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文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針

目次

第1 趣旨

1 障害者差別解消法の制定の経緯

 我が国は、平成19 年に障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)に署名して以来、障害者基本法(昭和45 年法律第84 号)の改正をはじめとする国内法の整備等を進めてきた。
 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25 年法律第65 号。以下「法」 という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害者差別の解消を推進することを目的として、平成25 年に制定された。

2 法の基本的な考え方

(1)法の対象となる障害者は、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者、すなわち、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものである。
 これは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。
 したがって、法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。なお、難病に起因する障害は心身の機能の障害に含まれ、高次脳機能障害は精神障害に含まれる。

(2)法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象としている。ただし、事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13 条の規定により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされていることから、この対応指針(以下「本指針」という。)の対象外となる。なお、同法第34 条及び第35条において、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止が定められ、また、同法第36条の2及び第36条の3において、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)が定められたことを認識し、同法第36 条第1項及び第36条の5第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める各指針を踏まえて適切に対処することが求められることに留意する。

3 本指針の位置付け

 本指針は、法第11 条第1項の規定に基づき、また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27 年2月24 日閣議決定。以下「基本方針」という。)に即して、法第8条に規定する事項に関し、文部科学省が所管する分野における事業者(以下「関係事業者」という。)が適切に対応するために必要な事項を定めたものである。
 なお、事業者とは、商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)、すなわち、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者であり、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、学校法人、宗教法人、非営利事業を行う社会福祉法人及び特定非営利活動法人を含む。なお、主たる事業に付随する事業、例えば、学校法人が設置する大学医学部の附属病院や宗教法人が設置する博物館等も、本指針の対象となる。このほか、本指針で使用する用語は、法第2条及び基本方針に定める定義に従う。
 また、本指針は、法附則第7条の規定又は法の附帯決議に基づいて行われる法の見直し、法施行後の具体的な相談事例や裁判例の集積等を踏まえ、必要に応じ見直しを行うものとする。

4 留意点

 本指針で「望ましい」と記載している内容は、関係事業者がそれに従わない場合であっても、法に反すると判断されることはないが、障害者基本法の基本的な理念及び法の目的を踏まえ、できるだけ取り組むことが望まれることを意味する。
 なお、関係事業者における障害者差別解消に向けた取組は、本指針を参考にして、各関係事業者により自主的に取組が行われることが期待されるが、自主的な取組のみによってはその適切な履行が確保されず、関係事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合などは、法第12 条の規定により、文部科学大臣は、特に必要があると認められるときは、関係事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとされている。
 こうした行政措置に至る事案を未然に防止するため、文部科学大臣は、関係事業者に対して、本指針に係る十分な情報提供を行うとともに、関係事業者からの照会・相談に丁寧に対応するなどの取組を積極的に行う必要があることから、文部科学省においては、第5のとおり、相談窓口を設置することとする。

第2 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方

1 不当な差別的取扱い

(1)不当な差別的取扱いの基本的な考え方

 関係事業者は、法第8条第1項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

ア 法が禁止する障害者の権利利益の侵害とは、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付すことなどによる権利利益の侵害である。
 なお、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、法第8条第1項に規定する不当な差別的取扱い(以下単に「不当な差別的取扱い」という。)ではない。

イ したがって、障害者を障害者でない者より優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)や、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱い、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、関係事業者の行う事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。

(2)正当な理由の判断の視点

 正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ない場合である。関係事業者においては、正当な理由に相当するか否かについて、個別の事案ごとに、障害者、関係事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点から、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由に基づいて、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付すなど障害者を不利に扱うことは、法の趣旨を損なうため、適当ではない。
 関係事業者は、個別の事案ごとに具体的な検討を行った上で正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。

(3)具体例

 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例は別紙1のとおりである。
 なお、1(2)で示したとおり、不当な差別的取扱いに相当するか否かについては、個別の事案ごとに判断されることとなる。また、別紙1に記載されている具体例については、正当な理由が存在しないことを前提としていること、さらに、それらはあくまでも例示であり、記載されている具体例だけに限られるものではないことに留意する必要がある。

2 合理的配慮

(1)合理的配慮の基本的な考え方

 関係事業者は、法第8条第2項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)をするように努めなければならない。

ア 権利条約第2条において、「合理的配慮」は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。
 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、合理的配慮に努めなければならないとしている。合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。
 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること及び事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。

イ 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、2(2)で示す過重な負担の基本的な考え方に掲げた要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものである。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとする。
 なお、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる可能性がある点は重要であることから、環境の整備に取り組むことを積極的に検討することが望ましい。

ウ 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示、身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。
 また、意思の表明には、障害者からの意思の表明のみでなく、知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者、法定代理人その他意思の表明に関わる支援者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。
 なお、意思の表明が困難な障害者が家族やコミュニケーションを支援する者を伴っておらず、本人の意思の表明もコミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も困難であることなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑み、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。

エ 合理的配慮は、障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化、介助者や日常生活・学習活動などの支援を行う支援員等の人的支援、情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状況に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。また、障害の状態等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要である。

オ 介助者や支援員等の人的支援に関しては、障害者本人と介助者や支援員等の人間関係や信頼関係の構築・維持が重要であるため、これらの関係も考慮した支援のための環境整備にも留意することが望ましい。また、支援機器の活用により、障害者と関係事業者双方の負担が軽減されることも多くあることから、支援機器の適切な活用についても配慮することが望ましい。

カ 同種の事業が行政機関等と事業者の双方で行われる場合には、事業の類似性を踏まえつつ、事業主体の違いも考慮した上での対応に努めることが望ましい。

 さらに、文部科学省所管事業分野のうち学校教育分野については、障害者との関係性が長期にわたるなど固有の特徴を有することから、また、スポーツ分野についてはスポーツ基本法(平成23 年法律第78 号)等を踏まえて、文化芸術分野については文化芸術振興基本法(平成13 年法律第148 号)等を踏まえて、各分野の特に留意すべき点を別紙2のとおり示す。

(2)過重な負担の基本的な考え方

 過重な負担については、関係事業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、一般的・抽象的な理由に基づいて過重な負担に当たると判断することは、法の趣旨を損なうため、適当ではない。関係事業者は、個別の事案ごとに具体的な検討を行った上で過重な負担に当たると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。

① 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
② 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
③ 費用・負担の程度
④ 事務・事業規模
⑤ 財政・財務状況

(3)具体例

 合理的配慮の具体例は別紙1のとおりである。
 なお、2(1)イで示したとおり、合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、掲載した具体例については、
 ○ 前提として、2(2)で示した過重な負担が存在しないこと
 ○ 事業者に強制する性格のものではないこと
 ○ これらはあくまでも例示であり、記載されている具体例に限られるものではないこと
に留意する必要がある。関係事業者においては、これらの合理的配慮の具体例を含む本指針の内容を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。

第3 関係事業者における相談体制の整備

 関係事業者においては、障害者、その家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、既存の一般の利用者等からの相談窓口等の活用や窓口の開設により相談窓口を整備することが重要である。また、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報を周知することや、相談時の配慮として、対話のほか、電話、ファックス、電子メール、筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字、ルビ付与など、障害の特性に応じた多様なコミュニケーション手段や情報提供手段を用意して対応することが望ましい。なお、ホームページによる周知に際しては、視覚障害者、聴覚障害者等の情報アクセシビリティに配慮し、例えば、音声読み上げ機能に対応できるよう画像には説明文を付す、動画を掲載する場合に字幕、手話等を付すなどの配慮を行うことが望ましい。
 また、実際の相談事例については、プライバシーに配慮しつつ順次蓄積し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望ましい。
 さらに、文部科学省所管分野のうち学校教育分野については、障害者との関係性が長期にわたるなど固有の特徴を有することから、特に留意すべき点を別紙2のとおり示す。

第4 関係事業者における研修・啓発

 関係事業者は、障害者に対して適切に対応し、また、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、障害に関する理解の促進を図ることが重要である。普及すべき法の趣旨には、法第1条に規定する法の目的、すなわち、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指すことが含まれる点にも留意する。
 特に学校教育分野においては、教職員の理解の在り方や指導の姿勢が幼児、児童、生徒及び学生(以下「児童生徒等」という。)に大きく影響することに十分留意し、児童生徒等の発達段階に応じた支援方法、外部からは気付きにくいこともある難病等をはじめとした病弱(身体虚弱を含む。)、発達障害、高次脳機能障害等の理解、児童生徒等の間で不当な差別的取扱いが行われている場合の適切な対応方法等も含め、研修・啓発を行うことが望ましい。また、スポーツ分野や文化芸術分野においても、指導者等関係者の理解の在り方や指導の姿勢がスポーツや文化芸術活動に参加する者等に大きく影響することに十分留意した研修・啓発を行うことが望ましい。
 研修・啓発においては、文部科学省や同省が所管する独立行政法人等が提供する各種情報を活用することが効果的である(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運営する「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」や独立行政法人日本学生支援機構が作成する「大学等における障害のある学生への支援・配慮事例」、「教職員のための障害学生修学支援ガイド」等)。また、研修・啓発の内容によっては、医療、保健、福祉等の関係機関や障害者関係団体と連携して実施することも効果的である。

第5 文部科学省所管事業分野に係る相談窓口

生涯学習・社会教育分野 生涯学習政策局生涯学習推進課及び同局社会教育課

初等中等教育分野 初等中等教育局特別支援教育課

高等教育分野 高等教育局学生・留学生課

科学技術・学術分野 科学技術・学術所管部局事業所管各課室

スポーツ分野 スポーツ庁健康スポーツ課

文化芸術分野 文化庁文化所管部局事業所管各課室


別紙1

不当な差別的取扱い、合理的配慮等の具体例

1 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例

 障害のみを理由として、以下の取扱いを行うこと。

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、窓口対応を拒否し、又は対応の順序を後回しにすること。

○資料の送付、パンフレットの提供、説明会やシンポジウムへの出席等を拒むこと。

○社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等やそれらのサービスの利用をさせないこと。

○学校への入学の出願の受理、受験、入学、授業等の受講や研究指導、実習等校外教育活動、入寮、式典参加を拒むことや、これらを拒まない代わりとして正当な理由のない条件を付すこと。

○試験等において合理的配慮の提供を受けたことを理由に、当該試験等の結果を学習評価の対象から除外したり、評価において差を付けたりすること。

2 不当な差別的取扱いに当たらない具体例

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者である利用者に障害の状況等を確認すること。

○障害のある幼児、児童及び生徒のため、通級による指導を実施する場合において、また特別支援学級及び特別支援学校において、特別の教育課程を編成すること。

3 合理的配慮に当たり得る配慮の具体例

(1)物理的環境への配慮や人的支援の配慮の具体例

①主として物理的環境への配慮に関するもの

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、災害時の警報音、緊急連絡等が聞こえにくい障害者に対し、災害時に関係事業者の管理する施設の職員が直接災害を知らせたり、緊急情報・館内放送を視覚的に受容することができる警報設備・電光表示機器等を用意したりすること。

○管理する施設・敷地内において、車椅子利用者のためにキャスター上げ等の補助をし、又は段差に携帯スロープを渡すこと。

○配架棚の高い所に置かれた図書やパンフレット等を取って渡したり、図書やパンフレット等の位置を分かりやすく伝えたりすること。

○疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった際、別室の確保が困難である場合に、当該障害者に事情を説明し、対応窓口の近くに長椅子を移動させて臨時の休憩スペースを設けること。

◯移動に困難のある学生等のために、通学のための駐車場を確保したり、参加する授業で 使用する教室をアクセスしやすい場所に変更したりすること。

○聴覚過敏の児童生徒等のために教室の机・椅子の脚に緩衝材を付けて雑音を軽減する、 視覚情報の処理が苦手な児童生徒等のために黒板周りの掲示物等の情報量を減らすなど、 個別の事案ごとに特性に応じて教室環境を変更すること。

②主として人的支援の配慮に関するもの

○目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、介助する位置(左右・前後・距離等)について、障害者の希望を聞いたりすること。

○介助等を行う学生(以下「支援学生」という。)、保護者、支援員等の教室への入室、授業や試験でのパソコン入力支援、移動支援、待合室での待機を許可すること。

(2)意思疎通の配慮の具体例

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字など多様なコミュニケーション手段や分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮を行うこと。

○情報保障の観点から、見えにくさに応じた情報の提供(聞くことで内容が理解できる説明・資料や、拡大コピー、拡大文字又は点字を用いた資料、遠くのものや動きの速いものなど触ることができないものを確認できる模型や写真等の提供)、聞こえにくさに応じた視覚的な情報の提供、見えにくさと聞こえにくさの両方がある場合に応じた情報の提供(手のひらに文字を書いて伝える等)、知的障害に配慮した情報の提供(伝える内容の要点を筆記する、漢字にルビを振る、単語や文節の区切りに空白を挟んで記述する「分かち書き」にする、なじみのない外来語は避ける等)を行うこと。また、その際、各媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意して使用すること。

○知的障害のある利用者等に対し、抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉を使うこと。例えば、サービスを受ける際の「手続」や「申請」など生活上必要な言葉等の意味を具体的に説明して、当該利用者等が理解しているかを確認すること。

○子供である障害者又は知的障害、発達障害、言語障害等により言葉だけを聞いて理解することや意思疎通が困難な障害者に対し、絵や写真カード、コミュニケーションボード、タブレット端末等のICT 機器の活用、視覚的に伝えるための情報の文字化、質問内容を「はい」又は「いいえ」で端的に答えられるようにすることなどにより意思を確認したり、本人の自己選択・自己決定を支援したりすること。

○比喩表現等の理解が困難な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに説明すること。

(3)ルール・慣行の柔軟な変更の具体例

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、事務手続の際に、職員や教員、支援学生等が必要書類の代筆を行うこと。

○障害者が立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意すること。

○他人との接触、多人数の中にいることによる緊張のため、不随意の発声等がある場合、緊張を緩和するため、当該障害者に説明の上、施設の状況に応じて別室を用意すること。

○学校、文化施設等において、板書やスクリーン等がよく見えるように、黒板等に近い席を確保すること。

○スポーツ施設、文化施設等において、移動に困難のある障害者を早めに入場させ席に誘導したり、車椅子を使用する障害者の希望に応じて、決められた車椅子用以外の客席も使用できるようにしたりすること。

○入学試験や検定試験において、本人・保護者の希望、障害の状況等を踏まえ、別室での受験、試験時間の延長、点字や拡大文字、音声読み上げ機能の使用等を許可すること。

○点字や拡大文字、音声読み上げ機能を使用して学習する児童生徒等のために、授業で使用する教科書や資料、問題文を点訳又は拡大したものやテキストデータを事前に渡すこと。

○聞こえにくさのある児童生徒等に対し、外国語のヒアリングの際に、音質・音量を調整したり、文字による代替問題を用意したりすること。

○知的発達の遅れにより学習内容の習得が困難な児童生徒等に対し、理解の程度に応じて、視覚的に分かりやすい教材を用意すること。

○肢体不自由のある児童生徒等に対し、体育の授業の際に、上・下肢の機能に応じてボール運動におけるボールの大きさや投げる距離を変えたり、走運動における走る距離を短くしたり、スポーツ用車椅子の使用を許可したりすること。

○日常的に医療的ケアを要する児童生徒等に対し、本人が対応可能な場合もあることなどを含め、配慮を要する程度には個人差があることに留意して、医療機関や本人が日常的に支援を受けている介助者等と連携を図り、個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し、過剰に活動の制限等をしないようにすること。

○慢性的な病気等のために他の児童生徒等と同じように運動ができない児童生徒等に対し、運動量を軽減したり、代替できる運動を用意したりするなど、病気等の特性を理解し、過度に予防又は排除をすることなく、参加するための工夫をすること。

○治療等のため学習できない期間が生じる児童生徒等に対し、補講を行うなど、学習機会を確保する方法を工夫すること。

○読み・書き等に困難のある児童生徒等のために、授業や試験でのタブレット端末等のICT機器使用を許可したり、筆記に代えて口頭試問による学習評価を行ったりすること。

○発達障害等のため、人前での発表が困難な児童生徒等に対し、代替措置としてレポートを課したり、発表を録画したもので学習評価を行ったりすること。

○学校生活全般において、適切な対人関係の形成に困難がある児童生徒等のために、能動的な学習活動などにおいてグループを編成する時には、事前に伝えたり、場合によっては本人の意向を確認したりすること。また、こだわりのある児童生徒等のために、話し合いや発表などの場面において、意思を伝えることに時間を要する場合があることを考慮して、時間を十分に確保したり個別に対応したりすること。

○理工系の実験、地質調査のフィールドワークなどでグループワークができない学生等や、実験の手順や試薬を混同するなど、作業が危険な学生等に対し、個別の実験時間や実習課題を設定したり、個別のティーチング・アシスタント等を付けたりすること。


別紙2

分野別の留意点

学校教育分野

1 総論

 権利条約のうち、教育分野について規定した第24 条は、教育についての障害者の権利を認めることを明言し、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、障害者を包容する教育制度)及び生涯学習の確保を締約国に求めている。
 これらは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が一般的な教育制度から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的配慮が提供されること等が必要とされている。
 障害者基本法においては、第4条第1項において「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と、また、同条第2項において「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」とされている。さらに、国及び地方公共団体は、教育基本法(平成18 年法律第120号)第4条第2項において「障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない」とされているほか、障害者基本法第16 条第1項において「障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない」とされている。
 学校教育分野においては、これらの規定も踏まえて既に権利条約等への対応のための取組が進められており、合理的配慮等の考え方も、中央教育審議会初等中等教育分科会が平成24年7月に取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(以下「報告」という。)及び文部科学省高等教育局長決定により開催された「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が平成24年12月に取りまとめた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」により示されている。
 教育基本法第4条第2項による義務を負うのは国及び地方公共団体であるが、障害者基本法第4条及び同条を具体化する法の理念を踏まえ、学校教育を行う事業者においても、これらの有識者会議により示された考え方を参考とし、取組を一層推進することが必要である。また、専修学校及び各種学校を設置する事業者においては、後述する初等中等教育段階又は高等教育段階のうち相当する教育段階の留意点を参考として対応することが望ましい。
 なお、有識者会議により示された考え方は、特別支援教育及び障害のある学生の修学支援の全体に関するものであり、現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を受けて行う合理的配慮の提供にとどまらず、これらに基づく取組を推進することにより、当該意思の表明がない場合にも、適切と思われる配慮に関する建設的対話を働きかけるなどの自主的な取組も推進され、自ら意思を表明することが必ずしも容易ではない児童生徒等も差別を受けることのない環境の醸成につながることが期待される。

2 初等中等教育段階

(1)合理的配慮に関する留意点

 障害のある幼児、児童及び生徒に対する合理的配慮の提供については、中央教育審議会初等中等教育分科会の報告に示された合理的配慮の考え方を踏まえて対応することが適当である。具体的には、主として以下の点に留意する。

ア 合理的配慮の合意形成に当たっては、権利条約第24 条第1項にある、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするといった目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要である。

イ 合理的配慮は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じ、設置者・学校(学校教育法(昭和22 年法律第26 号)第1条に規定する学校(大学及び高等専門学校を除く。)をいう。以下同じ。)及び本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ合意形成を図った上で提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが重要である。

ウ 合理的配慮の合意形成後も、幼児、児童及び生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。

エ 合理的配慮は、障害者がその能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであるインクルーシブ教育システムの理念に照らし、その障害のある幼児、児童及び生徒が十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要である。例えば、個別の教育支援計画や個別の指導計画について、各学校において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要である。

オ 進学等の移行時においても途切れることのない一貫した支援を提供するため、個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、合理的配慮の引継ぎを行うことが必要である。

 なお、学校教育分野において、障害のある幼児、児童及び生徒の将来的な自立と社会参加を見据えた障害の早期発見・早期支援の必要性及びインクルーシブ教育システムの理念に鑑み、幼児教育段階や小学校入学時点において、意思の表明の有無に関わらず、幼児及び児童に対して適切と思われる支援を検討するため、幼児及び児童の障害の状態等の把握に努めることが望ましい。具体的には、保護者と連携し、プライバシーにも留意しつつ、地方公共団体が実施する乳幼児健診の結果や就学前の療育の状況、就学相談の内容を参考とすること、後述する校内委員会において幼児及び児童の支援のニーズ等に関する実態把握を適切に行うこと等が考えられる。

(2)合理的配慮の具体例

 別紙1のほか、報告において整理された合理的配慮の観点や障害種別の例及び独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運営する「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」や「特別支援教育教材ポータルサイト」も参考とすることが効果的である。
 なお、これらに示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。

(3)相談体制の整備に関する留意点

 学校教育法第81 条第1項の規定により、私立学校を含め、障害により教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒が在籍する全ての学校において、特別支援教育を実施することとされている。
 学校の校長(園長を含む。以下同じ。)は、特別支援教育の実施の責任者として、自らが特別支援教育や障害に関する認識を深めるとともに、リーダーシップを発揮しつつ、特別支援学校のセンター的機能等も活用しながら、次の体制の整備を行い、組織として十分に機能するよう教職員を指導することが重要である。

ア 特別支援教育コーディネーターの指名

 各学校の校長は、各学校における特別支援教育の推進のため、主に、2(3)イに述 べる校内委員会や校内研修の企画・運営、関係諸機関や関係する学校との連絡・調整、 保護者からの相談窓口などの役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指 名し、校務分掌に明確に位置付ける。
 また、校長は、特別支援教育コーディネーターが合理的配慮の合意形成、提供、評価、 引継ぎ等の一連の過程において重要な役割を担うことに十分留意し、学校において組織 的に機能するよう努める。

イ 特別支援教育に関する校内委員会の設置

 各学校においては、校長のリーダーシップの下、全校的な支援体制を確立し、障害のある又はその可能性があり特別な支援を必要としている幼児、児童及び生徒の実態把握や支援方策の検討等を行うため、校内に特別支援教育に関する校内委員会を設置する。
 校内委員会は、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教務主任、生徒指導主事、通級による指導担当教員、特別支援学級担当教員、養護教諭、対象の幼児、児童及び生徒の学級担任、学年主任、その他必要と認められる者などで構成する。
 学校においては、主として学級担任や特別支援教育コーディネーター等が、幼児、児童及び生徒・保護者等からの相談及び現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を最初に受け付けることが想定される。各学校は、相談等を受けた学級担任や特別支援教育コーディネーター等と本人・保護者との対話による合意形成が困難である場合には、校内委員会を含む校内体制への接続が確実に行われるようにし、校長のリーダーシップの下、合意形成に向けた検討を組織的に行うことが必要である。
 このような校内体制を用いてもなお合意形成が難しい場合は、設置者である学校法人等が、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応することが必要である。

(4)研修・啓発に関する留意点

 基本方針は、地域住民等に対する啓発活動として、「障害者差別が、本人のみならず、その家族等にも深い影響を及ぼすことを、国民一人ひとりが認識するとともに、法の趣旨について理解を深めることが不可欠であり、また、障害者からの働きかけによる建設的対話を通じた相互理解が促進されるよう、障害者も含め、広く周知・啓発を行うことが重要である」としている。
 この周知・啓発において学校教育が果たす役割は大きく、例えば、障害者基本法第16条第3項にも規定されている障害のある幼児、児童及び生徒と障害のない幼児、児童及び生徒の交流及び共同学習は、障害のない幼児、児童及び生徒が障害のある幼児、児童及び生徒と特別支援教育に対する正しい理解と認識を深めるための絶好の機会であり、同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶ場である。また、障害のある幼児、児童及び生徒の保護者、障害のない幼児、児童及び生徒の保護者ともに、このような学校教育に関わることにより、障害者に対する理解を深めていくことができる。
 学校においては、学校教育が担う重要な役割を認識し、幼児、児童及び生徒の指導や保護者との連絡に携わる教職員一人一人が、研修等を通じて、法の趣旨を理解するとともに、障害に関する理解を深めることが重要である。

3 高等教育段階

(1)合理的配慮に関する留意点

 障害のある学生に対する合理的配慮の提供については、大学等(大学及び高等専門学校をいう。以下同じ。)が個々の学生の状態・特性等に応じて提供するものであり、多様かつ個別性が高いものである。合理的配慮を提供するに当たり、大学等が指針とすべき考え方を項目別に以下のように整理した。ここで示すもの以外は合理的配慮として提供する必要がないというものではなく、個々の学生の障害の状態・特性や教育的ニーズ等に応じて配慮されることが望まれる。

① 機会の確保:障害を理由に修学を断念することがないよう、修学機会を確保すること、また、高い教養と専門的能力を培えるよう、教育の質を維持すること。
② 情報公開:障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を示すこと。
③ 決定過程:権利の主体が学生本人にあることを踏まえ、学生本人の要望に基づいた調整を行うこと。
④ 教育方法等:情報保障、コミュニケーション上の配慮、公平な試験、成績評価などにおける配慮を行うこと。
⑤ 支援体制:大学等全体として専門性のある支援体制の確保に努めること。
⑥ 施設・設備:安全かつ円滑に学生生活を送れるよう、バリアフリー化に配慮すること。

(2)合理的配慮の具体例

 別紙1のほか、独立行政法人日本学生支援機構が作成する「大学等における障害のある学生への支援・配慮事例」や「教職員のための障害学生修学支援ガイド」も参考とすることが効果的である。
 なお、これらに示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。

(3)相談体制の整備に関する留意点

 大学等の学長(校長を含む。以下同じ。)は、リーダーシップを発揮し、大学等全体として、学生から相談を受けた時の体制整備を含む次のような支援体制を確保することが重要である。

ア 担当部署の設置及び適切な人的配置

 支援体制を整備するに当たり、必要に応じ、障害のある学生の支援を専門に行う担当部署の設置及び適切な人的配置(専門性のある専任教職員、コーディネーター、相談員、手話通訳等の専門技術を有する支援者等)を行うほか、学内(学生相談に関する部署・施設、保健管理に関する部署・施設、学習支援に関する部署・施設、障害に関する様々な専門性を持つ教職員)との役割を明確にした上で、関係部署・施設との連携を図る。

 なお、障害のある学生の所属学部や学科、担当教職員により提供する支援の内容が著しく異なるなどの状況が発生した場合は、学長及び障害のある学生の支援を専門に行う担当部署を中心に、これらの事案の内容を十分に確認した上で、必要な調整を図り、さらに再発防止のための措置を講じることが望ましい。
 また、障害のある学生と大学等との間で提供する合理的配慮の内容の決定が困難な場合は、第三者的視点に立ち調整を行う組織が必要となるため、このような組織を学内に設置することが望ましい。
 これらの調整の結果、なお合意形成が難しい場合は、大学等の設置者である学校法人等が、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応することが必要である。

イ 外部資源の活用

障害は多岐にわたり、各大学等内の資源のみでは十分な対応が困難な場合があることから、必要に応じ、学外(地方公共団体、NPO、他の大学等、特別支援学校など)の教育資源の活用や障害者関係団体、医療、福祉、労働関係機関等との連携についても検討する。

ウ 周囲の学生の支援者としての活用

 障害のある学生の日常的な支援には、多数の人材が必要となる場合が多いことから、周囲の学生を支援者として活用することも一つの方法である。
 一方で、これらの学生の支援者としての活用に当たっては、一部の学生に過度な負担が掛かることや支援に携わる学生と障害のある学生の人間関係に問題が生じる場合があることから、これらに十分留意するとともに、障害の知識や対応方法、守秘義務の徹底等、事前に十分な研修を行い、支援の質を担保した上で実施することが重要である。

(4)学生・教職員の理解促進・意識啓発を図るための配慮

 障害のある学生からの様々な相談は、必ずしも担当部署に対して行われるとは限らず、障害のある学生の身近にいる学生や教職員に対して行われることも多いと考えられる。それらに適切に対応するためには、障害により日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて、周囲の学生や教職員が理解していることが望ましく、その理解促進・意識啓発を図ることが重要である。

(5)情報公開

 各大学等は、障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を明確に示すことが重要である。
 また、各大学等が明確にすべき受入れ姿勢・方針は、入学試験における障害のある受験者への配慮の内容、大学構内のバリアフリーの状況、入学後の支援内容・支援体制(支援に関する窓口の設置状況、授業や試験等における支援体制、教材の保障等)、受入れ実績(入学者数、在学者数、卒業・修了者数、就職者数等)など、可能な限り具体的に明示することが望ましく、それらの情報をホームページ等に掲載するなど、広く情報を公開することが重要である。なお、ホームページ等に掲載する情報は、障害のある者が利用できるように情報アクセシビリティに配慮することが望まれる。

スポーツ・文化芸術分野

 スポーツ分野については、スポーツ基本法第2条第5項において、「スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない。」と規定されている。スポーツに関する施設及びサービス等を提供する事業者においては、障害の有無にかかわらず誰もが楽しく安全にスポーツに親しむことができる環境を整備し、障害者がスポーツに参加する機会の拡充を図るとの基本的な考え方を踏まえて対応することが適当である。
 文化芸術分野について、文化芸術振興基本法の前文は、「我が国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重することを旨としつつ、文化芸術を国民の身近なものとし、それを尊重し大切にするよう包括的な施策を推進していくことが不可欠である」との理念を掲げている。文化芸術分野の事業者においては、この理念に基づき、障害の有無にかかわらず、誰もが文化芸術活動に親しむことができるよう、適切に対応することが重要である。
 具体的には、以下の点に留意する。
○ 合理的配慮は、一人一人の障害の状態や必要な支援、活動内容等に応じて決定されるものである。本人・保護者等とよく相談し、可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましい。
○ 障害者が使用する用具等が施設の管理・維持に与える影響の程度については、具体的場面や状況により異なるものであるため、当該場面や状況に応じて、柔軟に対応することが重要である。


出典:e-Gov.文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針に関するパブリックコメント(意見公募手続)の結果について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000770&Mode=2 (参照 2015-11-19).

文部科学省.文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1364725.htm (参照 2015-11-27).