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CBRガイドライン・社会コンポーネント

序文

家庭や地域といった社会生活に積極的に参加することは、個人の成長にとって重要である。社会活動に参加する機会があるということは、その人のアイデンティティや自尊心、生活の質、そして最終的には社会的ステータスに大きな影響を与える。しかし、障害のある人は社会の中でさまざまな障壁に直面するため、社会活動に参加する機会自体が、比較的少ない。

過去におけるCBRプログラムは、その多くが保健問題やリハビリテーションに焦点を当てており、障害のある人の社会的なニーズはしばしば無視されてきた。今日でもなお、交友関係、結婚、育児といった話題は、あまりにもデリケートな問題、もしくは、取り組むには難し過ぎる問題とみなされている一方、文化的活動、スポーツ、レクリエーション、そして司法へのアクセスは不必要なこととみなされている。本コンポーネントでは、障害のある人の生活におけるこうした社会的課題の重要性と、CBRプログラムの中でこれらに取り組むことの必要性に特に焦点を当てる。

目標

障害のある人が家庭や社会の中で有意義な社会的役割と責任を担い、社会の対等な構成員として扱われる。

CBRの役割

CBRの役割は、すべての関係者と協働して、家庭や地域といった社会生活への障害のある人の完全参加を保証することである。CBRプログラムは、障害のある人が社会的な機会にアクセスすることを可能とするための支援を提供し、社会に前向きな変化をもたらすべく、スティグマや差別に立ち向かうことができる。

望ましい成果

  • 障害のある人がその家族の一員として尊重され、多様な社会的役割や責任を担う。
  • 障害のある人やその家族が、もっている技術や能力を通して地域の発展に貢献できるよう奨励・支援される。
  • 障害のある人が尊重すべきコミュニティの構成員であり、積極的にコミュニティに貢献する力をもっていることをコミュニティが認識する。
  • 障害のある人やその家族が社会的役割や活動へ参加することを阻んでいる障壁解消に向けて取り組んでいる。
  • 地方政府当局者が障害のある人やその家族のニーズに対し、必要に応じて有効な社会的支援やサービスを提供する。

BOX1 メキシコ

地域全体からの参加を確保する

ピーニャ・パルメラはメキシコ、オアハカ南海岸で活動している非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)で、1989年にCBR活動を開始した。現在は7つの農村地域で活動し、障害のある人やその家族と密接に協働しながらその日々のニーズに取り組んでいる。この団体はまた、地方政府当局者、教員、公共交通機関、そして地域の医療関係者などとも密接に連携し、障壁の除去や障害のある人の地域社会へのインクルージョンの促進に取り組んでいる。

ピーニャ・パルメラは、CBRの社会コンポーネントの要素に焦点を当てた活動を多く実施している。この団体では、障害のある人、特に障害のある子どもや重度・重複障害のある人にパーソナルアシスタンスを提供している。パーソナルアシスタンスはこの団体のスタッフやボランティアが提供しており、個人の衛生の保持、地域での移動、そして社会的活動参加などの支援を行っている。必要であれば、仕事に従事することができるよう、障害のあるスタッフにもパーソナルアシスタンスが提供される。

ピーニャ・パルメラは障害のある人がレクリエーションや余暇、そしてスポーツに参加することも奨励している。団体は、障害のある人や地域のスポーツ関係者と連携して、必要なリソースを提供したり、障害のある人もない人も参加する地域の活動やイベントを主催したりしている。障害のある人が参加するにあたって、必要な場合には、支援機器や改良されたスポーツ用品も提供している。イベントの参加者の中には、車いすバスケットボールのナショナルチームに加わった障害者もいる。

ピーニャ・パルメラは障害のある人を対象に、効果的なコミュニケーション、対立解消、チームワーク、敬意、ジェンダーの平等、性といったテーマについてのワークショップを開催している。こうしたワークショップは、障害のある人が社会的なネットワークを広げることに役立つ。また必要に応じて、ピーニャ・パルメラは障害のある人があらゆる不正行為から身を守るための法律上の権利に関する助言をわかりやすい言葉で提供することもある。

主要概念

社会的役割

社会的役割とは何か?

社会的役割とは、社会の中で人々が占めている立場のことであり、特定の責任や活動と関連している。さまざまなタイプの社会的役割の中には人間関係(例:夫、妻、母、父、兄弟、姉妹、友人)さまざま、仕事(例:教員、コミュニティワーカー、農家)、日課(例:清掃、調理)、レクリエーションやスポーツ(例:サッカープレーヤー、トランププレーヤ)、そして地域(例:ボランティア、地域リーダー)などと関連するものがある。人々のもつ社会的役割は、その人の年齢、性別、文化や障害などの要因に影響される。また、人々の社会的役割は一生を通じて変化し、地域住民の多くはこういった役割の移り変わりを重要な儀式・風習で祝う。

なぜ社会的役割は重要なのか?

社会的役割はアイデンティティや人生に意義を与える要素として重要である。個人の社会的ステータスは、地域社会内でその人が担う社会的役割の影響を受ける。例えば、夫、妻親または給与所得者であることが高く尊重され、結果として社会的ステータスに肯定的な影響を与えることがある。一方、未婚者であったり、子どもがなかったり、失業者であったりする場合、低い評価を受け、社会的ステータスに否定的な影響を与えることもある。障害のある人が地域で肯定的な社会的役割を果たす機会をもつとき、障害に対する社会の態度は変化しうる。例えば、学校教育における障害児、あるいは就労における成人障害者のインクルージョンが成功すれば、それが障害のある人に対する社会的態度を変化させる強力な手段となり得る。

障害のある人が価値ある社会的役割を手に入れられるよう支援すること

障害のある人が価値ある社会的役割を果たすための支援をするにあたっては、数多くのさまざまな方法がある。障害のある人の技術や能力の向上を支援すること、障害者に関する肯定的なイメージを地域社会で推進すること、そして否定的な態度を変えるよう働きかけることなどはすべて有用である。(エンパワメントコンポーネント参照)

社会参加への障壁

広範囲に及ぶ障壁が障害のある人の社会参加を制限している。例えば:

  • 障害のある人の自尊心が低く、活動や行事への参加にあたって、自分がふさわしくない、あるいは能力がないと考えている。
  • 自分の家族に障害のある人がいることを恥と感じ、そのため障害のある人の社会参加を促したり許したりしない。
  • コミュニティが障害に関する不合理な考えや信念をもっている。例えば、聖なる場所が障害のある人によって汚されるとか、障害のある人は呪われているので罪を浄化する必要があるとか、障害のある人には超自然的な力や邪悪な力があるなど。
  • 社会参加への物理的障壁にはアクセシブルでない交通機関や地域センター、スポーツ施設、映画館などの建築物がある。

BOX2

参加への物理的障壁

「私たちも時々は映画館に行って映画を見たいのだけれど、車いすのアクセス方法がない。備え付けの座席の前には車いすの入るようなスペースがないから座れない。我々が頼んでも、誰も聞いてくれない」(1)

ジェンダーの平等

低所得国に暮らす障害のある女性は多くの場合、例えば子育てのような特定の社会的役割への参加機会を制限されている。過保護であるが故に、障害のある女性が家庭外で社会的活動に参加することを一切許さない家族もあろう。加えて、ジェンダーの平等が開発の重要な一側面であるにもかかわらず、障害のある女子児童や女性はしばしば開発プログラムの主流から除外されている。女性障害者が意思決定過程に積極的に関与することはめったにないし、その声は十分に反映されていない。例えば、女性グループの中で、障害のある女性たちの関心は他の女性たちの関心とは異なっていると誤解されている場合もある。同様に、障害のある女子児童も、青年活動やレクリエーション活動にあまり参加できない傾向にある。

障害のある子ども

安全で愛のある環境は、障害児も含め、すべての子どもたちにとって不可欠である。子どもたちはみな、愛情や刺激、学習と発達の機会を必要としている。CBRプログラムは、障害のある子どもの権利を推進するにあたって重要な役割を果たすことができる。また、障害のある子どもたちの家庭や地域生活への参加を妨げるスティグマや差別の解消へ向けた家族の取り組みを支援することも役割の1つである。

本コンポーネントの要素

パーソナルアシスタンス

障害のある人の中には家庭や地域生活を可能にするためにパーソナルアシスタンスを必要とする人たちがいる。社会的なサービスや手当などの給付が限られている低所得国では、多くの場合、家族が主なあるいは唯一の支援手段である。公式な選択肢はしばしば非常に限られているが、この要素では、CBRプログラムがどのように地域のリソースを活用し、障害のある人やその家族が多岐にわたる選択肢から個々のニーズや好みを満たすパーソナルアシスタンスにアクセスできるかを示す。

交友関係・結婚・家族

交友関係は、他のすべての人々と同様に、障害のある人にとっても重要である。この要素では、交友関係に関連する多様な社会的役割や責任を障害のある人が享受するために、どのようにCBRプログラムが支援できるかを考える。地域の幅広い関係者と密接に協働することにより、CBRプログラムは、障害に関する意識を向上し、家族や地域社会の否定的な態度に取り組み、障害のある人への暴力の予防と解消を進める手助けをすることができる。

文化・芸術

文化・芸術といった活動に参加することは個人の成長と発達のために重要である。それは個人のアイデンティティの確立を助け、障害のある人が貢献する機会だけでなく、帰属意識を与えることにも有用である。この要素では、障害のある人がその家族や地域社会の文化的・芸術的活動に参加することを妨げている障壁を明らかにし、対処する。また、障害のある人に対するスティグマや差別に立ち向かい、多様性やインクルージョンや、参加を推進する際に文化や芸術が果たすことのできる役割について検討する。

レクリエーション・余暇・スポーツ

レクリエーション・余暇・スポーツといった活動は、健康と福祉のため、そして地域のつながりを強化するために重要である。この要素では、そうした活動が障害のある人にもたらす利益について見ていく。また、CBRプログラムがどのように幅広い関係者と協働して障害のある人のインクルージョンと参加の機会を増やすかについての実践的な提案を示す。地域社会にとって適切でそのニーズに敏感なプログラムを立案し展開するために、関係者と直接協働することの重要性が強調される。

司法

地域住民は皆いつか司法制度を利用することが必要となる場合があるだろう。地方レベルで重要なのは、障害のある人が障害者権利条約(2)で示されているような権利・資格にアクセス可能であることを保証する現行法の存在が周知されていることである。本要素では、法律に関する認識を高め、不正に対抗する際の広範囲な法的手続きへのアクセスを促進することによって、CBRプログラムがどのように障害者の権利の主張を支援できるかに焦点を当てる。