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障害者のセルフマネジドケア
1 セルフマネジドケアとは何か

中西正司

 介護保険に障害者が組み込まれるか組み込まれないかにかかわらず、障害者のケアマネジメントはすでに厚生省では行う予定で、平成9年度より検討が進められています。このケアマネジメントに対立する概念として障害当事者から出されたものが、セルフマネジドケアです。
 もともとケアマネジメントとは高齢者の地域ケアを考えるうえで出てきた概念です。わが国でも介護保険をつくる途上で出てきました。厚生省が当初介護保険の主なる対象者として考えてきたのは痴呆老人でした。一人暮らしの意思決定能力のない高齢者にとって、ケアマネジメントはケア計画をつくり、サービスを提供するうえで不可欠なものと考えられてきました。
 ヒューマンケア協会では、日本で介護保険の検討が始まった1996年に、いち早くサービス供給量が不十分な中で行われるケアマネジメントの問題点を察知し、当時、介護保険が実施され始めたばかりのドイツを訪ね、障害者団体や自立生活センターにおける障害者が介護保険の適用によってどのような状況になっているかをつぶさに見てきました。そこでは、低所得の障害者は従来の租税による24時間介助サービスを継続して受けていました。しかし就労し、ある程度収入のある人の場合、低所得者向けのこの種のサービスは使えなくなり、介護保険の厳しいアセスメントに曝されて外出もできずに、仕事も続けられなくなった例もありました。彼らは述懐していました。「今から考えれば介護保険を導入すると政府が言い出したとき、我々障害者団体は、あれは高齢者の制度で障害者には関係ないと放っておいたのがよくなかった。あのときに介護保険に反対しておくべきだったと反省している」と。
 ヒューマンケア協会ではこの言葉を受けて、日本財団と3年間のプロジェクトを組み、次のような企画を立てました。それは高齢化社会への地域ケアの取り組みという世界的な動向の中で、自立生活をめざす重度の障害者が地域生活を継続し、発展させていくにはどのような政策があればよいのか、また世界各国の障害者たちはどのようにこの時代転換の中で自らの政策提言をしているのか、そのよい例を学び、日本の介護保険への対案をつくるということでした。
 1997年には日本の自立生活運動のリーダーたちを集めて、英国のコミュニティケア法の中で障害者の介助サービスはどうなっているかを、英国障害者団体協議会役員とソーシャルワーカー等から研修を受けました。ちなみに英国のケアマネジャー制度を日本の介護保険はモデルにしています。彼らは高齢者と異なる障害者の介助ニーズを訴え、ダイレクトペイメントという新たなシステムを制度化させることに成功しました(注1)。
 このシステムでは当事者の銀行口座に介助料が入金してから後は、介助者の選定、介助計画等は本人の自由裁量です。しかし、入口のアセスメントが高齢のコミュニティケアの介護基準で同一のケアマネジメントが行われるため、従来の外出・社会参加・見守り・待機等障害者の介助サービスで認められていた部分が財政的状況で削られ、その状況に苦しみ、悩んだ多くの良質なケアマネジャーが、辞職するという問題がありました。
 1998年にはカナダ・オンタリオ州のトロント自立生活センターで、3年間の試行期間を終え、州制度としてスタート直前のダイレクトファンディング自己管理型サービス(以下DF)の研修を受けました(注2)。
 自立生活センターがイニシアティブをとって進められたDFでは、社会参加や旅行、付添いも介助計画に自分で組み込んでおけば支給されます。介助者の選定や管理も自立生活センターの支援を得ながら自分で行います。利用者は自立生活センターに利用申請をし、そこを通して月末に報告書を提出します。かなり理想に近いシステムですが、現金が利用者の口座に振り込まれる点で、日本で行う場合は、法改正が必要です。

2 日本でのセルフマネジドケアはどうあればよいのか

 日本にも実はセルフマネジドケア・システムに近いものはすでにあります。それは自薦・登録ヘルパー制度といわれるもので、自分の指名した介助者を行政や介助派遣団体に登録しておき、決定された時間内で、介助者との合意があれば実質的に自由に介助計画を変更したり作成できるというものです。1998年度現在、全国130の自治体で実施されています。しかし実際には、まだ法的に完全な制度とはなっていないので、一般的なホームヘルパー制度の中の一事例でしかありません。これをまず正式な制度として位置付ける必要があります。

3 自薦・登録ヘルパーのアンケート調査から

 ヒューマンケア協会では、自薦・登録ヘルパーを制度として位置付けるため99年3月に、日本財団と共同で利用者832人のアンケート調査を行いました。その結果、275人から有効回答が得られました(図1)。

図1 必要な介助の状況

図1 必要な介助の状況

 調査結果によると、必要な介助内容は家事援助90%、続いて入浴80%、更衣70%、排せつ70%、食事60%、寝返り40%で、これらの介助がなければ一刻も生活できないことが明らかです。
 自薦・登録ヘルパーの利用に関してだれに相談したかとの問いには45%の人がピアカウンセラーと答え、自立生活センターが地域ケアに果たしている役割の大きさを表しています。現在利用している自薦・登録ヘルパーが利用できなくなったとき、職場や在宅でしている仕事が続けられなくなる人が90%あり、社会参加活動をするために介助は欠かせないことが分かります。セルフマネジドケアに関して重要なデータとして、どこまで自己管理したいかとの問いに対しては、80%以上の人が介助者の選定、日程の決定、介助内容の決定について自分で決めたいとしており、この比率は自立生活歴が3年、10年と長くなるに従って高くなります(図2、表)。介助者の募集、トラブルの処理、代替のヘルパーの確保、緊急時の対応については、自分でしたい人は20~35%に減少し(図2)、介助サービス組織に任せたい部分もあることが読み取れます。

図2 自己管理の希望

図2 自己管理の希望

表 自立生活歴と自己管理の現状・日程の決定のクロス表

  自己管理の現状・日程の決定 合計
自己管理 組織関与 その他
自立生活歴 1年未満 度数
自立生活歴の%
22
75.9%

24.1%
  29
100.0%
3年未満 度数
自立生活歴の%
21
72.4%

27. 6%
  29
100.0%
10年未満 度数
自立生活歴の%
44
75.9%
14
24.1%
  58
100.0%
20年未満 度数
自立生活歴の%
51
81.0%
11
17.5%

1.6%
63
100.0%
20年以上 度数
自立生活歴の%
31
88.6%

11.4%
  35
100.0%
合計   度数
自立生活歴の%
169
79.0%
44
20.6%

0.5%
214
100.0%


4 国の政策はどうあるべきか

 この結果から、専門のケアマネジャーが介助におけるケアプランをつくるケアマネジメントに関しては、8割の人が必要ないと意思表明したことになります。また介助者を自分で選択したいという人も8割を超えているところから、利用費補助方式に移行したとして、代理受領方式で居宅介護支援事業者が選んだ介護者を押しつけられることには8割の人が反対だと言えます。
 このことから、行政に求められている役割は介助者の選定、日程の決定、介助内容の決定にあるのではなく、介助者の募集、トラブルの処理、代替のヘルパーの確保、緊急時の対応がしっかりとできる支援組織やサービスを育て、ピアカウンセラーがいつでも相談にのってくれる自立生活センターの展開を推進することです。
 福祉サービスとは利用者の希望するサービスを提供することです。その意味でも介助者の募集、代替のヘルパーの確保、緊急時の対応に悩んでいる重度障害者の気持ちを尊重し、それに見合った政策を展開してもらいたいものです。

(注1)「当事者管理の地域ケアシステム」1998年、ヒューマンケア協会刊参照
(注2)「当事者主体の介助サービスシステム」1999年、ヒューマンケア協会刊参照

(なかにししょうじ ヒューマンケア協会代表)


 この問題をさらにお知りになりたい方は、ヒューマンケア協会刊行の「当事者管理の地域ケアシステム」及び「当事者主体の介助サービスシステム」を読んでいただくか、9月10日の午後1時30分~4時、日本財団での講演会「DFと介助利用者協同組合」(講演者はスウェーデン・自立生活研究所所長アドルフ・ラッカと、カナダ・トロント自立生活センター代表ビック・ウィリー)にご参加ください。なお、本及び講演会に関しては、ヒューマンケア協会(TEL/FAX 0426-46-4877)までお問い合わせください。