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列島縦断ネットワーキング

東京
映画もバリアフリーに
─目の不自由な方々とともに─

稲葉千穂子

 私たちシティ・ライツは、目の不自由な方々にも映画鑑賞を楽しむことのできる環境づくりを考え、提案していくことを目的とした団体です。
 一般に「目が見えないのだから、映画はわかるわけがない」と思う方がほとんどですが、目が見えなくても映画をもっと鑑賞したいと思っている視覚障碍者の方は何人もいます。
 視覚障碍者が映画館で映画鑑賞する場合、台詞のわかる邦画やアニメ映画に限定されてしまいます。場面展開などのわからない部分は、目の見える友達にこそこそ解説してもらいながら鑑賞していますが、それでは周りの人の迷惑になるのではないかと思い、映画館に行けなくなってしまったという話をよく耳にします。本当は洋画の話題作を鑑賞したいと思っている方が圧倒的に多いのですが、ほとんどが字幕上映なのであきらめざるを得ないのが現状です。
 私は映画、特に洋画が大好きで、映画をみるなら映画館で観るのが一番!と思っていました。だから、視覚障碍者の方々の、このような映画鑑賞の不自由さを知ったとき、とてもふびんに思ったのです。
 私はそれから、目の不自由な方々への映画鑑賞サポートがどこかで実施されていないかと調べ始めました。その結果、米国では1998年に『タイタニック』が封切公開で、ヘッドフォン鑑賞による副音声付き上映が行われていたこと。200タイトル以上の副音声付き映画ビデオが販売されていること。国内では、大阪のシネヌーボーというミニシアターで年に数回、字幕朗読上映会が行われていたり、地方の映画祭でボランティアが副音声付き上映を行っていること。配給会社が副音声付き上映試写会を数本ですが、行っていたこと等がわかりました。
 全くないというわけではないにしても、アメリカに比べたら、日本はまだまだ数が少な過ぎます。それに、せっかく試写会や上映会が行われていても、その情報を知らない視覚障碍者があまりに多かったのです。このような背景から、私は視覚障碍者がもっとたくさんの映画を鑑賞できるように、自分たちでその機会をつくっていこうと思い立ち、2001年4月にこの団体を立ち上げました。団体名は映画界の喜劇王チャップリンの名作「街の灯」からとりました。盲目の女性への愛のため奮闘するチャーリーの姿を描いた作品で、大好きな作品の一つです。
 まずは、映画に興味をもっている視覚障碍者の方々への映画情報のサポートを考えました。これは、全国の方にいっせいに情報を提供することができるので、メーリングリストで展開しました。このメーリングリスト、シティ・ライツ・シネマ・クラブ(略してCLC)には、全国から100人以上の方が参加しています。
 このクラブでは、わずかですが全国で行われている副音声付き上映会の情報や、映画館の上映情報、日本語版のビデオ・DVDの作品紹介等の情報サービスを行っています。映画を通じた視覚障碍者と晴眼者のコミュニケーションツールとしても楽しく活用していただいていて、映画鑑賞オフ会の企画も行われ、大変盛り上がっています。「映画はもう無理だと思っていたけれど、このクラブに入ってから映画が観たくなり、何十年かぶりに一人で映画館へ行ってきました」という方も何人か現れ、「副音声がないと全然わからないところもあるけれど、やっぱり映画館はいいですね。また行きたい」というメッセージもいただきました。
 このクラブの方々の要望から、今後やっていきたいこともますます広がりをみせています。日本語吹き替え版の出ていない古い洋画作品やヨーロッパ映画の鑑賞サポートとして、字幕朗読と副音声の録音サービスや、映画館で公開中の洋画作品にも字幕朗読と副音声を同時に聴くことのできるいい方法はないか…と。7月に、MDに字幕朗読と副音声を録音編集しておいて、それを横で同伴者が再生調節しながら一緒にイヤホン鑑賞する実験を行い、10人の方にモニター鑑賞していただきました。映像と音声の時間差の調整には大変苦労しましたが、モニターの方には映画館ならではの雰囲気、音質、迫力を実感しながら、最後までストーリーを追うことができたと大変喜んでいただきました。
 しかし、今後このような映画鑑賞サポートを、より広く展開していくには、映画に字幕朗読や副音声を付けることに対する著作権の問題などを明確にしていかなければならないでしょう。副音声づくりは、本来ならば制作者や配給会社がやるべきことなのだと思うのですが、コストの問題なども絡んでなかなか普及しないようです。私たちのようなボランティア団体が、映画関係業界の方々と連携して、最終的には視覚障碍者の方々が、観たい作品を映画館でいつでも鑑賞できるような環境をつくっていければいいなと思います。
 そのために、私たちは映画に付ける副音声(音声ガイド)の研究会を行っています。視覚障碍者が映画を理解するのにどうしても必要なのは、場面解説です。映画はテレビドラマよりも場面展開は早いし、視覚的な映像美や迫力、視線の演技をどう表現するのか…といったことが問題でもあり、簡単に作れるものではありません。今後、映画に副音声を付けることを普及させ提案していくにも、必ず問題となるところだと思いました。
 そこで私たちは、劇団で音声ガイドを付けている劇団昂の構成作家の方や、NHKの副音声作家の方に学びながら、視覚障碍者の方々を交じえて、一緒に研究していくことにしました。視覚障碍者の方々の要望もさまざまですし、映画に付けるという意味で、音声ガイドはまだまだ未開発な分野で、課題も多いですが、この研究会の成果が今後、生かされていくことを望んでがんばっていこうと思います。

(いなばちほこ バリアフリー洋画上映推進団体City Lights)