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第1部
世界の状況

第3章
すべての生活分野への第12条の影響

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知的障害のある人々とその家族は、意思決定の権利の否定が生活にもたらした影響を話し合うよう求められると、住む場所や支援のニーズ、極めて個人的な選択に関する日々の決定における制約について語った。多くの場合、生活において自分で決められることが限られているのは、公式な代替的意思決定が原因ではなく、むしろ、政策と法制度(投票および結婚に関する法律、財政および医療に関する政策など)またはサービス提供者、家族や地域社会の人々の社会的態度によるものである。

条約が2008年5月に発効して以来、各国政府、学術機関および政策立案者の間では、第12条と法的能力の権利をめぐる重要な議論が交わされてきた。この議論の多くは、自分自身の人生について意思決定を行う権利を排除する公式な法体系への取り組みが中心であった。後見制度、「禁治産宣告」およびその他の形態の代替的意思決定などの法的メカニズムは、個人の意思決定の権利を公式に排除し、第三者に与えるものである。(代替的意思決定から支援付き意思決定への移行については、第4章で論じる。)この法的能力の権利の否定が世界で定着してしまっているがために、世界中の当事者が、後見制度と代替的意思決定に関する法律を廃止する法改革と、意思決定能力や精神保健関連の法律をめぐるその他の改革の必要性を強調してきたのである。これらの議論は確かに必要であるが、そこでは、知的障害のある人々が、公式な代替的意思決定制度の下に置かれているか否かを問わず、意思決定の権利をどのように否定されているかについては取り上げられておらず、また、決める権利が日常生活におけるすべての意思決定分野に、どのように影響を与えているかも論じられていない。

締約国は、障害のある人の法的能力の権利が、他の者との不平等に基づき制限されることのないよう、法律のあらゆる領域を総合的に検討しなければならない。歴史的に見て、障害のある人は、後見人制度や強制治療を認める精神保健法などの代理人による意思決定制度の下で、多くの領域において差別的な方法で、法的能力の権利を否定されてきた。障害のある人が、他の者との平等を基礎として、完全な法的能力を回復することを確保するためには、これらの慣行は廃止されなければならない。

(障害者権利委員会 第12条に関する一般的意見)

一般に、決める権利の影響を受ける生活分野は、以下の3種類に分類できる。

1)健康に関する決定
2)金銭および財産に関する決定
3)個人生活および地域社会に関する決定

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これらの生活分野は、当然のことながら、完全に分かれているわけではない。多くの場合、異なるカテゴリーの間で重複が見られる。例えば、どこに住むかを選択する権利に関する決定は、財産に関する決定と個人生活に関する決定の両方に該当する。医療に関する決定には、性と生殖にかかわる決定が含まれ、それは本質的に、家族生活に関する個人的な決定と結び付いている。とはいえ、決める権利が個人の生活のあらゆる分野に影響を与えるという点は変わらない。

健康に関する決定

知的障害のある人々は、自分の身体に施されることを自分で決めるという基本的な権利を否定されることが多い。医療に関する決定には、医療処置を受けるか否か、治療への同意などの公式な決定に加えて、栄養面、身体活動、衛生面、喫煙および飲酒、避妊などの非公式な決定も含まれる。

知的障害のある人々は、多くの場合、性と生殖に関する保健事業などの医療教育および医療事業への参加を拒まれる。また、これらの事業に参加しても、情報が明確ではなかったり、理解しやすいものではなかったりすることがしばしばある。このため、いざ医療に関する決定を下すときになると、知的障害のある人々には十分な情報がなく、決定を下せないことが多い。栄養、運動およびその他の保健・健康面の懸念に関する選択は、多くの場合、サービス提供者または家族によって、本人の健康増進を願う善意に基づいてなされる。

英国ピープル・ファーストの会員との議論において、ある参加者が、治療を受ける際に「いろいろなことを、なぜされるのか、説明はありません」と述べた。別の参加者は、健康問題に関する読みやすい情報が利用できれば助かると述べ、さらに別の参加者は、健康的なライフスタイルを実現する方法について、役に立つ情報が必要だと語った。

ケニアの知的障害アドボカシーセンター(MDAC)が実施した調査1からは、知的障害のある人々の多くが、まったく「医療処置について説明を受けておらず、治療に関する決定への同意を求められることもない。それは身内や介助者が代わりに行うことが多い」ことが明らかになった。

医師と医療専門家も、本人の意見、懸念および選択を軽視することがある。ガーナでは、インクルージョン・ガーナ(Inclusion Ghana)2によって作成された報告書で、知的障害のある人々が治療に関する希望を適切に表明できるか否かに関して、医療専門家の見解が著しく異なることが判明した。インタビューに回答した医療専門家の大多数は、知的障害のある人々が自分自身の選択を表明できるようにするべきだと考えていたが、それは、知的障害のある人々の意見が信頼できる、あるいは価値があるとの考えからではなかった。むしろ、知的障害のある人々が自分自身の意見を表明することを認めないのは、彼らに対して失礼だと考えていたからである。「私たちは、彼らが語ることを認めなければなりません。たとえそれが意味をなさなくても。そうすれば、知的障害のある人々はのけ者にされているようには感じないでしょう。」

知的障害のある人々が自分自身で治療を選択することを認めることに異議を唱えたガーナの医療専門家らは、多数の理由をあげた。そのいくつかを紹介する。

  • 「彼らの脳は機能していないか、あるいは彼らのIQは低いので、いかなる決定を下すことも認められないと思います。」
  • 「日常生活に関する多くの知識が、彼らにはありません。」
  • 「知的障害のある患者は誰も、自分のどこが悪いのか伝えられません。」
  • 「彼らが私たちに伝えられる重要なことは何もないと思います。」

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決める権利:不妊手術

知的障害のある人々の不妊手術は、主として知的障害のある女性を対象としているが、これに限定されるわけではなく、歴史的には、本人の意思決定の権利、生殖の権利、自分の身体を管理する権利に配慮することなく実施されてきた。不妊手術は、多くの場合、それがセクシュアリティの表出を防ぎ、性的搾取の機会を減少させる、あるいは、性感染症にかかる可能性を減少させるという、誤った(しかし真摯な)信念を持って行われてきた。

「娘に不妊手術をしなければいけないと決心しました…娘の安全のためにそうしたのです。」(メキシコ 親)

「娘(3歳)が通う施設で、娘を後見制度の下に置くよう言われました。そうすれば、娘に不妊手術ができるからです。そして、この方が娘のためになると言われました。虐待を受ける可能性があるし、女の子は将来妊娠する危険もあるから、と。」(コロンビア 親)

条約第12条および第23条1(c)と直接対立する形で、一部の国の法律では、家族や医療専門家による、障害のある人々の不妊手術の決定が支持されている。2013年にコロンビアでは、憲法裁判所が、すべての未成年に対する避妊を目的とした外科的不妊手術を禁じる法律に対する異議申し立て3に続き、親の同意を得た上での知的障害のある未成年に対する不妊手術を承認した。裁判所はさらに、次のように述べた。「将来、不妊処置を受けることに同意を示すのは不可能であることが立証されている障害のある未成年については、親が、あるいは、場合によっては法的後見人が、司法当局に対し、外科的不妊手術の許可を要請しなければならない。4

ケニアでは、本人の同意なく不妊手術を施された20代の若い女性が、体験談を語ってくれた。「聞いて下さい。ここ(ブラウスをたくし上げてお腹の傷を見せながら)を見て下さい。ここの手術を受けたのです。これは避妊措置で、私たちは皆、こんな風にされました。子どもは持てません。誰も私に、それを望むかと尋ねませんでした。子どもが大好きなので、私に聞くべきだったのに。残念です。でも、今さらどうすることができるでしょう?」

十分な情報を得た上での同意を得ずに行われる不妊手術は、自分の子どもを持つことを選択する権利を奪うものである。

「私は娘に不妊手術をしたいと考えていましたが、やめました。決め手となったのは、娘の友人の話です。彼女は少女の頃に手術を受けましたが、のちにパートナーを得て、子どもを持ちたいと考えたとき、自分が不妊手術を受けていたことを知って、とてもつらい思いをしたのです。それで、娘には手術をしないことにしました。障害のある人も、子どもを持ち、責任を果たす能力(アビリティ)はあるのですから。」(メキシコ 親)

不妊手術に関するカナダ最高裁判所の判決(E夫人対イヴ [1986] 2 S.C.R. 388)

私たち、カナダ地域生活協会(CACL)は、本人委員会設立後まもなく、イヴという若い女性の訴訟への介入を希望するかどうか、打診された。イヴの母親は、娘の非治療的不妊手術を認める法的権利が自分にあるかどうかを問いかけていた。この訴訟はカナダの最高裁判所まで進んだ。最高裁判所では判決に関心のある第三者が見解を示すことができる。

CACLが介入すべきか否かという議論は、理事会に波乱を巻き起こした。理事会の多くの親は、子共の最善の利益が何かを知ることに全力を傾けた。しかし、本人は、十分な情報を得た上で不妊手術に同意できる者は、その意思を認められるべきであるが、そのような同意(インフォームドコンセント)ができない場合、意思決定の権限を誰にも与えるべきではないという見解を示した。

理事会は同意に達することができず、本人が自分で弁護士を雇えるよう支援することで合意した。インクルージョン諮問委員会は、介入者としての独自の立場を模索した。判決は予期せぬもので、最高裁判所は本人の主張を全面的に受け入れ、非治療的処置に関しては、本人がインフォームドコンセントを与えられない場合、いかなる第三者もこれを行うことは認められないと決定した。

この判決はCACLのターニングポイントとなった。親が自分の子どもと初めて対立することになったのである。これは人権の問題であり、この国の最高裁判所は、成人している子どもの代わりに決定を下す権利は、親にはないと述べたのだ。

イヴの訴訟は発端となった。本人の勝利は、彼らに自ら発言する新たな自信を与え、協会の多くの会員には、耳を傾ける謙虚さが生まれた。次のメッセージは、当時はまだカナダ精神遅滞者協会として知られていた、この協会の名称に関するものとなった。

本人のメッセージは明白である。レッテルを貼られることはつらい。レッテルは差別につながる。地域社会への知的障害のある人々のインクルージョンを達成する際の問題は、障害の性質よりも、彼らを排除している障壁に関係があるのだ。

ダイアン・リッチラー(Diane Richler)

金銭および財産に関する決定

知的障害のある人々は、自分の金銭を管理し、財産に関する決定を下す権利をしばしば否定される。金銭および財産に関する決定には、お金の使い方や予算の立て方などの非公式な決定と、銀行口座の開設、財産の購入や相続、遺言と遺産の計画、融資や財政投資などの信用枠の利用など、より公式な決定や取引の両方が含まれる。

ザンジバルの本人が語った以下の話にあるように、多くの場合、金銭面の決定にかかわる決める権利の否定には、公式な司法手続きは一切伴わない。

「私の名前はハフィディ・セイフ・スレイマン(Hafidhi Seif Suleiman)です。21歳です。お店を持っていて、台所用品や家庭用品を売っています。お店を開くことを思いついたのは家族と私で、当事者の研修旅行でアメリカに行ったのがきっかけです。お金を十分にためて、家族から追加資金を寄付してもらって、なんとか開店しました。父が店番をしてくれて、私は父と一緒に客に商品を届けています。お金は父が管理していて、私が何かにお金を使いたいときは、いつも父に頼まなければなりません。」

「私の名前はマリアン・バカリ・アリ(Maryan Bakari Ali)です。ベビーシッターをしています。仕事で受け取るお金は母が管理していて、お金を使いたいときは、いつも母に頼まなければなりません。」

多くの国で、知的障害のある人々は、実際には土地の相続をせず、また、法的には自分が所有する土地に関する決定を下す権限がない。多くの場合、遺言を通じて本人が実際に土地を相続しても、家族が代わりに資産を「管理」し、ときには深刻な結果をもたらすことがある。「母はダウン症の弟を生んだ後、逃げてしまいました。父は再婚し、亡くなる前に弟に土地を一画分与え、家族に弟の代わりにその土地を管理するよう指示しました。弟が苦しまないように。父の死後、義母は弟を追い出し、彼の分の土地を売ってしまいました。この仕打ちに抵抗することもできず、弟は財産を失ったのです。」(ケニア 兄/姉)

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決める権利:就労

知的障害のある人々は、求職を妨げられ、どこで働くかを決める権利を否定されたり、自分が提供できるスキルを否定されたりすることが多い。

「私は有給の仕事が欲しかったのですが、私がもらっている手当と同じ額はもらえないことを理由に、家族から止められました。手当の一部を失えば、それを再請求するのは難しいでしょう。」(英国 本人)

日本では、本人が就労を阻む障壁に直面しているという声が聞かれた。知的障害のある人々は、政府の規則と規制の「谷間に落ちて、見過ごされている」というのである。「私は政府の支援を受けることができません。中途障害で、IQが知的障害の基準よりも高いからです。仲間と出かけるとき、皆には公共交通機関の割引がありますが、私は知的障害者の「愛の手帳」を持っていないので、割引されません。公共職業安定所に行ったときには、障害のある人向けの職業紹介所で仕事を見つけるべきだと言われました。そこで、そちらへ行ってみましたが、手帳をもっていないので、何もできないと言われました。」(日本 本人)

ケニアのディスカッション参加者は、知的障害のある人々は信用できないという固定観念が蔓延しているため、就職することも職にとどまることも非常に難しいという点で意見の一致を見た。知的障害のあるケニア人の多くは学校へ通っていないため、肉体労働以外考えられない。参加者のアリ(Ali)は、母親が自分のために仕事を探し、知的障害のある人向けの福祉作業所に入所させたとき、自分には何も相談がなかったと語った。自分は行きたくなかったのだ。ンドゥング(Ndungu)の話もこれと似ている。彼はこう話してくれた。「祖母は、ガードマンが必要だと聞いて、頼みに行きました。私に相談はなく、祖母はただ、そこへ行けば仕事がもらえて、食べ物を買うお金が手に入ると言っただけでした。一番の物知りは祖母なので、何か言われたら従わなくてはなりません。それでも大丈夫でした。ただ、夜はとても寒くて、どんなに着込んでも、とてもとても寒いことがありました。でも、今はクビになってしまいました。頭がおかしいと言われたのです。どういう意味かはわかりません。でも、そこでもらったお金を家に入れて、弟や祖母に食べさせていたので、とても残念でした。クビになるということは、食べ物を手に入れるために苦労しなければならないとか、おじたちにお金を借りに行かなければならないとか、そういうことですから。」

個人生活および地域社会に関する決定

決める権利の影響を受ける生活分野として最後に取り上げるのは、個人生活と地域社会に関する決定である。これには、どこで誰と生活するか、誰とつきあい、あるいは結婚するか、どこで働くか、学校で何を学ぶか、余暇およびレクリエーション活動として何をするかなどの非公式な決定が含まれる。また、アパートの賃貸契約や電気・ガス・水道の契約を結ぶこと、家の購入、雇用契約、投票、公職につくための選挙への立候補、国勢調査への参加をはじめとする市民活動への参加などの公式な決定も含まれる。

多くの場合、知的障害のある人々がどこで誰と生活するかは、家族が決定する。地域社会における生活とは対照的に、施設での生活に関する決定は、本人の代理によって下されることが多い。

「私たちに選択の余地はありません。お金がないのですから。選択肢は、家に置いておくか、施設に送るかのどちらかです。」(レバノン 親)

知的障害のある人々は、結婚および/または子どもを持つことを、家族、介助者、医療専門家またはソーシャルサービスワーカーに止められることが多い。法的には障害を理由に結婚が阻止されることはないが、実際には厳しいスティグマにより、知的障害のある人の結婚は難しくなっている。

知的障害のある22歳の女性は、ほかの人と同じように結婚し、家庭を持つことを望んでいるが、身内には、教会や地域管理官事務所での宣誓ができないと言われたと語った。知的障害のある若い男性の母親は、息子が同じように知的障害のある若い女性をどれだけ愛していて、結婚を望んでいるかということ、しかし、女性の両親が結婚の許可を渋っていることを話してくれた。

「あなたに触れることを、彼に許してはいけない、と娘に話しました。働けないのだから、家族は持てない、と。」(スペイン 親)

英国では、重大な支援のニーズがあるか、あるいは、従来の方法では意思疎通ができない(例えば、意思疎通にジェスチャーや特定の行動を使用する)知的障害のある人の家族と介助者にとっては、朝コーヒーを飲むか紅茶を飲むかというような「最も単純な」個人的決定でさえも、支援が難しいという話が聞かれた。知的障害のある人々が、新たなコミュニケーション技術を通じて意思決定を表明する支援が受けられれば、(そして、家族と介助者がこれらの技術を理解するための支援が受けられるようになれば、)これらの決定は初めて現実のものとなり、生活の他の分野における将来の支援付き意思決定の基盤が築かれるであろう。

決める権利:投票および政治参加

知的障害のある人々は、投票、公職につくための選挙への立候補および市民参加を妨げられることが多い。

ケニアでは、知的障害のある人々は、特定の条件を満たす場合に限り、政治参加の権利を行使できる。

  • 政治への関心を持ち、家族またはNGO(非政府組織)による支援がなければならない。
  • 投票所の役人に、「精神異常」と見なされてはならない。(この言葉の意味は、明確に規定されていない。)
  • 投票時に、投票所に物理的にアクセスすることが可能であり、かつ、独力で、あるいは誰かの支援を受けて、投票用紙に記入することが可能でなければならない。

あるワークショップ参加者は、投票能力検査の体験について、「自分がこの権利に価することを証明しなければなりません」と語ってくれた。

欧州では、ヴェニス委員会による選挙法に関する2011年の提案5に、「普通選挙は、欧州における選挙の伝統の基本原則である。障害のある人々は、この点に関して差別されてはならない。」と記載されている。投票能力検査は、他のいずれの市民にも課せられることがなく、明らかに障害のある人々を差別するものであることから、欧州の会員組織は引き続きこの検査を強制しないよう求め、その廃止を強く要請する。6

投票の権利に条件を付加し、投票能力検査を強制することは、条約第12条および第29条のいずれにも一致していない。第29条には、「障害のある人は、その機能障害、法的地位または居所にかかわらず、他の者との平等を基礎として投票し、公的活動に参加する権利を有する」と記されている。

現在、世界の多くの国で、知的障害のある人々の投票と政治参加の権利が否定されている。知的障害のある人々の意志決定能力に関する固定観念が、知的障害のある多くの市民の選挙への参加を阻む大きな障壁となっている。これらの市民は、投票の権利の行使を妨げられているのだ。

世界のほとんどの国において、条約第12条に関する議論の大半は、自分自身の人生に関する意思決定の権限を公式に排除する法的手続きに対する取り組みを中心とするものであった。しかし、決める権利の否定は、生活のあらゆる側面に及んでいる。自分がどう生きるかについて意見を述べることを妨げる法制度や政策(投票および結婚に関する法律など)に真の障壁があり、決める権利の完全な実現を阻む深刻な文化的障壁と態度の障壁がある。これらの障壁に取り組む戦略には、家族法、医療に関する同意、契約法、財政規則、司法へのアクセス、政治参加などの広範な見直しを盛り込まなければならない。とはいえ、法制度や政策の改革だけでは、自分自身の人生を自分で決め、意見を述べる権利を否定する非公式な方法は変えられない。地域社会による支援、意識向上、本人のエンパワメントと、決める権利を可能にするその他の戦略は、法制改革の戦略と切り離すことはできない。

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表4:意思決定を伴うすべての場面における障害者権利条約(CRPD)の影響

生活分野 障害者権利条約の条文 他の権利に影響を与える生活分野で、知的障害のある人の意思決定の権利が、しばしば否定されている例 第12条が政府に与える影響
健康 15
拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
  • 不妊手術などの医療処置や治療がインフォームドコンセントなしに実施される。
  • 知的障害のある人々が科学実験の被験者とされてきた。
  • 締約国は、インフォームドコンセントを保障するための支援を確保しなければならない。第三者は、インフォームドコンセントなしに実施される処置について、説明責任を負わなければならない。
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健康
  • 知的障害のある人々は、医療教育および医療事業(性と生殖に関する保健事業など)への参加を拒まれることが多い。
  • 医師および医療専門家は、本人の意見や懸念、選択を軽視する。
  • 多くの場合、家族が本人に代わって意思決定をする立場にある。
  • 栄養、運動およびその他の保健と健康に関する懸念が、サービス提供者や家族から寄せられている。
  • 医療教育、医療事業および医療サービスは、アクセシブルでなければならない。また、すべての人が参加できるよう、支援が提供されなければならない。
  • 医療ワーカーは、知的障害のある人々やその支援者と効果的にコミュニケーションをとるために研修を受ける必要がある。
  • 障害のある人々のための支援付き意思決定ネットワークを開発するには、彼らの家族への支援が必要である。
  • 意思決定の知識を強化し、スキルを開発するには、本人、家族およびサービス提供者への支援が必要である。
金銭および財産 12(5)
法律の前にひとしく認められる権利
  • 土地などの財産の売買に関する決定は、家族や介助者が本人に代わって行うことが多い。
  • 知的障害のある人々は、多くの場合、単独では財産を相続しない。代わりに誰かほかの者が、相続した財産を管理する権限を与えられる。本人が財産を相続した場合でも、次の相続者を選べないことが多い。
  • 知的障害のある人々は、多くの場合、銀行口座の開設、銀行融資や住宅ローンを利用することができない。
  • 金銭を管理している身内や介助者から、お金の使用許可を得なければならないことが多い。
  • 知的障害のある人々は、すべての関係者から、主たる意思決定者として認められなければならない。また、自分の財産と金銭についての決定を、自分自身で直接に、あるいは支援付き意思決定のメカニズムを通じて、下せるようにならなければならない。
  • 法律と法的手続きでは、知的障害のある人々の、財産を所有あるいは相続し、自分自身の財政問題を管理し、銀行融資、住宅ローンおよびその他の財政的信用を利用する平等な権利を確保しなければならない。
  • 政府は、法的権利を理解し、行使するために必要な支援へのアクセスを提供しなければならない。
  • 専門家(銀行家、貸付業者、弁護士および就職あっせん業者など)による、知的障害のある人々の平等な権利の理解と尊重の確保のために、研修が必要である。
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相当な生活水準及び社会的な保障
  • 家族の資産が限られている場合、障害のある人々は、十分な食事や身の回り品を与えられないことがある。
  • 政府による支援事業では、障害のある人の家族が負担する余分な費用を認め、財政支援を行わなければならない。
  • 障害のある人々のための支援付き意思決定ネットワークを開発するには、彼らの家族への支援が必要である。
  • 利用可能かつ代替的な住宅の選択肢に関する情報が、本人にとってアクセシブルな形で提供されなければならない。
個人生活 13
司法手続の利用の機会
  • 知的障害のある人々は、多くの場合、信用できないと見なされ、そのため、法廷で証人となる機会を否定されている。
  • 知的障害のある人々は、多くの場合、法廷で訴訟を起こすことができない。
  • 知的障害のある人々が、独力で、あるいは他者の支援を受け、法的手続きを開始し、司法制度に完全に参加することが認められなければならない。
  • 法律専門家と警察官は、知的障害のある人々やその支援者と効果的にコミュニケーションを取り、その権利を理解するために、研修を必要としている。
  • 刑事司法制度の利用に関する情報は、知的障害のある人々が受けた不当な扱いに対する賠償について、彼らが十分な情報を得た上で決定を下せるように、アクセシブルなものにしなければならない。
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身体の自由及び安全
  • 知的障害のある人々は、本人の同意なしに拘束されることが多い。
  • 直接に、あるいは支援付き意思決定のメカニズムを通じて、必ず本人の同意を得なければならない。
  • 本人の同意を得るには、十分な情報提供が行われなければならない。客観的な情報を、本人にとってアクセシブルな形で伝えた後にのみ、同意を得るべきである。
  • 政府は、あらゆる違法な自由の剥奪に対抗するために、知的障害のある人々が必要とする支援への平等なアクセスを確保しなければならない。
18
移動の自由及び国籍についての権利
  • どこに、いつ行くべきかは、家族や介助者が決定することが多い。
  • どの国に住むか、どの国籍を取るかは、本人の代わりに家族や介助者が決定することが多い。
  • 政府は、知的障害のある人々が出生時登録を行い、法的地位を確立するために必要な身分証明書を受領することを確保しなければならない。
  • 国は、知的障害のある人々と、知的障害のある人々の家族が、障害に関する支援のニーズを理由に移住することを禁止してはならない。
  • 知的障害のある人々を自らの人生における主たる意思決定者として認め、直接に、または支援付き意思決定のメカニズムを通じて、どこで生活するか、どこに旅行に行くかと、国籍に関する決定ができるようにしなければならない。
19
自立した生活及び地域社会への包容
  • 多くの場合、知的障害のある人々が、どこで誰と生活するべきかは、家族が決定する。
  • 施設での生活に関する決定は、地域社会における生活とは対照的に、本人の代理によって行われることが多く、本人の希望は尊重されないことが多い。
  • 知的障害のある人々は、自らの人生における主たる意思決定者として尊重されなければならない。また、直接に、あるいは支援付き意思決定のメカニズムを通じて、どこで誰と生活するかを決定できるようにならなければならない。
  • 住宅および地域社会事業、サービスおよび慣行は、アクセシブルなものにしなければならない。また、すべての人のインクルージョンを目的とした支援が提供されなければならない。
  • 障害のある人々のための支援付き意思決定ネットワークを開発するには、彼らの家族への支援が必要である。
  • 利用可能かつ代替的な住宅の選択肢に関する情報が、本人にとってアクセシブルな形で提供されなければならない。
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家庭及び家族の尊重
  • 知的障害のある人々は、結婚および/または子どもを持つことを、家族、介助者、医療専門家またはソーシャルサービスワーカーに止められることが多い。
  • 知的障害のある人々は、自らの人生における主たる意思決定者として尊重されなければならない。また、直接に、あるいは支援付き意思決定のメカニズムを通じて、結婚および/または子どもを持つことについて、決定できるようにならなければならない。
  • 障害のある人々のための支援付き意思決定ネットワークを開発するには、彼らの家族への支援が必要である。
  • 医療およびソーシャルサービスの専門家による、知的障害のある人々の平等な権利の理解と尊重を確保するために、研修が必要である。
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労働および雇用
  • 知的障害のある人々は、求職を妨げられることが多い。
  • 雇用されている者も、多くの場合、労働組合への参加は認められていない。
  • 労働組合を含む、雇用事業および雇用サービスは、アクセシブルなものにしなければならない。また、すべての人の参加を目的とした支援が提供されなければならない。
  • 本人の希望職種を検討する際には、本人の選択が尊重されなければならない。
29
政治的および公的活動への参加
  • 知的障害のある人々は、投票、公職につくための選挙への立候補および市民参加を妨げられることが多い。
  • 政府の政策と慣行においては、市民参加や投票を促進するため、知的障害のある人々の出生時登録を確保しなければならない。
  • 政府は、知的障害のある人々が平等な市民として貢献できるように、投票のプロセスをアクセシブルにすることを確保しなければならない。
  • 知的障害のある人々が、誰の影響も受けることなく政治的慣行に参加できるようにするための支援と保護措置が、必要に応じて提供されなければならない。
30
文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
  • 知的障害のある人々は、多くの場合、主流のスポーツ活動への参加や、文化的なイベントおよびレクリエーション行事の企画への参加を妨げられている。
  • レクリエーションおよび文化的事業、活動およびイベントは、知的障害のある人々が完全参加できるように、アクセシブルなものにしなければならない。また、すべての人の参加を目的とした支援が提供されなければならない。