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CBRガイドライン・エンパワメントコンポーネント

コミュニティを動かすこと

はじめに

コミュニティを動かすというのは、できるだけ多くの関係当事者を集める過程のことである。その目的は、特定のプログラムに関する人々の意識を高めたり、特定のプログラムを要求したりすること、また、リソースやサービスの供給を支援すること、さらに、持続性と自立のためコミュニティの参加を強化することである。コミュニティの各地にいる人々が共通の目標をもち、ニーズを把握し、自分自身が解決策の一部になることに積極的に関与すれば、多くのことが達成できる。地域住民を結集することで、コミュニティをエンパワーし、コミュニティの発展を促進し、管理することができるようになる。

コミュニティ支援が確立し、社会の異なる分野の人々が変革過程に積極的に参加するようになるまでは障害の主流化はほとんど進展しない(11)。CBRプログラムは、コミュニティを動かすことによって、障害のある人、家族、自助グループ、障害当事者団体、コミュニティの住民、地方自治体、地元の指導者、意思・政策決定者といったさまざまな関係当事者とともに、地域内にある障壁を取り除き、平等な権利と機会に基づく障害のある人々のインクルージョンを成功させることができる。

この要素では、CBRプログラムによってどのように人々がともに行動し、自分たちが活動している社会に変化をもたらすことができるかについて焦点を当てる。

図1:コミュニティを動かすことの4段階
図1:コミュニティを動かすことの4段階図1の内容

BOX8 コロンビア

リーダーシップの役割を通したエンパワメント

コロンビアでは、地方政府の財政面、運営面の支援を受けて、多くの市町村がCBRプログラムを実施している。このような取り組みが始まって数年を経た2002年、ある地方政府は、実施しているプログラムの多くが持続せず、コミュニティも当事者意識を欠いていることに気がつき、コロンビア北部カウカシアの町でカウカシア障害者財団(FUNDISCA:Foundation of the Disabled-Caucasian)というパイロットプロジェクトの設立を支援した。

FUNDISCAの主な目的は、CBRプログラムの中で障害のある人々がリーダーの役割を担い、自らの生活について積極的に計画したり管理したりすることを通して自身のエンパワメントを促進することである。FUNDISCAは、障害のある人々、親、介護者、難民、先住民族の人々、地域住民と地域の指導者を含むさまざまな人々を動かし、彼らがプログラムの活動に協力し、支援するよう働きかけた。

現在、FUNDISCAには218人のメンバーがおり、20名のボランティアがCBRスタッフとして働いている。これらのCBRスタッフの一義的な責任は地域にいる障害のある人々を見つけ出し、彼らとその家族に必要な支援を提供することである。CBRスタッフは、障害のある人々の自尊心、家族のインクルージョン、保健、教育、就労機会へのアクセスといったものの向上を促進するべく働いている。

FUNDISCAは、困難もいくつか経験してきている。例えばグループの利益よりも自分の利益を優先するメンバーの存在や、障害に関連して活用できるリソースが市町村レベルでは限られていること、施設やサービス提供者の障害関連の問題に対する意識や関心が低い、といったことである。

しかし、FUNDISCAは時間と努力を積み重ねてそれらの困難を乗り越え、ダイナミックかつ確固たる基盤を形成した。同団体のコミュニティを動かす継続的な戦略によって、コミュニティは障害の問題に関心をもち活動に参画するようになった。また障害のある人々とコミュニティの距離を縮め、コミュニティリーダーたちが自治体に対して障害問題の擁護者になるよう力づけた。

目標

地域コミュニティの住民がエンパワーされ、障害のある人々とその家族のためにコミュニティに存在する障壁を取り除き、障害のある人々とその家族のコミュニティ活動への参画促進のために積極的な役割を果たす。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人々とその家族に対する否定的な態度や行動を変え、CBRプログラムをコミュニティの住民が支持するよう促し、開発のすべての分野で障害の主流化が推進されるよう、コミュニティの住民を動員することである。

望ましい成果

  • コミュニティの住民が、障害のある人々とその家族のニーズを認識し、その生活の質を改善することに意欲をもつ。
  • 障害のある人々とその家族にとってのコミュニティ内の障壁が減らされる、もしくは取り除かれる。
  • コミュニティの住民のCBRについての知識、また、CBRプログラムを発展、維持するために必要なリソースの活用に関する知識が豊富である。
  • コミュニティの住民がCBRプログラムの計画と実施、運営に参画する。

主要概念

「コミュニティ」の定義

「地域(コミュニティ)に根差したリハビリテーション」はその呼び名が示すように、コミュニティの住民が重要な役割を果たす。「コミュニティ」とは、ある種の社会組織、結合体としてともに暮らす人々と説明できる。ただし、一般的にコミュニティのメンバーは同質ではなく、しばしば異なる政治、経済、社会、文化の特性、興味、志をもっている(12)。例えば、「伝統的」な農村社会では、メンバーがそれぞれ異なる民族グループに属していたり、異なる言語を話したり、異なる宗教や信条をもち、異なる文化的な慣行を行っていたりする。

コミュニティの関係当事者

コミュニティはさまざまな個人、グループおよび組織によって構成される。その多くはCBRプログラムにとって重要な関係当事者である。それらには、障害のある人々およびその家族、隣人や友人、学校教師、自助グループ、障害当事者団体や地元当局の人々が含まれる。導入の運営の章では、主な役割と責任を含む関係当事者の詳細について述べられている。地域内では、特定の関係当事者(例えば部族、宗教あるいは政治的リーダー)が他の人々よりも影響力をもち、地域の課題についての政策決定に、より大きな力を行使することがあるということに留意する必要がある。

コミュニティの問題としての障害

保健、教育、水、衛生、住宅、交通、環境といったすべてのコミュニティ開発に関連する問題は、障害の発生率と有病率に関して何らかの影響を及ぼしている(保健コンポーネント参照)。そのため障害はコミュニティにおいて要な問題であるが、ほとんどの場合は無視されているのが実情である。

多くのコミュニティで、障害のある人々とその家族の生活の質に影響を与える障壁がある。その障壁には、物理的・環境的なもの、態度、文化、サービス、システム、政策に関わるものが含まれる。障害のある人々とその家族が直面するさまざまなタイプの障壁については本ガイドラインの他のコンポーネントに詳しく記されている。CBRプログラムはそれぞれのコミュニティにある、障害のある人々とその家族にもっとも影響を及ぼす障壁を認識し、理解することが重要である。

コミュニティを動かすこと

開発セクターでは、コミュニティを単なる助成金やサービスの受益者としてではなく、開発のための活動において先導的な役割を果たすものとして重視している。コミュニティは、自身の問題を一番理解しており、問題解決に向けて適切な行動を起こす能力があるとみられている。CBRは地域に根差したインクルーシブな開発のための戦略である。そのため、例えば、コミュニティの課題に人々が耳を傾け、政策決定や生活に影響を与える活動にコミュニティが直接関わるといった、コミュニティの関与の重要性が認知されているのである(導入参照)。

コミュニティを動かすことは、障害が障害のある人々だけではなく、すべての人に関わる問題であることを認識させるためにCBRプログラムが活用できる戦略である。また、CBRプログラムが、コミュニティの関係当事者をインクルーシブな開発に向けたCBRの活動に参加させるために利用できる戦略でもある。CBRプログラムがその取り組みにコミュニティを巻き込めば、プログラムの資金や支援が終了した後も、障害のある人々とその家族が恩恵を受け続けることができる可能性は高まる。

BOX9 エチオピア

地域住民に刺激を与えた橋建設

エチオピアのアダマで、あるCBRワーカーが、川にかかっている橋が壊れていることに気づいた。障害のある人々のみならず、川を渡ろうとして腕を骨折した少年のように、他の多くの人々もこの橋を使うのは、危険であった。CBRワーカーは学校と地方政府当局に連絡をし、この地域のアクセス環境を改善するための委員会を結成した。委員会はコミュニティに対して資金と労働力を提供するよう呼びかけた。最終的に新しい橋は、建設過程に便宜を図った地方政府とのパートナーシップで建設された。新しい橋が完成した後、地方政府は障害のある人々のための施策により意欲的に取り組むようになり、障害をもつ子どもが利用しやすいように学校環境の改善をすることを決定した。CBRプログラムは、コミュニティが素晴らしいリソースであり、生活環境を改善するよう奨励し、動員することが可能であることを学んだ。特にそのアイディアがコミュニティの発案によるものであれば、リソースは限られていても多くのことが達成できるのである。

推奨される活動

コミュニティを動かすことは継続的なプロセスであるため、本要素では、ステップバイステップのガイドラインは提供せず、代わりに主要な見出し毎の活動例を広く提案する。活動の中にはこのガイドラインの他の章、特に運営の章の内容と共通するものが多い。

コミュニティについて知る

障害の問題に取り組み、CBRの推進・実施を支援するためにコミュニティを動かすには、コミュニティについての知識が求められる。CBRプログラムは、例えば物理的、経済的、社会的、政治的、文化的状況、あるいはコミュニティが直面する問題といった、人々が住むコミュニティの状況について理解を深めていかなければならない。状況分析はそのために効果的な方法である。状況分析の詳細については、運営の章で述べている。

コミュニティ内での権力構造を明らかにすることは、コミュニティを動かすための重要な活動の1つである。例えば地方政府や地域のグループ、組織 (自助グループ、障害当事者団体)の指導者といった公的に権力をもつ立場にある人々は誰か、また教育分野での教員のようにさまざまな開発分野に対して強い影響力をもっているのは誰かを特定する必要がある。CBRプログラムにとって、これらの権力構造について学ぶことは重要である。なぜならば、そのような権威や影響力をもつ人々は地域の取り組みを支援するよう他者を動かす力があるからである。

また、障害のある人々とその家族に対して、コミュニティが現在どのような態度や行動をとっているか調べることも重要である。人々の考え方は、しばしば行動に現れる。人々の行動を観察することによって、彼らが、相手を尊重しているか、横柄な態度をとっていないか、抑圧的か、無視しがちかを見極めることができる。

地域内で信頼と信用を確立する

CBRプログラムの実施にあたり、コミュニティの関係当事者の信頼と信用を確立するために時間をかけることは重要である。また、CBRプログラムの実施に際し以下のことが求められる。

  • コミュニティとともに活動する許可を地元の指導者に求める。
  • コミュニティにおいて、目に見える形で行動し、他の関係当事者の活動をサポートする。
  • コミュニティ内の多くの異なる関係当事者と知り合うために接触し、彼らの問題を理解し、ともに働くための最善の方法を見出す。
  • 定期的に重要な情報を交換し、CBRプログラムの最新の状況を伝える。
  • 正直さと透明性を保ち、コミュニティに対して果たせない約束をしない。

コミュニティ内での啓蒙

コミュニティをうまく動かし、障害に関する取り組みへの支援を得るためには、コミュニティのメンバーが、障害についての意識を高め、なぜそれが重要な課題なのか、どのような行動をとることができるのかを理解していくことが必要である。多くのコミュニティのメンバーは、障害について限られた知識しかもっておらず、その結果、障害のある人々に対して否定的な態度や行動をとる。さらに障害は、単に健康問題にすぎないと受けとめられ、憐みとスティグマをもって対処される可能性がある。

コミュニティにおいて障害について教え、意識を啓発するためにはさまざまな方法がある。例えばCBRプログラムで活用できるものに、グループディスカッション、ロールプレイ、フラッシュカード、読み聞かせ、楽曲、演劇、人形劇、ポスター、映画、ラジオといったものが挙げられる。

障害についての意識を啓発していくときに忘れてはならないことには、次のようなものがある。

  • メッセージはできるだけ簡潔にする。
  • 地元の文化に適した方法を用いる。
  • 障害のある人々自身が啓発活動の実施に関与することでコミュニティに大きな影響を与える。
  • 障害のある人に対する姿勢と態度の変革は時間を要す継続的なプロセスである。

BOX10 ケニア

態度の変化

カルメはケニアの農村で家族とともに暮らす、てんかんをもつ少年である。彼は火のそばで発作を起こし、火傷を負って下肢拘縮を来たし、その結果移動障害をもっている。カルメは閉じ込められ、隔離されていたために、コミュニケーション能力など多くの能力の発達が遅れていた。彼の障害のために、家族もまたコミュニティの中でのけものにされ、日常の基本的なニーズすら満たせない状況にあった。

カルメの存在は、この地域で行われた障害に関する調査の中で明らかになった。そこで、あるCBRワーカーはカルメを保健センターに連れて行き、発作を制御する薬をもらえるようにした。また、ケニア中央医学研究所(KEMRI:Kenya Medical Research Institute)はケニア障害者協会(APDK:Association of People with Disabilities Kenya)と協力し、彼の拘縮を矯正するために手術の手配をした。カルメは技能を改善するための基本治療も受けた。カルメとその家族に対しては、KEMRIのフィールドワーカーたちが毎月地域内でフォローアップを行った。

このコミュニティでは、村長が主導するbarazas(集会)を通して、考え得る原因を含む、障害についての認識が深められた。KEMRIのスタッフは、てんかんが伝染性の疾患ではなく、障害が魔術によるものでもないこと、また、障害のある子どもとその家族をサポートするのはすべてのコミュニティのメンバーの責任であることを、コミュニティの人々が理解する手助けを行った。定期的なコミュニケーションを通じて、コミュニティの障害のある人々とその家族に対する態度は徐々に変わっていった。また、コミュニティメンバーの中にはカルメとその家族のために家を建てる者も現れた。

コミュニティを動機づけてCBRに参加させる

コミュニティの関係当事者が障害の問題を解決し、インクルーシブな開発へ向けて行動するように意欲をもたせることは、CRBプログラムにとって重要である。コミュニティの活動と変革への参画を促すために、コミュニティ内のさまざまな関係当事者に話をし、やる気を出してもらう必要がある。CBRスタッフは、CBRが障害のある人々だけでなく、最終的にはコミュニティ全体の利益につながるものであることを関係当事者に納得させる必要がある。したがって、CBRの戦略(概念、理念、目標、目的)やそれがどのようにコミュニティを支援できるかについて、地域の人々に知ってもらい、方向づけることは、重要な活動である。

コミュニティ関係当事者の活動動機が何であるかを知ることは重要である。コミュニティを動かす初期の段階では、関係当事者の興味と動機づけを高めるためにある種のインセンティブの提供が必要とされる場合がある(11)。 ただし、インセンティブや報酬を提供することよりも、参加することの価値と、参加を通して得られる満足感を人々が理解できるように、CBRプログラムは働きかけるべきである。CBRプログラムが、主要な関係当事者(コミュニティの指導者)をCBR活動の見学やCBR活動がうまく機能している他のコミュニティへの訪問に招待することも一案である。

コミュニティの住民参加の機会を設ける

コミュニティはさまざまな意見や考え、優先事項や課題をもつ関係当事者によって構成されている。コミュニティを動かすにあたって、それらの関係当事者すべてに対して同時に働きかける必要はなく、コミュニティの区域・部門毎に、CBRのさまざまな分野に、それぞれ異なるタイミングで参加するよう結集できれば良い。

関係当事者には、コミュニティのニーズ、権利、リソース、能力や役割についての意識を高めるための状況分析といったさまざまなCBRの活動に参加してもらうことができる。(導入:運営参照)。

CBRプログラムは、コミュニティの関係当事者の参加を阻む障壁を特定し、彼らとともに克服するために働くことが求められる。参加を阻む障壁には、時間の制約、文化的制限、家族への責任、仕事上の責任、低い自尊心などが含まれる。

関係当事者を一堂に集める

行動や変革のために必要な議論と交渉を開始するにあたって、関係当事者を一堂に集めることはCRBプログラムにとって不可欠である。コミュニティのさまざまな関係当事者を招いて定期的な会合を開くことは1つの良い方法である。会議では、社会的弱者が除外されることなく、自信をもって参加出来るよう力のバランスを考慮しなければならない。

コミュニティ内での能力開発

コミュニティのメンバーはCBRプログラムにおいて重要な役割を果たす。したがって、彼らの知識や技術を伸ばすためにどのようなトレーニングの必要があるかをリサーチする必要がある。能力開発の詳細については、運営の章に記載している。

成果を祝う

コミュニティの関係当事者の意欲と参加継続を確保するため、彼らの貢献と業績が広く公の場で評価される必要がある。その成果を祝うことは、コミュニティを再活性化させ、コミュニティ内外からさらなる関心を引きつけ、さらにCBRプログラムとインクルーシブな開発への支援を取りつける機会となる。