ハイテクばんざい!
聴覚障害者の
文字通信システムの最新状況
塩野谷富彦
聴覚障害者が文字メディアを得る手段としては文字放送のあるテレビ、携帯電話やPHS、ファクシミリ、ポケットベル、新聞・雑誌などがあげられる。ファクシミリは厚生省が聴覚障害者用の日常生活用具として給付していることもあって、かなり普及している。
しかし最近、文字通信ができる携帯電話、PHSやモバイル通信機器が出てきて、聴覚障害者の間でも若者を中心に爆発的に普及している。携帯電話やPHS、モバイル通信機器は安価にサービスを受けられ、いつでもどこでもリアルタイムで相互に文字通信が可能である。特に緊急事態のときに威力を発揮することや、家族や友人の安否の確認にも役立っている。
しかし問題点もある。リアルタイムでの文字通信機能は規格がまちまちなため、同じ通信事業者以外では使用できず不便である。通信事業者同士のリアルタイムでの互換性は、遅々として進んでいないのが現状だ。また、情報文化の必需品である文字通信機器は機能が複雑すぎて、特に高齢の聴覚障害者には使えないことが多い。
今回は、聴覚障害者の文字通信システムの最新状況と課題をまとめてみたい。
文字通信携帯電話が普及するまで
電話は音声を交換するメディアで、それまでの文字を交換する手紙と違って、伝達する情報量の多さと時間的な早さは一躍高まった。そんな電話主体のコミュニケーション時代が80年余り続いたが、聴覚障害者には非常に不便だった。20年前、事務に使われていたテレファクスやテレメール・スケッチホンが登場したが、当時は高価でなかなか手に入れることが難しく、一部の聴覚障害者に限られていた。1984年ごろ、文字によるコミュニケーションが可能なA5サイズのミニファクスが聴覚障害者の福祉機器に指定されて普及し始めた。その後、A4やB4サイズ対応やスピード化が図られ、15年前からG3対応のファクシミリが出て、今でも聴覚障害者には多く使われている。87年にパーソナルコンピュータが出て、パソコン通信が始まったが、パソコンマニアの間でしか使えなかった。パソコンがだれでも使えるようになり、94年に文字を送受信できる文字電話のテレターミナルが文字通信機器として初めて出現した。次に、手書きができるメサージュも出て爆発的に普及した。しかしポケットベルやドコモのショートメールが出てからは急に減少し、現在はなくなっている。96年に入って、インターネットと移動電話を利用することで、場所を選ばずに、いつでも情報交換ができる「文字通信」が新たに登場してきた。
携帯電話を使った文字通信は、J-PHONEグループが1996年から「スカイウォーカー」を、ツーカーグループが「スカイメッセージ」を始めている。これらは、パソコンやモデムを介さずに携帯電話だけでインターネットで電子メールが利用できるうえ、同じ事業者の端末同士で文字メッセージの交換ができ、さらにはニュースなどの情報を受信することができるようになった。聴覚障害者には現在一番多く使われている。メールがダイレクトに交信できるDDIのPHSポケットも普及し始めている。
ダイレクトでないJ-PHONEが現在多く使われているのは、DDIのPHSポケットより先に出たからである。文字通信ができるJ-PHONEが普及したことは、ポケットベルがきっかけだった。多くの聴覚障害者がインターネットの電子メールも使えるようになり、ファクシミリの使用は減少し始めている。
今後の聴覚障害者のための文字通信システムについて
J-PHONEの利用者は今後も聴覚障害者の間で増えつづけると予想する。しかし、J-PHONEのスカイメールはダイレクト送信でないため、リアルタイムに情報を届けられないという課題がある。
PHSポケットはダイレクトで非常に使いやすいが、ダイレクトのよさについて理解していない聴覚障害者が多いため、なかなか普及していないのが現状である。ダイレクトのことをもっと宣伝、普及してほしいと考える。
冒頭でも触れたが、現在の通信システムヘの提案として、文字通信機器については、郵政省は通信事業者や機種に関係なく交信できるように指導すべきではないかと考える。また、メーカーや通信会社は、高齢の聴覚障害者にも簡単で使いやすい文字通信機器を開発すべきだと思う。最後に一番大切なことは、ダイレクトでリアルタイムな文字通信システムを共通化してほしいことである。
(しおのやとみひこ 鹿島建設株式会社勤務)
表1 視覚・聴覚障害者との情報伝達
電話 (音声) |
FAX (画像) |
手話 | パソコン通信 インターネット |
携帯電話 | |
聴者 | ○ | ○ | - | ○ | ○ |
聴覚障害者 | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
視覚障害者 | ○ | × | - | ○* | × |
*点字ワープロ音声変換ソフト
表2 文字通信コミュニケーション経過
1979年以前 手紙や速達 1980年 テレファクス/テレメール・スケッチホン(手書きの文字を電送する方式) 1984年 ミニファクス(A5サイズ)聴覚障害者の福祉機器に指定されていた。 1985年 G3対応ファクシミリ 1987年 パソコン通信 1994年 テレターミナル(文字電話)「オアシス」 1995年 メサージュの利用で爆発的に普及 約6,000人が利用 1995年 ポケットベル 1996年 NTTドコモのショートメール利用 1997年 携帯電話がJ-PHONEのスカイウォーカーの利用で爆発的に普及しはじめる 1998年 PHSのDDIポケット普及はじめる 1999年 NTTドコモのiモード携帯電話やIDOのcdma Oneも普及しはじめる |
表3 現在、聴覚障害者が使っている主な文字通信関係の機器
●携帯電話 主にJ-PHONE(スカイウォーカー) ●PHS 主にDDIのPHSポケット(ダイレクトメール) ●インターネットの電子メール ●ファクシミリ ●パソコン通信 ●ポケットベル(伝言文字表示とバイブレータコール) ●文字放送システム ●ライトーク筆談機(同時筆談機)WriTalk ●ライトーク・パーム WriTalk Palm (いま家庭にある電話回線を通じて遠くの人と同時に筆談で対話ができる。) ●ECOT(Enhanced Communication On the Telephone) ●マルチコミュニケータ Possible ●ミニコムTTY Minicom TTY |
表4 現在、聴覚障害者が多く使っているJ-PHONEの利点
●購入する理由は友人などの相手がほとんどJ-PHONEを使っている。 ●スカイウォーカー、スカイメッセージなどの文字通信の基本機能は、「スカイメール」と「電子メールサービス」「スカイウエッブ」の3つもあってスカイウォーカーとスカイメッセージは相互に利用できるように基本的に同じ機能をもたせている。もちろんJ-PHONEとローミングしているデジタルツーカーグルーブのスカイワープとも同じものであってどこでも使える。 ●「スカイメール」は1回の送信で最大全角64文字、半角文字128文字が送受信できる。聴覚障害者にはこの程度で十分である。 ●送信だけならば一般の電話や他社の携帯電話やPHSからでもできる。 ●相手が圏外にいても、受信するまで最大72時間何度でも再送するリトライ機能やメッセージが相手に届いたことを送信元に知らせる配信確認機能がある。 ●緊急時には、速達送信を選ぶと、優先的に配信してもらえる。 ●スカイウォーカー、スカイメッセージの文字通信は、それぞれキャリアのホームページからもメッセージを送信することができる。 |
表5 私が考える聴覚障害者にあると便利なもの
聴覚障害者専用電子新聞 | |
携帯手話テレビ | 人の話を聞いて、携帯手話テレビに手話通訳が表示されるシステム。 |
音声字幕自動変換装置 | 人の話を聞いて、その場ですぐその音声が自動的に文字に変換され、携帯ディスプレイに字幕が表示されるシステム。 |
携帯小型テレビ電話 | 携帯小型テレビ電話機器の上に小さなカメラがついており、同時に相手と手話会話ができる携帯小型テレビ電話。 |
字幕表示付眼鏡 | |
手話通訳者スクリーン化装置 | |
緊急通報付き小型文字受信機器 | 胸にかけたペンダント型無線発信器を押すだけでセンターなどに連絡できるシステム。 緊急時に、スイッチを押すと電波が発信され、家の中に設置した受信機により、電話回線を介してボランティアセンターや病院など関係団体に連絡される。 |
広域自動検索システム | 常時携帯できる超小型・軽量の送信機から緊急時に特定チャンネルを利用して微弱電波を発信し、網の目状に設置された受信機でキャッチし、センターでその位置情報を分析・認識するシステム。 |