CBRガイドライン・社会コンポーネント
レクリエーション・余暇・スポーツ
はじめに
文化や芸術と同じように、レクリエーションや余暇やスポーツ活動も地域の中で大切な役割を果たしている。そこには、各人の健康と幸福の増進、エンパワメントへの貢献、そしてインクルーシブな地域社会の開発を促進することなど、多くの利点がある。レクリエーション・余暇・スポーツ活動は、個人および少人数のグループやチーム、あるいは地域全体を巻き込み、年代、能力、技術レベルなどが異なる、すべての人々に関連している。人々が参加するレクリエーションや余暇、スポーツ活動のタイプは、地域の社会的背景によって大きく異なり、その社会システムや文化的価値を反映する傾向にある。
レクリエーションや余暇およびスポーツ活動への参加は、障害のある人が近親者以外の社会生活とつながりをもつことができる数少ない機会の1つと言える。そうした活動に参加する権利は下記のコラムに特記されている。文化や芸術と同じように、バスケットボールのチームメンバーになるような能動的参加を選ぶか、フットボールの観戦者になるような受動的参加のしかたを選ぶかは障害のある人次第である。
BOX18
障害者権利条約 第30条第5節:文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(2)
締約国は、障害者が他の者との平等を基礎としてレクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とすることを目的として、次のことのための適当な措置をとる。
(a) 障害者があらゆる水準の一般のスポーツ活動に可能な限り参加することを奨励し、及び促進すること。
(b) 障害者が障害に応じたスポーツ及びレクリエーションの活動を組織し、及び発展させ、並びにこれらに参加する機会を有することを確保すること。このため、適当な指導、研修及び資源が他の者との平等を基礎として提供されるよう奨励すること。
(c) 障害者がスポーツ、レクリエーション及び観光の場所を利用する機会を有することを確保すること。
(d) 障害のある児童が遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動への参加について他の児童と均等な機会を有することを確保すること。
(e) 障害者がレクリエーション、観光、余暇及びスポーツの活動の企画に関与する者によるサービスを利用する機会を有することを確保すること。
BOX19 モロッコ
社会的インクルージョンと自己開発のためのスポーツの使用(9)
「社会参加(ソーシャルインクルージョン)と自己開発の手段としてのスポーツ(Sport as a Tool for Social Inclusion and Personal Development)」プロジェクトは2007年にモロッコのハンディキャップ・インターナショナル(Handicap International)によって開始された。同団体が2004年に実施した調査によると、150万人以上のモロッコ人が障害をもっていると推定される。このプログラムの目的は、障害のある人がスポーツに参加する機会を増やし、リハビリテーションや保健、および社会的統合へのアクセスの不平等に取り組むことであった。
このプログラムは次の3分野に焦点を当てた。
- モロッコの施設の能力構築とネットワーク作り: プログラムスタッフは障害については限られた専門知識しかもたない主流スポーツの専門家たちのモロッコ王立スポーツ連盟(Royal Moroccan Sports Federation)や、障害のある人の健康や教育を専門としている約600のモロッコ障害関連団体と密に働き、戦略的な国内的、国際的パートナーシップを構築させる援助をした。その他にも、障害のある人のための小規模プロジェクトやスポーツクラブに対し、管理技術、プロジェクト開発、企画提案書作成、および資金調達の研修を提供した。
- 適合した運動機器の提供:車いす、適切な衣類や適合した機器類、例えば視覚障害者用の音の出るボールなど。
- インクルーシブなスポーツイベントの企画:数多くのスポーツイベントが開催された。それらは国際障害者デーを記念するイベントや、障害がある人とない人合わせて約2,000人のランナーが参加したレース・フォー・オール(Race for All)などを含む。注目を大いに集めた障害をもつ選手のためのサッカーのトーナメントも実施された。モロッコ国王がスポンサーになり、最終戦は国営テレビで中継され、約20,000人が観戦した。
このプログラム数々の成果を生み出した。
- 1,500人の障害のある人がスポーツクラブや一般的なスポーツイベントを通して参加した。
- 障害のある人が、適切な技術、機器、アドバイスを与えることのできるトレーニングを受けたスタッフなど、質の良いサービスを利用できるようになった。
- 障害のある人が、障害のない人とも出会い、交流する機会ができた。
目標
障害のある人が、参加者として、また観戦者として、他の者との平等を基礎としてレクリエーションや余暇やスポーツ活動に参加する。
CBRの役割
CBRプログラムの役割は、障害のある人のレクリエーション・余暇・スポーツ活動へのさらなる参加を促進することと、主流の団体・プログラムに適切でアクセスしやすいレクリエーション・余暇・スポーツ活動を提供することで、彼らの能力を強化する手助けをすることである。
望ましい成果
- 障害のある人が地域にあるレクリエーションや余暇やスポーツ活動に参加する。
- 地域また国内外の官庁や団体がそのレクリエーション・余暇・スポーツ活動に障害のある人を含める。
- 障害のある人がレクリエーション・余暇・スポーツ活動に参加する権利と能力を家族、教師、地域の人々が認識し、積極的に促進する。
- 障害のある人もない人も、レクリエーション・余暇・スポーツ活動に一緒に参加する。
- 障害のある人がレクリエーション・余暇・スポーツ活動の開催地へ行くことが可能でなる。
- レクリエーション・余暇・スポーツ活動で使用される設備や備品が、必要に応じて障害のある人たちのニーズに適合される。
- レクリエーション・余暇・スポーツのプログラムや活動が、必要に応じて、障害のある人たちのために開発される。
主要概念
定義
本要素では:
レクリエーションとは、人々が身体と心をリフレッシュさせ、余暇をより興味深く、楽しいものにするために選んだすべてのアクティビティを指す。例えば、ウォーキングや水泳、瞑想、読書、ゲームやダンスなどをレクリエーション活動という。
余暇とは、人々が毎日の仕事や家事などの責任から離れ、休憩し、リラックスし、生活を楽しむ自由な時間のことを指す。人々がレクリエーションやスポーツ活動に参加するのは余暇時間である。
スポーツとは、サッカーやラグビー、フットボールやバスケットボールや陸上競技のようなすべてのタイプの組織化された身体的活動を指す。
コミュニティにおけるレクリエーション・余暇・スポーツ
人々が毎日、生き残るためだけに働いているような、低所得国の多くでは、余暇の意味はよく理解されているわけではないし、優先事項でもない。実際のところ、多くの高所得国でレクリエーションと考えられている釣りや手工芸などは、低所得国では生活の手段として考えられている。
多くの地域社会では、人々が参加するレクリレエーション的活動やスポーツ活動のタイプは、参加者の年齢や性別、地域の環境(田舎か都会かなど)、また、社会経済的な地位によって決定される。例えば、貧しい地域の子どもたちは小枝や石といった自然のもの、また、タイヤやロープのような工場廃棄物などを使って遊ぶことが多い。余暇も、例えば伝統的ダンスや物語を聞くこと、宗教的なお祭りやイベント、また芸能一座を見に行くなどの文化的な活動が中心であることが多い。
多くの貧しい田舎の地域社会では、コミュニティセンターやスポーツスタジアムなど、人々が余暇を楽しむために作られた施設がないため、皆が礼拝所や簡易食堂、民家や空き地に集まることが一般的である。
低所得国の地域社会にはしばしば差し迫った優先事項があり、予算も限られていることが多い。その結果、公式なレクリエーションやスポーツ活動・プログラムの開発は通常寄贈者に依存することが多い。外部からの資金は、それを使用して導入されるプログラムや活動が、地域の社会的・文化的な背景に適したものとして設計されることを確実にするため、慎重に運用されることが重要である。
参加の利点
レクリエーションやスポーツ活動への参加は、個人にも地域にも以下のような多くの利益をもたらす。
- 健康増進と病気予防:レクリエーションやスポーツ活動は楽しく、効果的に健康や幸福感を増進させる方法である。ストレスの軽減、体力増強、身体および精神的な健康の向上、心臓病のような慢性的な病気の進行を妨げることができる。
- 技能の向上:レクリエーションとスポーツ活動への参加を通して向上できる技能は数多くあるが、身体的、社会的技能もそうした技能に含まれる。
- 意識の向上、スティグマの低減、社会的インクルージョン:レクリエーションやスポーツ活動は障害のある人たちのインクルージョンを促進する効果的で安価な手段である。レクリエーションやスポーツを楽しむために世代や能力の異なる人たちが集まるので、障害のある人たちにとって、自身の強さや能力を披露し、障害のプラスのイメージを促進させる良い機会になる。
- 国際平和と発展:スポーツは国境や文化や宗教を越え人々を集結させることにより、平和、寛容、理解を促進する強力な手段として使用できる万人共通の言語である(10)。
- エンパワメント:レクリエーションとスポーツ活動は、自信と自尊心にプラスの影響を与えることで障害のある人の潜在能力を引きだすことができる。
BOX20 エリトリア
退役軍人がロールモデルになる
エリトリアでは障害のある退役軍人がサッカーチームの監督やトレーナーとして働けるようトレーニングを受け、首都アスマラで、2千人以上の子どもたちが参加したサッカー活動の実施に際し重要な役割を果たした。この活動は、退役軍人の自分自身への見方を変え、子どもたちの障害のある人に対する見方にも良い影響を与えた。また、他の障害者への良いお手本にもなった。この成功を足場に、スポーツクラブでは、障害のある子どもたちをスポーツ活動に参加させる最初のステップとして、ろう児たちにサッカーを教えている。
他の機会と補完関係にあるレクリエーションとスポーツ
レクリエーションやスポーツ活動の恩恵が数多く取り上げられている中で、それらが、アクセスが限られている教育や生計手段といった他の機会の代わりに用いられるべきではないことを覚えておくことは重要である。
BOX21 アフガニスタン
自転車を利用したトレーニング
アフガニスタン・イスラム共和国のアフガン切断による自転車利用者のリハビリテーションとレクリエーション(AABRAR:Afghan Amputee Bicyclists for Rehabilitation and Recreation)プログラムは、手足を失った人たちのための自転車のトレーニングプログラムで、機能的運動性と自立性を向上させ、職場への自転車での往復を可能にすることで、交通費を節約できるというものである。
レクリエーション・余暇・スポーツをアクセス可能に
レクリエーションとスポーツ活動に参加する障害者にとって合理的な配慮が必要な場合もある。創造力と柔軟性が少しあれば、障害のある人たちのインクルージョンと参加を可能にするため、わずかな費用で、またはまったく費用をかけずに、活動内容と使用設備や道具類を修正・改良することができる。
BOX22
スポーツ活動に改良を
ルールや点数システムを変更することで、能力や年齢の異なる人たちが、費用をかけずに一緒にスポーツを行うことが可能になる。地元で手に入る材料を使って安いコストで改良を加える、例えば、乾燥したひょうたんと穀粒を使って音の出るボールを作ったり、ペアでプレーするようにルールを変えたりすることで、すべての地域住民が参加する機会を増加させることができる。
推奨される活動
地域のレクリエーション・余暇・スポーツ活動の機会の把握
最初のステップは、地域社会の中やその周辺にどのようなレクリエーションや余暇やスポーツ活動が存在するのかを把握することだ。CBRプログラムは、そのために若者や女性のグループ、子どもクラブや障害のある人たちといった地域のグループと密接に活動していくべきだろう。
障害のある人たちの参加を促進する
活動は個人・地域住民に依頼され、文化的にふさわしいものであり、参加者が楽しみ満足できる、そして、開発や維持のための費用がかかり過ぎないといった条件を満たした場合に成功する。障害のある人たちのレクリエーションやスポーツ活動への参加を促進するには、以下の事項がCBRプログラムに提案される。
- 障害のある人たちに彼らの地域で参加可能なレクリエーションとスポーツの情報を提供する。
- 障害のある人たちと主流のレクリエーションやスポーツクラブや団体とをつなげる。
- 学校で行われるレクリエーションやスポーツ活動に、障害のある子どもたちが、必ず他の子どもたちと同様に参加できるようにする。
- 能動的な活動か受動的な活動かを問わず、障害のある人たちの参加を可能にするため、パーソナルアシスタンスの選択肢の幅を広げる。
- より多くの障害者に参加を促すために、障害者のレクリエーションやスポーツに前向きなメディア報道を促進する。
インクルージョンについての意識向上のためのレクリエーションとスポーツの使用
国際障害者デーのような大きなイベントは、全国レベルから地方レベルまで、インクルーシブなレクリエーションとスポーツ活動の必要性についての意識を向上させる機会を提供できる。このようなイベントは、しばしばメディアに前向きに取り上げられ、幅広い観客の意識を向上させることができる。
BOX23 パキスタン
視覚障害者クリケット・ワールドカップ
パキスタンで行われた視覚障害者クリケット・ワールドカップの地域的、全国的なメディア報道の成功により、CBRプログラムの中には、視覚障害のある子どもの親から、教育と余暇の機会についての問い合わせが増えた、というところもある。
主流のプログラムをインクルーシブなものにするよう奨励する
主流のレクリエーションとスポーツプログラムには障害のある人たちが考慮に入れられていないことがしばしばある。CBRプログラムはこのようなプログラムと協働し、どうしたらすべての人たちが参加可能になるか模索することができる。CBRプログラムは以下のようなことが可能である。
- プログラムが文化的・地理的に固有のもので、都会と地方に住んでいるすべての年齢、能力、性別にわたる障害のある人たちが参加可能であることを確実にするために、国内外の団体と相談する。
- 多くの活動がわずかな費用で、またはまったく費用をかけずに改変可能であることを強調しつつ、活動内容、使用設備や道具類や会場に安全に変更を加える方法についての考えや提案を提供する。
- 障害のある人たちへの対応の技術と自信を付けるため、主流プログラムのスタッフのトレーニングを促進させる。
- レクリエーションとスポーツ活動が障害のある人たちにとっても確実に参加可能になるよう障害当事者団体とともに提唱する。
Fun and inclusive handbook(11)、Sport, recreation and play (12)のような出版物には、低所得国でどのようにインクルージョンがサポートされ得るかについての詳しい情報と例が示されている。
BOX24
学校の運動会
CBRプログラムは、インクルージョンの機会を提供している学校の運動会を奨励、支援することが可能である。こうした運動会は、障害がある人にもない人にもともにスポーツを楽しむ機会を提供することで、学齢児童の意識と理解を向上させることができる。このようなイベントは、子どもたち、親、教師、ボランティア、スポーツ関係者など、すべての関係者にとって有益な経験となる。運動会は障害に対しての姿勢や考え方にプラスの刺激を与え、障害のある子どもたちのもつ運動能力についての認識を高める。
障害に特化したプログラムの開発と支援
障害に特化したプログラムは、障害のある人たちが他の障害者に出会う機会を与え、同等の技術レベルをもつ他の人たちと競い合う機会を提供する。CBRプログラムは下記のことができる。
- レクリエーションやスポーツプログラムが障害のある人たちのニーズに適合するように、プログラムを開発する間の意思決定過程で彼らが指導者であり重要な役割を担うことを保証する。
- 自分たちでレクリエーションやスポーツのグループやクラブを立ち上げたいという障害者を支援するために、適切なトレーニングとリソースを与える。
- 地域の障害者用レクリエーションやスポーツのグループやクラブを、国内や、国際知的障害者スポーツ連盟、国際パラリンピック委員会、国際スペシャルオリンピックス、国際ろう者スポーツ委員会のような国外の団体とつなげる。
BOX25 バングラデシュ
チェスを通してつながる
バングラデシュにある視覚障害者のもっとも大きなネットワークの1つに点字のチェスクラブがある。そのネットワークは都市部から農村部にわたり網羅しており、ただ競い合い技術を向上させるだけではなく、同じ興味をもつ人たちと交流し、連携する機会を提供している。