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特集/地域での暮らしを支える相談員

精神保健福祉相談員の現状と課題

天野宗和

精神保健福祉相談員の歴史

 精神保健福祉相談員の名称は、法律とともに改称されていて、最初に登場したのは、昭和40年の精神衛生法改正でした。この改正で、保健所が精神衛生の地域における行政の第一線機関として位置づけられ、精神衛生相談員を配置できるとされ、在宅精神障害者の訪問指導、相談事業が開始されました。昭和62年の精神保健法の改正では、法律名に合わせて精神保健相談員となり、平成7年の精神保健福祉法の改正で、現在の精神保健福祉相談員の名称となりました。

精神保健福祉相談員の配置状況

 昭和40年の精神衛生法では(精神衛生に関する業務に従事する職員)として第42条に「都道府県及び保健所を設置する市は、保健所に、精神衛生に関する相談に応じ、及び精神障害者を訪問して必要な指導を行うための職員を置くことができる。2、前項の職員は学校教育法に基づく大学において社会福祉に関する科目を修めて卒業した者であって、精神衛生に関する知識及び経験を有するもの、その他政令で定める資格を有する者のうちから、都道府県知事又は保健所を設置する市の長が任命する。」となっていますが、全国の自治体で精神衛生相談員の配置に関する考え方は次の2つの違いがありました。

①神奈川県、川崎市、大阪府、新潟県など41年から相談員を専任で配置した自治体
 
②保健婦に精神衛生相談員資格取得講習会を受けさせ、専任でなく保健婦業務の1つとして、精神保健の業務をするとした自治体

 ①も②も保健婦が精神保健業務をしないということではなく、保健婦の地区分担制の中で業務を行ってきました。その後、現在では、先述の自治体の他には、愛知県、千葉県、沖縄県、横浜市、静岡市、浜松市、名古屋市、東大阪市、堺市、神戸市、広島市、北九州市などでは専任相談員を複数配置しています。
 平成7年に全国精神保健福祉相談員会と全国精神保健福祉センター長会とで行った精神保健福祉相談員(専従者)の全国調査では次の表のようになっています。

<都道府県>47
未配置 一部保健所に配置 全保健所に配置
23 12 12

<専任者配置保健所数>
1人配置 2人配置 3人配置
23

<職種>
福祉 心理 保健婦 その他
166 26 70 18
<特別区・指定都市・保健所政令市>31
未配置 一部保健所に配置 全保健所に配置
24

<専任者配置保健所数>
1人配置 2人配置 3人以上
15 18

<職種>
福祉 心理 保健婦 その他
111 34 74 29

 しかし、今年の4月から「地域保健法」の完全実施により、保健所の削減、保健所内の業務分担や職員配置が全国的に様変わりしており、精神保健福祉の業務については、相談員の数は微増ですが、保健婦の専任者が相当増えていると思われ、全国の状況は現在把握できていません。
 全国の職員の配置状況は自治体により大きく差があり、そのことが現在の精神保健福祉の地域間格差となって現れているといっても過言ではありません。それは、精神保健福祉の仕事は多岐に渡り、専任ではないととても対応できる仕事ではないからです。

精神保健福祉相談員の仕事内容

 「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」の「第三、業務の実施」の項の見出しだけをあげると
 一、企画調整 (1)現状把握及び情報提供 (2)保健医療福祉に係る計画の策定・実施・評価の推進 二、普及啓発 (1)心の健康づくりに関する知識の普及、啓発 (2)精神障害者に対する正しい知識の普及 (3)家族や障害者本人に対する教育等 三、研修 四、組織育成 五、相談 六、訪問指導 七、社会復帰及び社会参加への支援 (1)保健所デイケアその他の訓練指導の実施 (2)社会復帰施設等の利用の調整及び関係機関の紹介 (3)各種社会資源の整備促進及び運営支援 (4)精神障害者福祉手帳の普及 八、入院及び通院医療関係事務 (1)関係事務の実施 (2)関係機関との連携 (3)人権保護の推進 九、ケース記録の整理及び秘密の保持等 十、市町村への協力及び連携と仕事内容は多岐に渡っています。

保健所の相談内容

 埼玉県の24保健所4支所での平成5年11月の1か月間の新規相談事例323事例の内容を紹介すると、治療歴がある人の相談が61.9%、ない人の相談が31.3%で相談の内容を見ると、対応方法を求めたものが32.7%、治療を求めているものが29%、かかわりをもってほしいものが17.8%、社会復帰を求めているものが15.6%でした。疾病の分類では、分裂病圏49.7%、アルコール10.9%、そううつ病10.3%、神経症9.3%となっていました。
 保健所の精神保健福祉の相談や訪問のかかわりは非常に多様で、「住民苦情」の相談に象徴される本人の人権の問題や差別、偏見の問題が常に大きく関係しています。130人に1人という分裂病の発生率からいって、相談ニーズはまだまだ埋もれてしまっています。
 現在、全国で入院中の34万人の2~3割は社会的入院(地域でケアできる体制があれば入院の必要がない)と言われています。
 障害者基本法で、精神障害者が医療の対象だけの見方ではなくやっと障害者の仲間入りができましたが、他の障害者に比べ家族、本人の力は弱く、アパート捜し、就労の問題、社会復帰施設や作業所の創出にも地域社会の偏見の壁に当事者、家族、精神保健福祉相談員ともども大変な苦労が伴っています。

精神保健福祉相談員の課題

 緊急の課題としては、現在、市町村の障害者計画策定の進捗状況は全国的に悪く(4月、18%)大都市を除き策定済とされる障害者計画の中身でも、ほとんど精神障害者施策や数値目標が入っていません。市町村の多くは、従来より精神保健福祉を業務として行っておらず、精神保健福祉施策を折り込むことに非常な困難があると思われます。この障害者計画で全国の市町村の格差がまた広がろうとしていますし、国の障害者計画も見直される可能性が高くなってます。
 未策定や策定中の市町村に対して、今回は「1行でも2行でも精神保健福祉施策の項目を入れてほしい」そして、見直しの時に検討ができるように「検討していく、近隣市町村と広域で今後検討を進める。等の言葉を入れてほしい」などの助言や支援を働きかけることが急務だと思われます。
 この9月の臨時国会で、継続審議となっていたPSWの国家資格が審議されます。
 資格ができれば精神保健福祉相談員の名称は精神保健福祉士に変更されると思います。
 今まであまりにも悲惨であった全国各地の精神病院や保健所、社会復帰施設等の相談や支援のマンパワーが、この資格ができることによって増大することを期待しています。
 精神障害者のノーマライゼーションを実現していくためには、地域に多くの種類の社会資源を創出していく必要があり、精神保健福祉士は有効にその役割を発揮していかなければなりません。また、相談や支援には、できるだけ多くの視点やかかわりが必要で「保健婦や臨床心理士、OTなどとの職種間の連携」と「市町村保健婦や福祉担当者、社協職員などといかに協動しながら仕事を進めていけるのか」が今後の最も重要な課題となります。セルフヘルプ活動の支援やボランティアの活動もその連携の中で育まれればと思います。

(あまのむねかず 全国精神保健福祉相談員会会長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)19頁~21頁