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障害者の航空機利用の現状と課題

今西正義

はじめに

 障害者の社会参加が広がり旅行や会議へと飛行機を利用する人たちが増えてきています。こうした状況の中で、いままで制限されている飛行機の搭乗人数の見直しの新聞報道がされました。国内の航空会社が万一の時、客室乗務員がすべての乗客の緊急脱出を介助できるよう、健常者よりも手間をとられる歩行や視力に障害がある旅客に対する数を抑えてきたものです。しかし、「搭乗人数制限」の問題は飛行機利用でも氷山の一角で、それ以上に多くの問題を抱えています。飛行機の予約時、空港のチェックインの時、搭乗ゲート、機内で大変な思いを強いられていますが、いままで何も解決されないままきています。

航空機利用時のバリア

《車いすの人のバリア》

 車いすの人が飛行機を利用する時、通常は航空会社のチェックインカウンターで用意された機内用車いすに乗り移されます。この車いすは、体幹や首の保持が困難な人たちとって長い時間乗り続けることが辛く、自分の車いすや電動車いすで飛行機のドアサイドからの搭乗を希望しています。最近では、手動車いすでドアサイドからの搭乗も可能になりましたが、電動車いすでは拒否されたままで、搭乗手続きの段階でいつも混乱を招いています。

●座席の制限

 歩行ができない車いすの人は、緊急時に一般乗客の脱出の邪魔になるということで、かつては窓側の席に座らされました。いまではトイレへ行く時などに機内用車いすに移しやすいということで、通路側の席も座れるようになりました。しかし、歩行できない障害者同士が隣り合わせに座ることはできません。

●バッテリー処理の知識不足

 電動車いすの液体バッテリーは飛行貨物として危険物扱いとされ、通常本体より取り外し、密閉ボックスに入れるという処理が施されます。ところが処理を行う航空会社や空港職員には、電動車いすの扱いやバッテリー処理の方法などに熟知した者が少なく、無理やり扱うことから壊れて、到着してから動かないというトラブルはたびたびあります。

●付添人の同行

 車いすの人で身の回りのことやトイレなどすべて自分ででき、いままで一人で利用していても何も言われることもなく搭乗していた人が、ある日突然、介助者の同行を求められることが頻繁に起きています。

《目が不自由な人のバリア》

●搭乗拒否という理不尽な扱い

 視覚障害者が飛行機を一人で利用しようとする場合、航空会社によっては事前に話しておけば係員が搭乗口まで案内してくれます。しかし、全盲の母親が3歳未満の乳児を連れて利用しようとした時、搭乗拒否が行われました。理由は、3歳未満の乳児は必ず母親もしくは第三者の同伴がなければ搭乗は認められないということです。しかし、このケースでは母親は乳児の同伴者として認められないということでした。

《内部障害をもつ人のバリア》

●携帯用酸素ボンベの扱い

 在宅酸素療法を行っている呼吸器機能障害の人たちは、いつでも酸素を必要とし、外出する時には携帯用酸素ボンベを持ち歩き、機内でも欠かすことができません。しかし、携帯用酸素ボンベは150気圧という高圧なため危険物扱いになり、機内持ち込みには証明書や本数や圧力の制限が行われています。

●医療機器から発生する障害電波

 頚髄損傷、筋ジストロフィー、ALSなどで、自分で自発呼吸ができなく、常時人工呼吸器を使いながら飛行機を利用する際、人工呼吸器や吸引機など医療機器から発生する障害電波のレベルによっては機器の持ち込みが禁止されています。また医療機器を動かすための電源確保など制限があります。

《知的・精神に障害をもつ人のバリア》

●知的・精神障害者の単独搭乗制限

 知的障害者や精神障害者が飛行機を利用する時、一人での搭乗はどの航空会社でも認められていません。極端なケースでは医師や看護師の同行を求められたり、障害の状態によっては搭乗を断られるケースもあります。

●てんかんをもつ人の搭乗制限

 発作が3年前にあったかどうかで異なり、3年以内に発作があった時には、航空旅行への適性評価のため診断書を求められることもあります。また、3年以上発作がなくてもてんかん症状があれば、抗けいれん剤の服用を求められることがあります。

DPI日本会議の取り組み

 こうした問題を書き出せばきりがないほど、障害者の飛行機利用には課題が山積しています。というのも航空法令や運行規定、整備規定などでは細かな基準がなく、すべて航空会社任せとなっていることに原因があります。各社が付き添い人の同行、搭乗可能数や機内での制限、電動車いすの扱いなど、独自に内部規定を拵(こしら)えまちまちに運用しています。また、障害名を聞いたり、診断書や同意書を書かせたりと過剰に個人情報を要求し、さまざまな制限を枷(か)しています。
 DPI日本会議では、4~5年前から飛行機利用の問題にも力を入れてきました。国土交通省や空港公団に対しては、空港ターミナルの整備をはじめ搭乗制限、職員研修などの改善を、また航空事業者との話し合いの場を求めた要望を行ってきています。
 一方、独自にはインターネットを通し「障害者の飛行機利用のトラブル」事例を集めたり、肢体不自由・視覚障害・聴覚障害の当事者によるシンポジウムの開催や、アメリカ運輸省予算・政策担当補佐官マイケル・ウィンター氏を招いての講演などを行ってきました。さらに、空港研修ビデオを制作したり、成田や関西空港、千歳空港の空港職員への研修を行うなど啓発活動にも力を入れ、多様な取り組みをしてきています。
 こうした結果、2000年11月に施行された「交通バリアフリー法」の移動円滑化基準には、米国でADA(1990年)に先駆け、1986年に制定した「航空アクセス法(Air Carrier Access Act)」の基準の一部、通路用車いすを必ず飛行機に所持しなければならないことや、通路側座席の最低半数は、肘掛けが可動でなければならないことなどを盛り込ませました。

今後の課題と展望

 飛行機を安全に飛ばすことや緊急時の対応の重要性は十分に分かりますが、安全性確保のための規制のみがあまりにも強く、前面に出過ぎ、議論に至っていません。昨年、フランスでもエールフランス航空が軽度の自閉症の人の安全が保障できないとして搭乗拒否をした時、フランスの大臣が「障害者差別だ。安全うんぬんは理由にならない。単に良識の問題だ」と厳しく批判をしています。同様に前述のACAA(航空アクセス法)でも、障害を理由に差別禁止や利便性の向上のための諸規定を定め、障害による不利益を禁止しています。
 今後、DPI日本会議でも「障害者の人権」や「差別禁止」、「障害による不利益」の観点から運行規定、整備規定など関連の規定の見直しを図り、航空機利用のバリアーとなっている搭乗の仕組みの利便性の改善など、快適な空の旅の実現に向けた取り組みを進めていきます。

(いまにしまさよし DPI日本会議常任委員、全国頚髄損傷者連絡会会長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年5月号(第22巻 通巻250号)