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フォーラム'96

デイセンター構想について

高松鶴吉

1 はじめに

 重度・重複・重症障害者が地域で生活するには、その支援システムの確固たる核として、通所の活動センターが必要である。

 それは生活の拠点であるとともに、共に頼り合える精神的な拠点でもあるようなもので、それがなければ、心から安心して地域で生活することができないと思う。

2 見直しの経過

 歴史的にいえば、重度重症の人々が地域で家庭で生活するようになってきて、通所の施設に通うことを望み、次第に通所施設は重度化してきて、それらがもつ通過施設という役割を失い、運営も混迷化してきた。

 その一方では法律外の小規模作業所が生まれ、しかも大量に増え続けてきて長い年月が経過した。これらの小規模作業所は未来的エネルギーを示すが、法外のままでは国の支援もままならず、地方自治体の支援量次第で、地方格差は目を覆うほどに拡大してきた。

 こうして既存体制の根本的な見直しが切迫した課題となってきたのである。

 80年代後半から、小規模作業所のあり方についての意見交換が続いていたが、90年当初、厚生省は3局長の私的諮問委員会という形で識者を召集し、<授産施設制度のあり方に関する協議>を行ったのであった。

 その結果として、92年7月30日、厚生省は同委員会の結論として以下の提言を公表した。提言は現在の授産施設制度を以下のように整理して、未来の方向を示したのである。それは、「雇用されることの困難な障害者等に対する福祉的就労、作業活動の場については、次のような現行の基本的考え方を踏まえつつ、各機能に応じた施設の体系的整備を行う必要がある。

 ① 就労を重視し、高い工賃を目指す福祉工場

 ② 訓練と福祉的就労の機能をもつ授産施設

 ③ 社会参加、生きがいを重視し、創作・軽作業を行うデイサービス機能をもつ施設」

 この③は新概念であり、重度障害者の地域生活を支える基本的施設として、全国的に当事者たちから強い関心が寄せられるものとなった。

 そのため、全社協・心身障害児者団体連絡協議会は第15・16回障害者地域生活支援システム研究会議(94年松山、95年新潟)でこの問題を取り上げ、本年度もこの問題を中心に開催される予定である。

 一方、95年4月、全国社会福祉協議会は「障害者地域生活支援に関する調査研究委員会」を創設し、同委員会は同年10月「重度障害者通所活動施設構想に関する試案」を発表、以後、広範な意見を求めながら最終的に報告書をまとめ、96年4月厚生省に提出した。

3 名称

 当初は本センターを「デイセンター」と呼んでいたが、それでは内容が示されず、いかにも便宜的な曖昧な名称と思われた。

 英語でいうactivity centerが私達が願うものの内容を比較的よく表現するので、日本語としては耳慣れないが、重度・重複・重症者の「活動センター」という名称を用いるようになった。以後本稿では「活動センター」という表現をさせていただく。

4 通所の活動センターを核とする理由

 障害者とはいわずとも、地域で生活をしていくためには3つの要素(暮らす・働く・楽しむ)が必要である。

 働くことを生活の軸とすることができれば、障害者であっても各種授産所を含めて、日々通う場は保障される。だが、労働を軸としえない重度・重複・重症の人々には「日々通う場」が法的には存在していなかった。

 孤立化した人々が最初に願うことは仲間同士の集まりである。そのことは養護学校卒業の親子が、あるいは精神障害者の家族会が「生きがいの作業所」をつくってきたという歴史が雄弁に語っている。

 今後、地域において多様なサービスが展開されたとしても、この「日々通い、集い、活動する」機能が存在しなければ、地域支援のシステムは画竜に点睛なき憾みが残る。

 本センターが地域で暮らす最も重要な拠点として政策化されることは重度・重複・重症の人々の願いである。

5 「通所活動センター」の基本性格

 ① 本センターを重度・重複・重症障害者の地域生活を支援する基本拠点とする。

 ② 有期限(通過型)ではなく昼間生活を長く支えるものとする。

 いうまでもなく、このセンターを拠点として彼らの地域生活が描かれていく。

 ③ 成人期のすべての重度・重症の障害者(中途障害者を含む)を対象とする。

 現実的にはさまざまな障害の人をただちに混在させようというのではない。それは無理であるだけでなく、現在は法的にも未だそのような形をつくることはできないのである。だが、理念的にいえば各障害別概念を超えた「あらゆる重度・重症の障害者の」センターを目指すのは可能であり、かつ未来的である。

 ④ 障害および地域の特性はさまざまであり、それらの特性に応じて変形しうる柔軟さを制度の基本性格としたい。

 障害の違いだけでなく、展開する地域もまた千差万別であり、1つの固定された形態で対応できるものではない。そこで創りたいと願う人々の、その願いの実現を助けうる柔軟で多様性が許されるということを基本的な性格としたいと思うのである。

6 「障害者活動センター」の内容

 ① 通所日数は週五日

 利用者の権利として(義務としてではなく)日々通うことが保証されることは、生活の基本リズムを崩さないためにも必要である。

 ② 事業内容(障害種別のすべてに配慮)

 社会参加、生きがいを重視し、創作・軽作業・文化活動、レク等を行う。

 ③ 対象者数

 おおむね20名程度とするが、地域特性により「分場」「小規模複合」などの工夫が必要である。

 ④ 基準面積

 利用者1人当たり25ヘーベルを基本としたい。ただし、他施設からの移行や都会地での面積確保困難のために、基準面積が障碍となることも起こるので、一定の範囲で弾力的に考慮してもらえるようにしたい。

 ⑤ 職員

 利用者3に対して直接援助職員1を基準とし、専門職および介護職を実態に応じて付加する(専門職のうち社会福祉士および看護婦を必置とするが、他は嘱託・臨時可)。

 ⑥ 医療ケア

 利用者によって異なるが、日々医療を求める人々がその理由で排除されないことが<基本的な>条件である。実際には濃厚な医療が必要なチームも、ほとんどその必要のないチームもあるだろう。

 それゆえ医療ケアはオプションという形式になると思うが、だからといって決して軽視してはならないものである。

 ⑦ 日々の昼食と送迎

 これらは必須だが、委託可能とする。また選択権を利用者側に与えるために一部は自己負担としたい。

 ⑧ 関係施設・事業との関係

 通所は地域生活の柱だが、地域生活には住まい・短期宿泊・相談事業・訪問援助などのサービスも必要である。本施設は地域生活支援の重要な拠点なので、外部にネットワークを広げるか、内部で複合化するかは別にして、自由に諸事業が展開できるようにしたい。

 ⑨ 地方自治体の責務

 地方自治体は関係する人々の強い意欲を前提として、各種通所施設からの移行、および重症心身障害や精神障害の領域を含めて小規模作業所など、地域で生まれている諸活動からの発展を支援して欲しい。関係者の意欲や計画を無視して官製の施設をつくり与えるという手法は未来的ではない。

 ⑩ 設置数

 当面は求めに応じて設置する。だが絶対数の不足や地域偏在の傾向を是正するために、市町村を基礎として、およそ人口5万人に1か所を目標としたい。

7 おわりに

 私は全国社会福祉協議会がこのためにつくった委員会(障害者地域生活支援に関する調査研究委員会)の委員長としてかかわった。

 委員会は、意見の集約や共通化を求めて全国各地で本センターを中心に重度・重複・重症の人々の地域生活に関する集会をもってきたが、多くの人々が参加して活発な意見が語られ、その実現への期待と熱意が溢れた。

 行政の理解と努力をいただき、何とかして実現の日を迎え、喜び合いたいものである。

(たかまつつるきち 西南女学院大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号)55頁~58頁