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特集/災害時における対応

障害のある人々への災害支援

-すべての人々の防災の地域づくりへ

丸山一郎

 阪神・淡路大震災は、大都市が直撃されるという甚大な被害をもたらした。多くの死傷者と被災者の中に、そして長期にわたる被災生活を強いられている人々の中に多数の障害のある人々がいるのも初めてのことであった。

 今後もこのような災害が、随所で発生する危険も再認識されたが、今回の犠牲と過酷な震災体験を風化させることなく、今後に活かさなくてはならない。

 特に今回の体験の中で数多く明らかにされた障害のある住民への配慮の不足と、多くの人々が新たな障害を受けたことを重視する必要がある。

 直撃された神戸市をはじめ被災地域は、早くから「まちづくり要綱」や条例をつくってきた、いわば障害者対策の先進地域とみられていたが、障害をもつ人々の地域生活を守る諸サービスに関しての弱さが明らかにされた。このことはまた、すべての人々の防災に関しての脆弱さにもつながることでもあった。

 さまざまな障害をもつ人々が、地域住民として生活し参加するまちづくりが、実は最も災害に強い地域をつくることでもあることが、実証された。防災対策や安全なまちづくりが、障害をもつ人々に焦点を当てて再検討される重要性を強く認識する必要がある。

 今回の大災害における障害のある人々の状況を検証し、今後の災害時における障害のある人々に対する支援のあり方を検討するために、厚生省の依頼を受けて検討委員会が、全国社会福祉協議会の中に設置された。

 委員会は、被災地の障害関係者や行政機関をはじめ、支援活動を行った障害者団体等の16名の委員により構成されたが、本年3月にその検討結果をまとめ報告をしている。

 報告書は、次のような3部門からなる。

 第1章「大震災に学ぶ-被害状況と対応・支援の課題」として今回の障害をもつ人々の被災した状況と障害者団体等の支援活動や行政の対応をまとめてある。

 実際に何が起こり、どんな問題があったかを、地震発生時、緊急・救援時、復興期と時系列別に検討し、障害をもつ人々への支援の課題を次の点に整理している。

 1 自分の身を守る
 2 地域住民との関係づくり
 3 身近な行政の対応と課題
 4 障害関係団体や社会福祉協議会の果たした役割
 5 社会福祉施設の機能を活かす
 6 避難所について
 7 専門職の派遣とボランティア
 8 福祉のまちづくりについて
 9 復興期の生活支援について

 第2章「震災体験を活かす-障害のある人への災害支援とマニュアルづくりのポイント」では、災害発生直後の救出・避難、避難生活、復興期における生活支援等の課題に対して、行政機関、障害者関係団体、社会福祉施設等がそれぞれ取り組むべき具体的な防災対策のポイントを示し、マニュアルづくりの参考に供した。具体的なポイントを次の4つの項目にまとめている。

 1 障害のある人自身の防災への心構えと地域との関係づくり
 2 地方公共団体の防災対策に関する8つのポイント
  (1) 防災知識の普及と啓発
  (2) 防災訓練の実施と備蓄
  (3) 避難所の整備
  (4) 情報の提供と相談体制
  (5) 救援のためのネットワークづくり
  (6) 安否の確認とニーズの把握
  (7) 復興期の生活支援
  (8) 福祉のまちづくりの推進
 3 社会福祉施設の役割
 4 障害関係団体と社会福祉協議会の役割

 この中で障害のある人自身の防災の心構えでは、障害別の非常時用持ち出し品や情報の確保方法が示され、地域との関係づくりでは、障害体験のプログラムや障害のある人を講師とした訓練等が提言されている。

 また資料編として、震災の記録や、防災計画における障害者援護部分や収集した参考文献の一覧がまとめられている。

 本報告が強調しているのは、最大の防災対策は、平常時のあり方にあるという再認識であり、特にさまざまな障害のある人々の日常生活が確保され、暮らしやすい環境を整備することが、すべての人々の防災対策の具体化に直結しているという点である。

 重度な障害のある人々を住民の1人として認識し直し、その防災と避難・救援と被災生活を考えることである。そしてホームヘルパー、ガイドヘルパー、移動サービス、入浴介助サービスなどの強化は、災害時におけるすべての人々の対策そのものでもあることを認識することである。関係者がこのことを再認識し平素の福祉サービスの確立と障壁のないまちづくりをすすめることが最大の防災対策であることの理解を広める必要性を強調している。

 また、報告書では、障害をもつ人々が「日常の生活が被災しているようなものであるので、震災ではそれほどパニックにはならなかった」という声を紹介し、誰もが、被災後身体的・精神的に障害状態に陥った体験は、障害をもつ人の日常生活に学ぶところの多いことを報告している。

 障害のある人々への防災対策と災害支援が、すべての人々の対策の基礎におかれなければならないことが、今回の災害から学ぶ大きな点である。

『障害のある人への災害支援-災害時の障害者援護に関する検討委員会報告書』については、全国社会福祉協議会障害福祉部(03-3581-6502)に問い合わせられたい。

(まるやまいちろう 日本障害者リハビリテーション協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 10頁~11頁