音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

CBRガイドライン・エンパワメントコンポーネント

序文

エンパワメントは、CBRマトリックスの最後のコンポーネントであり、分野横断的なテーマである。先に示された4つのコンポーネントは、主要な開発分野(健康、教育、生計、および社会のセクター)に関するものである一方、エンパワメントコンポーネントは、障害のある人々やその家族そして、コミュニティが、各分野の垣根を越えて障害の主流化を促進させ、すべての人が自らの権利を享受できるようにするために、こうした人たちをエンパワーすることの重要性に焦点を当てる。

「エンパワメント」という言葉は、場面や状況によって異なる訳や解釈がされており、すべての言語で適切な訳語を見つけるのは困難である(1)。エンパワメントを簡単に説明すると、以下のような言葉で表現される。発言権があり、自らの主張を他者に聞いてもらえること、また自分に力があること、自ら意思決定できること、管理能力があることやさらにその能力を強化できること、自由であること、自立していること、自らの権利のために闘えること、そして、平等な市民として、また何かに貢献できる人として認められかつ尊重される、といったことである(1)(2)

CBRプログラムの多くは、医療モデルに焦点を当ててきた。それはつまり、何の見返りも期待せずに障害をもつ人々に提供されるリハビリテーションの提供に焦点を当ててきたということである。これは多くの障害のある人にプラスの変化をもたらしたが、同時に、与える人と与えられる人といった関係に象徴される依存モデルをも助長してきた。エンパワメントは、個人や集団が自分たちの状況は自分たちで変えられるということを認識し、行動することから始まる。また、より多くの参加、より強い意思決定力と管理能力、そして変革への行動につながる意識改革や能力開発といったものを含むプロセスである(2)

障害のある人、その家族やコミュニティはCBRの中心である。これらのガイドラインは従来のCBRモデルから離れ、地域に根差したインクルーシブな開発モデルへと導く動きを勇気づけ、促すものである。どのようなCBRプログラムも、障害のある人とその家族、そしてコミュニティのエンパワメントを手助けすることから始められるべきである。なぜなら、それが目標の達成につながり成果を生み出し、持続可能性をもたらすからである。

BOX1 マラウィ

目に見え、声をもち、活動する存在へ

マラウィ障害者協議会(MACOHA: Malawi Council for the Handicapped)は、障害者・高齢者省(MPWDE:Ministry for Persons with Disabilities and the Elderly)の下部機関で、マラウィの全国的なCBRプログラムの実施を担当している。MACOHAは保健、教育、財務、経済計画、ジェンダー、子どもの発達、地域開発といった他の省庁、あるいはマラウィ障害者団体連合(FEDOMA:Federation of Disability Organisations in Malawi)、クリストフェル・ブリンデン・ミッション(CBM:Christoffel Blinden Mission)、サイトセイバーズ・インターナショナル(Sightsavers International)、ノルウェー障害者協会(Norwegian Association of the Disabled)とも連携して業務を行っている。

CBRガイドラインの草稿は「国連障害者権利条約」および「アフリカ障害者の10年」で設定された決定事項に沿った全国的なCBRプログラムを策定するにあたり主要な枠組みを提供した。マラウィ政府は、CBRを全国の障害のある人々に対して手を差し伸べる望ましい手段として推進している。MACOHAは、CBRマトリックスの保健、教育、生計のコンポーネントの実施に直接的な責任をもつ一方、同マトリックスの社会コンポーネントおよびエンパワメントのコンポーネントの実施についてはFEDOMAや他の非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)、省庁、障害当事者団体とともに活動している。

MACOHA、FEDOMA、そして他のパートナー団体は、障害のある人々をエンパワーするべく地域や区域レベルで直接働きかけを行っている。エンパワメントは、地域住民の意識改革、コミュニティを動かすこと、障害者の組織化、障害者委員会を作ることから始まる。委員会の代表者は、ワークショップ形式の研修に参加し、CBRや主流化の概念をよりよく理解し、地方当局者と交渉できるようになる術や開発に関連するさまざまな機会へアクセスするノウハウを学ぶ。こうして、障害のある人々が保健、教育、生計の機会にアクセスできるようになる。障害のある人々は見える存在、声をもつ存在、活動的な存在となり、参加と機会の平等を促進し、自信をつけていくのである。

最近のノルウェー障害者協会の評価によると、MACOHAは5つのCBRマトリックスのすべてのコンポーネントについて活動しているが、障害のある人々のエンパワメント、特に政治的、経済的エンパワメントに焦点が当てられ、それが出発点になっているということである。また、異なる省庁、NGOや障害当事者団体を団結させていることから、マラウィのCBRが効果的、かつ有用であるとも評価されている。

目標

障害のある人々とその家族が自ら意思決定をし、自分たちの生活の変革と地域の改善に責任をもつ。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人々とその家族が、自分たちの生活に影響を及ぼす問題に対して積極的にかかわっていくことを奨励、支援、促進することを通して、エンパワメントの過程に寄与することである。

望ましい成果

  • 障害のある人々が、説明を受け納得した上で選択および決定ができる。
  • 障害のある人々が家族やコミュニティの中で積極的に参加し貢献する。
  • コミュニティにある障壁が取り除かれ、障害のある人が能力をもった人として受け入れられる。
  • 障害のある人々とその家族が自分達のコミュニティで開発の恩恵とサービスを享受できる。
  • 障害のある人々とその家族のメンバーがともに自分たちのグループ・団体を組織し、共通の諸問題を解決すべく取り組む。

主要概念

ディスエンパワメント(無力化)

障害のある人々の多くが、家族の中、地域社会の中でディスエンパワメント(無力化)を経験している。障害のある人々は家族からの強いサポートを受けることが多いが、ときにはそれが過保護となり、家族が彼らのためにほとんどのことをしてしまうことがある。また、スティグマや差別のためにコミュニティから拒絶されたり排除されたりする場合もある。これは、障害のある人々が得られる機会と選択肢が大きく制限されていることを意味する。彼らが変革の担い手になれず、犠牲者や憐みの対象になってしまうのである。障害のある人々に対する否定的な態度と低い期待が、障害のある人々に無力感をもたらす。自分には何もできず、生活も変えられず、価値がなく無能である、と感じ、低い自己イメージと自己評価をもってしまう。この無力だと感じる経験こそが、エンパワメントを模索することの始まりとなる。

エンパワメントと動機づけ

エンパワメントとは複雑なプロセスである。それは瞬時に達成されるものでも、誰かに与えられるものでもない(2)。変革は、障害のある人自身の意識が、受身的な受益者という立場から、積極的に寄与する者へと変わるところから始めなければならない。この発想の転換は、コミュニティに存在する可能性がある障害のある人に対する態度面や制度面、物理面での障壁を克服するために重要である。CBRプログラムは、例を挙げると、啓発、情報提供、能力開発、および参加の奨励によって、このプロセスを促進することができ、その結果障害のある人々の状況をコントロールする力や意思決定力が強化される。これらのすべてのコンポーネントが、このCBRガイドライン全体で言及されている。

意識

意識とは、自分自身やその状況、そして自分たちが住んでいる社会に関して個々人がもっている理解のレベルである。意識を向上させることは、人々が変革の機会があることを知る手助けとなる(3)。家族やコミュニティに障害の問題と人権についての意識を高めてもらうことは、障害のある人にとっての障壁を取り除き、参加と意思決定へのより大きな自由を獲得することにつながる。

情報

情報は力である。そしてCBRプログラムの主要な活動の1つは情報を発信することである。人々が貧しければ貧しいほど、権利や資格といった基本的な情報へのアクセスが少ない。情報を提供することは、人々が機会を利用すること、サービスにアクセスすること、権利を行使すること、効果的に交渉すること、そして義務を担う人々に説明責任を問えるようにすることを保証する。関連している、タイムリーで、理解できる形で提示された情報なしに、障害のある人々が効果的に行動を起こし、変化をもたらすことは不可能である(1)

能力開発

障害のある人々が家族やコミュニティに対して意義のある参加・貢献ができるようにするためには、幅広い技能と知識が必要である。技能と知識を身につけることは、自信を深め自己に対する評価を高めることにもつながる。これはエンパワメントの過程の重要な要素である。

ピアサポート

多くの障害のある人は、ある特定の問題に直面しているのは自分ひとりだけだと感じている。しかし、自分と同種の問題を抱えた人々に出会うと、それが自分ひとりだけの問題ではなく、共有していることや共通の解決方法があることがわかる。一緒にいることで、孤立感を最小限に留め、相互扶助を高めることができる(下記自助グループおよび障害当事者団体参照)。

参加

何かに貢献をすることで人は社会的に認められるが、これはエンパワメントのプロセスで重要なことである。障害のある人々は、さまざまなレベルで社会に参加し、貢献することができる。例えば、家庭レベルでは家族の世話をしたり、動物の飼育、水汲み、料理や掃除といったことが挙げられる。コミュニティレベルでは、最近、障害を負ったばかりの人々にピアサポートを提供したり、グループや団体のメンバーになったりすることが可能である。

連携とパートナーシップ

障害のある人々はその数が限られているために、インクルージョンと開発という共通の目的のために活動している他の人たちと連携したりパートナー関係を結んだりして活動する。他の団体が一緒に活動に関わるとコミュニティの当事者意識が高まり、インクルージョンがうまくいく。

BOX2 フィリピン

マイラが示す良い手本

マイラはフィリピン生まれで、二分脊椎をもって生まれた。少女時代は、その障害の影響を受けながら生きていくことに耐えるのを困難に感じていた。「私の自尊心や自信はとても低いものでした。いつも『なぜ私がこんな目に』と自問し、自殺を考えたこともあります。時が経つにつれて、私は自分の障害とともに生き、自分の能力を活用することを学びました。CBRプログラムの支援とSimon of Cyreneからの奨学金で私は高校と会計のコースを修了することができました(2007年)。その後に参加した自己向上とリーダーシップの研修を通して、私の人生は変わりました。私は、今、アルバイ州の障害当事者団体の指導者です。自信がつき考え方が変わったことで、自分の障害という現実を受け入れることができました。私は今、自分自身の殻から出て、手本を示すことで他の人々にやる気を起こさせるために働いています。私たちが他の人々に最初に与えることのできる素晴らしい贈り物は、良い手本です。障害は、その人の目的達成を妨害するものではないのです」

本コンポーネントの要素

アドボカシーとコミュニケーション

本要素は、セルフアドボカシーに関するものである。それは障害のある人々が自らの意見を述べることであり、また、コミュニケーションである。すなわち、セルフアドボカシーにとって重要な、情報を発信したり受け取ったりする方法についてである。障害のある人々のエンパワメントを促進するとき、この両方が考慮されなければならない。意見を述べたり、コミュニケーションをとることは、障害のある人々を本人の家族とコミュニティにつなぎ、彼らに選択、意見の表明や意思決定をする力を与え、その力が今度は彼らの自信と自尊心を確立する。CBRプログラムは、障害のある人々のコミュニケーション能力を改善し、他者と関わる能力を向上し、最終的にはセルフアドボカシーをする力を高めていくために、障害者と一緒に活動するときに大事な役割を果たす。

コミュニティを動かすこと

地域住民の参加は、CBRプログラムの成否の鍵を握るといっても過言ではない。そして、コミュニティを動かすことは、コミュニティの住民を関与させ、彼らを変革や行動に向けてエンパワーすることを目的とする戦略である。この戦略は低所得国でコミュニティ開発の諸問題を解決するためにしばしば用いられるものであり、コミュニティが、障害のある人々とその家族のニーズに応えられるようエンパワーするためにCBRでも活用することができる。

政治への参加

障害のある人々の政治への参加を促進することはエンパワメントのための重要なアプローチである。政策決定は政治の中核を成し、そのため政治に参加することは、何らかの問題に直面する人が政策決定の中心となり、変革をもたらすことを可能にする。政治への参加には、公式な参加(例えば国家や地方の政党政治)や、非公式な参加(友人や家族との政治的な議論など)といったさまざまな方法がある。本要素は、障害のある人々とその家族が政策決定に影響を与え、平等な権利と機会を獲得することを可能にする実際的な方法を探るものである。

自助グループ

自助グループとは、人々が一緒になって、さまざまな活動を行い、共通の問題を解決することを目的としたインフォーマルな集団である。CBRプログラムでは、その活動を個人を対象としたものにとどめず、障害のある人々とその家族が自助グループを作ったり、加わったり、参加して活動したりすることに活動の焦点を置く必要がある。障害のある人々が自助グループに参加する事により、自分のいるコミュニティでより目につく存在になる。また彼らが互いに助け合うことも可能になる他、リソースを共有し、問題の解決をともに探ることを促し、彼らの自信と自尊心を高める。CBRがその目標のいくつかを達成し、エンパワメントのプロセスを促進できるのは、自助グループの活動を通してなのである。本要素では、CBRプログラムがどのように自助グループの形成を支援・手助けできるかに焦点を当てる。

障害当事者団体

世界の多くのところで労働者が自分たちの職場での利害を守るために団結するように、障害のある人々も自らの利益を促進し、守るために「障害当事者団体」を結成している。障害当事者団体は、地域レベル、国レベル、そして国際レベルで存在する。通常は、正式な組織運営体制を確立し、アドボカシーや障害者を代表するなどの幅広い活動を行っている。これらの組織を支援することは、障害のある人々のエンパワメントを促進する1つの方法である。コミュニティ内にCBRプログラムと障害当事者団体が共存する場合、両者は協力をして活動する必要がある。反対に地域の中に障害当事者団体が存在しないときは、コミュニティレベルで障害当事者団体を設立することが勧められる。本要素は、それをどうしたら効果的に実施できるかといったことを扱っている。