シリーズ 働く 51
社会就労センター
あけぼの作業所の取り組み
-メンバーのニーズを即したサービスを-
小野基晶
はじめに
今回私が訪ねた「あけぼの作業所」は、愛知県豊川市ではとても有名な、豊川稲荷神社にほど近い閑静な住宅街にある知的障害者のための通所型の社会就労センターです。あけぼの作業所では、各メンバーがそれぞれの活動に励んでいますが、どのようにメンバーの活動内容を設定しているのかをまず紹介します。
定員80人
あけぼの作業所では、メンバーの活動内容を検討するときの前提として、まず、定員が80人というかなりの大所帯であるという点に留意しました。十人十色とはよく言ったもので、実際に80人のメンバーが集まるということは、80種類のニーズが集まるということにほかなりません。「ニーズに応える」という考え方が、これからの福祉には最も必要であると日頃から考えていたあけぼの作業所にとって、一人ひとりのニーズにどうやって応えていくかは、大きな課題でした。
ニーズのグループ分け
しかし、いくら80のニーズがあるからといっても、80種類のメニューを提供していくことは、物理的に不可能です。そこで、あけぼの作業所では、まず個々のニーズを大きく三つに分けていくことにしました。
1.第1のグループ
就労をめざすグループ、もしくは、賃金・工賃収入によって生計を立てることを目的としているグループ。
2.第2のグループ
このグループがメンバーの大多数を占めますが、一人ひとりの能力に合った「仕事」を求めているグループ。
3.第3のグループ
学校を卒業した後の居場所として、日中過ごす場を第一に必要としていて、ある程度手厚いケアを必要としているグループ。
実際のサービスメニューの展開
しかし、三つのグループに分けただけでは、個々のニーズにきめ細かく対応するにはまだ不十分です。私が訪れた今年2月の段階では、ちょうど平成12年度のメニューを計画している最中でした。
メニューは11年度の6コースに、12年度から新たにパン製造コースを加えて、全部で7コースにしています。さらに、先ほどあげた三つのグループと各コースとの対応が分かりやすくなるようあらためて整理し直しています。メンバーは、自分の所属するコースを作業所と相談のうえ、選択していきます。
それぞれの課のコースの内容は、次のとおりです。
○第1課 企業内授産コース
事業所に数人のメンバーが出向いて、作業所が受託した作業を現場で遂行します。作業の工賃は、作業所が一括して受け取り、個々のメンバーには、それぞれの働きに応じて還元される仕組みになっています。
○第2課 ウエス製造販売コース
機械等の汚れを拭き取るための布(ウエス)を製造販売します。ウエスの原料は、染めムラなどで不良品となった反物などを使用しています。
○第3課 縫製製品製造販売コース
「抗菌・消臭・防水」のナイロンを使用したポーチなどを製造販売します。最近は、ゴミ減量のためのショッピングポーチの製造販売に力を入れています。
○第4課 軽作業コース
段ボールの組立、製造業の下請け作業などを行います。流れ作業形式で行っています。
○第5課 パン製造販売コース
メンバーとスタッフが協力して、天然素材のパンを製造販売します。
○第6課 簡易作業コース
製造業の下請け作業を行います。一人ひとりのペースに合わせ、無理のないように作業を行います。
○第7課 療育コース
軽作業、農耕作業、散歩やレクリエーション等を織り交ぜ、1日が楽しく過ごせるような活動を行います。マンツーマンに近い形で職員がケアします。
以上のようになっていて、数字の小さい課ほど工賃収入が上がり、数字の大きい課ほどケアが厚くなります。この中で、第1課が先ほどあげた第1グループ、第2~5課が第2グループ、第6・7課が第3グループに対応しています。
コースの選択については、年に1回、メンバーの状況やニーズの変化によって見直しをします。
新しい分野への取り組み
1.企業内授産
現在、製造関連の2社と契約していて、それぞれに4~5人のメンバーを派遣しています。毎日派遣される固定メンバーと、ふだんは他の課にいて、週に何日か派遣されるメンバーがいます。仕事は、主に工場内の隙間作業的なもので、正規の従業員の下準備のような仕事を主に行っています。この取り組みから、正式雇用されたメンバーも出てきています。
2.リサイクル関連商品への取り組み
作業所内の作業を設定していくうえで、もっとも頭の痛い問題は、特に第2・3課のメンバーの工賃をいかに引き上げていくかでした。近年の産業構造の変化や、長引く景気の低迷による製造業全体の生産量の落ち込み、コストの安い外国への下請け作業の流出という流れの中で、単なる製造関連作業では、収益率の向上は望めない状況でした。
そこで目をつけたのが「リサイクル」でした。環境問題への関心の高まりから、ゴミの減量、資源の再利用等が叫ばれていますので、何かできることはないかと考えたわけです。
「リサイクル」事業は、不況にあえぐ現在の日本の中で、成長を続けている数少ない分野であり、第2・3課とも、得意先もどんどん増えて、順調な成果を上げています。
将来に向けて
このように順調にみえるあけぼの作業所の運営にも、将来に向けた課題がいくつか存在します。
まずその一つは、メンバーの滞留という問題です。いくら定員を多くしても、地域にはまだまだたくさんの通所希望者がいます。しかし、これ以上定員を増やすことは不可能ですので、後はいかにしてメンバーを次の段階に送り出していくかになります。今後、企業内授産の取り組みを中心に、メンバーの就職に向けた活動にもさらに力を入れていかなければならないでしよう。
また、もう一つの課題は、通所しているメンバーの生活を支えている保護者の高齢化という問題です。これには、グループホームでの対応を考え、平成11年度より第1号をスタートさせました。
さいごに
あけぼの作業所のこのような取り組みは、まさに「大きな施設」の利点を最大限に活かした取り組みと言えるでしょう。では、小さな施設はどうしたらよいのでしょうか。そのキーワードは「連携」と「ネットワーク」であると私は思います。一つの施設だけではできないことでも、複数の施設が役割を分担しあうことで、大きな施設にも負けないような取り組みが、きっとできるのではないでしようか。
なお、もっと詳しいことを知りたいという方は、ホームページhttp://www1.ocn.ne.jp/ ̄wakatake/に、ぜひアクセスしてみてください。
(おのもとあき 愛知障害者職業センター)