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特集/災害時における対応

応急仮設住宅を住すみやすくするために

能登原正彦

はじめに

 未曾有の地震が、阪神地区を襲った、あの日から600日近くが過ぎました。この阪神・淡路大震災で、長く住み慣れた家を失った方々の多くが、不慣れな場所での仮設住宅暮らしを余儀なくされています。この仮設住宅への入居については、公平を期するため、抽選という形で行われました。その際、高齢者や障害者に対しては、優先的に入居可能なよう配慮がされました。

 今回の地震は、だれもが想像し得ないほどの大規模な出来事であり、莫大な数の被災者がおられるといった状況下で懸命に建設された仮設住宅の環境は、高齢者や障害者に配慮されているとは言い難いものでした。当時の状況を振り返ると、この仮設住宅の環境は、とにかく雨風や寒さをしのぐことができ、プライバシーが守られることを最優先として、これに応えるためにとられた最大限の対応であったと思われます。

 このため、実際に入居が進む中で、高齢者や障害者にとってはいくつかの新たな問題が浮かび上がってきました。それを解消するために、兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所メンバーを中心にチームを組織し、仮設住宅を巡回しました。すべての被災された方に対し改造等の支援をするだけの機動力はありませんでしたが、我々とボランティアによる実際の改善工事を通して、のこぎりが引ける、釘が打てるといった日曜大工が多少できる方であれば、ホームセンターで揃う材料をもとに容易に改造が可能なようにと、1冊の技術資料をまとめました。この資料が、被災された方自身やその親類・近隣の方等の仮設住宅を住みやすくするためのヒントになればと、希望者に配布しました。

 ここでは、高齢者・障害者にとってどういう点が使いにくく、どういう改造をしたのかについて、実際に行った例を紹介します。これらをみることで、仮設住宅にとどまらず、今、住まわれている家でのちょっとした工夫の一助となれば幸いです。

1 段差の緩和

1 玄関部

 玄関部の形状については、ドア式のものと引き戸式のものとの2種類があります。いずれにしても、靴を脱ぐといった玄関スペースが建物内にありません。それに建物全体を湿気から守るために床面が地面から高く上げられているため、玄関の出入口自体に45~70cmといった段差が生じていました。

 これに対しては、コンクリートブロックやU字溝を用い階段を形成させ対処されていましたが、段差が大きい、段差が均等でなく昇り降りしにくい、地盤そのものの排水が悪く雨が降るたびに不安定になりガタガタする、等の状況がありました。

 この代わりに、耐水ベニヤ合板・角材・ステンレス釘等を用い、1段の高さが15~18cmの均等の段になるよう2~3段の階段を設置しました(写真1 玄関部の階段による段差の緩和 略)。足の不自由なAさんに対しての改造では、高い段差を解消するために3段の階段になったため、片側に手すりの設置を行いました(写真2 玄関部の手すり付階段による段差の緩和 略) 。

2 ユニットバス

 水洗地区の仮設住宅では、トイレと風呂が一体になったユニットバスが多く使われています。このユニットバスは、スペースが狭いことに加え、建物全体の床を先に貼り、その上に据え置き設置をしたため、出入口に約30cmの段差が生じました。

 これを緩和させるため、ベニヤ合板・角材・釘・パンチカーペットを用い、高さ15cm・幅45cm・奥行き30cmの踏み台を製作しました(写真3 ユニットバス出入口の踏み台による段差の緩和 略)。この踏み台は、中学校の技術家庭の教材としても作られ、障害者だけでなく多くの方々に配られました。

3 畳段差

 台所と和室との境に、畳の厚さ分(約5cm)の段差が生じます。

 車いすを使われているBさんに対しての改造では、角材を薄く斜めに切断することで、この段差を緩和させました(写真4 畳段差の緩和 略)。

2 手すりの設置

 高齢者や障害者にとって玄関部・ユニットバス出入口・浴室内等、段差のある箇所には、先述のような階段・踏み台により段差を2~3段と緩和させても、何かにつかまって昇り降りをしないと危ないというケースがありました。必要な箇所に手すりを設置すれば、何ら問題にはならないのですが、仮設住宅の構造の特徴の1つである壁の薄さがそれを遮りました。

 手すりには、使用者の用途や希望に応じて好きな長さに切ることができ、十分な強さを兼ね備えているイレクターパイプ(鉄製パイプに樹脂を被覆接着させた製品)と専用のジョイントを用いました。

1 玄関部

 たとえ高齢であっても、ある程度しっかりとした歩行が可能な場合、階段を作り、均等な段差にまでしなくても、玄関部に手すりを設置することで出入りがしやすくなるといったケースもありました。玄関サッシ脇の軽量鉄骨部の内側と外側に、直接、縦型の手すりを設置しました(写真5 玄関脇鉄骨部への縦型手すりの設置 略)。

2 ユニットバス出入口

 ユニットバスの出入口付近は、手すりを直接取り付けて使用に耐えることができる丈夫な箇所がありません。壁自体が薄いベニヤ板でできていて、一般的な木ねじでは止まりません。あらかじめ2cmほどの厚さの板をシリコン・コーキング剤(強力な接着剤)で壁へ張り付け、さらにユニットバスのドア枠沿いの構造材へ木ねじで止め、この下地板に手すりをねじ止めするといった形で設置しました。

3 ユニットバス内

 最も手すりが必要になった箇所が、浴室・トイレを兼ねているこのユニットバス内でした。洋式便器に座る時や立ち上がる時に使う手すり、浴槽に出入りするときに使う手すりです。この内部の壁に関しては裏に下地補強材等はありません。出入口での手すりの下地と同様に厚さ2cmほどの板を、あらかじめ取り付けました。ここでは、シリコン・コーキング剤での接着と、壁と板を挟む形で締め付けることができるモリーアンカー(空洞の壁等に差し込み締め付ければ傘状に開き抜けなくなるねじ)を用い下地板を取り付けました。そして、これに手すりをねじ止めし取り付けました。

3 浴槽への出入りの工夫

 高齢でマヒのあるCさんにとっては、ユニットバス内の浴槽の高さは少し高いものでした。そこで、浴槽へ出入りする際、一旦腰を下ろすことができるよう、耐水性が強いヒノキ材・ステンレスねじを用い、バスボードを作成しました(写真6 浴槽でのバスボードの利用 略)。

4 流し台の高さの緩和

 仮設住宅の中には、輸入されたものもありました。国産との相違点は、備え付けの流し台の高さが90cmと高めになっている点です。

 140cmの身長のDさんにとっては、10cmほど高すぎるものでした。Dさんは、梱包された電気こたつの箱を台にして台所仕事をされていました。台所の流し台の反対側には、出入り口に30cmの段差があるユニットバスがあるといった状況でしたので、流し台からユニットバスへかけての台所一帯を10cmの台でかさ上げしました(写真7 台所一帯の台によるかさ上げ 略)。

おわりに

 我々は、震災での応急仮設住宅について、断熱性や防音性等を含めた環境という大きな視点でなく、そこで生活する人の日常的な動作のしやすさ・しにくさといった視点での改造等を通し、1冊の改造技術資料を作成しました。そうした中で、建設されつつある恒久住宅、また、今後起こりうるかもしれない災害時の応急仮設住宅に関して、次のように考えます。

 住みやすい住まいを考えるとき、個々のケースにより改造の方法・内容がそれぞれ違ってきます。画一的に住みやすい住まいを捉えることができないため、生活者以外の人が住みやすいと思われる環境にあらかじめ用意していてもすべてのケースに対応できるのかというと、全く難しい状況にあるでしょう。したがって、そこに住む人が必要に応じてちょっとした改造をすることが可能なように、例えば、住宅中どこへでも手すりが設置できるよう壁に下地を補強しておくこと等が望まれます。また、災害時の急を要する仮設住宅等の対応では、すべての人への改造等への対応が難しいようであれば、今回我々が作成したような改造の技術資料の配付は欠かせないと考えます。

 訪れた仮設住宅のほとんどが、仮設住宅の敷地入口から住居までが砂利道で、車いすを使用している方にとっては到底使いにくい環境でした。住みやすい住居を考えるとき、住居だけにとらわれがちですが、最寄りの駅舎・バス停を含め、そこからの動線の確保・整備も併せて不可欠なものと思われます。

(のとはらまさひこ 兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 26頁~30頁