新しい「障害者基本計画」の策定について
内閣府政策統括官(総合企画調整担当)障害者施策担当
1.策定の経緯
わが国では、これまで、平成5年3月に内閣総理大臣を本部長とする障害者対策推進本部(現・障害者施策推進本部)が策定した「障害者対策に関する新長期計画」に基づき、障害のある人もない人と同等に、地域で安全で安心して生活できるようにするとの「ノーマライゼーション」の理念の下、障害者施策の推進を図ってきました。
この新長期計画は、障害者基本法に基づく法定計画であり、今年度が終期に当たることから、14年2月に開催された障害者施策推進本部において、新しい「障害者基本計画」を策定することが決定されました。
そして新しい「障害者基本計画」が、わが国の今後10年間の障害者施策の基本的方向を定めるものであることを考慮し、同本部副本部長である内閣官房長官主宰による「新しい障害者基本計画に関する懇談会」を開催して、検討が進められることになりました。
2.策定に向けた取り組み
「新しい障害者基本計画に関する懇談会」は、障害のある人や、障害者福祉関係事業団体の代表の方、学識経験者の方からなる27名を委員とし、14年6月から11月までの間7回にわたり開催され、各委員の皆様から幅広い貴重なご意見をいただきました。
また、第3回懇談会では、知的障害、精神障害のある方にご出席をいただき、それぞれ当事者の立場からご意見をいただきました。
懇談会で使用された資料や議事録は、懇談会終了後、すべて内閣府ホームページに掲載し一般公開されました。
さらにこの懇談会と並行して、教育、雇用等各分野ごとに、関係する省庁による検討チームを設置して、緊密に連携を図りながら、検討会の開催や障害者団体との意見交換等を実施して、新しい計画策定に向けた検討を行いました。そのほか、11月7日から28日までの間パブリックコメントを募集して、広く国民の皆様からご意見をいただきました。
こうした検討結果を基に、内閣府でとりまとめを行い、新しい「障害者基本計画」は14年12月24日に閣議決定されました。
3.新しい「障害者基本計画」の特色
新しい「障害者基本計画」は、従来の理念である「ノーマライゼーション」、「リハビリテーション」を継承するとともに、国民だれもが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現をめざすこととしています。
具体的には、障害のある人が社会の対等な構成員として人権を尊重され、自己選択と自己決定の下に社会活動に参加、参画し、社会の一員として責任を分かち合う社会の実現をめざしています。
そのため本計画では、障害のある人の活動を制限し、社会への参加を制約している諸要因を除去して、障害のある人がその能力を最大限発揮できるよう支援することとしています。
計画の構成としては、社会のバリアフリー化、利用者本位の支援など施策を推進するうえでの四つの横断的な視点を掲げるとともに、障害のある人本人の力の向上や経済、住環境等基盤の整備、精神障害者施策の総合的取り組み、アジア太平洋地域における域内協力の四つの重点課題を打ち出しています。
このような、四つの横断的視点と四つの重点課題を踏まえ、啓発・広報、生活支援、生活環境、教育・育成、雇用・就業、保健・医療、情報・コミュニケーション、国際協力の八つの分野別に基本的方向を定めています。
また、この計画の推進体制として、具体的な数値目標等を記載した「重点施策実施5か年計画」を策定すること、計画の進捗状況の定期的な点検や必要に応じ計画の見直しを行うことなどを盛り込んでいます。
政府では、この「新しい障害者基本計画」に基づき、各省庁間の緊密な連携の下、引き続き必要な施策を強力に推進することとしています。
障害者基本計画の概要
1 計画期間
平成15年度から24年度
2 計画の考え方
国民だれもが人格と個性を尊重して相互に支え合う共生社会の実現
3 四つの横断的な視点
施策を推進する四つの横断的な視点を取り上げ、施策推進の基本方針を明確化
(四つの視点)
- ○ 社会のバリアフリー化
- ・ハード、ソフト両面にわたる社会のバリアフリー化
- ・ユニバーサルデザインの観点からのまちづくり、ものづくりの推進
- ○ 利用者本位の支援
- ・障害者一人ひとりのニーズに対応したライフサイクルの全段階を通じた支援
- ・多様かつ十分なサービス確保のため企業等の積極活用も含め、供給主体を拡充
- ・NPOや地域住民団体との連携・協力の推進
- ○ 障害の特性を踏まえた施策の展開
- ・個々の障害の特性に応じた適切な施策の推進
- ・現在障害者施策の対象になっていない障害等にも対応
- ・WHOのICF(国際生活機能分類)の活用方策を検討
- ○ 総合的かつ効果的な施策の推進
- 広域的かつ計画的観点からの施策推進、施策体系の見直し等
4 四つの重点課題
重点的に取り組むべき四つの課題を打ち出し、施策を重点化
(四つの重点課題)
- ○ 活動し、参加する力の向上
- ・疾病、事故等の予防・防止と治療・医学的リハビリテーションの推進
- ・福祉用具等の研究開発とユニバーサルデザイン化の推進
- ・IT革命への対応
- ○ 活動し、参加する基盤の整備
- ・地域での自立生活を可能とするため、住宅、公共施設、交通等の基盤整備と日常生活支援体制の充実
- ・雇用・就業など経済自立基盤の強化
- ○ 精神障害者施策の総合的な取組
- 入院医療中心から、退院・社会復帰を可能とするための地域サービス基盤の整備へ
- ○ アジア太平洋地域における域内協力の強化
5 新規・重点施策
- ○ 啓発・広報
- ・共生社会の理念の普及
- ・公共サービス従事者に対する障害者理解の促進
- ○ 生活支援
- ・身近な地域での相談窓口の総合化とケアマネジメント体制の整備
- ・地域福祉権利擁護事業、成年後見制度等の利用促進
- ・障害者本人による政策決定プロセスへの関与等の検討など本人活動の支援
- ・各種障害への対応
- 高次脳機能障害、強度行動障害、盲ろう等の重度・重複障害への対応の在り方の検討、難病患者等への支援策の充実等
- ・施設サービスの再構築
- 入所施設は、真に必要な場合に限定。施設は在宅サービスの拠点として位置付け、相互利用、身近で利用できる施設を整備。入所施設については、施設の小規模化、個室化を推進
- ・サービスの質の向上
- 第三者機関によるサービス評価の検討、苦情解決体制の周知
- ○ 生活環境
- ・ユニバーサルデザインに配慮した生活環境
- ・ハートビル法、交通バリアフリー法に基づくバリアフリー化の推進
- ・交通安全対策、防災、防犯対策を充実
- ○ 教育・育成
- ・学習障害、注意欠陥/多動性障害、自閉症などにも対応
- ・関係機関の役割分担の下に適切な支援を行うための個別支援計画を策定するなど一貫した相談支援体制の整備
- ・盲・聾・養護学校、療育機関に専門機能を有する地域センターとしての役割を付与
- ・特殊教育に係る免許制度の改善
- ・福祉、医療、労働など幅広い分野との連携を強化
- ○ 雇用・就業
- ・能力を最大限発揮して働くことができるための条件整備
- ・雇用率制度について、
- 精神障害者を対象とすることを検討
- 除外率制度の段階的縮小・廃止
- ・特例子会社制度の積極活用
- ・短時間雇用、在宅就業等の多様な雇用・就業形態の促進
- ・ITを活用した雇用の促進
- ・官公需における障害者雇用率達成状況等への配慮の方法を検討
- ・障害者の創業・起業を支援
- ・保健福祉、教育と連携した職業リハビリテーション
- ・職業能力開発における民間教育機関等の活用
- ・雇用の場における人権の擁護
- ○ 保健・医療
- ・精神疾患、難治性疾患等についての関係機関によるサービス提供体制の充実と連携
- ・保健・医療サービス等に関する自主的な情報公開と第三者評価、情報提供
- ・うつ対策等の自殺予防対策、思春期や心的外傷体験への相談体制
- ・精神医療における人権確保のための精神医療審査会の機能充実、適正化
- ・心神喪失等で重大な他害行為を行った者に対する適切な医療の確保
- ・最新の知見や技術を活用した研究開発の推進
- ○ 情報・コミュニケーション
- ・情報バリアフリー化の推進
- 情報活用能力向上のための人的支援、使いやすい情報通信機器の開発・普及、公共調達において障害者に配慮した情報通信機器の調達に努力等
- ・電子投票の導入
- ・IT活用による就業の推進
- ○ 国際協力
- 「アジア太平洋障害者の十年」がさらに10年延長されたことを踏まえた対応
6 推進体制
- 重点施策実施計画の策定
- 市町村計画の策定支援
- 計画の必要に応じた見直し
- 関係する各種法令の見直し等による将来的に必要な法制的整備について検討