特集/身体障害者ケアガイドライン試行事業
報告①
名古屋市における試行事業
―リハセンターの専門機能を活用したサービスの展開―
阿部順子
はじめに
名古屋市総合リハビリテーションセンター(以下「リハセンター」と略す)は、平成元年に開設して以来、多くの障害者が治療・訓練の実施を通して地域生活に戻っていきました。しかし、地域には十分な支援体制がなく、一部の人たちは機能維持、活動性の維持、人的交流を求めてセンターに通い続けています。また在宅生活を送る人々は、現状の生活への満足度が低いのみならず、家族の精神的負担も大きく、機能低下の問題も生ずるなど、センターを退所後のアフターケアの問題がクローズアップされるようになってきました。
平成8年度には、リハセンターの内部にアフターケア検討委員会が設置され、平成7年に実施された名古屋市身体障害者実態調査をもとに、脳血管障害者の青壮年(18歳~64歳の稼働年齢)層の生活実態とニーズも把握(文献1)しました。その結果、社会参加が阻害されている障害者への参加の援助を、地域に活動拠点を設けて全市的に展開することの必要性が明らかになり、『市町村障害者生活支援事業』を具体案のひとつとして提言しました。
以上の経過を踏まえ、我々はケアガイドライン試行事業を実施するに当たり、2つの目的をもって取り組むことにしました。1つは、青壮年層で社会参加が阻害されている人たちの参加の場や方向を作り出すこと、2つ目は、リハセンターの専門機能を地域生活支援に活用する可能性を試しながら、リハセンターの今後の地域展開の方法を具体的に模索することです。従って、この事業を実施する中で、我々は、周辺の社会資源(関連機関)を可能な限り活用し、ニーズに合わせてサービスの内容や方法を調整し、それでも不足するサービスは新たに作り出そうと試みました。また、リハセンターの専門機能を社会資源としてフルに活用し、今後の地域生活支援を念頭においたサービスにトライしました。
実施内容
(1) 実施主体の組織作り
リハセンターが設置されている瑞穂区を対象に調査研究委員会(名古屋市民生局、瑞穂区福祉部・社会福祉協議会・保健所・リハセンター)を設置し、その下に実施機関(リハセンターのケアマネージャー集団)及び協力機関(リハセンター地域リハのPT・OT、社会福祉事務所ワーカー、保健婦、社協)を置きました。
(2) 対象者の選定
瑞穂区在住の特別障害者手当受給者97名(平成8年8月現在)のうち、年齢が65歳以上の者、知的障害のみの者、他区への転居予定の者を除いた40名から、障害、年齢、状況等バリエーションを考慮して8名を選定し、リハセンターの相談窓口に相談のあったケースから3名を追加しました。
試行事業対象者は表1の通りですが、単一の障害者は4名で、残りの7名は肢体や視覚、聴覚障害に知的障害、高次脳機能障害、精神症状、痴呆などを合併していました。
No. | 性別 | 年齢 | 障害の内容(等級) | 選定の方法 |
1 | 男 | 50代 |
後天性聾唖(2)、脳血管障害による左上肢機能障害著名(3)、左下肢機能全廃(3)
〈1種1級〉 |
相談窓口来談者 |
2 | 女 | 40代 |
脊髄性マヒによる両下肢機能全廃、両上肢機能軽度(1)
〈1種1級〉 |
特障手当受給者 |
3 | 男 | 50代 |
疾病による起座不能な体幹機能障害(1)
〈1種1級〉 |
特障手当受給者 |
4 | 男 | 50代 |
脳血管障害による言語喪失(3)、右上肢機能全廃(2)、立ち上がり困難な体幹機能障害(2)
〈1種1級〉 |
特障手当受給者 |
5 | 男 | 60代 |
脳血管障害による立ち上がり困難な体幹機能障害(2)
〈1種2級〉 |
特障手当受給者 |
6 | 女 | 40代 |
脳性小児マヒによる体幹機能障害、自動起立及び起立位を保つことが困難(2)
〈1種2級〉 |
特障手当受給者 |
7 | 男 | 30代 |
頸髄損傷による両下肢機能全廃(1)、起立困難な体幹機能障害(2)
〈1種1級〉 |
特障手当受給者 |
8 | 男 | 60代 |
脳血管障害により立ち上がり困難な体幹機能障害(2)
〈1種2級〉 |
特障手当受給者 |
9 | 男 | 60代 |
脳血管障害による体幹機能障害(2)
〈1種2級〉 |
相談窓口来談者 |
10 | 男 | 30代 |
成熟性白内障による視覚障害(1)、愛護(1度)
〈1種1級〉 |
特障手当受給者 |
11 | 女 | 40代 |
視神経萎縮による視覚障害(1)
〈1種1級〉 |
相談窓口来談者 |
(3) 相談受付(相談受付票作成)
ケアマネージャーが福祉事務所の担当者とともに候補者宅を訪問し、事業の説明と試行の依頼を行いました。同意を得られたケースにはその場で相談受付を実施しています。
(4) 1次評価(1次評価票作成)
ケアマネージャーが単独で対象者宅を訪問し、1次評価を実施しました。
(5) 必要な2次評価とサービス内容の検討
1次評価の結果から、ケアマネージャーが対象者のニーズを把握し、ニーズを充足するために必要な評価のポイントを検討し、それに応じた専門家に、評価依頼箋を用いて評価を依頼しました。以下に述べるケアマネジメントのプロセスは、ケアマネージャーの判断を核にして遂行しました。
また、ニーズを充足するためのサービスについては、以前からあるサービスに加えて、今回トライするサービスの内容や方法を検討し、サービス提供機関と調整に入りました。
(6) 2次評価(各専門職の2次評価票作成)
2次評価は、実施機関及び協力機関のメンバーのみならず、サービス提供に関わる機関の担当者もケアマネージャーと一緒に、または独自に行いました。今回、2次評価に参加した専門職は以下の通りです。
●リハセンター関係者(PT・OT・ST、リハ工学技師、視覚指導員、職能指導員)
●関係機関(社会福祉事務所担当者、ヘルパー、保健婦)
●他病院関係者(MSW、PT、OT、Nrs)
●その他(デイサービス職員、盲学校教師)
(7) ケア会議(総合評価票作成)
ケア会議は実施機関及び協力機関のメンバー以外に2次評価を実施した期間の担当者が参加し、1ケース1時間程度をかけて、「現状・ニーズ充足の阻害要因」について報告し、「改善内容・改善手段」について検討しました。瑞穂区の9ケースは3回に分けて実施しましたが、窓口相談の他区の2ケースは、別々に会議参加者が集まりやすい地域拠点に出向いてケア会議を実施しています。会議の結果をまとめたものを総合評価としました。
(8) ケアプランの作成
総合評価に基づいて、ニーズ、援助目的、援助方法を具体化したケアプランを作成し、本人・家族の同意を得ながら、サービス提供機関と細部の調整をはかっていきました。
ケアプランは、二重構造とし、スタッフ向けには、サービス提供機関が一致した方針と先の見通しをもってサービスが提供できるように、利用者に示した内容に会議で検討された本来の目的、援助のポイント、配慮すべき事柄、真のニーズにいたるステップなどの項目を追加しています。
(9) サービスの実施
ケアマネージャーはサービスの利用を援助する中で、利用者やその家族が生活設計に主体的に向き合えるように、さらにはこの過程を通じて、利用者の社会生活力を育てるという視点で濃密な援助をしていきました。またその後、サービスを提供する機関と連絡を取りながら、スムーズにサービスが提供されているかモニタリングをしました。問題が生じたり、状況の変化があった場合にはケアマネージャーが家庭を訪問し、本人や家族の意向をききながら調整をしています。またサービスを提供している機関の相談に応じて、アドバイスもしました。
今回行ったサービスの概要は表2に、トライアルサービスの詳細は表3にまとめています。
項目 | サービス内容 | |
(1)保健・医療 | 医師による医療情報の提供、健康相談(1件) 保健所リハ教室の参加(2件) 保健婦の訪問(3件) |
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(2)リハビリテーション | ※リハセンター職能指導員による訪問職業相談、評価、指導、訓練(1件) ※PTによるADL指導(1件) ・通院リハ(1件) ・リハセンター視覚指導員の訪問訓練(1件) ※通所による心理的評価、訓練、相談(1件) |
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(3)生活を支える | ①人的環境 | ※ピアカウンセリングの実施(2件) ※ホームヘルパーの利用(1件) ・ガイドヘルパーの利用(1件) ※ボランティアの利用(1件) |
②その他の環境 | ・住宅改造指導(3件) ※福祉用具の整備(3件) ・補装具、日常生活用具の申請(4件) ・身障手帳書き換えの援助(2件) ・公営住宅の申請援助及び情報提供(2件) ・ショートステイの情報提供(3件) ・年金等級再審査申請援助(1件) ・同居祖母に対する福祉サービスの情報提供(1件) |
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(4)社会参加 | ①一次的参加 | ※身障デイサービス利用援助(1件) ※デイサービス職員、盲学校教師による訪問指導(1件) ※社会教育センター講座利用援助(1件) |
②二次的参加 |
※トライアルサービス
内容 | 分類 | 現況 | トライアルのポイント |
失語症者の講座開設(社会教育センター) | 一次的社会参加(新規) | 地域には障害者(特に失語症者)が参加できる講座がほとんどない。 | 障害者の参加できる講座の開設・支援。地域の社会参加の場の確保。 |
デイサービスセンターのメニューの拡充 | 一次的社会参加(拡充) | 先天性障害が利用者の多くを占めており脳血管障害を中心とした中途障害者(特に活動性の高い)には利用しづらいところもある。 | メニュー内容を拡充し、脳血管障害を中心とした中途障害者も利用しやすいようにメニュー検討に専門家(PT)が関わる。 |
デイサービスセンターの業務の拡充 | 一次的社会参加(拡充) | 盲重複を受け入れているデイサービスセンターには訪問での指導体制がない。また、盲重複を受け入れて間がなく、ノウハウが少ない。 | デイサービス通所につなげるステップとして訪問指導を実施。 |
教員とデイサービス職員が協力しながら在宅障害者に援助する体制はない。 | 盲重複など特殊教育に長年携わった、盲学校教員に訪問指導による援助を依頼。 | ||
身体障害者自立支援事業のスポット利用 | 生活を支える人的環境(拡大) | C福祉ホームで行われているが介助者が同居している場合には原則としてこの事業は利用できない。 | 主に入浴介助に利用。母親の介助負担の軽減、本人が他人の介助に慣れるという意味で実施。 |
ピアカウンセリングの実施 ・カウンセラー宅訪問 ・カウンセラーが本人宅へ訪問 |
生活を支える人的環境(改善) | ピアカウンセリング事業はカウンセラーの登録上の問題、使う側の利用上の問題があり、必要な時に利用できない。 | 必要な時にすぐ行うため、従来の事業は利用せず、リハセンタースタッフの紹介で、それぞれのケースにふさわしいカウンセラーを選び実施。実際の方法としては、カウンセラー宅にケースが訪問する形とカウンセラーがケース宅に訪問する形で2例実施。 |
住宅環境整備(環境制御装置、昇降機の導入) | 生活を支える環境(新規) | 住環境整備事業の中の機器購入費、取り付け費助成は本市にはない。 | 横浜市の制度にならって導入した。 |
個人のニーズに応じた自助具の開発 | 生活を支える環境(改善) | 在宅障害者に対し、リハセンターのPT、OT、リハ工学技師が自助具の開発や改良に継続的に関わることは難しい。 | リハセンターPT、OT、リハ工学技師と連携をとり開発。本人宅に出向き生活の場で実際に試用・検討した。 |
ホームヘルパーの援助拡大 | 生活を支える人的環境(拡大) | 送迎援助に関しては、ホームヘルパーとガイドヘルパーが行っているが、援助の範囲に制限がある。 | 体験利用的な意味も含めて、ホームヘルパーによる送迎援助の実施。 |
専門職による心理的評価・訓練 | リハビリテーション(拡大) | 施設入所者に対する心理的評価・指導・訓練以外は附属病院医師のオーダーが必要。 | 訪問指導の対象者に対して専門評価実施。従来の手続きを省力化。早急に対応できるようにした。 |
専門職の訪問による職業相談 | リハビリテーション(拡大) | 来所あるいは入所中に職業相談を実施。 | 在宅の障害者宅を訪問して職業相談を実施した。 |
(10) 事後評価
ケア会議を開催し、1ケース20分程度でケアマネージャーから経過を報告するとともに、対象者の感想やマネージャーの所見などを報告しました。またサービス提供機関の担当者からも同様の報告がされました。今回は3月で事業が終了することから、今後の方針の中では、ニーズの充足に伴うサービスの終了以外の継続が必要なサービスに関して、どこがどのように担当していくかを検討しました。また、近い将来に生じるであろう状況の変化とニーズの発生に関しても、その場合の対応について大まかな分担をしました。
まとめ(文献2)
我々は試行事業を通して、ケアマネジメントの目的は、障害者と家族が、社会資源を活用して、豊かな生活を送ることができるように援助することだと考えました。そのためには、当事者の側と社会の側の二方向へのアプローチが必要でした。
地域生活を送っている障害者のニーズは「困った」「不安だ」「何とかならないか」というように漠然としていたり、とりあえず目につく「住宅改造」や「仕事」というような形で述べられることが多いものです。我々はとりあえず出される要望(デマンド)に応じながら、真のニーズに気付いていけるように(ニーズの明確化)一緒に考えていく援助をし、また自力で社会資源を活用していけるような自立度を高める援助を心掛けました。
また社会の側に対しては、地域の社会資源を当事者のニーズに合わせて調整したり、作り出すようにしました。このように当事者と社会の間にケアマネージャーが介在し、単にサービスを調整したり、一方的に技術援助をするのではなく、「本人に合わせた靴を作る」プロセスを大事にしながらマネジメントをしていくことが重要です。また「本人に合わせた靴」を作るためには、障害(ベースの疾病と、インペアメント、ディスアビリティ、ハンディキャップ)を評価する視点が大切なのは言うまでもありません。
試行事業の評価をまとめてみると、従来のサービスと比較して、ケアマネジメントの優れた点として次の6点が挙げられるでしょう。
- ①リハセンターのような広域専門型サービスと地域密着型サービスが、うまくリンクする可能性があること
- ②本当に必要なサービス(人)が、必要に応じて活用されることでサービスの効率がよくなること
- ③窓口が一本化され、ケア会議でサービスも視点も統合されることで、利用者にはサービスがバラバラではなく、どこか一か所から提供されたように感じられるなどサービスが統合されること
- ④社会参加の場を創設すると共に、移動手段やヘルパー、ボランティアの確保を行った例に見られるように、必要なサービスが総合的に提供されること
- ⑤個々のニーズに合わせて柔軟に対応されること
- ⑥退院直後のケースでデイサービスの利用を希望したが、一杯で利用できなかった時に、ヘルパーの送迎により通院リハやリハ教室で対応し、その後デイサービスに移行した例のように、状況や変化に迅速に対応し、サービスの谷間を作らないこと
今回の試行事業を実施して、我々が最も強く感じたことは、障害のことが分かり、対人援助技術をもったケアマネージャーが、当事者の生活空間の中で、当事者と一緒に考えながら、サービスをコーディネイトしていくことで、当事者の満足度が高くなるということでした。
(あべじゅんこ 名古屋市総合リハビリテーションセンター)
〈参考文献〉
1 名古屋市総合リハビリテーションセンターアフターケア検討委員会福祉部会.脳血管障害者の生活実態とニーズ―名古屋市身体障害者実態調査より、1996
2 名古屋市総合リハビリテーションセンター身体障害者ケアガイドライン試行事業実施機関.障害者の地域生活を支援するケアマネジメント―「身体障害者ケアガイドライン試行事業」を通して、1997
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)12頁~16頁