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学生無年金障害者の実態

福島敏彦

 私は現在全盲の視覚障害者です。17年前に障害者手帳1級を取得し、文字は点字を使い、歩行は白杖を使ったり介助を受けています。職業は鍼灸マッサージの治療院を自営で行っています。これらの内容を見ると、一般的な視覚障害者だと思います。しかし、私が他の全盲の方と違うのは、障害基礎年金を受給していないということです。
 私が障害を負ったのは、今から18年前の昭和60年10月4日に自動車事故に遭い、両眼失明しました。当時私は、20歳10か月で、大学3年でした。その後、私の両親は市役所に行き、障害者手帳の申請を行いました。その際、福祉課の担当者に、「あなたの息子さんは学生で、年金加入は任意なので障害年金を受けられますよ」と言われたそうです。しかし、担当者がその後社会保険庁に確認したところ、年金が受けられないことがわかりました。その理由は、20歳になって以降、国民年金の保険料を払っていなかったので障害基礎年金は受けられないというものでした。この市役所の返答に対して私たちは、「未納分の10か月分の保険料をさかのぼって支払うので年金を受けられないだろうか」と訴えましたが、その場で断られました。
 昭和60年当時、「学生も20歳になったら国民年金に加入しましょう」とか、「年金に加入していれば、障害を負った際に障害基礎年金を受けられます」といった広報活動がほとんど行われていませんでした。このような状況の中で、国民年金に加入していなかった私は、責められるべきなのでしょうか? 当時、学生で年金に加入していた人がどのくらいいたのでしょうか。また、同じ学生でも19歳で障害を負えば年金がもらえ、20歳以降ではもらえないというのも不合理だと思います。学生は、19歳でも20歳でも収入がないのは同じです。
 私が障害を負った当時は、学生の年金加入は任意でした。それが平成3年には強制となり、現在では手続きをすれば猶予されることになりました。国は、私たちのような学生無年金障害者が存在し、増えてしまったことを知り、制度を改正してきたのです。しかし、その過ちを認めることをせず、また私たちに対する救済措置も行っていません。
 平成11年に(学生無年金障害者をなくす会)が発足し、私も参加しました。この会で、弁護士や社会労務士のアドバイスを受け、青梅市に裁定請求を起こしました。その後、東京都に対して審査請求を、最後に国に対して再審査請求を行いましたが、結果はすべて却下されてしまいました。これを受け、平成13年に国を相手どり東京地裁に訴訟を起こし、訴訟は現在も進行しています。現在、治療院の経営は不況の影響を受け困難になっています。最近では、健康保険を使った在宅ケア・マッサージを行っていますが、同業の健常者と比べると仕事量に自ずと差がでてしまうのです。その分を少しでも障害基礎年金で補えたら生活の不安を消すことができます。今は司法の判断を期待して見守っています。

(ふくしまとしひこ 東京都盲人協会青梅支部長)