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特集/災害時における対応

災害時における対応-視覚障害

 石田みさ子

1 阪神・淡路大震災での視覚障害者の被害状況と調査

 阪神・淡路大震災では6308名の死者と家屋の全壊9万2000棟、半壊10万棟、倒壊家屋41万世帯という戦後最大の被害が発生した。視覚障害者も18名が亡くなり、6名が重傷、家屋の全壊・全焼が153棟、半壊・半焼が133棟、一部損壊が464棟あった。しかし、視覚障害者であるがゆえの死亡率、重傷率が高かったわけではなく、死亡率は0.1%で一般市民のそれと変化なかったという。とはいえ、災害弱者として、地震直後や避難所、仮設住宅で不自由な生活を強いられている視覚障害者は少なくない。

 日本盲人福祉委員会では、災害時における視覚障害者の避難マニュアルづくりのため、この震災で視覚障害者がどのような状況にあり、どのように行動したか等を調査した。その調査の中から明らかになった、災害時における視覚障害者ゆえの問題点をいくつか挙げる。

 対象は神戸に在住の視覚障害者693名で主に按摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師として働く(以下理療業)1・2級の重度障害者であった。

1 地震直後の問題点

 対象者は単身者(18%)や夫婦のみの家庭(49%)が多かったが、視覚障害者が単身者であったり、夫婦共に視覚障害者である場合、周囲の確認に当たって直接自分で確認する範囲が限られているので、安全確認や救出・避難の誘導等が問題となった。また、家族や近隣住民等個人的な関係から得られた情報は直接生活にかかわることが多かった。

2 避難場所・時期についての問題点

 自宅以外の避難場所に避難した人は54%で当日避難した人が78%を占めている。避難した理由は他人からの避難の勧めによるものが約半数であった。次いで建物の崩壊、生活困難と続くが、震災時の視覚障害者の安全確保において他者の配慮が非常に重要な意味をもっているといえる。

 避難した最初の場所は避難所が45%で、次いで親類宅が25%であった。

3 避難所での問題点

 避難所を出た時期は、62%が1月中であり、その中でも被災後1週間以内の人が83%を占め、長期に避難所生活を送る人は少ない。また、避難所への移動を拒否した人や最初避難所に避難しても全壊あるいは半壊の自宅に戻った人も少なくなかった。

 これは避難所での移動においてメンタルマップ(心的地図:安全で能率的な歩行のために構造化された地理的空間概念を心像として地図化したもの)の作成ができず、あるいはできても種々の荷物が乱雑に置かれた避難所ではメンタルマップが役に立たず、移動に非常に気を使うことが多かったためである。また、避難所は特に低照度のため視覚障害者にとって非常に見えにくい環境にあった。

 また、避難所における生活情報が掲示板等で行われた場合には情報の入手ができず、食料品や他の日常生活品の分配にあずかれなかったケースもあった。

 また、盲導犬を連れた視覚障害者が避難所への入所ができなかったということもあった。

 視覚障害者が避難所で配慮を受けた人で最も多いのは近所の人(50%)で被災当日が83%であった。次いでボランティアや市役所の職員となり、配慮を受けた時期も日数を経てからであった(図)。

図 いつごろ配慮があったか
図 いつごろ配慮があったか

  1日目 2日目 3~5日目 6~10日目 11日目以降
近所の人 107 82.9 9 7.0 8 6.2 5 3.9 0 0.0
ボランティア 7 10.3 5 7.4 6 8.8 32 47.1 18 26.5
市役所の人 2 0.1 3 13.6 0 0.0 5 22.7 12 54.5
他の人 49 33.3 23 15.6 16 10.9 39 26.5 20 13.6

4 就労の問題点

 対象者の多くが理療従事者であったが、それゆえの問題も提起された。理療従事者の居住営業する施術所の倒壊により住むところを失い、また、顧客も離散した。仮設住宅では開業もできず、60%の人が減収となるなど経済的被害を被っていた。

2 今後の課題

1 日常生活において-周囲の人の理解

 視覚障害者が災害時や避難時、避難場所等において最も配慮を受けたのは近所の人であった。日頃から近所付き合いをすることで、周囲の人も障害についての理解を深めることができ、災害時にはその障害を配慮した行動ができると思われる。

2 避難訓練

 調査対象の中で避難所を知っていた人が40%で残りの人は知らなかった。また、95%の人が避難訓練をしたことがなかった。メンタルマップで移動しなくてはならない視覚障害者のほとんどが訓練をしていなかったということは大きな問題と思われる。従来の健常者主体の訓練ではなく、視覚障害者等障害を有する人々と共同で訓練をする必要がある。

3 避難場所の設定

 近所の人やボランティアの配慮があったとしても先に述べたように一般の避難所は決して視覚障害者に配慮した場所ではないので、健常者と同一の避難場所を利用することが必ずしも良いとはいえない。視覚障害者が日頃から親しんでいる場所(集会場や福祉センター等)が避難所となれば、既にメンタルマップはできあがっており、障害者同士の交流も可能で気兼ねなく生活を送ることができる。また、情報の提供も視覚障害を考慮した音声等による提供が可能であり、ボランティアの支援も受けやすい。

3 最後に

 以上の調査は重度の視覚障害者を対象にしたものであり、低視力者の問題点が欠けているかもしれない。しかし、重要なのはその障害を理解し、その欠けた能力障害をサポートする配慮であると思われる。

(いしだみさこ 国立身体障害者リハビリテーションセンター病院眼科)

参考文献 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 12頁~13頁