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CBRガイドライン・社会コンポーネント

交友関係・結婚・家族

はじめに

交友関係・結婚・家族は、すべてのコミュニティの中核をなす。家族は支援と安全重要な源泉であると普遍的に認識されている。家族は、その構成員の生まれた時から老年期までの異なる段階において、その成長と発達を促す安全で安定した環境を提供することが可能である。

家族は多様で、文化、伝統、宗教的な慣例などの幅広い要因に影響される。家族とは、核家族、大家族、母子・父子家庭、子どもを世帯主とする家族、里子や養子のいる家族などに分類することができる。家族にはさまざまな形があり、障害のある人たちにも自分の家庭を築く権利があると認識することが重要である。障害者権利条約第23条は、以下のように強調している。「締約国は、他の者との平等を基礎として、婚姻、家族、親子関係及び個人的な関係に係る全ての事項に関し、障害者に対する差別を撤廃するための効果的かつ適当な措置をとる。」(2)

本要素では、障害のある人たちが望む場合には、交友関係を構築し、結婚し、親になることを支援する重要性を強調する。また、障害のある人たちが、交友関係、結婚生活、家族内において経験する可能性のある虐待の問題と、その問題に対する認識と対処することについての重要性にも焦点を当てる。

BOX8 マラウィ

母になるための勇敢な道のり

私は現在40歳を超えましたが、これまで、今の自分になるために、いかなる時も闘ってきたことを誇りに思っています。私の姉妹たちは皆結婚して子どもを産んでいるので、私もずっと自分の赤ちゃんを産むことを夢見ていました。姉妹たちはよく自分の子どもたちを私のもとへ来させ、日常の雑事を手伝わせましたが、家に泊めることはさせませんでした。私は働き、自立して暮らしていましたが、皆は私を子ども扱いしました。夜になると、話す人も、水を持ってきてくれる人も、一緒に食事をとる人もいなくて、孤独でした。本当に寂しかったです!

25歳の時、私は妊娠しました。姉妹も叔父も叔母もこのニュースにショックを受けました。なぜなら、私の身にそんなことが起ころうとは誰も予期していなかったからです。障害があるので私には子どもを産むことはできない、とまたひどいことを言われました。悲しいことに、出産を経験した姉妹全員が、私は出産に耐えることが出来ないだろうと考え、中絶すべきだと言いました。彼女たちは「健康な女性でも出産中に亡くなるのに、あなたはどうやって子どもを産もうというの?」と言って私を怖がらせました。彼女たちは妊娠の責任を取るべき男性にメッセージを送り、警察に連れていくと脅すことさえしました。私は姉妹に、彼が正しい順序を踏まなかったことを認めた上で私を妻にすることに同意している、と伝えました。

姉妹と叔母は、中絶させるために私を病院に連れて行く手配を済ませました。彼女たちには伝えていませんでしたが、そのときにはすでに、自分の子どもがどうしても欲しかったので、妊娠を継続する決心を固めていました。私は個人的に医者に会いに行き、出産についてのカウンセリングを受けました。医者は私に、健康な赤ちゃんを出産できる可能性があると言い安心させてくれました。

そして、ついにかわいい女の子が誕生しました。この出来事は私たち家族に歓喜と和解をもたらしました。皆が喜び、支援をしてくれるようになりました。数年後、私は赤ちゃんの父親と結婚し、ハンサムな男の子を出産しました。ふたりの子どもに恵まれ幸せです。今や、娘は18歳、息子は14歳になりました。子どもたちは私が母親であることに何ら居心地の悪さを感じることもなく、肯定的に受け入れてくれています。

これは、障害のある私がどのように苦労して親になれたか、という個人的な経験です。勇気さえあればできるのです。私は信念をもったことで強くなれました。個人的な経験から、障害のある女性が母親になることは非障害者の社会では好ましくないとされていることを感じました。しかし、子どもをもつか否か、養子を取るか否かは、障害のある人たちを含めたすべての人の個々の権利と責任において決定されるべきなのだということを、すべての人たちに知ってもらいたいのです。

ジュリアン・プリシラ・マバングウェ (Julian Priscilla Mabangwe)

マラウィ障害者協議会(Malawi Council for the Handicapped) (3)

目標

障害のある人たちが、家族やコミュニティの中で自分の立場、役割に十分に気づく。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人たちが、家族や地域の住民と充実した関係をもてるように支援することである。

望ましい成果

  • 地域の住民が、障害のある人たちも有意義な交友関係をもち、結婚し、子どもをもつことができると認識し、それを受け入れる。
  • 障害のある親、および障害のある人たちの親が、子育てにおいて彼らを支援する適切なサービスやプログラムを利用できる。
  • 障害のある家族メンバーが家族以外の人々と付き合い、交友関係を発展させるように家族が奨励、支援する。
  • 障害のある人たちが虐待から守られ、すべての関係者がその問題解決のために協働する。
  • 障害のある人たちで、限られた社会ネットワークしかもたない人には、コミュニティが特に支援する。

主要概念

交友関係

人間関係を充実させることはすべての人々にとって重要であり、個人の成長と発達に欠くことのできないものである。家族、友人、パートナーとの刺激があり、永続的で、満足のいく関係は、障害のある人たちも含め、ほとんどの人々にとって大変重要なことである。

家族

家族に属すること

「家族」という言葉は、それぞれの人にとって異なる意味をもつ。家族にはさまざまな形と規模があるが、すべての家族に共通して言えることは、家族は帰属意識をもたらす、ということである。また、家族は学びや発達の環境を提供し、障害者を含む、子どもや社会的に脆弱な立場にある家族に安全と安心を与える。

障害に対する家族の反応

家族はみなそれぞれ障害に対して異なった反応をする。障害のある子どもが生まれたことを受け入れるのが難しい家族や、単純に心配して、将来どうなるのかという情報を得たいと考える家族もあるだろうし、また一方では子どもの誕生を喜ぶ家族もあるだろう。

家族は、障害のある人たちのインクルージョンを実現するための有効な提唱者や、変化をもたらす強力な主体になり得る。障害をもつ家族の期待に添ったプラスの影響をもたらし、地域住民の態度にも影響を与えることができる。

性の問題

性は、健康で幸福な生活における重要な一要素である。しかし多くの社会では、性は議論するにはデリケートな問題で、タブーであることさえある。とりわけ障害のある人に関連している場合は、根拠のない社会通念や誤った考えがまかり通っている。例えば、障害のある人たちはしばしば性には無関心で、生殖能力がないとか、逆に、過度に性的衝動があるかのように見られる。これらの考えは、地域の住民だけでなく、医療専門家や、時には障害のある人たち自身が抱いている場合もある。性的欲求は他の誰もがそうであるように、障害のある人たちにも存在する、と知ることが重要である。しかしながら、その欲求が無視、または拒否されているのが不幸な現実である。(補足:CBRとHIV/エイズ参照)

BOX9 ウガンダ

誤解

ウガンダの障害当事者団体であるウガンダ全国障害者連合(NUDIPU: National Union of Disabled Persons of Uganda)の若い女性メンバーは次のように述べている。「私たちはいつも保健所で行われる地域の福祉プログラムに招待されない。実際のところ、人々は、私たちは障害があるから性的行為はしないと考えている」

婚姻と親であること

障害のある人たちは、障害のある子どもを出産するものだと常々思い込まれていることが多い。また、一般的に障害のある人たちは、独自に子どもの世話をすることが不可能だと信じられている。極端な場合、とりわけ知的障害のある若い少女や女性は、彼女たちの認識や同意なしに不妊手術をさせられている。障害者権利条約第23条は、婚姻と親子関係、障害者の権利について、障害者が、「婚姻をし、かつ、家族を形成する権利」、「子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもって決定する権利」、また「生殖及び家族計画について年齢に適した情報及び教育を享受する権利」、そして「生殖能力を保持する権利」(2)をもつことに言及している。

BOX10

家庭が欲しい

私は結婚して子どものいる家庭をもつことを夢見ていた。しかし両親は、家族の世話が出来ないから結婚は私には相応しくない、と言った。私はその信じ難い言葉に打ちのめされた(5)

暴力

暴力は、家庭、施設、学校、職場、地域などすべての社会で起こりうる、みなが責任をもつべき問題である。障害のある人たちは、特にスティグマ、古くからあるマイナスのイメージや知識不足から、不釣り合いに暴力を受けやすい。彼らが身体的、性的、精神的・心理的虐待、放置、金銭搾取の犠牲者となるリスクは高い。とりわけ障害のある女性は不妊手術を強要されたり、性的暴行を受けたりする危険にさらされている(6)

推奨される活動

スティグマ、偏見、差別に立ち向かう

多くの社会で、障害のある人たちに対してのネガティブな態度、認識、行動が見られる。CBRプログラムは以下の方法により、これらに立ち向かうことができる。

  • メディアと協働し、障害のある人たちの前向きなイメージとロールモデルをアピールする。
  • 家族計画など性や生殖に関する保健サービスを障害のある人たちにとって利用可能なものにするために、保健の専門家に対して障害についての啓発を行う。
  • 地域のリーダーと活動する。例えば、宗教指導者達に、障害に対する意識づけを促し、また、スティグマや差別と闘い、デリケートな問題について地域で話し合う機会を作る。

BOX11 リベリア

性と障害問題を探求する

リベリアにある地方の非政府組織によって運営されているCBRプログラムは、性と障害に関わる問題についてまったく取り組んできていなかったことに気がついた。そこで、プログラムでは障害のある人たちと話し合いの場をもち、この問題について学び始めた。障害のある女性との話し合いで、性について表現できることが重要であるということが明らかになった。しかしながら、彼女たちはしばしばそうすることを恐れていた。彼女たちはまた、母親になれるという意味において性行為を重要であると考えていた。母親になることは、地域での社会的役割において価値のあるものとされている。障害のない男性が、障害のある女性に性的虐待を行っている例もあった。こうした虐待は、障害に対するネガティブな見方により障害のある女性と公に交際すると汚名を着せられてしまうと男性たちが思い、引き起こされるのではないかと考えられている。

親のための支援提供

子育ての上手な親になるためには、情報を入手し、支援を受けることは大切である。そのためには、CBRプログラムは障害のある親と障害児の親の両方について考えるべきである。CBRプログラムは下記のような支援が提供可能である。

  • 子育て支援のための地域サービスを見つける。例:性および生殖にかかわる保健指導、母子保健、家族への支援など。
  • 障害のある親や障害のある子どもの親が、一般のサービスやプログラムに組み込まれるよう、障害当事者団体や他の組織とともに働きかける。
  • 障害のある人たち、特に女性や若者が、サービスやプログラムを利用できるように、照会システムを開発し、支援する。
  • CBRネットワークを介し、性と生殖にかかわる保健の正確な情報が、アクセシブルな形で普及するようサービス提供者と協働する。

自立を促進するための家族への働きかけ

家族は時として障害のある家族を家の中に隠したり、コミュニティから遠ざけたり、過保護にすることがある。その結果、彼らは社会性の発達や、さまざまな技術、能力の発達の機会に制限をかけられている。CBRプログラムは家族に対して下記のような働きかけができる。

  • 家族自身のコミュニティにおける立場や地位を守ると同時に、障害のある家族に関する心配事を解決するための情報提供や支援をする。
  • 過保護が引き起こすマイナスの影響を家族に認識させる。
  • コミュニティにおける否定的な態度の変革に働きかけるよう、家族を勇気づける。
  • 障害のある人たちが、自分自身のニーズや欲求を効果的に自己主張できるように支援する。

暴力防止の促進

CBRスタッフにとって暴力は、それがどんなものであっても、難しい問題である。CBRプログラムはさまざまな環境(家庭、学校、職場、コミュニティなど)に渡り機能しているので、障害のある人たちを暴力から守るための強力な社会ネットワークや支援が整っていることを保証するのにふさわしい立場にある(社会:司法参照)。CBRプログラムは次のようなことが可能である。

  • CBRスタッフが暴力の形跡や兆候を察知するよう能力の構築をはかり、障害のある人たちが適切な法的助言と支援を受けられる場所を必ず知っておくようにする。
  • 暴力と障害について、そして障害のある人たちを保護することが可能な活動について、地域内での意識を高める。
  • 当該関係者(家族、障害当事者団体、保健・教育関係者、警察官、地域の指導者、地方自治体)との結び付きを確立し、障害のある人たちを暴力から保護する彼らの役割を話し合う。
  • 障害のある人たちが、暴力を受けたことについて内密に報告できる仕組みを、関係者の協力のもとで作り上げる。
  • 障害のある人たちに対する暴力についての情報を提供し、障害のある人たちが暴力を受けた場合に内密に報告する方法を周知徹底する。
  • 障害のある人たちが、自尊心と自信を高めるために、地域生活へ参加する機会を確保し、彼らを暴力から守る手助けとなる社会的ネットワークを発展させる。
  • 暴力を受けた経験のある障害のある人たちと話し、保健サービスを利用できるよう手助けし、問題の解決および行動を起こすことに関し援助することで彼らを支援する。
  • CBRスタッフとボランティアに暴力犯罪歴が無いことをチェックする機能が、プログラムおよび組織の方針に備わっていることを保証する。

限られた社会ネットワークにいる人たちへの支援

障害のある人たちの中には、家族が無い人もいるし、必要とする支援や援助を家族が提供できない場合もある。そのため、障害のある人たちの一部は、入所施設、ホテル、宗教団体の施設やシェルタードハウジング(小規模集合住宅)に住むか、あるいはホームレスになっている。この状況に関してCBRプログラムは以下のことができる。

  • 障害のある人たちを、コミュニティの適切な支援ネットワークと結び付ける。例:障害当事者団体や自助グループ
  • 入所施設と協働し、障害のある人たちが地域生活に参加し含まれることが可能であることを保証する。
  • 障害のある人たちが望むより良い生活環境を入手できるように支援をする。
  • ホームレスの障害者に、適切な宿泊場所をなるべく地域内で見つけられるよう支援する。
  • 障害のある人たちの生活の中で、暴力の兆候がないかに注意を払う。