覚障害のあるグループ向けにすることなどである。
  • 地域の既存のリソースを把握し(例えば、地域の広報担当者、新聞、ラジオ、テレビ)、障害に関連した健康問題の報道を増加してもらう。あらゆる取材は、障害のある人の権利や尊厳を重んじることを保証することが重要である。
  • 既存のキャンペーンによって扱われていない障害に関する事がらに対処するために、地域の健康増進キャンペーンの策定を支援する。

個人的知識や技能の強化

健康に関する情報や教育は、障害のある人や家族が健康を維持し向上するために必要な知識や生活技能を高めることを可能としている。彼らは、(個人または小さなグループによる)勉強会を通して、疾患の危険因子や良好な衛生、健康的な食生活、身体活動の重要性やその他の保護要因を学ぶことができる。CBRワーカーは以下のことができる。

  • 障害のある人や家族を自宅訪問し、実用的な提案を行うことによってどのように健康的な生活を維持するのかについて話す。
  • 健康増進の資料(ブックレットや冊子)を集め、障害のある人や家族に配布する。
  • 障害のある人が利用可能なように、資料を編集したり作成したりする。例えば、知的障害のある人は、基本的な言語や適切な絵などの簡単でわかりやすい資料を必要とするだろう。
  • 障害のある人や家族に、健康を維持するために新しい知識や技能を獲得できるような地域の健康増進プログラムやサービスについて情報を提供する。
  • 一般的な地域を対象とした教育活動では十分に満たされないニーズがある障害のある人のために、必要ならば、特別な教育講習会を開発する。
  • 学習や理解を高めるために、幅広い教育手法や資料が教育活動の中で使用されることを保証する。例えばゲームやロールプレイ、実技、議論、読み聞かせ、問題解決訓練など。
  • ヘルスケアプロバイダーのいる前で、障害のある人や家族が自身の健康に関する質問や意思決定をできるように、彼らが自己主張や自信を持てるように支援することに焦点をあてる。
  • 保健部門と協力して、障害のある個人のために訓練を提供し、彼らが健康増進の教育者になれるようにする。

人々を自助グループに結びつける

自助グループは、共通の経験や状況、問題をお互いに共有することにより少人数で協力することを促す(エンパワメント:自助グループ参照)。多くの人にとって、似たような問題を抱えている人からの支援や実際的な助言を受けることは、保健ワーカーから助言を受けることより有効である(22)。自助グル―プは、障害のある人や家族のためのより良い健康に寄与することができるので、本コンポーネント全般で言及されている。CBRプログラムは以下のことができる。

  • 障害のある人や家族の特別な健康に関するニーズを満たすために、彼らと地域の既存の自助グループを結びつける。例えば、脊髄損傷のグループまたはハンセン病後遺症の人たち、HIV/エイズ感染者、脳性まひの子どもたちの親など。
  • 適切なグループが存在していないところでは、似たような障害経験をもつ人たちに、新しい自助グル―プを形成するよう協力を促す。小さな村では、そのようなグル―プを作ることは難しいかもしれないので、ピアサポートによる1対1の支援の方がより適切な場合もある。
  • 自助グループが他者と協力して、地域の中で健康増進活動に積極的に参加するよう働きかける。例えば、ヘルスキャンプを計画したり、世界保健デー、世界精神保健デー、国際障害者デーを祝うなどである。

BOX5 コロンビア

自助グループを通じての健康管理

コロンビアのピエデクエスタでは、CBRプログラムの支援を受けて、脊髄損傷の人々が、自助グループを作った。彼らは、セルフケアや褥創や泌尿器の問題の予防に関して、処置を受けた病院で不適切な保健情報を与えられてきたと感じていた。グループの熟練メンバーは、最近脊髄損傷になった新しいメンバーを支援し、どのように残存機能や補装具を使用するかを示すことで対処の方法を身につける手助けをした。CBRプログラムは、グループのメンバーが病院の専門家に彼らの疑問を解明するための質問ができるような対話型勉強会を計画した。

ヘルスケアプロバイダーを教育する

ヘルスケアプロバイダーは、健康に関する信頼できる情報源であり、他の人の健康に積極的な影響を与える可能性をもっている。障害に関する適切な知識をもち、すべての健康増進活動の中に障害のある人を確実に組み込むために、CBRプログラムは、このようなプロバイダーと共同して活動する必要がある。

CBRプログラムは下記のことをするように提案されている。

  • 保健ワーカー(例えば、プライマリーヘルスケアワーカー)の関心を障害の方へ向け、障害のある人や家族が直面している問題を教える。
  • 保健ワーカーが、丁寧で差別のない態度で障害のある人と意志疎通をはかることの重要性を理解するよう助け、学習を促すために実践を示す。
  • 保健専門家の健康に関するメッセージが理解されるように、介入のための資料を簡単に書き直す方法を示す。
  • 保健専門家が、障害のある人のために健康に関する情報やプログラムを計画したり策定したりするとき、多様なメディアや技術を使用することを促進する。

BOX6 アフリカ

トレーナーをトレーニングすること

CBRプログラムは、障害当事者団体と協働して、盲または弱視の人たちにHIV/エイズについて周知するため、またこの団体の特別なニーズを保健ケアサービスに知ってもらうために、適切な教材や方法を開発することができる。例えば、アフリカ盲人連合は、HIV/エイズの教育プログラムの中に、盲や部分的に視力が低下している人たちのインクルージョンと参加の促進を図るため、HIV/エイズに関する「トレーナーをトレーニングする」マニュアルを作成した。

協力的な環境を作り出す

CBRプログラムは、地域の保健センターや病院、学校、職場、娯楽施設、主要な関係者と協働して、障害のある人のために、協力的な物理的、社会的環境を作りだし、最良の健康に到達できるようにする活動を以下の方法で行うことができる。

  • 環境が健康的なライフスタイルを推進することを保証し、特別な健康増進プログラムやサービスが障害のある人にとって物理的に利用可能であることを保証する。
  • 都市、社会、ヘルスプランナーと障害のある人の連携を作り、物理的、構造的に利用しやすいものを作り出し改善する。
  • 障害のある人が娯楽活動に参加できるような機会を作り出す。例えば、車いすユ-ザーが地域のスポーツ施設でホイールチェアフットボールの試合を企画することを支援する(社会:レクリエーション・余暇・スポーツ参照)。
  • 利用可能で安全な公共交通機関を整備する。なぜなら、交通の問題は、障害のある人を孤独、そして社会的排除に追いやるからである。
  • 教育やトレーニングを通じて、保健部門や地域に存在する障害のある人や家族に向けられた誤解や否定的振る舞い、偏見に対処する。
  • ダンスやドラマ、歌、映画そして人形劇を通じて地域内の健康に関する難問に対処するための文化的行事を企画する。

BOX7 エジプト

健康的なライフスタイル

アレクサンドリア(エジプト)のCBRプログラムは、毎年障害のある子ども、家族と地域のボランティアが参加するサマーキャンプを企画している。強調される点は、一緒に余暇時間を過ごし、健康状態を向上させ、大家族や友人グループとして一緒に遊び楽しむ点である。CBRプログラムは、町のスタジアムで年に1回のスポーツの日を開催するために、地域のパラリンピック委員会や親の会、障害当事者団体とも協力している。

健康を促進する組織になる

職場内の健康増進は、スタッフの勤労意欲や技能、職務遂行能力、そして最終的に健康を向上させる可能性をもっている。CBRプログラムを実施する組織は、以下の方法でスタッフの健康を増進することに焦点を置くべきである。

  • スタッフの働いているレベルにかかわらず、彼らの健康を向上維持するために、すべてのスタッフにトレーニングと教育を提供する。
  • 安全で健康的な環境を提供する。例えば、禁煙環境、健康的な食事、安全な水や衛生施設、妥当な労働時間、安全な交通手段の選択肢などである。
  • 健康を増進させる組織内の方針や慣行を開発する。例えば、差別や偏見、スティグマ、ハラスメント、同様にタバコ、薬物そしてアルコールの使用に対する方針。
  • スタッフに地域の中の模範となるよう促し、健康的な行動を身につけることにより、他の人にとっての良い見本を示す。