音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

CBRガイドライン・補足

CBRとHIV/エイズ

はじめに

ヒト免疫不全ウィルス・後天性免疫不全症候群(HIV/エイズ)はしばしば、出稼ぎ労働者やセックスワーカー、同性愛者、麻薬常習者や先住民など一部の人々の問題だと理解されがちである(1)。しかし、世界でもっともHIV/エイズの危険にさらされているグループの1つが、身体、精神、知的、知覚障害者だということはほとんど知られていない(2)。それは一般的に、障害のある人は性や薬物使用とは無関係であり、レイプや暴力の被害者とはなりにくいと考えられているからである(3)

国連エイズ合同計画(UNAIDS:Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)、世界保健機関(WHO:World Health Organization)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR:Office of the High Commissioner for Human Rights)による最新の障害とHIVに関する共同政策文書は、障害のある人のHIV感染リスクの高さについて指摘しているが(4)、政府や政策立案者でこの問題に取り組んでいる例は極めて少ない。こうした事実やその他の数々の障壁が、障害のある人のHIVに関する予防、治療、ケアやサポートプログラムおよびサービスの利用を阻んでいる。

本章は、主に障害のある人と彼らのHIV/エイズ感染に対する脆弱性や、主流のプログラムやサービスへの限られたアクセスに焦点を当てるが、CBRプログラムは、HIV/エイズに感染した人が感染や治療の結果、障害を経験する可能性についても考慮する必要がある。HIVに感染した人は、自らの環境において活動する際に、他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを制限する障害を経験した場合、障害をもつと見なすことができる(5)

障害とHIV/エイズはこれまで多くのCBRプログラムにおいて見過ごされてきた。しかし、地域に根ざしたインクルーシブ開発を戦略とするCBRならば、HIV/エイズに関するプログラムやサービスにおいて障害についての認知度を効果的に上げることができる。CBRは、障害のある人のニーズが確実に対処されるよう促し、障害を経験する可能性のあるHIV/エイズ感染者の社会的インクルージョンと機会均等についてのニーズに対応し、支援する。

BOX10 ナミビア

アレクシアが障害のある人のための法律成立を要請する

アレクシア・マノンベ=ンクンベ(Alexia Manombe-Ncube)はナミビアで初めて選ばれた障害のある国会議員である。彼女によれば、多くのアフリカ諸国において、障害のある人のHIV感染リスクは、ない人のそれより明らかに高いという。

彼女は障害のある人に対する社会の本流からの排除こそ、この問題の根幹であると断言している。例えば視覚障害のある人は、保健教育についての啓発ポスターや広告を見たり読んだりすることができない。同様に、聴覚障害のある人はテレビやラジオを通じた感染拡大予防についての情報を得ることができず、肢体障害のある人は検査や相談のために保健所まで出向くことができないこともある。また、保健教材が点字や手話に翻訳されることはほとんどない。このほか、障害のある人が直接被害を受けることもある。例えば知的障害のある少女や女性は、無防備の性交渉に応じてしまいがちである。

しかしこれまでどれほど多くの保健サービス提供者がこの問題に真剣に取り組んできただろうか。マノンベ=ンクンベ氏は自身の地位を有効に活用し、障害者に関する新法成立を国会に働きかけている。障害のある人のHIV/エイズの予防や治療へのアクセスがない状況では、ミレニアム開発目標のゴール6「HIV/エイズやその他の疾病の蔓延の防止」を達成することは不可能である。

出典:(5)

目標

障害を経験している人が普遍的にHIV/エイズの予防、治療、ケアや支援プログラムやサービスにアクセスできる。

CBRの役割

CBRの役割は、(i) 障害のある人とその家族が、コミュニティで実施されているHIV/エイズ関連のサービスやプログラムについての情報を得ることができるようにする、(ii) 障害のある人とその家族がHIV/エイズ関連のサービスやプログラムを利用することができるようにする、(iii) 一時的、もしくは恒久的な障害をもつHIV/エイズ感染者をCBRプログラムに取り込む、である。

望ましい成果

  • 障害のある人が、一般のHIV/エイズ対策プログラムやサービスにアクセスできる。
  • HIV/エイズによる障害をもつ人がCBRプログラムに含まれている。
  • HIV/エイズと障害問題に関わる人たちが、それぞれについてよく理解する。
  • 障害とHIV/エイズそれぞれの関係当事者間にネットワークやパートナーシップが構築される。
  • 開発プロジェクトの主要な分野に、HIV感染者を含める。
  • 職場において、CBRスタッフのHIV感染リスクを下げるための適切な対策をとる。また、HIV/エイズに感染しているスタッフに対しては必要な支援を提供する。
  • 国家レベルのHIV/エイズ政策に障害のある人も含まれる。

主要概念

HIV/エイズ

HIVとは、エイズを引き起こすウィルスのことである。HIVは感染者の血液や体液に直接触れたときに感染がおこり、例えば感染者との無防備な性行為や注射針の共用などによって感染する。また、母親が感染者の場合、新生児が出産前、分娩時、もしくは出産後に感染することもある。

エイズはHIV感染の最後のステージである。エイズは免疫システムに影響し、病気と闘うことが難しくなり、がんや神経システムの崩壊など致命的な病気を引き起こすこともある。また、すべてのHIV陽性者がエイズを発症しているわけではなく、発症まで長い時間がかかるケースもある。抗レトロウィルス治療(ART:Antiretroviral Treatment)によってHIVの進行を遅らせることができるが、完治はできないことから、予防が最善かつ唯一の対処法となっている。

HIV/エイズ感染者と障害

HIV/エイズ感染者の多くが障害を経験している。抗レトロウィルス治療によって余命が伸び、長く生きられるようになった人も多いが、一方でそれは不調と好調のサイクルを特徴とする慢性的な症状を抱えながら生きなくてはならないということを意味する(6)。HIV/エイズ感染者は、治療や病気の進行により一過性もしくは慢性のさまざまな障害を経験する可能性がある。例えば、倦怠感や消化器系、皮膚、神経の障害などは治療の過程でよく起きるもので、歩行や入浴、運転が困難になるなどさまざまな機能障害に結びつく可能性がある。

HIV/エイズ感染者はスティグマや差別も経験する。それは、HIV/エイズが社会的に受容されにくいと考えられる行動に結びついていることが多いからである。彼らは差別や人権侵害の対象となり、多くは職場や家庭から追い出され、家族や友人に拒否され、殺される人すらいる(7)

障害のある人とHIV/エイズ

セクシュアリティ

セクシュアリティとは、人間が性的な生き物であるということを体験したり、表現する方法であり、HIV/エイズについて考えるときに重要な主題である。多くの社会において、セクシュアリティについて自由に話すことはタブーとされており、特に障害との関連でこれに言及することを好まない人が多い。しかしながら、多くの障害のある人にとってセクシュアリティは現実的な問題であり、無視することはできない(8)。障害のある人は無垢で子どものように見えることから、性とはあまり関係がないだろうとか、性的な関係に至ったり性的欲求をもったりすることが他の人より少ないだろうと考えられがちである。しかしこれはまったくの誤解で、障害のある人の多くは障害のない人と同じように性的に活発であり(9)、それゆえHIVに感染するリスクも同様にあるのである。

リスク要因

「HIV/エイズと障害に関する国際調査」によると、HIV/エイズ感染リスク要因のほとんどが障害のある人に対してより大きいという。いくつかのリスク要因を以下に挙げる(10)

識字率:HIVに関するメッセージを理解し、感染リスクのある行動を変える上で、識字能力は重要である(8)。教育コンポーネントで指摘しているとおり、障害のある人はない人と比べて教育レベルが低いとされており、障害のある人のHIV感染リスクがより高いことを示唆している(教育コンポーネント参照)。

HIVについての限られた認識と知識:障害のある人は性についてあまり知識をもっておらず(9)、またHIVについての情報ももっていない(11)。これは家庭や学校におけるエイズ教育の盲点によるものだと言える。つまり、障害のある人のセクシュアリティに対する社会の誤解と、エイズについての情報やメッセージが、アクセシブルな形で普及していないということに起因する。例えばエイズ予防キャンペーンが新聞や広告の形のみで行われると視覚障害のある人には届かない。同様に、ラジオのみを使った啓発の場合は聴覚障害のある人には不適切であるし、詳細で複雑な情報を使用したキャンペーンの場合は知的障害のある人が対象から除外されることになる(3)

BOX11 モザンビーク

セクシュアリティを認識する

モザンビークで行われたHIVと障害についての調査によると、HIV/エイズ政策や対策プログラムにおいて障害のある人が常に除外される原因の1つは、障害のある人が、性的欲求をもつ人間だと認めないもしくは認めたくないことにあるという。同調査では、これも障害のある人に対するスティグマや差別の一面であると指摘している。

HIV感染リスクの高い行動:無防備な性行為や注射による麻薬使用、売春などはHIV感染リスクを高める行動である(10)。また、自尊心が低く、自分には魅力がないなど劣等感をもっていることがリスクの高いセックスに結びつくことも多い。例えば、障害のある青少年の中には、社会に受け入れられたいがためにセックスを強要される者も多く、その場合は安全な方法を選ぶことができない(3)

性的虐待:障害のある人は、障害のない人よりも性的虐待やレイプの被害者になる危険性が高く(4)、それゆえHIV感染リスクも高い。また障害のある人はケア提供者への依存、施設での生活、法的権利へのアクセスの欠如など、多くの要因で虐待に対して非常に脆弱な立場にある(10)(社会コンポーネント参照)。

HIV/エイズの予防、治療、ケアとサポートに対する障壁

障害のある人にとって、検査やカウンセリング、治療、ケア、サポートといったHIVサービスはアクセスしにくい(10)(13)。その阻害要因となっているものは、保健コンポーネントで紹介したものに通じるが、主に以下のとおりである。

政策:一般的に、障害のある人は生活の質が低く社会に貢献することはできないと考えられているため(14)、政治家が時間や労力、リソースは障害のない人々のために優先的に使おうと考えるのは珍しいことではない(8)。抗レトロウィルス治療薬の入手が困難でHIV/エイズに対するサービスや支援が限られている場合など、すべての人が治療を受ける権利があるにもかかわらず、障害のある人がもっとも後回しになってしまうこともよくあることである(2)(8)

環境やコミュニケーション上のバリア:病院などでのエイズ対策サービスは、しばしば障害のある人にとって物理的にアクセスしづらかったり(車いすユーザーのためのスロープがないなど)、手話や点字、オーディオや易しい表現による説明がなかったりする(5)

保健ワーカーのネガティブな態度や誤った知識:障害のある人の多くが、セックスやリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)の情報を入手しようとして嘲笑されたり、無視されたりした経験をもっている(14)。このほか、せっかくHIV検査ができる施設まで行ったにもかかわらず、障害のある人がHIVに感染するわけがないだろうという誤った考えをもった保健スタッフが、受け入れを拒否するケースが多くの国で報告されている(8)

健康を求める行動:障害のある人がHIV/エイズサービスを利用しない理由はたくさんある。保健ワーカーの否定的な態度のために、性に関する問題についての助言を求めることを躊躇したり(11)、HIV/エイズに関するスティグマのために、秘密にしたい、信じたくないという気持ちがはたらいて検査をためらったり(9)、障害のある人の多くが保健サービスを利用するにあたり家族や友人に依存していることから、検査を受ける際に彼らに知られることを恐れ、もしくは恥ずかしく思ってサービスを利用しなかったりする。

HIV/エイズの家族への影響

家族の中にHIV/エイズ感染者がいるということは、障害のある人にも影響を与える。障害のある人は日常生活を送る上で家族の援助が必要である上、医療、教育、リハビリにおいても特別な対応が必要となることから、家族がHIV/エイズに感染することによって収入が減ったり、リソースや時間のロスがあったりすると、注意を払われなくなる可能性がある。また、エイズによって両親もしくは片親を失った子どものうち4-5パーセントは障害をもっていると推定されているが(5)、親が亡くなった後の子どもたちは栄養失調に陥ったり、施設に入れられたり、放置もしくは見捨てられる可能性が高い(10)。このほか、障害のある子どものうち、HIVに感染している者はすべての面、特に教育の分野において除外され、差別される可能性が高い(5)

障害のある人にも届くプログラムへ

障害のある人がHIV/エイズ対策プログラムやサービスを利用できるようにする

これまで、コストがかかりすぎる、もしくは難しすぎると考える人が多かったために、主流のHIV対策プログラムやサービスに、障害のある人が含まれることはあまりなかった。しかし実のところ、CBRプログラムや障害当事者団体、HIV/エイズ問題提唱者、教育者、政策立案者らが、障害のある人をHIV対策プログラムに含める方法はたくさんある。推奨される活動にもたくさんの実用的なアイディアが出されているが、一般的には以下のポイントに集約される。

  • 主流のHIV/エイズ対策プログラムやサービスに障害のある人が参加できるよう手助けする。
  • 主流のHIV/エイズ対策プログラムやサービスを、障害のある人にも利用しやすいよう調整する。
  • 主流のHIV/エイズ対策プログラムやサービスが行き届かない人々に対し、障害に特化したプログラムを計画、実行する。

リハビリテーション

HIV/エイズによる障害をもつ人々にとって、リハビリテーションは重要な問題となる。HIV/エイズに関連するリハビリテーションは悪化のスピードを遅らせ、自立した生活を達成または維持させるものである。詳細については保健コンポーネントで触れているのでここでは詳しく述べないが、強調したいのは、HIV/エイズ感染者が抱える可能性のある機能障害に対し、CBRはコミュニティレベルで重要な役割を果たすということである。また、HIV/エイズによる障害をもつ人の健康的で充実した生活を維持するための社会復帰支援など、他の支援や他のリハビリテーションの側面を考えることも重要である。

推奨される活動

HIV予防、治療、ケアと支援へのアクセスの促進

CBRは下記の方法により、障害のある人がHIV/エイズ予防、治療、ケアとサポートに参加することを制限する障壁の対処に向け努力すべきである。

  • 障害のある人とその家族が、自分のコミュニティにHIV/エイズ対策プログラムやサービスがあることを知り、それに参加する権利があるという認識をもつよう手助けする。
  • HIV/エイズ対策プログラムやサービスが物理的にアクセス可能なものにする。例えば、ミーティングがアクセシブルな場所で行われるよう奨励したり、障害のある人にとっても利用しやすいように調整するための助言や支援を提供する。
  • 一般向けのHIV/エイズ対策プログラムやサービスのポスターや広告などに、障害のない人とともに、車いすユーザーや白杖を持った視覚障害のある人など、障害のある人も使用する。
  • 障害当事者団体と協働し、HIV/エイズ対策プログラムやサービスが障害のある人にとってより理解しやすいものとなるよう、簡単な調整法などをアドバイスする。例えば、啓発教育の際にコンドームを配布し、視覚障害のある人が実際に触ってどんなものなのか、どう機能するかを知ることができるようにする。
  • HIV感染リスクのある障害者にHIV/エイズについての情報や教材を提供し、それらが確実に届くようにする。
  • 既存のHIV/エイズ教材が障害のある人にとってもアクセシブルなものとなるようにする。例えば、聴覚障害のある人には字幕や手話通訳を入れたり、視覚障害のある人には点字やオーディオテープを使用し、知的障害のある人には絵や写真を用いたりする。
  • 障害当事者団体と協働し、主流のHIV/エイズ対策プログラムやサービスが届かない人々に対して、新しいプログラムを計画する。例えば、障害のある人のみを対象とした啓発教育の企画など。
  • 主流のサービスを利用するために必要な実質的支援、例えば交通手段の確保などを通じて、アクセスを向上させる。
  • 障害のある人とその家族がHIV陽性と診断された後、治療やケア、サポートなどの適切なフォローアップができるよう体制を整える。

BOX12 ウガンダ

タイムリーな支援を受けながらHIVとともに生きる女性

ウガンダで、聴覚障害のある若い女性がHIV/エイズ陽性の男性と性的関係をもった。女性は妊娠したが、男性は彼女にも、そしてその子どもに対しても責任をもたなかった。女性の家族は彼女がHIVに感染したのではないかと心配し、カウンセラーのところへ連れて行ったところ、陽性と診断されたが、すぐに抗レトロウィルス治療が受けられるよう手配が整えられた。現在、女性と赤ちゃん(検査の結果陽性ではなかった)は元気に生活している。彼女は定期的に薬を服用し、仕事をしながら家事も手伝っている。彼女の家族は現在、障害のある人の家族がHIV/エイズについての情報を得られるよう支援活動を行っている。

HIV/エイズ感染者も参加できるCBRプログラムへ

CBRにおいて、インクルージョンはもっとも重要なポイントの1つであることから、障害を経験する可能性のあるHIV/エイズ感染者のニーズについても対応していくべきである。HIV/エイズ感染者の中には、リハビリや補助器具などの特別なサービスが必要な人もおり、CBRはこれを支援することができる。

能力開発

障害のある人やその家族、CBRスタッフ、障害当事者団体、保健スタッフ、地域住民など、多くの関係当事者が自分たちの能力を開発することができる。CBRは以下の行動をとることができる。

  • コミュニティレベルでのHIVや障害に関する意志決定について、女性の役割を強化するための活動を支援する。
  • 障害やHIV/エイズ感染者を支援する人々(家族など)が必要なトレーニングやサポートを受けられるようにする。
  • CBRプログラムにおいて、セクシュアリティやリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)、性的虐待など、HIV/エイズと関連のある問題が十分に対応されるよう支援し、また必要があればCBRスタッフに追加でトレーニングを提供する。
  • 障害当事者団体や障害のある人を巻き込み、HIV/エイズ活動に参加できるようにする。例えば、地域や特定の障害者グループにおいて、障害のある人がHIV/エイズの教育者として活動できるようトレーニングする。
  • 障害当事者団体と協働し、HIV/エイズ教育者やアウトリーチワーカー、保健スタッフに障害問題についてのトレーニングを行う。
  • 地域や宗教リーダーに障害とHIV/エイズについての教育を行い、障害やHIV/エイズ感染者に対する否定的な態度に対応し、彼らの社会参加が可能となるよう働きかける。
  • 警察官や弁護士、裁判官など法律に関わる人々に対し、障害やHIV/エイズ問題、障害のある人々の安全な暮らしや人権保護の必要性について教育する。

BOX13 

聴覚障害のコミュニティにおけるHIVプログラム

国によっては、地域に根ざした聴覚障害のグループがHIV予防プログラムを実施している。これらのプログラムは、聴覚障害のコミュニティにおけるHIV啓蒙や、より安全な生活習慣についての情報提供を行っている。彼らはまた、HIV関連組織や政府プログラムが行う情報提供についても、さまざまな手段を用いる必要があると啓蒙している。

ネットワークとパートナーシップの構築

障害とHIV/エイズの間には深いつながりがあることから(障害のある人もHIV/エイズ感染のリスクにさらされていること、HIV/エイズ感染者は障害を経験する可能性があるということなど)、両分野の関係者の間には強力なネットワークとパートナーシップが構築される必要がある。CBRプログラムはこれに関し、以下のような行動をとるべきである。

  • HIV/エイズに関する地域のイベントやミーティングに参加し、障害問題が検討されるようにする。また、CBRプログラムはHIV/エイズ関係者を障害問題についてのイベントやミーティングに招待する。
  • 障害当事者団体(ある場合)と緊密に協働し、障害のある人にHIV/エイズ情報や教育を提供できるよう、地域レベルで戦略を立てる。また、必要があれば地域のHIV/エイズワーカーに障害問題についてのトレーニングを提供する。
  • 障害についての教育やトレーニングを通じ、CBRプログラムで培ってきた障害やリハビリテーションに関する専門知識をHIV/エイズ関係者と共有し、リハビリテーションの利点や障害のある人もHIV感染のリスクにさらされているという点についての認識向上を図る。
  • 専門知識やスキルをCBRプログラムや障害当事者団体に共有してもらうため、HIV/エイズ分野のプログラムやサービスを招待し、CBRスタッフやメンバー、利用者のニーズに応えられるようにする。
  • CBRプログラムとHIV/エイズプログラムの間にリファラルシステム(照会制度)を構築する。

多部門のアプローチを奨励する

障害もHIV/エイズも開発問題である。この2つは貧困、スティグマや差別、暴力や不平等(教育や就業の機会不平等)といった多くの問題点を共有している。それゆえ、障害とHIV/エイズの両方に対応する場合、CBRプログラムはすべてのセクターを横断的に考慮して計画すべきである。本ガイドラインの保健、教育、生計、社会およびエンパワメントについてのコンポーネントは、その活動例について包括的にまとめているが、いくつかを以下のとおり紹介する。

  • セクター横断的に存在する、障害とHIV/エイズに関するコミュニティのスティグマや差別に対応する。
  • 障害のある人が性教育も含めた教育を受ける権利を向上させ、彼らが参加しやすくアクセス可能な環境を実現させる(教育コンポーネント参照)。
  • 障害のある人とHIV/エイズ感染者、そしてその家族が生計向上活動に参加できるようにする(生計コンポーネント参照)。
  • 障害のある人とHIV/エイズ感染者がフォーマルもしくはインフォーマルに提供される社会保護スキームにアクセスできるようにする(生計コンポーネント参照)。
  • 障害のある人が、性的虐待を回避、もしくは対処できるようデザインされたプログラムや仕組みにアクセスにできるようにする(社会:交友関係・結婚・家族司法参照)。

職場におけるHIV/エイズ対策の実施

HIV/エイズは職場における問題でもある。多くの国で、CBRスタッフとその家族はHIV/エイズ感染リスクにさらされているか、何らかの影響を受けている可能性がある。それゆえCBRプログラムは、職場における適切な対策を下記のように設定する必要がある。

  • CBRスタッフがHIVに感染するリスクを最小限に抑える。
  • HIVに感染しているCBRワーカーや、家族にHIV/エイズ感染者のいるCBRワーカーについて、適切なサポートを行う。
  • 職場においてHIV/エイズに対するスティグマや差別がある場合は、それを撤廃する。

HIV/エイズ対策を行うにあたっては、次の点がカバーされている必要がある。HIVにより影響を受けている人々の権利を守る、情報・教育・トレーニングによって予防する、ワーカーとその家族に対するケアとサポートを行う(15)

インクルーシブな国家政策とプログラム作りを奨励する

政府のHIV/エイズに関する政策やプログラムでは、障害のある人が蚊帳の外に置かれてしまうことが多いため、CBRプログラムがさまざまなグループと協力してロビー活動や政策提言を行う必要がある。例えば、2007年に始まったHIV/エイズと障害に関するアフリカキャンペーン(Africa Campaign on Disability and HIV and AIDS)は、障害当事者団体やHIV/エイズ当事者団体、非政府組織、HIV/エイズ支援プログラム、研究者、活動家、そしてその他の市民団体などが1つになったネットワークであり、HIVプログラムへの平等なアクセスと、障害のある人のためのエイズ政策と戦略計画への参加確保のために協力して活動を行っている(16)

BOX14 南アフリカ

新たな一歩

南アフリカは、2007-2009年の国家のエイズ戦略に、初めて障害者を盛り込んだ。これは、政府内推進者のリーダーシップと、障害当事者団体の強い組織力、南アフリカ国家エイズ協議会(South African National AIDS Council)の協力によって実現した(5)


<参考文献>

1. Hanass-Hancock J, Nixon SA. The files of HIV and disability: past, present and future. Journal of the International AIDS Society, 2009, 12(28):1-14 (onlinelibrary.wiley.com/journal/17582652, accessed 12 April 2018).

2. Groce N. HIV/AIDS and individuals with disability. Health and Human Rights, 2005, 8(2):215-224 (http://v1.dpi.org/lang-en/resources/details?page=526, accessed 30 March 2010).

3. Groce N. HIV/AIDS and people with disability. The Lancet, 2003, 361:1401-1402 (http://globalsurvey.med.yale.edu/lancet.html, accessed 30 March 2010).

4. UNAIDS, WHO and OHCHR policy brief: disability and HIV. Geneva, UNAIDS/ World Health Organization/Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, 2009 (www.who.int/disabilities/jc1632_policy_brief_disability_en.pdf, accessed 30 March 2010).

5. HIV/AIDS higher among disabled. International Disability and Development Consortium (undated) (www.includeeverybody.org/cs-hiv.php, accessed 30 March 2010).

6. Rusch M. et al. Impairments, activity limitations and participation restrictions: prevalence and associations among persons living with HIV/AIDS in British Columbia. Health and Quality of Life Outcomes, 2004, 2:46

7. Stigma and discrimination. UNAIDS, 2009 (www.unaids.org/en/PolicyAndPractice/StigmaDiscrim/default.asp, accessed 30 March 2010).

8. Disability and HIV/AIDS: at a glance. Washington, DC, World Bank, 2004 (http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EXTSOCIALPROTECTION/EXTDISABILITY/0,,contentMDK:20208464~menuPK:488268~pagePK:148956~piPK:216618~theSitePK:282699,00.html, accessed 30 March 2010).

9. Rohleder P et al. HIV/AIDS and disability in Southern Africa: a review of relevant literature. Disability and Rehabilitation, 2009, 31(1):51-59.

10. Groce N. HIV/AIDS & disability: capturing hidden voices, global survey on HIV/AIDS and disability. New Haven, Yale University, 2004 (http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EXTSOCIALPROTECTION/EXTDISABILITY/0,,contentMDK:20208464~menuPK:488268~pagePK:148956~piPK:216618~theSitePK:282699,00.html, accessed 30 March 2010).

11. Yousafzai AK et al. Knowledge, personal risk and experiences of HIV/AIDS among people with disabilities in Swaziland. International Journal of Rehabilitation Research, 2004, 27:247-251.

12. Disability and HIV & AIDS in Mozambique: a research report by Disability and Development Partners April 2008. London, Disability and Development Partners, 2008. (www.reliefweb.int/rw/RWFiles2008.nsf/FilesByRWDocUnidFilename/EDIS-7J7PFZ-full_report.pdf/$File/full_report.pdf, accessed 30 March 2010).

13. Yousafski A, Edwards K. Double burden: a situation analysis of HIV/AIDS and young people with disabilities in Rwanda and Uganda. London, Save the Children, 2004. (http://v1.dpi.org/files/uploads/1600_DoubleBurden.pdf, accessed 30 March 2010).

14. HIV, AIDS and disability. Ottawa, Interagency Coalition on AIDS and Development (ICAD), 2008 (www.aidslex.org/site_documents/DB-0038E.pdf, accessed 30 March 2010).

15. The ILO and HIV/AIDS. Geneva, International Labour Organization (undated) (www.ilo.org/aids/lang--en/index.htm, accessed 12 April 2018).

16. Disability and HIV & AIDS. The Africa campaign on disability and HIV & AIDS (www.africacampaign.org, accessed 10 August 2010).

<推奨される文献>

Bridging the gap: a call for cooperation between HIV/AIDS activists and the global disability movement. Tataryn M, 2005 (http://v1.dpi.org/lang-en/resources/details.php?page=325, accessed 30 March 2010).

International guidelines on HIV/AIDS and human rights, 2006 consolidated version. UNAIDS, 2006 (http://data.unaids.org/Publications/IRC-pub07/jc1252internguidelines_en.pdf?preview=true, accessed 30 March 2010).

MacNaughton G. Women’s human rights related to health-care services in the context of HIV/AIDS (Health and Human Rights Working Paper Series, No 5). Geneva, World Health Organization, 2004 (www.who.int/hhr/information/Series_5_womenshealthcarerts_MacNaughtonFINAL.pdf, accessed 10 August 2010).