特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて
域内各国での取り組み
フィリピンにおける進捗状況
キャプテン・オスカー・タレオン
1 はじめに
フィリピンは、「アジア太平洋障害者の10年」(以下「10年」とする)の推進を域内他国に先駆けて、支持し始めた国のひとつである。
1993年3月17日、ラモス大統領は、アジア太平洋地域における障害者の完全参加と平等に関する宣言に署名した。調印式にはESCAP事務局長アーメド氏(当時)をはじめとする役員や、UNDPマクグラス氏やフィリピン側からは、社会福祉開発省大臣アルマ・デ・レオン氏(当時)と障害者団体の代表2名が出席した。
その後ラモス大統領は行政条例を出し、10年の目標推進に必要な方策を講じるよう各省庁に指示した。
国内の調整を行う全国障害者福祉協議会(NCWDP)は政府役人とNGO指導者とのフォーラムを開催し、その結果、「10年」推進プログラムに関する諸問題を協議する委員会が設立された。
1994年7月、フィリピンは「10年」推進に焦点を当てた、キャンペーン’94マニラ会議を主催した。
フィリピンの人口は6千8百万人であるが、10年についての認識している者は人口のわずか10%と推定される。政府や各障害者団体の努力にもかかわらず、この10%のほとんどは、政府役人または政府の事業にかかわりのある障害者である。
また、10年に対する一般市民の認識は、ほとんどないといっていいだろう。
2 障害者問題への関心の高まり
フィリピン社会では、全般的に障害者問題への認識(関心)が高まりつつある。これは主に、この課題解決に向けて政府と当事者団体が積極的にキャンペーン活動を行っているからである。
現在、政府と当事者団体は非常に良い関係にあり、政府の当事者団体への支援は急増している。このように当事者団体は会員数だけでなく、政治や権利擁護運動への発言力ももち始めている。
このような著しい進展のひとつは、ラモス大統領が、政治の中核となる社会改革課題のひとつに障害者問題を含めたことである。1995年5月、大統領は社会改革協議会を発足させ、筆者は障害分野委員長として任命された。この協議会が発足されたこと、特に各省庁長官がこのメンバーとなったことにより、障害者は迅速な対応を要する要望や問題を大統領に直接申し入れることができるようになった。
3 マグナ・カルタの制定
フィリピンの障害者にとって史上最も重要なできごとは、1992年3月24日に障害者のマグナ・カルタが制定されたことだ。この法律は特にリハビリテーション、自己啓発、自立、社会のメインストリームへの障害者の統合を定めている。
1995年初頭に、この法の実施規則と規定が完成したが、これは、10年行動課題の影響を強く受けている。この法律が10年の理念と目標を念頭に入れ施行されることは確実である。
4 アクセス法
アクセスの問題は最近力を増している運動のひとつである。
1983年にアクセス法が議会で可決された。この法律の達成度はまだ目標とするものより低いが、今日では、法律の存在自体は市民に知れわたっている。
5 市民への啓発
現在、障害者が企画するラジオ番組や、障害者問題の座談会に障害者がゲスト出演するテレビ番組が増えている。こういったことは、障害者にかかわる問題などを市民に伝え、啓発につながっている。
また、議会への陳情、子供たちに参加を呼びかけた記念行事、障害者問題に関する大会などを通じて権利擁護を主張してきたことは、当事者の努力の成果として一定の評価をうけている。
6 10年推進に向けて
ESCAPが行った調査の結果によると、10年の目標が未達成である主な要因は、域内の国民が障害問題についてほとんど関心がなく、間違ったとらえ方をしていることであることがわかった。
このような状況は、主に域内の開発途上国に依然として残っている。10年推進を担うすべての機関は、積極的に広報・啓発活動を行い、この「障害」を取り除くために一丸となって取り組まなければならない。
今後の提案として、10年の啓発資料を作成し、配布することもひとつの解決策ではないだろうか。ただしこの印刷物は一般市民、特に農村部に住む人々にもわかりやすく、興味をもって読めるように、簡潔に、できればその土地のことばで表す必要がある。イラスト入り小冊子にすれば、なおよいだろう。また、テレビや映画館や教室で見ることができるビデオ資料も有効であろう。
10年は今年、中間年を迎えた。特に、市民と政府、当事者は共に、障害者の完全参加と平等という目標達成に向けて、行動課題の実施に力を貸さなくてはならない。
フィリピンでは、政府と当事者は10年の理念と目標に向けて、積極的に取り組んでいる。しかし、市民はまだこの流れに完全に溶け込むだけの認識と熱意をもっていない。
それ故、私たちはより多くの市民が参加するようキャンペーン活動に焦点をしぼっており、2002年の10年最終年よりも早い目標達成がなされることを願っている。
(フィリピン盲人会連合)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 19頁~20頁