列島縦断ネットワーキング
[大阪]
第10回リハ工学カンファレンスを開催して
関 宏之・正井秀夫
日本リハビリテーション工学協会(理事長末田統氏・鳴門教育大学教授)が主催する、記念すべき第10回リハ工学カンファレンスを関係各位のご協力のもとに、平成7年8月24日(木)~26日(土)の3日間の日程で、アピオ大阪(大阪市立労働会館)ピロティホールにおいて開催した。リハ工学カンファレンスは、リハビリテーションに関連する工学、医学、教育、福祉などの関係者や障害をもつ人達など、さまざまな分野の関係者が、援助を必要とする人々に役立つ実践・研究・開発した機器や技術について、講演や展示による発表を行い、かつ相互に納得できるまで討論することを目的とすることとしたカンファレンスである。
末田理事長の「リハカンは夏!」を合い言葉に始まり、「夏はリハカン!」を合い言葉に3日間の全日程を無事終了した。暑い!熱い!! 大阪の街でありました。
障害者の支援の方法も、リハビリテーションを中心としたアプローチから、障害をもつ人たちの「暮らし」や「生活」総体を支援する方向へと移っており、一方的に障害をもつ人たちに機器や支援を提供するだけでなく、障害をもつ人たちが自分の意見に基づいて機器を選択したり、あるいは技術の進歩に対して積極的に意見を述べる生活主体者として、あるいは消費者としての障害者の立場も強調されるようになってきており、カンファレンスにおいても消費者(障害者)の立場を尊重することを基本理念とした内容とすることとした。
そのためリハビリテーション工学全般について『必要とする人に、必要なサービスを』をメインテーマに掲げ、またそれらが障害者のリハビリテーションや教育、生活支援、就労支援などの現実の場で応用できるような内容を中心に展開し、特に本大会では、基調講演および公開講座を設けた。
1 実行委員会・事務局について
今回のカンファレンスを開催するために、事務局を大阪市更正療育センター援助技術研究室に設置、大会会長・大浦敏明先生(大阪市更正療育センター所長)、副会長・張知夫先生(佛教大学社会学部社会福祉学科教授)にお願いし、医学関係者・研究者・行政関係者・福祉関係者・障害者運動を行っている当事者等の幅広い層で実行委員会を構成し、大会運営の実施に当たった。
2 会場について
今回のカンファレンス会場は、アピオ大阪(大阪市立労働会館)ピロティホールとし、演題発表会場4会場、ビデオ会場1会場、展示会場2会場の計7会場を使用し、特に、メイン会場として、ピロティ大ホール(1000人収容)を使用した。
会場へのアクセス、会場内での移動の問題があり、最寄りの地下鉄・JR駅に介助員の配置についてご協力をお願いすると共に、事務局側でも介助員を配置し、会場からシャトルバス、改造自動車を運行して対応した。会場の都合から、会員から出ていた託児所の設置はできず、今後のカンファレンスの開催に課題を残すこととなった。
3 演題発表について
今回のカンファレンスの演題数は、総数で159題で、セッション別の演題数は、表の通りである。今回はコミュニケーション、姿勢保持に関する演題が多かった。コミュニケーションのセッションには障害のある方々がコンピュータを使いこなすための入力に関するものが多く、脳波を使う基礎研究から、商品化されているスイッチ類の紹介、さらにマスコミを利用した情報保障の問題等多岐にわたった。姿勢保持については、従来より、脳性マヒをはじめ、多くの難病、進行性の障害のある方々からのニーズ・供給システムに対応されてきた方々の努力もあり、座位保持装置が(1989年度)身体障害者福祉法の補装具の支給項目となって以来、広く知られるところとなり、供給体制の整備、地域リハの展開、材料工学の発展、福祉産業の進歩等、数々の要因が重なり合い、多様なニーズに応えるべく以前にも増して、研究開発されたことが今回の発表数の多さとなって表れたものと思える。
演題数が多くなってくると、リハ工学カンファレンスのもう1つの特色であるナイトセッションに十分な時間を取れなくなり、発表者と参加者の相互理解を深める点で問題が出てくる恐れがある。
展示発表については、出展された福祉機器は合計25点を数え、いずれの展示品も来場者に興味をもたせるものばかりで、会場では、熱心な討議が繰り広げられていた。
セッション名 | 数 | 演題数 | セッション名 | 数 | 演題数 |
住宅 | 1 | 3 | 感覚代行・視覚障害 | 1 | 3 |
自動車・交通 | 1 | 4 | 視覚障害・評価 | 1 | 3 |
コミュニケーション | 10 | 35 | 特殊教育・コンピューター | 1 | 3 |
スポーツ | 1 | 3 | 車イス・歩行器 | 1 | 3 |
姿勢保持 | 9 | 30 | バリア・フリー | 4 | 16 |
車イス | 5 | 16 | 動作分析 | 2 | 6 |
情報提供 | 1 | 2 | 自助具 | 2 | 4 |
電気刺激・症例報告 | 1 | 4 | 自立支援 | 1 | 8 |
生産・活動・その他 | 1 | 3 | ビデオ | 3 | 10 |
自立発達支援 | 1 | 3 | 計 | 47 | 159 |
4 基調講演について
基調講演は、「プロヴァンスからの伝言」をテーマに、講演ジャン・ジャック・ヴィアル(フランス・ニーム市・障害者復帰政策技術顧問)を迎えて、ニーム市における障害者憲章案の上梓、同市における「都市と障害者」国際会議の組織化、労働者としての障害者の立場、日本のアクセスについての印象(TVでも放映)等を交えて講演が行われた。
なお、ヴィアル氏の日本のアクセスの感想としては、「単体のハードは技術的にもすばらしいが、ソフト面では問題がある」という指摘を受けた。(TV放映の内容と類似するかもしれないが)障害者の諸問題を解決するのは、先進的な技術ばかりでなく、共生する者同士のコミュニケーションで解決するものであるとの印象を強く受けた。
5 公開講座について
『必要とする人に必要なサービスを──障害者の暮らしと法制・制度の接点を探る』をテーマに催した。
第10回大会を記念して公開講座とし、市民、関係者に参加を呼びかけた。総理府障害者対策推進本部、厚生省、通商産業省、労働省、建設省、運輸省、郵政省の各省庁からシンポジストの参加があり、新しい施策、施策間の連携、障害者に福祉サービスが渡る手順を中心に発表があった。シンポジストの発表に対してフロアーからも発言があり、また生活主体者(障害者)としての立場から具体的な質問(雇用問題、駅及び駅周辺設備、交通機関の乗り降り時等の職員対応への指導、行政機関のありかた)が出されたが、それらに対してシンポジストの方々が、一つひとつ真摯に応答され実りあるものとなった。
6 福祉機器コンテストについて
今回の応募は、総数で95件もあり、これまでの最多応募となったが、残念ながらグランプリの該当作品がなく、最後までグランプリ対象として審査した作品は、優秀賞とさせて頂きました。今後も皆様の作品応募をお待ちしております。
(問い合わせ:総合せき損センター・医用工学研究室内 福祉機器コンテスト事務局・選考委員長・井手将文・℡098-24-7500)
7 第10回リハ工学カンファレンスとして
787名という史上最高の参加を得て、無事に終了できたことは、関係各位のご支援によるところが大きいと深謝するものである。
本大会では、基調講演及び公開講座をもった点がこれまでのカンファレンスと最も大きな相違点である。とりわけ、公開講座では、行政機関の最近のめざましい動きや行政機関間の連携について、また、当事者としての障害者の立場からそれらのサービスの入手方法などについて討議できた。幸い、行政機関の方々は、フロアーからの質問に真摯な態度で臨まれ、司会者の適切な配慮もあって熱気溢れた講座となった。機器の問題だけではなく、政策的な側面や実際に障害者が利用可能になるプロセスについて言及する姿勢は今後とも失われてはならないと考える。
(せきひろゆき、まさいひでお 第十回リハ工学カンファレンス実行委員長・事務局長)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 64頁~67頁