特集/災害時における対応
聴覚障害者救援活動の報告
水田俊子
1 はじめに
平成7年1月17日、午前5時46分未明の激震の発生直後から全日本ろうあ連盟は、兵庫県、神戸市等に地震被災地の聴覚障害者の安否の確認や情報提供に配慮するように要請すると同時に、独自に被災調査を開始しました。その後、事態を重く見た全日本ろうあ連盟は、1月21日に緊急の関係者会議を開催し、神戸ろうあハウスに聴覚障害者救援対策本部を設けて主な救援活動を始めました。
1 支援体制(組織)
①全日本ろうあ連盟は東京本部事務所に「全国救援対策本部」を設置、全国の都道府県が被災地の聴覚障害者へ手話通訳の派遣等の支援を行うことを要請。全国的な義援金の募集を行いました。
②被災地である近畿には現地救援対策室を置き、主に大阪、京都で救援行動隊、通訳相談要員を調整して現地へ送り、また、救援物資は、大阪ろうあ会館が担当となり調達と現地への配送を行いました。
③「兵庫県聴覚障害者救援対策本部」を神戸ろうあハウスに置き、被災地の聴覚障害者の安否確認や通訳派遣、相談依頼等に対応してきました。この対策本部の下には姫路、阪神の2つの支部が置かれ、それぞれの被災地域での調整援助活動と、神戸ろうあハウスの人的・物的後方支援に当たっていました。4月12日以後、救援対策本部を現地対策本部に改め、事務所も兵庫県聴覚障害者協会の分室に移転。対策本部移動に伴い、神戸ろうあハウスに新たに神戸支部を設置しました。
2 被災聴覚障害者の安否確認
兵庫県聴覚障害者協会、神戸ろうあ協会、全国手話通訳問題研究会兵庫支部、兵庫県サークル連絡会のメンバーらが、兵庫県、神戸市や全日本ろうあ連盟などの要請に応えて被災地に入り、救援活動に従事する手話通訳者、支援行動隊によって、昨年の4月25日までにのべ1600名余りの聴覚障害者の安否の確認を行うことができました(表1)。
家屋 | 全壊 | 半壊 | 損傷 |
109 | 42 | 69 |
地震の影響による死亡者数 | 2名 | ろう1 健聴1 |
家族死亡 | 15名 | 父2、母7、祖母2、夫1、妻1、娘2 |
負傷 | 本人26名 | 家族2名(妻1、娘1) |
生存1538名・死亡8名・合計1546名
生存者 | ||||
男性 | 女性 | 性別未確認 | 小計 | |
ろうあ者 | 748 | 679 | 12 | 1439 |
健聴者 | 20 | 68 | 2 | 90 |
ろう・健未確認 | 4 | 5 | 0 | 9 |
合計 | 772 | 752 | 14 | 1538 |
死亡者 | ||||
男性 | 女性 | 性別未確認 | 小計 | |
ろうあ者 | 3 | 5 | 0 | 8 |
健聴者 | 0 | 2 | 0 | 2 |
ろう・健未確認 | 0 | 0 | 0 | 0 |
合計 | 3 | 7 | 0 | 10 |
*合計 「生存」「死亡」「未確認」の合計数です。
*健聴者、手話通訳者、手話サークル関係の方および家族
3 支援行動隊の活動
①近畿各府県および全国からの支援を受けて組織された支援行動隊が神戸市内の580か所の避難所と、阪神地域内(特に芦屋市、西宮市を中心にした周辺の市)の600か所の避難所を訪問。約350名の聴覚障害者と面接し、被災地の実情を聴取(手話による読み取りを含む)。当面必要とする日常生活用品や、補聴器の電池の支給、補聴器破損者への補聴器の支給、手話通訳派遣依頼、生活相談などに応じました(表2)。
区 | 避難所総数 | 2/7調査済 | 2/8 | 2/9 | 2/10 | 2/11 | 2/12 |
東灘区 | 114 | 85 | 85 | 124 | 111 | 111 | 111 |
灘区 | 90 | 65 | 65 | 81 | 79 | 79 | 79 |
中央区 | 99 | 45 | 67 | 78 | 97 | 97 | 97 |
兵庫区 | 112 | 66 | 77 | 84 | 112 | 112 | 112 |
長田区 | 67 | 66 | 66 | 66 | 66 | 66 | 66 |
須磨区 | 81 | 57 | 57 | 60 | 73 | 73 | 73 |
垂水区 | 43 | 38 | 38 | 38 | 43 | 43 | 43 |
西区 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
北区 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
合計 | 606 | 422 | 455 | 205 | 581 | 581 | 581 |
(避難所での聴覚障害者の登録数)
4 住宅、相談援助活動
①昨年の2月1日から4月25日までに救援本部にあった手話通訳者派遣の要請(電話対応を除く)は、のべ1900件(阪神・淡路支部を含む)、相談援助に当たった手話通訳者は120名で、うち48名が継続して相談援助に当たりました。
②相談援助ケースには、兵庫県の委託する聴覚障害者相談員をはじめ、兵庫県、神戸市の要請に応えて、全国から派遣された「相当の経験を有する手話通訳者(生活相談員)によって、順次援助、相談の手が差しのべられました。
5 被災聴覚障害者への情報提供と支援物資の配布
①実情を把握しつつある被災した聴覚障害者に適切な情報提供を行うために、支援ニュースを発行。手話による情報提供を行いました。
②全国から現地対策室(大阪ろうあ会館)を通じて寄せられた物資を支援行動隊の協力も得ながら順次配布しました。
③朝日新聞厚生文化事業団などから寄贈されたFAX機(220台)を、破損・故障したFAX機と取り替えました。
2 現在の活動と現状・課題
1 現在の活動
・仮設住宅関係等の手続き等の手話通訳・相談(就労相談も含む)
・神戸市福祉事務所への手話通訳奉仕員派遣のためのコーディネート
・被災聴覚障害者への情報提供
・その他
2 現状・課題(表3)
・窓口への手話通訳者の配置
仮設住宅の申し込みや斡旋、倒壊家屋解体撤去の公費負担申請、義援金の配分申請等、今回の地震災害によるさまざまな行政措置については、神戸市内の各区役所や県市町の窓口に聴覚障害者もたびたび足を運んでいますが、目下の緊急の課題として、このような被災した聴覚障害者が他の健常被災者と差別なく情報提供を受けるために、当該窓口で手話通訳者を通じて自由に相談・質問のできる体制をつくっていますがノウハウ、技術の習得について、もっと研修しなければならないと痛感しております。
問題点 | 要望 |
災害が起こることを想定し、避難所の場所を確認できていなかった | 災害時の避難所一覧表等を作成し、周知する |
災害時、テレビやラジオなどからの情報が得られない(対策本部として読みやすいニュースを作成し、配布して情報提供を図った) | 日常からテレビの全番組(特に報道番組)に手話通訳や字幕を挿入した「文字の見えるラジオ」が開発、発売されたと聞いているが機能が充分であれば日常生活用具として給付 |
避難所で救援物資(水や食事なども含む)の配布のアナウンスがあるが聴覚障害のため出遅れた | 電光掲示板などの設置 避難所名簿作成時に障害等の有無を把握し、ケアする |
水道・電気・ガス等の故障のため、関係会社に修理の依頼をしようとしても電話のみで連絡ができない | 関係会社への連絡はFAXも利用できるようにし、FAX番号を請求書などに明示することを周知 |
行政機関からの震災関連ニュースの読解力の問題(対策本部に相談にこられた人については、わかりやすく説明した) | 広報などの編集方法の工夫 行政の相談窓口の設置 |
震災によるFAXの故障、補聴器紛失、電池切れ(協力メーカーより贈呈があり、対応できた) | 緊急時の手続きの簡略化 所得制限等による給付・貸与条件の緩和・撤廃、公衆FAXの普及 |
職業安定所へ相談に行きたいが、手話協力員が常時配置されていないため、充分に相談できない | 職業安定所の手話協力員設置条件の見直し |
仮設住宅入居期間が短いため将来を考えると不安 | 入居期間3年に |
行政機関での各種手続きが手話通訳者がいないためスムーズにできない(対策本部より各区福祉事務所へ通訳者を派遣) | 日常より、福祉事務所にろうあ者相談員、手話通訳者を常勤で設置 |
(みずたとしこ (社)兵庫県聴覚障害者協会)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 14頁~17頁